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ladrãoーラドロウ ※R18未満の表記あり
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「ラドロウ、愛してるよ」
「クアドリ様、あたしも……」
やってやった。ついに、白い髪の魔女の娘から、美しい男と地位を取り返してやった。
あたしは、完全勝利に酔いしれて、甘いキスを彼と交わす。大きな手が、デコルテラインに滑り込む。正直、彼の手も中心も物足りない。侯爵家に来る前に、ママのお友達に教えてもらった手管で、彼を満足させる。それで満足だと幸せそうにキスをくれるが、この不完全燃焼のくすぶりは、彼では昇華できない。そこは、、友人たちに満たしてもらえるのだから問題はなかった。
もう誰にも何も言わせない。
侯爵家は、もうじきあたしのものになるとパパが言ってくれた。社交界というものにはあまり興味がなかった。でも、誰よりも華麗なドレスを着て羨望の眼差しを受けるのはたまらなく快感だ。
しかも、今までは、汚い手を使ってパパをたぶらかした娼婦の子という、嫉妬と負け惜しみでしかない悪口を言われていた。けれど、これからはあたしが侯爵になるのだ。
あたしやママを馬鹿にしたやつらは、全員覚えている。友人たちに頼めば、全員やっつけてもらえるだろう。次に会う時には、ボロボロのドレスをまとっているだろうか。宝石だって、まがいものになっているかも。それとも、社交界にすら現れないかもと考えると、それだけで笑みが浮かぶ。
「ラドロウ、どうしたんだい?」
「ううん、あんまりにも幸せで。あたし、こんなに幸せになっていいのかしら?」
「今まで、アイリスという姉に散々いじめられて苦しい思いをしてきたんだ。これからは、世界一幸せになっていいんだよ」
「クアドリ様……好き。はじめて会ったときから、運命の王子様はあなただって思っていたの」
「嬉しいよ。俺も、ずっと君に会いに来ていたからね。婚約もしていないのに、気が逸って、君の初めてを貰った時、どうしても君を妻にしたくなった。アイリスと婚約破棄をすれば、俺は君と会えなくなるところだったけど、義父上が俺達の結婚を許してくださって良かったよ」
「パパは、あたしを伯爵家の次男と結婚させたかったみたいだけど……」
「他の男に、君を渡してなるものか」
「嬉しい。離さないで」
再び、彼と睦み合う。この後、彼が帰ってから誰を呼んで遊ぼうか考えていると、10も数えないうちに間に終わった。
(マジ、誰としようっかな。それとも、久しぶりにあの人と、ああ、あのコでもいいかな。今日は、おじさまよりも、年下気分になっちゃった)
友人たちのラインナップ本を、頭の中でページをめくる。今日の相手を決めてこの家に呼んだのは、彼が帰ってからすぐだった。
※※※※
あの女との婚約中には、彼はもうあたしのものだった。彼だって、白い髪の魔女の娘と、書類だけでも繋がっていることに悩まされていた。
婚約者だからって、手紙やプレゼントをするのも悍ましいと顔を青ざめていたもの。
といっても、手紙は代筆屋が書いたものだし、プレゼントは使用人が準備したものだったようだ。
でも、あたしは、どんなものもあの女に渡したくはなかった。
手紙はママが全部確認して、差し障りのないものをあの女の手に入るようにしていたし、プレゼントは全部あたしが貰ってあげた。
あの女には勿体ないし、かわいいあたしが使ってこそ、プレゼントも喜ぶというもの。
だけど、婚約の証として、彼の色の指輪があの女の指にはまるだなんて。絶対に許せないと思った。
だから、ママにも内緒で、あの女を突き飛ばししたり、足を引っ掛けたりしてやったのだ。
一度、階段から突き落とした時には焦った。なにも殺人をしたいわけではなかったから。そんなことになれば、犯罪者になるし、パパとママに申し訳ない。牢屋に入るなんてあり得ないし。
いくら悪を倒すための正義を行ったしても、やりすぎはよくない。
それにしても、いつも平気でいるあの女が腹立たしかった。でも、あの時だけは、魔女の娘がチャバネの悍ましい虫よりもしぶとくて助かったと思った。
ママは娼館の売れっ子だったらしい。固定の太客もたくさんいて、ママとの時間は大金を叩いて、更に予約を待たなくてはならなかったほどだったという。
ある日、侯爵家のぼんぼんが知人に連れられて来た。政略結婚をする予定の、独身最後の男の遊びのプレゼントということで、太客と一緒に三人で一夜を明かしたらしい。
結婚したあとも定期的に3人で遊んでいたようだけど、ある日から入り浸りになった。
しばらくして、ママのお腹にはあたしが宿った。
ママにはたくさんの太客がいたのに、侯爵はあたしを自分の子だと信じて疑わなかったらしい。早速、ママを身請けして、大きな屋敷で大切にされた。
小さな頃に、本当ならここが家なんだぞと、見せてもらったお城のような家には、魔女の娘が住んでいて住めないと聞かされた。
あたしたちの幸せを邪魔する魔女の娘が、物凄く嫌いになった。しかも白い髪だなんて。はやく消えろと何度思ったことか。
パパとママ、ふたりに愛されて育ったものの、どうやらママはヒカゲノミという、許されない立場だという。
でも、それがなんだというのかしら。とっくにパパを騙した魔女はいないし、ふたりは愛し合っている。
『お前は、本当に私にとって女神だわ。もっとパパに気に入られるようにしなさい』
『うん』
10歳になった時、やっとあたしの家に住むことができた。魔女の娘は、パパが懲らしめてくれて、離れのオンボロ家に移った。あの女にしては立派な家を与えるなんて、パパって本当に慈悲深くて優しくてかっこいい。
あたしを後継者にするために、若い頃のパパが魔女に騙されて行った魔法契約を解除するのに東奔西走してくれた。その間邪魔にならないように、魔女の娘を、人間にとって地獄のように恐ろしい獣人国に留学させてくれたのは、本当に嬉しくて抱きついちゃった。
大きくなってからは、あまりそういうことをしなくなったからか、パパはすごく喜んで、あたしを抱きしめてキスをしてくれたのである。
そこからは早かった。次期後継者の魔女の娘が、責務を放棄して、領地と祖国を捨てて獣人国に行きたいとわがままを言い出した。売国奴の容疑がかかったあの女は、そのまま獣人国に留学したことが決定打になり、あの女が後継者から外れたのである。
あたしは、一心不乱にあたしを求める年下の少年を見下ろす。初心な彼の赤らんだ顔がかわいい。しかも、クアドリとは比べ物にならない熱を受け入れ、朝まで楽しんだのである。
※ladrãoーラドロウ:泥棒
「クアドリ様、あたしも……」
やってやった。ついに、白い髪の魔女の娘から、美しい男と地位を取り返してやった。
あたしは、完全勝利に酔いしれて、甘いキスを彼と交わす。大きな手が、デコルテラインに滑り込む。正直、彼の手も中心も物足りない。侯爵家に来る前に、ママのお友達に教えてもらった手管で、彼を満足させる。それで満足だと幸せそうにキスをくれるが、この不完全燃焼のくすぶりは、彼では昇華できない。そこは、、友人たちに満たしてもらえるのだから問題はなかった。
もう誰にも何も言わせない。
侯爵家は、もうじきあたしのものになるとパパが言ってくれた。社交界というものにはあまり興味がなかった。でも、誰よりも華麗なドレスを着て羨望の眼差しを受けるのはたまらなく快感だ。
しかも、今までは、汚い手を使ってパパをたぶらかした娼婦の子という、嫉妬と負け惜しみでしかない悪口を言われていた。けれど、これからはあたしが侯爵になるのだ。
あたしやママを馬鹿にしたやつらは、全員覚えている。友人たちに頼めば、全員やっつけてもらえるだろう。次に会う時には、ボロボロのドレスをまとっているだろうか。宝石だって、まがいものになっているかも。それとも、社交界にすら現れないかもと考えると、それだけで笑みが浮かぶ。
「ラドロウ、どうしたんだい?」
「ううん、あんまりにも幸せで。あたし、こんなに幸せになっていいのかしら?」
「今まで、アイリスという姉に散々いじめられて苦しい思いをしてきたんだ。これからは、世界一幸せになっていいんだよ」
「クアドリ様……好き。はじめて会ったときから、運命の王子様はあなただって思っていたの」
「嬉しいよ。俺も、ずっと君に会いに来ていたからね。婚約もしていないのに、気が逸って、君の初めてを貰った時、どうしても君を妻にしたくなった。アイリスと婚約破棄をすれば、俺は君と会えなくなるところだったけど、義父上が俺達の結婚を許してくださって良かったよ」
「パパは、あたしを伯爵家の次男と結婚させたかったみたいだけど……」
「他の男に、君を渡してなるものか」
「嬉しい。離さないで」
再び、彼と睦み合う。この後、彼が帰ってから誰を呼んで遊ぼうか考えていると、10も数えないうちに間に終わった。
(マジ、誰としようっかな。それとも、久しぶりにあの人と、ああ、あのコでもいいかな。今日は、おじさまよりも、年下気分になっちゃった)
友人たちのラインナップ本を、頭の中でページをめくる。今日の相手を決めてこの家に呼んだのは、彼が帰ってからすぐだった。
※※※※
あの女との婚約中には、彼はもうあたしのものだった。彼だって、白い髪の魔女の娘と、書類だけでも繋がっていることに悩まされていた。
婚約者だからって、手紙やプレゼントをするのも悍ましいと顔を青ざめていたもの。
といっても、手紙は代筆屋が書いたものだし、プレゼントは使用人が準備したものだったようだ。
でも、あたしは、どんなものもあの女に渡したくはなかった。
手紙はママが全部確認して、差し障りのないものをあの女の手に入るようにしていたし、プレゼントは全部あたしが貰ってあげた。
あの女には勿体ないし、かわいいあたしが使ってこそ、プレゼントも喜ぶというもの。
だけど、婚約の証として、彼の色の指輪があの女の指にはまるだなんて。絶対に許せないと思った。
だから、ママにも内緒で、あの女を突き飛ばししたり、足を引っ掛けたりしてやったのだ。
一度、階段から突き落とした時には焦った。なにも殺人をしたいわけではなかったから。そんなことになれば、犯罪者になるし、パパとママに申し訳ない。牢屋に入るなんてあり得ないし。
いくら悪を倒すための正義を行ったしても、やりすぎはよくない。
それにしても、いつも平気でいるあの女が腹立たしかった。でも、あの時だけは、魔女の娘がチャバネの悍ましい虫よりもしぶとくて助かったと思った。
ママは娼館の売れっ子だったらしい。固定の太客もたくさんいて、ママとの時間は大金を叩いて、更に予約を待たなくてはならなかったほどだったという。
ある日、侯爵家のぼんぼんが知人に連れられて来た。政略結婚をする予定の、独身最後の男の遊びのプレゼントということで、太客と一緒に三人で一夜を明かしたらしい。
結婚したあとも定期的に3人で遊んでいたようだけど、ある日から入り浸りになった。
しばらくして、ママのお腹にはあたしが宿った。
ママにはたくさんの太客がいたのに、侯爵はあたしを自分の子だと信じて疑わなかったらしい。早速、ママを身請けして、大きな屋敷で大切にされた。
小さな頃に、本当ならここが家なんだぞと、見せてもらったお城のような家には、魔女の娘が住んでいて住めないと聞かされた。
あたしたちの幸せを邪魔する魔女の娘が、物凄く嫌いになった。しかも白い髪だなんて。はやく消えろと何度思ったことか。
パパとママ、ふたりに愛されて育ったものの、どうやらママはヒカゲノミという、許されない立場だという。
でも、それがなんだというのかしら。とっくにパパを騙した魔女はいないし、ふたりは愛し合っている。
『お前は、本当に私にとって女神だわ。もっとパパに気に入られるようにしなさい』
『うん』
10歳になった時、やっとあたしの家に住むことができた。魔女の娘は、パパが懲らしめてくれて、離れのオンボロ家に移った。あの女にしては立派な家を与えるなんて、パパって本当に慈悲深くて優しくてかっこいい。
あたしを後継者にするために、若い頃のパパが魔女に騙されて行った魔法契約を解除するのに東奔西走してくれた。その間邪魔にならないように、魔女の娘を、人間にとって地獄のように恐ろしい獣人国に留学させてくれたのは、本当に嬉しくて抱きついちゃった。
大きくなってからは、あまりそういうことをしなくなったからか、パパはすごく喜んで、あたしを抱きしめてキスをしてくれたのである。
そこからは早かった。次期後継者の魔女の娘が、責務を放棄して、領地と祖国を捨てて獣人国に行きたいとわがままを言い出した。売国奴の容疑がかかったあの女は、そのまま獣人国に留学したことが決定打になり、あの女が後継者から外れたのである。
あたしは、一心不乱にあたしを求める年下の少年を見下ろす。初心な彼の赤らんだ顔がかわいい。しかも、クアドリとは比べ物にならない熱を受け入れ、朝まで楽しんだのである。
※ladrãoーラドロウ:泥棒
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