【完結・R18】騎士様、はじめまして。もうすぐ消えてしまうので、最後の思い出に私(魔王)とデートしてくれませんか?

にじくす まさしよ

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4 魔王として転生したからには、やるべき事はただひとつ……! と言いたいけれど、思いのほかたくさんあった

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お腹すいたな……

 私は空腹を満たすため、羽を50回/秒のスピードで羽ばたかせ、蜜の少ない花にホバリングしながら嘴をつっこんですする。

 ひょっとして、転生あるあるで人間の姿になれるんだろうかと思っただけで人化できた。

「わ……。ほんとに変身できたし……」

 私は、全裸の姿を隠す事も忘れ自分のボンキュッボンな体を見下ろした。

 胸は手で半分くらいしか隠れない。白い肌に浮かび上がる桃色の先端はツンと上に向いている。髪は豊かな黒。それが波打つかのような見事な艶がきらきら光っていた。瞳はまるで傷一つないルビーのように透き通る赤。耳の上に、捩じりのある角が生えていた。

 近くにある鏡池のように澄んだ水面にうつる自分の美しい姿にびっくりしつつ、どうしてこうなっているのか考えたのだった。

やっぱり、これってあのRPGのラスボスよねぇ……。ってことは、転生あるあるであの世界に来ちゃったって事? いつか勇者にやられちゃう……? そんなのやだ……!

 前世で恐らく死んだのかと悲しむ暇もなかった。あのあと彼らがどうなったのかなんてどうでもよくなるほどの衝撃だ。
 ただ、シングルファーザーとして私を育ててくれた父の事が気にかかるが、父にもやっと亡くなった母以外の安らげる女性が去年できた。一時は悲しむだろうけれど、彼女がいれば父は大丈夫だろう。
 
どうしよう。このまま死んじゃうの? でも、一体、いつ? どうやって? なんとか出来ないのかな? 魔王になるのをやめるとか……?

 混乱する頭の中は、いつまで経ってもパニックのまま。次第に現実逃避をし始める。

 まじまじ自分の体を眺めていると、ぱさっと大きな布がかけられた。いきなりの事で少々パニックになったが、そういえば全裸だった。はぎ取ろうとしたそれを体に巻いて、顔だけを外に出すと、目の前に銀色のような白髪の美丈夫のおっさんが立っていた。

「……お前、一体なにもんだ……? ここは俺のテリトリーなんだが」

「えーと。おじゃましてます……? 私は……」

 私は誰だろう。一瞬どう応えようか迷ったけれど、頭に浮かんだ言葉をそのまま彼に伝えた。

「私は、サターニャ・マオウローラル。初期型RPGのこの世界に破滅と破壊をもたらす魔王。異世界からの来訪者よ」

しーん……


 突然、不法侵入された初対面の女に、こんな事を言われて戸惑わない人はいないだろう。長い沈黙が私の心を抉る。
 彼にとって私は意味不明で変質者だ。しかも、小さな鳥から変身したし、全裸だ。日本なら公然わいせつ罪だか、露出狂として警察を呼ばれるかもしれない。

 明日の朝どころか、夕方にはネットニュースやSNSにすぐに埋もれてしまうくらいの記事が載りそうだ。


「………………は?」

「………………サターニャでいいです」

 あんな事を言ってまずかったかなぁ……恥ずかしい、と目の前のおっさんを見上げる。すると、彼は突然笑い出して頭を大きな手でポンポンし出した。

「ははは、へぇ、魔王サターニャか。くく……よろしく、魔王。俺はシエナマーガ、この辺りに住んでいる。魔王、お前行くところがないなら俺んとこに来るか?」

 前の私ならともかく、今の姿は、きっととんでもない美人だろうしスタイル抜群だ。これは、ひょっとしたら体目当てのおっさんからの、いかがわしいお誘いなのかもしれない。

 そんな風に、ジト目で彼を見つめていると苦笑された。

うーん、映画俳優のカッコいいおじさまみたい。

 ちょっと彼のニヒルな感じのイケオジっぷりにぽぅっと見惚れそうになるが、いかんせんおっさんだ。

「お前、マメハチドリだろう? ちっこすぎるし興味がわかねぇ。俺はこれでもモテるんだ。可愛い女にゃ困らん。それとも、ここでその恰好でいるのか? 本性に戻っても、猛禽類とかに食われちまうぞ?」

「お世話になりますぅ!」

 右も左もわからない世界に突然来た上に、私は目の前のおっさん以外に頼れる人はいなさそうだ。背に腹は代えられないし、どうしようと悩んでいるとシエナマーガが続けた言葉に即答せざるを得なかった。

 マメハチドリって彼が言うからには、あっちの世界のテレビで見た事のある指よりも小さなあの弱い鳥なのだろう。この世界のそういうのと、私の世界のああいうのが一致していればなんだけど。まさか、あの魔王にそんな裏設定があるとは思わなかった。

幸い、見た所おっさんだけれど、かっこいいしいい人そうだ。万が一お礼を体でってなったら逃げちゃえばいい。転生あるあるのチートだってあるだろう。大丈夫、大丈夫。……よね?

 そう思った私は、彼に案内されるがまま彼の巣に入って行った。ボロボロの、大きな葉っぱを組み合わせたテントというほうが正しいかもしれない。
 地面は申し訳程度に布が敷かれているが剥き出しのような状態だ。そこに座って話を聞いてもらった。
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