完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

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 朝、久しぶりに食堂に行ってみた。朝早いというのに、ほぼ満席状態。皆、朝食とは思えないくらい大量の食事をしている。

 悪目立ちする人間だし、朝は食べないからあまり使ってはいなかった。でも、このままだと本当に倒れてしまいかねない。

 勇気を出して来てみると、最近仲良くなったゴーリン会長とエクセルシスさんがやってきてくれた。

「アイリス! おはよう、ここにくるなんて珍しいね」
「おはよう。食事は持っていってやるからゴーリンと席に座ってな。何がいい?」

 食事のプレートは獣人なら軽々持てる。ゴーリン会長は、人化状態でも握力が50キロもあるらしい。強度を強くするために鉛が入っているため2キロある。それだけでも重いのに、食事やドリンクなどを入れたら落としかねないから、遠慮なくエクセルシスさんの言葉に甘えた。

「おはようございます。じゃあ、グレープフルーツジュースと、ベジマイトとトーストをお願いしていいでしょうか?」

「それだけでいいのか? エッグ&ベーコンも持って行ってやるから食べろよ。美味いぞ」
「おいおい、エクセルシス。いきなり食べ過ぎたら胃もたれするだろう? 頼まれた分だけ持ってきてくれ。じゃ、アイリス行こうか」

 ゴーリン会長は、やっぱり気が利く。獣人の中にも少食の種族もいるから、それぞれに応じて機転が利く彼の人気が絶大なのもうなづける。

「アイリスッ! やっと朝ご飯を食べに来てくれたのね」
「マニーデさん。今まで心配かけてごめんなさい。あと、本当に食べさせてくれてありがとうございました。少しずつ食べてみようと思って……」
「うんうん。食堂はお残しが禁止だけど、もしも無理なら、私が食べてあげるから安心してね」

 わたくしを見つけたマニーデさんは、ちゃっかりゴーリン会長の隣に座った。わたくしは、彼女の前の席に座り、エクセルシスさんが戻ってくるのを待って食事を始める。

 彼女のプレートには、山盛りのシリアルとエッグ&ベーコン、オレンジ3玉に牛乳のジョッキが乗せられていた。

 ゴーリン会長とエクセルシスさんは、マニーデさんよりも三倍くらい食べている。見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。

「マニーデ、聞いたよ。アイリスの面倒をずっと見ていたんだって? 優しい君らしくて感心していたんだ」
「え? 私は、アイリスの友達として当然のことをしたまでです」
「いやいや。たとえ友達でも、アイリスのクラスは一番遠いじゃないか。ただでさえ、個性豊かなAクラスの連中も率いているのに、素晴らしいことだよ」
「そんなこと……本当に、当たり前のことですから」

 ゴーリン会長が、マニーデさんの柔らかな髪をぽんぽん撫でる。すると、彼女は真赤になった顔を両手で隠してうつむいた。

「ゴーリン会長の言う通りです。わたくし、マニーデさんがいなかったら、今頃どうなっていたか。今日ここに来ようって勇気が出たのも、マニーデさんが、明日の朝は学食で一緒に食べましょうって毎日誘ってくれていたからなんです」
「ひょうなんだ。マニーデ、しゅごいな」
「エクセルシス、生徒会副会長として皆の手本にならなきゃいけないお前が、獣化状態じゃないのに頬袋にものを貯めこもうとするな」
「ひょわーい」

 わたくしが、マニーデさんの日頃の優しさを伝えると、横で頬にいっぱい食事を詰め込んだエクセルシスさんまで彼女を褒める。

 温かくて幸せな食事の席で、ベジマイトを塗ったトーストは、気がつけばなくなっていた。ほろ苦いグレープフルーツジュースが、しつこい後味と胃もたれを消してくれたのか、思ったほどお腹が苦しくなかった。

 その日は、体の調子が良くて、頭も今まで以上に冴えていた。特に、最近は自分でも文字すらわからないほど頭が動いていなかったのが嘘のようだった。

 体に活力がみなぎるというのはこういうことなのだろうか。幸い、ひとりきりでアクアマリンの指輪を視界に入れなければ、今の日常を楽しむことができた。

(ここを卒業してから、この国で人間が生きていけるのかしら……)

 人間の留学生は、全員ラストーリナン国に帰っている。獣人の国で、人間が過ごしているなんて聞いたことがない。

 放課後、ハリー先生を訪ねた。

「アイリス、どうした?」

 わたくしは、めったに職員室に行かない。ハリー先生が驚いて小走りで近づいてきてくれた。

「あの、お忙しいところすみません。少し、相談ごとがあって。お時間をいただけませんか?」
「生徒の頼み事なんだから時間は作る。しかもほとんど先生を頼ってくれないアイリスからなんだ。何時間でも良いぞ」

 わたくしが食事を取り始めたことを聞いた先生は、我がことのように喜んでくれた。

 今まで気づかなかったことがいっぱいで、そういえば、彼らの顔を見るのも久しぶりだと気付いた。あの日から、ずっと地面ばかり見ていたのだ。

 小さな変化を、わたくし以上に皆が喜んでくれる。そのことが、前に進む力になった。

「あの、先生。人間が、この国で一生過ごすには、どうすればいいでしょうか?」
「人間がこの国で? アイリス、卒業してからもこの国で過ごしたいのか?」
「はい……わたくしは、もうあの国には居場所がありませんし、わたくし自身も二度と行きたくありません」

 ハリー先生は、わたくしの相談の内容を聞いて難しい顔をした。両腕を組んで考え込んでいる。

 長年先生をしているハリー先生でも、人間がずっとこの国にいたいと言ったケースは初めてなのだろう。やっぱり無理なのかと、人間の国で最悪の人生を過ごす未来を考えそうになって恐ろしくなった。

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