【完結・R18】騎士様、はじめまして。もうすぐ消えてしまうので、最後の思い出に私(魔王)とデートしてくれませんか?

にじくす まさしよ

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前世で心底反省したから今の慈悲深い私があるのよ? 

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  だから、あの雨の日に、チトセとふたりで、妊娠していないのにお芝居をしたのだ。

 最近、チトセと彼女の仲がギクシャクしていたらしい。特に、2泊3日の旅をしてから彼女から無視をされていると聞いた。そのまま別れてしまえばいいのに、チトセはどうしても彼女を離したくないってしつこい。

モテない者同士、これを逃したら結婚できないとか思っているのかもしれない……

  彼の家族は私がチトセと結婚するのを望んでいたけど、私には立派で素敵でセレブな婚約者がいる。残念だけど私もそんな気がこれっぽちもないし、年収がたったの800万しかない彼とは結婚できない。

 おばさまたちには、あの女の嫌な部分も全部打ち明けて、何も悪くない私はとても傷ついて困っていると泣いて相談していた。勿論、チトセとデートしたりお互いの家に泊ったり、旅行に行ったことは伝えていない。そんな情報なんて、説明する必要はないから当然だ。

  ただ、あるがままの事実を言っておかないと、おばさまたちまで、あの女にまんまと騙されてしまう。そんなの許せないと思った。
  チトセは彼女を愛しているから目が曇っている。彼は一応大事な幼馴染みだから、ちゃんと守ってもらわないといけない。
  あらいざらい、私にされた事や、チトセの考えを全否定して蔑ろにしているって伝えたら、おばさまたちは怒っていた。

ちょっとだけ、オーバーに言った内容もあるかもしれないけど。

当たり前だよね。幼馴染で何でもないって言ってるのに、浮気だって決めつけるんだもん。しかも、私と婚約者の仲まで引き裂こうとする悪女なんて、結婚できなくなればいい。チトセは、まあ結婚できなくても私の幼馴染としての幸せな人生が送れるんだから大丈夫だろう。

 そう思いながら、土砂降りの夜にチトセと彼女と3人で会った。

  まさか、あんな事になるなんて思いもしなかった。そりゃ、ちょっとは膝をすりむけばいいと思ってはいたから軽く背中を押してしまったのかもしれない。

 だけど、運が悪かったとしか言いようがない。

 横断歩道付近なのにスピードを出したまま走って来た乗用車に轢かれてしまってとても可哀想だった。

 夜の土砂降りとはいえ、周囲の店の灯りで状況は良く見えていた。信号機がない道路の横断歩道で、菱形の標示も新しく書き換えられていてはっきり白くヘッドライトに浮かび上がってた。
 横断歩道には彼女だけでなく数名渡ろうと待機している人たちがいた事もあり、乗用車の一時停止だか、なんだかよく分からないけれど、そういう状態だと赤信号と同じ扱いらしい。だから運転手の責任が問われた。

 周囲の人たちの何人かが、私が怒鳴りながら彼女を道路に向かって思い切り押しただなんて嘘の証言なんてするものだから、私まで取り調べを受ける事になった。
 暗い土砂降りの中でも店舗からの明るい光があったから、店からの防犯カメラでも、私が彼女に駆け寄っている姿がはっきり記録されていた。だけど、私が悪意を持って押したという証拠なんて出るわけがない。
 だって、私は、彼女に立ち止まって話を聞いて欲しくて、ちょっと体に手を触れさせただけだったから。

 あの女のスマホが壊れていなかったせいで、あの時の会話が全て録音されていた。それを殺意がなかったとは言えないとか言い出す無責任な世論がいっぱいだった。
 SNSでは、交通事故で亡くなったのに私を責める言葉がいっぱいで。
 しかも、チトセとの子供を妊娠していたっていう嘘を信じられてしまった。彼と泊りがけで同じ部屋で過ごした旅行の領収書なんかも出て来たから、婚約者からも浮気を疑われた。

 誓って、私はチトセ浮気していないのに。

 婚約者には、チトセと彼女の仲を取り持つために試しただけで彼の子を妊娠していない証拠も出したけれど、あいつも心が狭いちっぽけな男だった。
 慰謝料はいらないから今すぐ別れてくれって言われた。向こうの家族も、煙の無い所には火が立たないとかなんとか言って、私の事を疑ったまま。
 醜聞にまみれた私を、彼の戸籍に入れるわけにはいかないとまで言われたのはとても屈辱だった。

 まあ、でも。すぐに男友達のひとりが、傷つき泣いて暮らしている私を救ってくれたんだけど。弁護士の彼に、私の無実を証明してもらった。それと同時に、私へネットで酷い事を言った人たちを一人残らず名誉棄損で訴えてくれたのだ。

 
 慌てて焦っていたから力は少し強かったかもしれない。だけど、殺意はなく、彼女の靴はハイヒールだったため、雨のぬかるみで滑ってバランスを崩したのだ。結局、不幸な事故だと結論付けられた。


 私は、裁判以外でも色々あっていっぱい悲しくて悔しい思いをしたし、本当に彼女を気の毒だと思い反省した。

 勝手に嫉妬して弁護士とか慰謝料言い出した、あの女が全部悪いと確信しているのだけど、私にだって対応がいけない部分があったのかもしれない。

 私の純粋な善意を勘違いして逆恨みする人だったとはいえ、彼女だって幸せになれる権利があったのに……。

 そんな風に思えるようになったのは、事故から数年経ってからだ。


  私はあの女のせいで散々な目にあったけれど、幸せになれた私は彼女を許してあげる事にしたのだ。


 あれから、同じように傷つきながらも頑張ったチトセが起業家になって、年収3000万円になった事を機に結婚して、子供が産まれた。幸せだった。

 でも、子供が生まれてから状況が変わった。

 子供の育児放心で衝突するようになった義両親との仲が拗れてしまった。しかも、私があえて伝えていなかった、あの頃の彼とのデートや旅行の事がチトセの両親に知られてしまい、針のむしろのような状態になる。

 そりゃ、黙っていた事があるのは反省したけど、だからといって今はもう私はチトセと結婚したし彼との子を産んで育てているのに。

 チトセたちと喧嘩ばかりになった。

『なあ、子育てが疲れるのはわかる。だけど、仕事をしている俺は少ない時間で掃除も洗濯もアイロンがけもしているだろう? 子供のオムツやお風呂、夜間のミルクや寝かしつけの絵本だって俺だ……。お前は、母がうちに来るのが嫌だというけど……。あのな、母は、俺たちの生活があるからって、ここにはあまり近寄りたくないんだよ。がんの治療もあって病院に通っているんだよ? 日中の家事やあの子のオムツ交換や世話は、セイラが何もしないから、母が渋々来てしているんだ。一体セイラは何をやっているの? いい加減疲れたよ……』
『だって、ママ友たちとの付き合いがあるのよ? 昼間、子供と付き合うのがどれほど大変か知らないくせに』
『ママ友と会って話に夢中になって、子供はママ友のひとりに押し付けているそうじゃないか。俺と出掛ければスマホを見るのが子育てなのか? 泣いている子をうるさいと怒鳴りつけるなんて……。もうちょっと子供に向き合ってやってくれないか?』
『だって、そういう時間以外は、自分の時間なんてないのよ! なによ、時々子供の世話をするからって偉そうに』

 挙句の果てに、義母になったおばさまは、私じゃなくてあの女が生きていたらってグチグチ嫁いびりするようになった。

 チトセは、家事も育児もまともにしないのなら離婚も考えているなんて言い出した。

 彼とはすでに冷めている。だけど、追い出されたら今の快適な生活ができなくなるから、なんとか離婚されないように頑張った。

 子供が18才になった時に、子供が恋人に傷つけられて捨てられた。
 どうやら、過去の私の無罪になったあの事故での出来事を全て調べられ色々言われたらしい。

 私の大事な子供に、なんて酷い事をするのかと腹が立った。子供には、今までパパやおばあちゃんしか面倒を見てくれなかったくせにって責められるし散々だ。

 どうして、こんな風になるのか悲しかった。どこから、私の人生は間違っていたのだろう。やり直せるのなら、どうか、あの事故の前に戻して欲しいと願った。

 だからだろうか。完璧なやり直しではないけれど、世界が違うとはいえ新しい人生が与えられたのだ。



※※※※


  だから、今回は少しでも誤解されないようにもっと優しく人々に接しようと誓った。

「申し訳ございません。勇者様はもうおやすみ中でして……」
「はぁ……そこをなんとかするのがお前の仕事なのよ?  無能だと知られたら、綺麗でも可愛くもないお前なんて、結婚出来ないと思わない?  この事を報告しなきゃいけないんだけど……そうすれば、お前は罰を受けるかもね?」
「お、お許しを……!」
「いいわ、黙っていてあげる。明日からダンジョンに行くんだから、その前に話を少ししたかったのだけれど、仕方がないわね……」
「姫様……ありがとうございます!」

  ユウシャを連れてこれなかったという大失態を犯した侍女に対して、叱らないといけないのは心苦しい。だけど、丁寧に現状などを伝えながら説明した私の言葉が彼女の心に響いたのだろう。

  侍女が泣きながら土下座する。

  私は、にっこり微笑みながら許してあげるのだった。








次回、魔王様とヒーローが出会います。急展開でいきなりR15弱です。よろしければお楽しみくださいませ。
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