【完結・R18】騎士様、はじめまして。もうすぐ消えてしまうので、最後の思い出に私(魔王)とデートしてくれませんか?

にじくす まさしよ

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11 出来ない約束 R18

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 目を閉じてうっとりしていた彼の体の震えが止まる。長く大きく息を吐きだす彼の色香にくらくらした。

 ずる……と、大きな彼の熱が出ていった。ほとんど大きさが変わっていなさそうなそれに、少し赤いものが混じった体液がついている。
 彼は焦ったようで、何度も謝って来る。私も望んだ事だし、そんなに気にしないで欲しい。
  でも、嬉しそうな表情を一瞬したのが見えて、私も、今生の初めてを彼に捧げる事ができた満足感を覚え、お互いに微笑んで抱き締めあった。

 まだまだ元気そうなそこを見て、二戦目とかがひょっとしたらあるかなって少しだけぎょっとしつつ覚悟をしていたんだけどなかった。
 ちょっと残念だったかも、なんて思いながら、起き上がって後始末をしている彼の優しさが嬉しくて、飛びついてしまった。
 野営用の簡易ベッドがぎしっと音を立てて揺れた。バランスが崩れたけれど、彼が上手く体勢を整えてくれたから落ちる事はなかった。

「おっと……サニー、そんなに急に動いて大丈夫なのか? 痛みは?」

「ナイト様、痛くなんてないわ。大好き」

「……全くもう、あなたときたら……可愛すぎて、また無理をさせてしまいそうになるから、じっと横になっていて」

 魔法で全身を清浄化してもらい、一緒に裸のままベッドに横たわる。肌と肌をぴったりひっつかせ、太い足に、左足を少し乗せて絡ませるように横向きになった。
  力を抜いてリラックスしていても逞しく盛り上がる胸に、頬を寄せてうっとり目を閉じると、彼の手が頭を優しく梳るように撫でてくれる。

「ナイト様、ありがとうございます……私、幸せ……」

 ずっと、このままの時間を過ごしたい。時が止まって欲しいなんて、そんなドラマのような思いを抱く事があるなんて、今まで思ってもみなかった。

「それを言うのは俺のほうだ。その……朝が来たら、俺は交代して近くの村に戻るんだ」

「……行ってしまうの?」

 そういえば、彼は勇者たちを待っている任務中だった。

  こんなにも幸せな時が永遠に続くはずもない。もうすぐ彼と離れてしまう現実を突きつけられ、涙が出そうになる。
 どうも、最近涙もろい。あっという間に視界がぼやけていく。泣き出しそうな私の顔を見て、彼はにっこり微笑みながら目尻から流れ出そうになっている涙をそっと指で拭いてくれた。

「サニー、泣かないでくれ。俺も離れたくない。嫌がられても離す気もない。その、急な事だが、一緒に来てくれないか? 今は事情があってここにいるんだが、もうすぐ任務が終わる。そうしたら、俺と一緒に王都に行って、結婚して欲しい。俺には両親がいないんだが、後見人がいるんだ。その人にも紹介したいし、あなたのご家族にも挨拶したい」

  彼の言う任務が終わる時、それは……

  私の心臓がピキッと凍りついたかのようだ。
  勇者たちが魔王わたしの討伐を終えた後の、彼が望む幸せしかないだろう未来に、私も連れていって欲しい。

「ナイト様……嬉しい……ひとめ見た時からずっと好きで……こうして一緒にいる時を貰えただけで充分なのに……グスッ」

 悲しさと嬉しさ、両方が混じる涙がこぼれる。まさか、求婚して貰えるなんて……

 どれほど、彼は私を天国に連れて行ってくれるのだろう。それは、同時に数日後の絶望の深さに比例するというのに、私は彼にのめり込んでいくこの気持ちを止められなかった。

「サニー……」

 彼の望みを叶える事は出来ないだろう。仮初であっても、返事をしたいのに、嘘はつきたくもなくて。

  私は、結局はっきりした返事をさけて、ぎゅっと彼に抱き着いた。すると、額や髪にたくさんキスをされる。少し体を捩り、唇にそれを強請った。

 彼との話は、とても楽しくて、話題がつきない。正体がバレないように注意しながら、たわいのない出来事を言い合い笑う。

 そして、どちらからともなく、何度もキスを繰り返しているうちにだんだん瞼が降りてきた。もっと彼を見たいし、話がしたいのに、容赦なく睡魔が襲ってくる。

「おやすみ、サニー。愛している」

「ん……おやすみなさい……」

 私のほうが、もっと愛しているわ……

 その言葉は、彼に届いただろうか。

  届いていなくてもいい、きっと目が覚めたら彼は私の側にいるのだから、起きたら何度も伝えよう……


※※※※


「チィーチィー」

 疲れ果てて、すっかり寝入ってしまっていたようだ。耳に届く彼の声に、目を開ける。彼をそっと覗き込むと、完全に夢の中にいるみたいで、頬を軽く突っついてもむず痒そうにしただけで瞼はがっつり閉じている。

 そっと、彼を起こさないようにベットから起き上がり、床に落とされていたワンピースを着用する。

「チュチュチュチュ」

 野営のテントから出て、彼の鳴き声に応えた。幸い、他のテントとは離れているようだし、強い彼のテントの側に見張りはいない。朝もやのかかる早朝は、少し肌寒いくらいだが清涼としていてとても気持ちがいい。

パタパタパタ

 私の声が届いたのだろう。羽音がしたかと思うと、シマエナガが私に向かって飛んできた。

 どこで誰が聞いているのかわからないため、鳴き声だけで応答する。万が一、人々の耳に入ったとしても単なる鳥の鳴き声に聞こえるはずだ。

「チチッ……念願は叶ったか?」

「ありがとう。十分すぎるほどよ」

「そうか、良かったな。で、どうする? まだ勇者たちがグローリー・ソードを手に入れるまで数日はかかりそうだが」

「……我がまま、言っていい?」

「ああ。お前はもっと我が儘になっていいぞ。じゃあ、また来る」

 私が、我がままの内容を言いもしないうちに、シエナマーガは分かったようだ。ただ、それだけを言うと、私の手の平から羽を広げて飛び去っていった。

「ありがとう、みんな……ごめんね……」

 きっと、私を心配しているだろう。彼らだって散々悩んで、この時をくれたのがわかる。私だって、彼らと離れたくはない。

「だけど……」

 やっぱり、彼の側にいたいと思った。

「ごめんね……」

 もう、誰も側にいないというのに、私は彼らに話しかけるように呟く。

 シエナマーガが、空の向こうに飛び去っても尚、見上げ続けていた私の背後から声がかかった。

「サニー、ここにいたのか。目が覚めたらいなくてびっくりした。どうした? 何かあったのか?」

 私がいなくて慌てたのだろうか。上半身裸のままだし、ズボンは裏表逆だ。手に、着ようと思っていたのか服を持っていた。

「あ……なんでもないの。なんだか、目が冴えちゃって……」

「そうか。まだ、朝の霧が残っていて体が冷える」

 彼はそう言うと、手にしていた上着を私の肩にそっとかけてくれた。その心配りが嬉しくて、彼の胸に甘えるように飛び込む。すると、彼はなんなく受け止めてくれて、私にキスをくれた。

「ナイト様、大好き」

「俺もだ。だが、お願いだから、今みたいに起きたらいないなんてびっくりさせないでくれ。どれほど心配したか。それに、いなくなったかと思うと怖かった……」

「……ごめんなさい」

 その約束だけは出来ない。苦しい。胸が張り裂けそうなほど、悲しい気持ちが湧き上がる。だけど、泣くわけにはいかなくて俯いた。

「ああ、せめているわけではないんだ。ただ……」

「ふふ、わかっているわ。私の騎士様……」

 いくら好きだと言っても、きっと私のこの気持ちの百分の一も伝わらないと思う。でも、せめてほんの一滴だけでもいいから届いて欲しいと、私は顔を挙げて笑って繰り返すのだった。

「大好き……」

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