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「皆! 今回も俺たちのクラスはトップだ。アイリス、ありがとう! 家族も喜ぶよ!」
「そんな。わたくしなんて、何もしていないわ? 皆が一生懸命頑張ったからよ!」
皆で、張り出されたクラスと個人順位表の前で喜び合う。ウォンがわたくしに向かって大きな声でそう言った時、Aクラスの獣人であるタスマニア・デビル 獣人のマニーデ(17♀)が話しかけて来た。
「万年最下位だったあなたたちが、どうやってこの順位になったの。今年度に入ってからいきなりっておかしいわ? そう言えば人間が入ったんだったわね? ね、どんな卑怯な手を使ったのよ」
彼女はエリート集団であるAクラスの委員をしている。きれいでスタイルのいいマニーデは、戦闘能力もありAクラスの中でも一目を置かれている人気者だ。
「マニーデ、何が言いたい? 俺たちは、毎日アイリスの指導のもと滅茶苦茶頑張ったんだ! その結果さ!」
彼女のイヤミな言葉を受けて、ウォンがわたくしを背にかばい彼女と対峙する。今にも喧嘩が始まりそうなほどにらみ合いをしていた。
彼女とウォンでは、あまりにも戦闘能力に差がありすぎる。タスマニアデビルは、敵に見つかると基本は逃走する。だが、倒すべき敵とみなした者には容赦がない。見た目は可愛らしいくおしゃれなその姿とは大違いだ。
万が一、彼女が攻撃を仕掛けてくれば、速度も力も圧倒的に劣るウォンは大けがをするだろう。
「ふうん、人間の、ねえ……。あんたたち、ひ弱で卑怯な人間に教えを乞うなんて獣人として恥ずかしくないの?」
彼女は、馬鹿にしたように、──いや、本気で馬鹿にしているのだろう──、わたくしだけでなくクラスメイトの皆をせせら笑う。
「アイリスを馬鹿にするのか……? いくら人間が嫌いだからってそんな言い方はないだろう? それに、努力をしてきた俺たちを馬鹿にすると、流石に女の子だからって容赦しねーぞ? 謝れよ!」
彼女は、去年度までトップだったけれども、わたくしが入学してからは一位になった事がない。だから、悔しそうに、Aクラスのわたくしを気に入らない子たちと一緒に、毎回睨んで来ていた。直接どうこうされたことはない。
獣人は、ひ弱な人間相手に、誇りある拳を汚したくないと思っているのと、先生から人間への暴力はかすり傷だけでも許されない校則があるからだ。
学年末の今回のテストは、一年を通しての順位になる。学力の総合一位はわたくし、二位はAクラスのジョアン、三位はウォンだ。いつも眠っていて授業もさぼっているという彼が二位なのはびっくりしたけれど、彼はいつも5位以内をキープしているらしい。
マニーデの順位は4位だから、恐らくは妬みよりも、自分の能力や努力不足の現実と気持ちの昇華ができずに、こうして不満のはけ口を求めているのかもしれない。
ウォンの握りしめた拳が震えている。獣人は本能で危険を察知するから、彼女の底知れぬ恐ろしさはわたくしよりも感じているに違いない。わたくしだってとても怖い。
でも、皆のためにも、卒業まで皆と頑張ると決めた自分のためにも、ここで引き下がるわけにはいかないと思った。
わたくしは、自分の中にある弱さを隠すために、ウォンの広い背中を見上げてきゅっと口を結んだ。そして、折角背中にかばってくれた彼の横に並び、マニーデの前に背筋を伸ばして立つ。
「ウォン、ありがとう。マニーデさん、人間であるわたくしの事は、確かにひ弱だから、どんなに馬鹿にしてもいいです。だけど、毎日必死に頑張って結果をだしたクラスの皆を侮辱するのはやめてください」
ともすれば、声が震える。けれど、ただでさえ弱いと侮っている彼女には、恐怖を一ミリも見せたくなかった。けれど、どれほど頑張っても、マニーデには、今のわたくしの虚勢とわかったのだろう。
「ふん。……あんたね、ずっと目ざわりだったのよ。人間は大人しく人間の国で震えていればいいのに。さっさと人間の国に帰ったらどうなの?」
今にもかみついてきそうな表情に、余裕が見えた。マニーデは、わたくしがしっぽを巻いて帰るという勝利を確信して、腰を曲げて指をさしてにやにやしている。
「……お断りします。わたくしの事はわたくしが決めます。わたくしは、ここで皆と一緒に勉強がしたい。だから、国に帰りません」
「この……! 人間のくせに、生意気な……! あんたなんか、こっちが優しく言っているうちに言うことを聞いていればいいのよ!」
わたくしの意地を聞き、マニーデの怒りが殺気とともに廊下に広がった。
他の獣人たちは固唾を飲んで見る者、マニーデをけしかけて囃し立てる者、恐れおののいて後ずさりする者など様々だ。
直接、彼女の怒りを真正面から受け、身がすくんだ。足が床にへばりついて離れない。ひょっとしなくても、体が吹き飛ばされるだろう。大けがをするに違いない。
本当は、怖くて怖くてたまらない。けれど、さっき言った言葉を撤回する気はなかった。
目じりに涙が浮かぶ。震える足を必死に地に着け、目を閉じて、ぐっとお腹に力を込めた。
「そんな。わたくしなんて、何もしていないわ? 皆が一生懸命頑張ったからよ!」
皆で、張り出されたクラスと個人順位表の前で喜び合う。ウォンがわたくしに向かって大きな声でそう言った時、Aクラスの獣人であるタスマニア・デビル 獣人のマニーデ(17♀)が話しかけて来た。
「万年最下位だったあなたたちが、どうやってこの順位になったの。今年度に入ってからいきなりっておかしいわ? そう言えば人間が入ったんだったわね? ね、どんな卑怯な手を使ったのよ」
彼女はエリート集団であるAクラスの委員をしている。きれいでスタイルのいいマニーデは、戦闘能力もありAクラスの中でも一目を置かれている人気者だ。
「マニーデ、何が言いたい? 俺たちは、毎日アイリスの指導のもと滅茶苦茶頑張ったんだ! その結果さ!」
彼女のイヤミな言葉を受けて、ウォンがわたくしを背にかばい彼女と対峙する。今にも喧嘩が始まりそうなほどにらみ合いをしていた。
彼女とウォンでは、あまりにも戦闘能力に差がありすぎる。タスマニアデビルは、敵に見つかると基本は逃走する。だが、倒すべき敵とみなした者には容赦がない。見た目は可愛らしいくおしゃれなその姿とは大違いだ。
万が一、彼女が攻撃を仕掛けてくれば、速度も力も圧倒的に劣るウォンは大けがをするだろう。
「ふうん、人間の、ねえ……。あんたたち、ひ弱で卑怯な人間に教えを乞うなんて獣人として恥ずかしくないの?」
彼女は、馬鹿にしたように、──いや、本気で馬鹿にしているのだろう──、わたくしだけでなくクラスメイトの皆をせせら笑う。
「アイリスを馬鹿にするのか……? いくら人間が嫌いだからってそんな言い方はないだろう? それに、努力をしてきた俺たちを馬鹿にすると、流石に女の子だからって容赦しねーぞ? 謝れよ!」
彼女は、去年度までトップだったけれども、わたくしが入学してからは一位になった事がない。だから、悔しそうに、Aクラスのわたくしを気に入らない子たちと一緒に、毎回睨んで来ていた。直接どうこうされたことはない。
獣人は、ひ弱な人間相手に、誇りある拳を汚したくないと思っているのと、先生から人間への暴力はかすり傷だけでも許されない校則があるからだ。
学年末の今回のテストは、一年を通しての順位になる。学力の総合一位はわたくし、二位はAクラスのジョアン、三位はウォンだ。いつも眠っていて授業もさぼっているという彼が二位なのはびっくりしたけれど、彼はいつも5位以内をキープしているらしい。
マニーデの順位は4位だから、恐らくは妬みよりも、自分の能力や努力不足の現実と気持ちの昇華ができずに、こうして不満のはけ口を求めているのかもしれない。
ウォンの握りしめた拳が震えている。獣人は本能で危険を察知するから、彼女の底知れぬ恐ろしさはわたくしよりも感じているに違いない。わたくしだってとても怖い。
でも、皆のためにも、卒業まで皆と頑張ると決めた自分のためにも、ここで引き下がるわけにはいかないと思った。
わたくしは、自分の中にある弱さを隠すために、ウォンの広い背中を見上げてきゅっと口を結んだ。そして、折角背中にかばってくれた彼の横に並び、マニーデの前に背筋を伸ばして立つ。
「ウォン、ありがとう。マニーデさん、人間であるわたくしの事は、確かにひ弱だから、どんなに馬鹿にしてもいいです。だけど、毎日必死に頑張って結果をだしたクラスの皆を侮辱するのはやめてください」
ともすれば、声が震える。けれど、ただでさえ弱いと侮っている彼女には、恐怖を一ミリも見せたくなかった。けれど、どれほど頑張っても、マニーデには、今のわたくしの虚勢とわかったのだろう。
「ふん。……あんたね、ずっと目ざわりだったのよ。人間は大人しく人間の国で震えていればいいのに。さっさと人間の国に帰ったらどうなの?」
今にもかみついてきそうな表情に、余裕が見えた。マニーデは、わたくしがしっぽを巻いて帰るという勝利を確信して、腰を曲げて指をさしてにやにやしている。
「……お断りします。わたくしの事はわたくしが決めます。わたくしは、ここで皆と一緒に勉強がしたい。だから、国に帰りません」
「この……! 人間のくせに、生意気な……! あんたなんか、こっちが優しく言っているうちに言うことを聞いていればいいのよ!」
わたくしの意地を聞き、マニーデの怒りが殺気とともに廊下に広がった。
他の獣人たちは固唾を飲んで見る者、マニーデをけしかけて囃し立てる者、恐れおののいて後ずさりする者など様々だ。
直接、彼女の怒りを真正面から受け、身がすくんだ。足が床にへばりついて離れない。ひょっとしなくても、体が吹き飛ばされるだろう。大けがをするに違いない。
本当は、怖くて怖くてたまらない。けれど、さっき言った言葉を撤回する気はなかった。
目じりに涙が浮かぶ。震える足を必死に地に着け、目を閉じて、ぐっとお腹に力を込めた。
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