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健全な青少年のコアラ ※R15
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空が閃光を放つ。ジグザグと不規則に、黒い雲の中を神の怒りが縦横無尽に走った。それとほぼ同時に、小屋がびりびりと揺れるほどの轟音が鳴り響いた。
近くの大木が雷でまっぷたつになり、もうもうと豪雨の中煙が吹きあがる。火は激しい雨のおかげですぐに消えていたので延焼はなさそうだ。ダウンバーストのような風がなくて助かった。
「きゃあああああああっ!」
「アイリス、大丈夫だから落ち着け」
「ジョ、ジョアンさん……!」
「まだ、あまり天気が崩れない高度だから、油断した。すまない」
「ジョアンさんのせいじゃ……きゃああああっ!」
突然降りだした雨が冷たかったからか、二度も近くに落ちた雷が怖いのか、アイリスがぶるぶる震えてしがみついてきた。
小屋は遭難などで困った登山者のためにも建てられており、二、三日はここで過ごせる。
今日中に頂上を目指す予定だったから、ここで足止めをくらうとは誤算も良いところだ。
「なかなかやみそうにないな」
豪雷雨は一旦しのげたが、どんどん気温が下がり、ずぶ濡れになった俺とアイリスを容赦なく襲った。俺は平気だが、アイリスは、体を抱えてブルブル震え始めた。唇が心なしか青く変化していく。
(やばい。このままだと、人間のアイリスが凍死してしまうっ!)
急いで部屋の角に置かれた薪を暖炉に放り込み、火をつけた。戦闘ではクローと肉体だけで勝つことができるため、少しは魔法を使えるのだが普段は全く使わない。
魔法など小手先のみみっちい技だと馬鹿にしていたが、念の為に生活魔法を覚えていて良かった。
(くそ、俺の小さな魔法の火では、着火がめちゃくちゃおせぇ!)
暖炉の火が十分に燃え盛り、部屋の温度を上昇させるまでかなり時間がかかった。
今のところ、アイリスは瀕死一歩手前で堪えているようだ。
(もっと魔法を習っておけば、一瞬で火をおこせたのに。今度から、授業を真面目に聞くとするか)
「……アイリス、こっちに」
「はい、あ、あり、ありが……」
アイリスの返事は、カチカチと歯が鳴っていてこのままでは凍死しそうなほど凍えていた。絞れるほど、たっぷり水を吸い込んだ濡れた服を着たままなのも悪いのだろう。
「アイリス、着替えはあるか?」
「ええ、リュックに……」
「開けるぞ?」
「お願いします」
彼女の指先も冷たそうに色を失っている。リュックを開けられなさそうなので、代わりに開けた。着替えを取り出そうとして、リュックの中身を見た時、ぴたっと手と体と思考が止まる。
そこには、可愛らしいパジャマと着替え一式、それに、花がらの下着上下セットが入っていた。
(み、見てないっ! 俺は、見てないからなっ! ピンクの花がらの下着なんて、これっぽっちも見てないっ! サイドが紐のパンツなんてっ!)
一瞬、これらを身に纏った彼女の姿を想像してしまった。
(いかん。今はそんな場合ではない。それに、俺は女には興味がない、はずだ。しっかりしろ、俺っ!)
心の中で自分自身に渾身のするどいクローを何度も振り下ろして正気を取り戻す。
アイリスは、私物を俺に見られて恥ずかしがる、そんな余裕すらなさそうだ。
チャックを開ければ、なんとか自分で着替えるだろう。真っ赤になった顔をそむけて彼女にリュックを渡す。
「あー……ずぶ濡れのその恰好よりマシだろ。これに着替えろ。俺はあっちに行っておくからっ!」
「はい、あ、あり、がと……」
すぐさま隣の部屋に行き、更にさっきの部屋から一番遠い壁を向いて立つ。
彼女が気になって仕方がない。
(手伝おうにも、それは、俺が、アイリスの服をぬ、ぬが、ぬがせ、て、裸にするという事で……。裸、はだか? はだかってなんだ?)
白い肌。華奢で柔らかな体つき。おっぱいは、男どもが騒いでいた通り、服の上からでもわかるほど大きい。
必死に頭と心から、彼女のいやらしいその姿の妄想を打ち消そうと頑張った。
(だから、こんな時に、こんなことを考えているばあいじゃねぇだろおおおっ!)
濡れてまとわりつくジャージのズボンの前は、形が分かるほど盛り上がっている。ダメだダメだと思えば思うほど、それは膨らんできた。
(やばい……。こんなの見られたくない……でも、おさまんねぇ! くそっ、どうしたらいいんだっ!)
瀕死の彼女の前に、こんな姿で現れるわけにはいかない。涙を流して嫌われ軽蔑され、そして……
『ねぇ、聞いた?』
『聞いた聞いた。ジョアンってサイテーよね。アイリスが抵抗できないからって!』
『ジョアン、やるなあ……。ま、重病の女の子に手をだすなんてサイテーだけどよ、気持ちはわかる。わかるぞ。アイリスっておっぱいでけぇしかわいいもんな』
『ちょっと、男子、聞き捨てならないわね? アイリスがどんなに悲しくて恐ろしかったか……!』
と、学園中に噂され、不同意性交渉をした大罪人になってしまうだろう。
──かくして、ジョアンはヒーローから降格した。ヒーローらしいことはまだなし得ていない、ヒーロー未満の状態だったにも拘らず。そのため、物語は破綻することになった。
一体、なぜこんなことになったのか。
アイリスの今後はどうなるのか、実家やクアドリとの関係も、冒頭のセリフもナゾを残し、中途半端なまま。
外れガチャの花嫁 ──完。
辛抱が効かない、拗らせDTおかんコアラに変わってお詫び申し上げます。短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。
「わー、待て待て、──完。じゃねぇわ! くそ、こうなったら……!」
俺は、誰にツッコんでいるのかわからないほど動揺した。そして、あることを思いつき、すぐさま行動にうつったのである。
近くの大木が雷でまっぷたつになり、もうもうと豪雨の中煙が吹きあがる。火は激しい雨のおかげですぐに消えていたので延焼はなさそうだ。ダウンバーストのような風がなくて助かった。
「きゃあああああああっ!」
「アイリス、大丈夫だから落ち着け」
「ジョ、ジョアンさん……!」
「まだ、あまり天気が崩れない高度だから、油断した。すまない」
「ジョアンさんのせいじゃ……きゃああああっ!」
突然降りだした雨が冷たかったからか、二度も近くに落ちた雷が怖いのか、アイリスがぶるぶる震えてしがみついてきた。
小屋は遭難などで困った登山者のためにも建てられており、二、三日はここで過ごせる。
今日中に頂上を目指す予定だったから、ここで足止めをくらうとは誤算も良いところだ。
「なかなかやみそうにないな」
豪雷雨は一旦しのげたが、どんどん気温が下がり、ずぶ濡れになった俺とアイリスを容赦なく襲った。俺は平気だが、アイリスは、体を抱えてブルブル震え始めた。唇が心なしか青く変化していく。
(やばい。このままだと、人間のアイリスが凍死してしまうっ!)
急いで部屋の角に置かれた薪を暖炉に放り込み、火をつけた。戦闘ではクローと肉体だけで勝つことができるため、少しは魔法を使えるのだが普段は全く使わない。
魔法など小手先のみみっちい技だと馬鹿にしていたが、念の為に生活魔法を覚えていて良かった。
(くそ、俺の小さな魔法の火では、着火がめちゃくちゃおせぇ!)
暖炉の火が十分に燃え盛り、部屋の温度を上昇させるまでかなり時間がかかった。
今のところ、アイリスは瀕死一歩手前で堪えているようだ。
(もっと魔法を習っておけば、一瞬で火をおこせたのに。今度から、授業を真面目に聞くとするか)
「……アイリス、こっちに」
「はい、あ、あり、ありが……」
アイリスの返事は、カチカチと歯が鳴っていてこのままでは凍死しそうなほど凍えていた。絞れるほど、たっぷり水を吸い込んだ濡れた服を着たままなのも悪いのだろう。
「アイリス、着替えはあるか?」
「ええ、リュックに……」
「開けるぞ?」
「お願いします」
彼女の指先も冷たそうに色を失っている。リュックを開けられなさそうなので、代わりに開けた。着替えを取り出そうとして、リュックの中身を見た時、ぴたっと手と体と思考が止まる。
そこには、可愛らしいパジャマと着替え一式、それに、花がらの下着上下セットが入っていた。
(み、見てないっ! 俺は、見てないからなっ! ピンクの花がらの下着なんて、これっぽっちも見てないっ! サイドが紐のパンツなんてっ!)
一瞬、これらを身に纏った彼女の姿を想像してしまった。
(いかん。今はそんな場合ではない。それに、俺は女には興味がない、はずだ。しっかりしろ、俺っ!)
心の中で自分自身に渾身のするどいクローを何度も振り下ろして正気を取り戻す。
アイリスは、私物を俺に見られて恥ずかしがる、そんな余裕すらなさそうだ。
チャックを開ければ、なんとか自分で着替えるだろう。真っ赤になった顔をそむけて彼女にリュックを渡す。
「あー……ずぶ濡れのその恰好よりマシだろ。これに着替えろ。俺はあっちに行っておくからっ!」
「はい、あ、あり、がと……」
すぐさま隣の部屋に行き、更にさっきの部屋から一番遠い壁を向いて立つ。
彼女が気になって仕方がない。
(手伝おうにも、それは、俺が、アイリスの服をぬ、ぬが、ぬがせ、て、裸にするという事で……。裸、はだか? はだかってなんだ?)
白い肌。華奢で柔らかな体つき。おっぱいは、男どもが騒いでいた通り、服の上からでもわかるほど大きい。
必死に頭と心から、彼女のいやらしいその姿の妄想を打ち消そうと頑張った。
(だから、こんな時に、こんなことを考えているばあいじゃねぇだろおおおっ!)
濡れてまとわりつくジャージのズボンの前は、形が分かるほど盛り上がっている。ダメだダメだと思えば思うほど、それは膨らんできた。
(やばい……。こんなの見られたくない……でも、おさまんねぇ! くそっ、どうしたらいいんだっ!)
瀕死の彼女の前に、こんな姿で現れるわけにはいかない。涙を流して嫌われ軽蔑され、そして……
『ねぇ、聞いた?』
『聞いた聞いた。ジョアンってサイテーよね。アイリスが抵抗できないからって!』
『ジョアン、やるなあ……。ま、重病の女の子に手をだすなんてサイテーだけどよ、気持ちはわかる。わかるぞ。アイリスっておっぱいでけぇしかわいいもんな』
『ちょっと、男子、聞き捨てならないわね? アイリスがどんなに悲しくて恐ろしかったか……!』
と、学園中に噂され、不同意性交渉をした大罪人になってしまうだろう。
──かくして、ジョアンはヒーローから降格した。ヒーローらしいことはまだなし得ていない、ヒーロー未満の状態だったにも拘らず。そのため、物語は破綻することになった。
一体、なぜこんなことになったのか。
アイリスの今後はどうなるのか、実家やクアドリとの関係も、冒頭のセリフもナゾを残し、中途半端なまま。
外れガチャの花嫁 ──完。
辛抱が効かない、拗らせDTおかんコアラに変わってお詫び申し上げます。短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。
「わー、待て待て、──完。じゃねぇわ! くそ、こうなったら……!」
俺は、誰にツッコんでいるのかわからないほど動揺した。そして、あることを思いつき、すぐさま行動にうつったのである。
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