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人類の敵、魔王。人類の希望、勇者。
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世界中に激震が走ったのは、すでに遥か彼方、記憶の片隅にすら残っていないほどの過去の事──
現存する最古の文献には、人類が史上最強の種族であり、栄華を誇っていた日々に暗闇を落とされたのは1万と2千年以上もの昔の事だと記されている。
古代文字研究の第一人者であるホラフィーキ・ビーグマウスーヌの研究内容に、秘匿されていた魔王の真実が鮮明に解き明かされていた。
『腰まである豊かにゆれる長い黒髪。温かく流れる血を彷彿とさせる瞳は、深淵を覗き込むかのようだ。
豊満な体つきと声で、あっという間に男たちを魅了し、女子供の耳に甘い言葉を囁いては惑わせる。
頭に生えた角は禍々しく捻り曲がり、魔王の恐ろしい魔力を増幅させている。鋭く長い爪は全てを切り裂く。真っ赤な唇がひとたび開けば、人間の村など一瞬で消え去ってしまうだろう。
魔王の美しく妖艶な姿に魅了された人々は、体は干からび、魂が抜き取られた。
なんと悍ましい、嗚呼、無念の内に散った我らが同胞よ。彼らの御霊が安らかに眠らんことを……。
数多の配下を使役し、今も尚、人々を苦しめたる忌むべき存在。
それこそが魔王、名を、サターニャ・マオウローラルと言う』
かくして、人々は魔王たちによって辛酸を嘗めされられてきた。
ある日、天空から光輝く一条の矢が辺境の村に天から解き放たれ、巨大な硬い岩を貫いた。
『その矢を解き放つ勇者が現れる。彼のもとに集まりし賢者、戦士、聖女の力にて邪悪な存在は塵と化すであろう』
天啓とも言える不思議な声は世界中に轟き、毎日のように矢を抜きにくる勇気ある猛者が訪れた。
一向に抜けぬ矢は、やがて諦めた人々の記憶から消えた。
そして現代──
苔がびっしり生え、周囲の森の木々に隠されるように在った矢の刺さった大きな岩。その存在に、まるで導かれるように、たどりついた幼さの残る少年が現れる。
その矢は、歴史感溢れる周囲と違い真新しく光輝いていた。彼が、そっと指先をその矢に触れさせると、固い岩が砕け散り、世界中の空に虹色のカーテンのようにオーロラがかかった。
世界中の人々は、忘れていた記憶を呼び覚ましたかのように勇者の誕生を喜ぶ。
小さな村で生まれ育った、その日食べるものすら困っていた彼の防具はボロ布だ。
彼は、唯一の武器である勇気を持って、枯れ木の棒を片手に旅立つのであった。
現存する最古の文献には、人類が史上最強の種族であり、栄華を誇っていた日々に暗闇を落とされたのは1万と2千年以上もの昔の事だと記されている。
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そして現代──
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彼は、唯一の武器である勇気を持って、枯れ木の棒を片手に旅立つのであった。
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