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先生たちの慰労会
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「一年間、お疲れ様!」
「そっちも」
私はミスト。オーストラリアンミストというまるで霧のようにぼんやりとした毛皮を持つ猫獣人だ。エリートぞろいのAクラスの担任となり、様々な種族の一癖も二癖もある個性的な教え子たちに囲まれ、毎日が充実しすぎる日々を送っていた。
この学園では、転入してくる子や転校する子、よっぽど成績が悪くなる子以外、クラスの編成は成人する卒業まで変わらない。
毎年やってくるAクラスに相応しい、身体能力と戦闘能力に長けた生徒たちに囲まれていた。
そんな生徒たちは、自分の信念を決して曲げない子が多い。
融通は利かないがsマニーデのように真面目で強さに自信を持つのもいいが、ゴーリンのように学力だけが残念な生徒たちが多く、バトルや鍛錬の授業以外を、不真面目に席にもつかずに聞いているふりをしたり、ジョアンのように極力さぼって教室にすらいない生徒たちに悩まされていた。
こうして、毎年3月、無事にやりとげた打ち上げ会の3次会。すでに居酒屋で酒の入ったグラスを傾けているのは、私とFクラスの担任であるハリー先生だけ。
あとの先生たちは家庭に戻り、今頃はあったかい家族の愛に囲まれているだろう。
ハリーは、美人で料理上手(噂では床上手でもあるらしい)奥さんが婦人会の旅行中のため、子供たちも独立し一人きりだから付き合ってくれている。
お互いに、クセの強い生徒たちに頭を悩ませていた。
「お、美人なおねえちゃん。そんなむさくるしそうなチビのおっさんなんかより、俺と飲んで熱い夜を過ごさねえか?」
二人でしんみりとグラスを傾けていると、こうしてナンパされる。鬱陶しいことこの上ない。
「……断る。私の守備範囲は女性だ」
「なんか、えらい野太い声だなぁ。なんだよ、ソッチの趣味かよ~。ちぇ」
私は自分ではそんなつもりは一切ないのだが、こんな風に女性に間違われる。そして、色っぽいらしい。
どこをどう見ても、男物の衣装なのに首をひねってちらっとそいつを見ると、相手は腰を引いて顔をあからめるのだ。
それは生徒たちも同様で、いや、ゴーリンやジョアンは違ったが、一度は私を年上の女教師だと思ってほのかな恋心──学生時代の黒歴史に後々なる──を抱いてしまう。
そのせいか、男子生徒は複雑な想いを抱くのか、私には強く出られないらしい。
「ミスト、そろそろ帰るか」
「ああ、また新年度に。今度の学力テストは、Aクラスが勝って見せる」
「ははは、それはどうかな? アイリスがうちにいる以上きっと彼女が卒業するまでうちが一位さ」
笑い合いながら居酒屋を出る。
ここは、主要都市の繁華街で、交通網が発達している。最終の隣国からの馬車が停留所に着いたようだ。
人間たちが、そこからぞろぞろと疲労の色をまといながら降りて来た。
「……? おい、ハリー、あの子」
ほろ酔い気分でそんな彼らを見ていたミストが、ハリーの腕をひっぱった。
「ん? どうした……って、アイリス? まさか、あの子は5日後に寮に帰って来る予定で……」
「そうなのか? 様子がおかしくないか? ふらふらして……」
「アイリスッ!」
彼女の焦点の合っていない瞳はどろんとしていて、足取りもおぼつかない。馬車から降りる時につまづいて、地面に倒れてしまう。
周囲の人間は、彼女をあからさまに避けて、手を差し伸べ助けるどころか、声をかける事すらしない。迷惑そうに、道端のゴミのように無視をしている。
「そういえば、彼女は人間の国では、根拠もないというのに、白い髪の忌み子と言われていたらしいな……」
何も悪い事などしていない、どちらかと言えば善良な彼女を、たかが髪が白いというだけで迫害する人間のこういう排他的な部分には吐き気がする。
ハリーが彼女に近づき助け起こした。必死にアイリスと叫ぶが彼女の反応は鈍い。
ほろ酔いの気分を、頭を振って切り替えた。
「アイリス、しっかりするんだ。どうしたんだ? 予定ではまだ先だろう? それにこんな真夜中に……」
「ハリー、せんせ……?」
「ハリー、とりあえず彼女を連れて学園に戻ろう。アイリス、もう大丈夫だ。ハリーも私もいるからね」
「ミスト、せんせい……」
見知ったハリーの姿を認めて安心したのだろう。ぐったりとした彼女は、ハリーに横抱きにされたまま今は目を閉じている。目の周りは赤くなり瞼が腫れ上がっていた。
担任ではないが、彼女のことは教員全員が気にかけている。普段、凛としていて弱音を吐かずに歯を食いしばって頑張っている姿しかしらない。ハリーもまた、初めてこんな風に弱っている人間の彼女を心配そうに見下ろしていた。
すうすう、と彼女が安らかな寝息を立て始めた。私は、ハリーとともに彼女を連れて学園に戻ったのであった。
「そっちも」
私はミスト。オーストラリアンミストというまるで霧のようにぼんやりとした毛皮を持つ猫獣人だ。エリートぞろいのAクラスの担任となり、様々な種族の一癖も二癖もある個性的な教え子たちに囲まれ、毎日が充実しすぎる日々を送っていた。
この学園では、転入してくる子や転校する子、よっぽど成績が悪くなる子以外、クラスの編成は成人する卒業まで変わらない。
毎年やってくるAクラスに相応しい、身体能力と戦闘能力に長けた生徒たちに囲まれていた。
そんな生徒たちは、自分の信念を決して曲げない子が多い。
融通は利かないがsマニーデのように真面目で強さに自信を持つのもいいが、ゴーリンのように学力だけが残念な生徒たちが多く、バトルや鍛錬の授業以外を、不真面目に席にもつかずに聞いているふりをしたり、ジョアンのように極力さぼって教室にすらいない生徒たちに悩まされていた。
こうして、毎年3月、無事にやりとげた打ち上げ会の3次会。すでに居酒屋で酒の入ったグラスを傾けているのは、私とFクラスの担任であるハリー先生だけ。
あとの先生たちは家庭に戻り、今頃はあったかい家族の愛に囲まれているだろう。
ハリーは、美人で料理上手(噂では床上手でもあるらしい)奥さんが婦人会の旅行中のため、子供たちも独立し一人きりだから付き合ってくれている。
お互いに、クセの強い生徒たちに頭を悩ませていた。
「お、美人なおねえちゃん。そんなむさくるしそうなチビのおっさんなんかより、俺と飲んで熱い夜を過ごさねえか?」
二人でしんみりとグラスを傾けていると、こうしてナンパされる。鬱陶しいことこの上ない。
「……断る。私の守備範囲は女性だ」
「なんか、えらい野太い声だなぁ。なんだよ、ソッチの趣味かよ~。ちぇ」
私は自分ではそんなつもりは一切ないのだが、こんな風に女性に間違われる。そして、色っぽいらしい。
どこをどう見ても、男物の衣装なのに首をひねってちらっとそいつを見ると、相手は腰を引いて顔をあからめるのだ。
それは生徒たちも同様で、いや、ゴーリンやジョアンは違ったが、一度は私を年上の女教師だと思ってほのかな恋心──学生時代の黒歴史に後々なる──を抱いてしまう。
そのせいか、男子生徒は複雑な想いを抱くのか、私には強く出られないらしい。
「ミスト、そろそろ帰るか」
「ああ、また新年度に。今度の学力テストは、Aクラスが勝って見せる」
「ははは、それはどうかな? アイリスがうちにいる以上きっと彼女が卒業するまでうちが一位さ」
笑い合いながら居酒屋を出る。
ここは、主要都市の繁華街で、交通網が発達している。最終の隣国からの馬車が停留所に着いたようだ。
人間たちが、そこからぞろぞろと疲労の色をまといながら降りて来た。
「……? おい、ハリー、あの子」
ほろ酔い気分でそんな彼らを見ていたミストが、ハリーの腕をひっぱった。
「ん? どうした……って、アイリス? まさか、あの子は5日後に寮に帰って来る予定で……」
「そうなのか? 様子がおかしくないか? ふらふらして……」
「アイリスッ!」
彼女の焦点の合っていない瞳はどろんとしていて、足取りもおぼつかない。馬車から降りる時につまづいて、地面に倒れてしまう。
周囲の人間は、彼女をあからさまに避けて、手を差し伸べ助けるどころか、声をかける事すらしない。迷惑そうに、道端のゴミのように無視をしている。
「そういえば、彼女は人間の国では、根拠もないというのに、白い髪の忌み子と言われていたらしいな……」
何も悪い事などしていない、どちらかと言えば善良な彼女を、たかが髪が白いというだけで迫害する人間のこういう排他的な部分には吐き気がする。
ハリーが彼女に近づき助け起こした。必死にアイリスと叫ぶが彼女の反応は鈍い。
ほろ酔いの気分を、頭を振って切り替えた。
「アイリス、しっかりするんだ。どうしたんだ? 予定ではまだ先だろう? それにこんな真夜中に……」
「ハリー、せんせ……?」
「ハリー、とりあえず彼女を連れて学園に戻ろう。アイリス、もう大丈夫だ。ハリーも私もいるからね」
「ミスト、せんせい……」
見知ったハリーの姿を認めて安心したのだろう。ぐったりとした彼女は、ハリーに横抱きにされたまま今は目を閉じている。目の周りは赤くなり瞼が腫れ上がっていた。
担任ではないが、彼女のことは教員全員が気にかけている。普段、凛としていて弱音を吐かずに歯を食いしばって頑張っている姿しかしらない。ハリーもまた、初めてこんな風に弱っている人間の彼女を心配そうに見下ろしていた。
すうすう、と彼女が安らかな寝息を立て始めた。私は、ハリーとともに彼女を連れて学園に戻ったのであった。
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