完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
27 / 71

16 

しおりを挟む
 暖炉とふわもこゆたんぽの温もりが、体をやんわり包んでくれる。目を閉じて、その温もりを全身に浴びていると、体の芯から指先まで、じぃんと血が通うのがわかった。

「ジョアンさん、コアラがしゃべってます……」
「だから、そのコアラが俺! いい加減、理解してくれ。Fクラスのやつらが獣化したのを見たことくらいあるだろ?」
「マッキーやウォンはしゃべりませんでしたから……皆、獣化しても、鳴き声とかしゅーしゅーとか言う音くらいしか。そもそも、ジョアンさんは、コアラなのにどうやって人語を話しているんですか?」
「……魔法を使えば簡単だ」

 エリートクラスのジョアンさんたちは、人間ほどじゃないけれど魔法を使える。だから、上位クラスでは獣化状態でも人語を操れるということらしい。Fクラスのみんなは、魔法が使えても、指先程度の火や光を1秒作りだすくらいしかできないから、しゃべりたくてもしゃべれないのだろう。

「そうなんですねぇ……」

(知れば知るほど、ジョアンさんってすごい。紳士のお手本みたいに優しくて、強くて頼もしくて魔法まで使えるなんて……)

 わたくしには、ジョアンさんが神様の使いのように思えてきた。彼のクラスの子たちも同様に素晴らしい才能の持ち主なのだろう。

(ゴーリン会長やエクセルシスさんは生徒会の役員だし、マニーデさんはAクラスのクラス委員。わたくし、本当にすごい人たちに仲良くしてもらっていたのね……)

 獣人国ではみそっかすどころか、ミジンコ以下のわたくしの側に、雲の上の人たちが側にいてくれることに感謝した。

(先生がおっしゃっていた通り、わたくしは社会に出たらひとりぼっちになるから、学園でしか平和に過ごせないのかも……)

 頑張ろうと決めてから、毎日難しい本を読み漁っていた。非力でひ弱なわたくしには、学力をあげるしかないから。
 ふいに、社会に出てからの不安が押し寄せる。

(ううん。獣人国の大人の中にも、きっと人間を理解してくれる人はいるはず。学園でも、最初は孤立していたじゃない。わたくしにできることを、がんばるだけよ)

「ところで、どうして獣化を?」
「そりゃ、お前が着替えているし、人化状態だと、色々まずいだろうが……」
「やっぱりそうだったんですね。わたくしのために、細かなところまで配慮してくださってありがとうございます」
「別に、お前のためじゃねぇし」

 わたくしは、暖炉の側にあるロッキングチェアに腰を掛け、膝の上にジョアンさんを乗せていた。彼は降りたがっていたけれど、どうしても抱っこしたいとお願いすると、膝に乗ってくれたのだ。

 もふもふかわいい耳がちょこちょこ動いて身もだえそうになる。少しごわごわする毛皮がチクチク刺さるけれど、真ん丸の背中はとっても柔らかくて気持ち良くて。とにかく可愛くて可愛くて、もう、ジョアンさんぬいぐるみを愛でる事しか頭になかった。

 チェアと一緒にゆらゆら揺れていると、瞼が重くなってきた。

 早朝からお弁当を作って、道中はジョアンさんに抱っこされていてもかなり疲れていた。更に、さっきの騒動で、心まで疲労困憊になっていたのである。

(ゆらゆら……

 ふわふわ……)

「そんなことよりも、雨がやみそうにない。夕方以降は、危険度があがるから動くのを禁止されている。だから、一晩をここで過ごすことになる」

ジョアンさんの体温ふわもこゆたんぽが、あったかくて気持ちがいい……)

「おい、アイリス聞いてんのか?」

(ジョアンさんの声が遠くなっていく。ああ、眠りたくないの。眠ったら、また嫌な悪夢げんじつがわたくしを傷つけるから……)

「ん……うぅん、眠りたくない……」

 頬がくすぐったい。なんだろう、とってもいい夢を見そうな気がする。唇に当たる、少しかさついた大きな手のひらに頬を摺り寄せた。

「アイリス、眠いのか?」

 耳から夢の中に入って来る声は、いつもはぶっきらぼうで怒っているみたいなのに、なんだか甘くて優しい。

「ん……」

 蕩けるようなその声が嬉しくて、でも、頭が覚めなくて返事が出来たのかどうかわからなかった。

「ちっ、しょうがねぇな……おやすみ」

 うっすら目を開けると、とんでもなく優しい瞳のジョアンが目の前にいた。びっくりしたけれど、彼はペアであるわたくしの側にずっといてくれる。彼の言葉が、すんなり心に入って来て、そのまま幸せな温もりの側で目を閉じた。

(ああ、きっと……。今日見る夢はずっと楽しくて、優しさで溢れて幸せに違いないわ……)


しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...