【完結・R18】騎士様、はじめまして。もうすぐ消えてしまうので、最後の思い出に私(魔王)とデートしてくれませんか?

にじくす まさしよ

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13 暗闇を灯す、優しい光に包まれて R18

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 結局、中でイかされ、たっぷり3回は彼の熱を注がれた。いつの間にか、気を失うように眠っていたみたい。

 翌朝、グイスゥが窓の外から声をかけて来てくれたのを夢現で聞いていた。

「ケキョ、ケキョ。魔王ちゃん、起きなくていいから聞いてね。勇者たちがそろそろダンジョンの最上階に来るわ。残り数日、目一杯彼に甘えていていいからね」

「うん……ありがと……」

 そのまま、目が覚めた時にはすでに日が高く昇っていた。先に起きていた彼が、私をじっと見ていたみたいで、カっと体温があがる。恥ずかしくなり、彼の胸板に顔を埋めた。

「やだ、ナイト様ったら。いつ起きていたの? うう、寝顔、変じゃなかった?」

「さっきだな。おはよう、俺のサニー。愛らしくてかわいかった。そんな姿を見せられると、また抱きしめたくなる」

「やだ、もう……ふふ、おはよう……ナイト様も素敵……」

 にこにこ、満面の笑顔で幸せそうな彼を見ていると、私までその気持ちが移って来るかのようだ。

 そのまま、朝から求められそうになった。睡眠不足で眠いけれど、グイスゥの報告から間もなく勇者がダンジョン攻略を果たすだろう。彼の任務のローテーションがあるため、今日を逃せばデートが出来ない。私は、昨日教えてもらった場所にデートにいきたいと彼に甘えながら強請った。
 
 ランチボックスに軽食をたくさん入れて、ブルトーンで少し離れた湿地帯に到着したのはお昼過ぎ。ブルトーンはつながなくても彼が指笛を吹いたらすぐに来るそうで、自由に遊んでくるようだ。

 とても綺麗で冷たい水が静かに流れている、見渡す限りのミズバショウのそこは見事としか言いようがなかった。人がすれ違えるほどの幅の桟橋がかけられていて、その上を歩くと、まるで湿地帯の中にいるかのようで、うっとりしながら彼と手をつなぎながらゆっくり進む。

「サニー、ところどころ濡れているから滑らないように」

「ええ。それにしても見事ね。他にだーれもいなくて、貸し切りみたい」

 彼は、風景よりも私のそんな姿を見るのが楽しいと言わんばかりに、私のほうばかり見つめて来る。桟橋を歩きすすめると、草原が広がっていて、シランの花が咲き誇っていた。

「わあ、シランだ……。綺麗……」

 あなたを忘れない、変わらぬ愛という意味を持つ紫や白の花が可愛らしい。

「俺は花の事はわからんが、美しいな」

 私がしゃがみこんでシランの花をじっくり見ていると、顔の近くにそっと花を差し出された。

「サニー、その。仲間が教えてくれたんだ。ここに来てこの花を贈るといいと」

 照れくさそうでいて、私を熱い視線で見つめながらシランを髪に差し込まれた。彼に誘われるように立ち上がると、片膝をつきながら彼がこう言った。

「変わらぬ愛をあなたに。どうか、俺と結婚してください」

 私は、取られた手をじっと見つめた。私を見上げる彼の顔は、期待でいっぱいだった。私が断わるはずがないという自信に満ち溢れていて、私は、自分の我がままのせいで、数日後に彼に悲しみを与えてしまうという事に、ようやく心底理解出来たのだ。

 一度、今みたいにデートだけでもと思っていた。あれよあれよという間に、彼が私の気持ちに応えてくれたのが嬉しくて浮かれ切っていた。

彼の気持ちも考えずに……
 
 ごめんなさい、と心の中で何度も何度もつぶやく。でも、今ここでその5文字を口にする事などできるはずもない。

 私は、まるで私たちを取り囲むように咲いているシランをぼんやり視界にとらえながら彼に頷いた。

 シランの、薄れゆく愛という相反する花言葉を、果たして彼は知っているのだろうか。恐らく、知らないだろう。でも、いつか、消えた私への愛が薄れようとも、私だけは彼へのこの想いを忘れたくない。
  消えても尚、ずっと愛して欲しいだなんて、とんでもない我がままで身勝手な気持ちでいっぱいだ。
 将来、彼の隣で笑い合い、愛し合う架空の女性にすら嫉妬を覚えて胸がじりじり焼け付く。

「ナイト様、私もこのシランの花に誓います……」

 そんな風に応えると、彼に抱きかかえられた。目線が高くなり、幸せそうに微笑む彼の瞳をじっと見つめる。

「サニー。勇者たちが帰ってきたら暫く会えなくなる。だけど、待っていてくれ」

 私は、彼の唇で、自分の唇を塞ぐ。言葉には決して出来ない、「待てない」という言葉は、彼の口の中で消えたのだった。

 ハンバーガーにフライドポテトのような昼食を食べた後、湿地帯に戻る。陽が沈み、辺りが真っ暗になった頃、ぽつぽつと、小さな光が現れ出す。
 懐中電灯やライトの魔法なんて必要がないほど、その小さな光が、湿地帯全体をぼんやりと照らし出した。

 途中で見つけたホタルブクロに、その光の正体がそっと入り込むと、まるで提灯のように薄紫色を放ちながら優しいあかりを灯す。

「この虫は、今の短い時期にしか地上に現れないんだ。とても綺麗な清流で一年のほとんどを過ごす。寿命はたしか、500年ほどだったか」

「500年……」

 前世ではホタルの寿命は2週間ほどだったと思う。ホタルの光は相手を見つけて繁殖するためのもので、結婚相手を探す信号だった。
  東と西では、ホタルの光の速度が違っていて、西日本のほうが「せかせかして待たない、イラチ」な人が多いみたいにホタルも急いているのか、早く点滅するって中学の課外授業で習ったな、なんて事を思い出した。

 流石異世界、こんなところに違いがあった、なんてまじまじとホタルブクロの中の小さな虫を見つめた。

「サニー、あまりホタルばかり見ていると足元が危ない」

「ええ、ナイト様。ふふふ、でも、ナイト様が私を守ってくれるんでしょう?」

「それは勿論。俺がどうなろうとも、サニーを守って見せる」

「嬉しい。ナイト様、大好き」

「サニー……」

 いつの間にか、ホタルが私たちの体全体に止まっていた。天然の光は、私たちをぼんやりと夜に浮かび上がらせ、お互いの感情を隠さずに伝え合わせてくれる。

 この世界で、私たちふたりだけが取り残されたかのような暗闇の空間は、優しく希望を指し示してくれているかのようだ。
  そんな中、唇を合わせた私たちをずっと照らしてくれていたのであった。


※※※※


 数日後、年齢と髪型を変えた、18才くらいのメイドの恰好をしたグイスゥと、50才くらいの執事姿になったズモが村に来た。

  先程、勇者がグローリー・ソードを手に入れたのだ。

 ずっと続けばいいと願っていた時間は、無情にもタイムアップしてしまい、私はふたりと共に帰る事になった。

「お嬢様……! ああ、ご無事でよかった……どれほど探したか……!」

「スゥ……、心配かけてごめんなさい。あなたたちも無事で良かった……。ナイト様、この者たちは私の執事と付き添いのメイドなの」

「騎士様、お嬢様をお守りしていただき感謝します。急ぐあまり、森の中を進んだもののはぐれてしまい……」

 毎日、明け方に皆が寝静まった頃に、交代でやってくる鳥の姿の彼らと話をしていた。おかげで、お芝居がスムーズに進み、無事に巡り合えた私たちを、騎士たちや侍女たちも喜んでくれた。

「いえ、当然の事をしたまでです」

 たった数日の事だったけれど、私との別れを皆が惜しみつつ、彼と結婚するために王都に来る私との再会を楽しみにしていると口々に言われた。

「サニー、これを。任務を終えたら必ず行く。待っていてくれ」

 魔法石のはまったネックレス。彼の力強くて熱い魔力が込められている。GPSみたいなのものかなと思いつつ、ぎゅっと握りしめる。涙があふれ、しずくが鎖にぽたりと落ちた。

 こくりと、小さく頷く。

 でも、決してその日は来ない。

 だというのに、私は夢見てしまった。

  彼が、この世界の求婚にしたがって、私の家に花束とお揃いの腕輪を持って来てくれる日を。王都で彼の妻になって、皆に祝福されて微笑み合う彼との未来を。

 あまりにも幸せ過ぎた数日の思い出とともに、このままこの世界から消えていく事が悲しい。

 どうして、恋をしてしまったのだろう。なぜ、会いに来てしまったのだろう。
 池で会った時、どうして姿を消さなかったのか。

 こんな事なら、いっそ彼を見つけなければ良かったなんて馬鹿な事を考える。

 彼との幸せな数日があったからこそ、今こうして立っていられるのも事実なのだから。

「ナイト殿、どうぞご武運を」

 勇者たちに会えば、流石にグイスゥたちの正体がバレる。
  最終決戦は、苛烈で激しいものになるだろう。こんなところで戦闘が開始されれば、この村など簡単に吹き飛んでしまう。彼らが村に到着するまでにここを立ち去らねばならない。

「騎士様、お嬢様とともに、私たちもその日を楽しみにしております……」

「ナイト様……大好き」

「サニー、愛している。必ず、あなたを貰いに行くから待っていてくれ……!」


 私は、その言葉を胸に、迎えのために準備された馬車に乗り込み、愛する彼の目の前から去っていったのだった。




※この世界(転生前)でのミズバショウの花は、白い部分ではありません
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