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ダンパーと結ばれた日、パネルは彼の大きな腕を枕にして眠った。そんな彼女が愛しすぎて、ダンパーはほとんど眠れずに過ごす。
翌朝、目が覚めたパネルが、真っ先に見たのは、彼の素肌とたくましい胸板だった。夢のような幸せな時間が、本当だったと実感して、体ごと摺り寄せてしまったものだから、誘ったと勘違いされて朝から組み敷かれたのである。昨夜よりも手慣れた様子で愛され、昼過ぎまでベッドから出ることができなくなった。
一方のダンパーは、一睡もしていなかったうえに、朝の運動をしたにも関わらず精力的に動き、彼女のために不格好なサンドイッチを作った。
暇を持て余したチビッコ精霊たちが訪れ、パネルの手作り料理でないことにブーブー文句を言われたが、空気を呼んだ彼らの親に連れ戻されたのである。
その騒動を、幸せなまどろみの中で聞いていたパネルは、もうとっくに朝を過ぎていることに気づき、あわててベッドから起き上がった。
「はっ、今何時? わたくしったら。すぐに起きないと……!」
「パネル、目が覚めましたか? 無理をさせすぎましたからそのまま休んでいてください。まずは水を飲んで落ち着いて」
「ダンパーさま、あの、わたくし、いつまでも眠ってしまっていて。しかも、食事も作らず申し訳ございません」
「何を謝ることがあるのです?」
「だって、妻は誰よりも早く起きて食事をしないと……」
「はは、普段のときにお願いします。そうですねぇ、悪いと思うのなら、今日は、ここで私と一緒に過ごしてください。今日一日、あなたはベッドから出てはいけません。さあ、私に寄りかかって、これを飲んでください」
自分だけ裸でとても恥ずかしく、行儀が悪いが、ダンパーが、服を着ると家事をするために働くだろうと、着替えるのを許してくれなかった。シーツ一枚を巻き付けるように体を隠して、ダンパーに抱かれてサンドイッチを頬張る。彼の大きな手には小さなそれは、パネルが持つととても大きい。
「ダンパーさま。ん……。わたくし、こんなにも甘えてしまって……よろしいのでしょうか?」
「ええ、あなたはもっと甘えてくださいね。あなたが作るものよりも格段に落ちると思いますが、サンドイッチを持ってきました」
「ありがとうございます。とても、美味しいです」
それ以降、パネルは本当に一日中ベッドの上で過ごす。夜になり、やっとベッドから出させてもらったものの、彼に連れていかれたのは浴室だった。
果てのない彼の体力と、彼の欲と熱は、パネルを何度貪っても衰えることはなかった。だが、流石にぐったりした彼女にそれ以上は無理をさせるわけにもいかず、その日の夜は、ふたりで仲良く、精霊たちと一緒に楽しい夢を見た。
ふたりが夢だと思っていたのは、実は精霊界と人間界の狭間にある空間だ。
「パネルー、おめでとう!」
「パン、皆も。ここでは言葉が通じるのね。今まで本当にありがとう。これからも仲良くしてね」
「こちらこそ。パネルは世界一の花嫁じゃね?」
「ふふふ、私たちのパネルだもん。世界一の幸せ者になるのよ」
「ま、ダンパーは泣かせないと思いますが、パネルを幸せにしてくださいね」
「勿論。泣かせるとすれば、嬉しい時だけになりますね」
4大精霊の祝福を受けた人間は、幸せな人生を送ることができるという伝説がある。人間界にはない、美しい虹色の光を放つ布で作られたウェディングドレスを着た美しい花嫁と、彼女に魅了されたタキシードの似合わない大男は、彼らに祝福され小さな結婚式を挙げたのであった。
精霊たちと契約しているふたりが、あの小さな家にいつまでも暮らすのも限界がある。結局、この島でふたりと精霊たちは一生を過ごすことになった。
ダンパーは、パネルの家族を島に招待し、順序が前後したことで少々睨まれたものの彼女との結婚を許してもらえた。そして、アルミフィン伯爵家への処遇が生ぬるいと思うのならもう少し手を加えると伝えると、パネル同様、彼女の両親も兄夫妻も首を横に振った。
「娘が幸せであること。それだけが、我々の望みです。以前のように贅沢三昧できなくとも、あの男は以前よりも懸命に働き、一緒になった女性と子どもは幸せに過ごしていると聞いています。かの家が娘にした仕打ちを考えると、今でも胸がねじれそうになりますが。パネルがそれでいいのなら、我々も、それでいいと思っています」
「お父さま……ありがとうございます」
「パネル、とても心配したのよ? でも、良い人と巡り合えてよかったわ。幸せになるのよ?」
「はい、お母さま。いろいろありましたが、わたくし、あの家を出て、ダンパーさまと出会える家を購入してよかったです。一緒に幸せになりたいです」
「ダンパーどの。妹は、悲しい時には笑って、隠れて涙を流すような子です。どうか、パネルをよろしくお願いします」
「まあ、お兄さまったら。ふふふ、ありがとうございます」
「義父上、義母上、義兄上、義姉上。精霊に誓って、必ず幸せにしてみせます」
パネルの家族は、一度目の結婚が、不幸で始まり不幸に終わりパネルをとても不憫に思っていた。
彼女の家族は、風の精霊しか見えない。風の精霊王であるダイレクトとパンの姿とともにダンパーがそう宣言したことで、ようやく安心したようだ。数日、南国の小さな島で過ごしたあと、彼らは家に戻った。
パネルの実家は、ダンパーの支援もあり、傾きかかっていた事業が順調に回復した。それどころか、過去の勢い以上に盛り返し、数年後には王国で一二を争う富豪になる。
そして、小さな精霊たちは、今日も楽し気に宙を舞っている。その中心には、ふたりの愛の結晶が、無垢な笑顔でその様子を見てきゃっきゃと笑って手を伸ばしていたのであった。
R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき ──完
翌朝、目が覚めたパネルが、真っ先に見たのは、彼の素肌とたくましい胸板だった。夢のような幸せな時間が、本当だったと実感して、体ごと摺り寄せてしまったものだから、誘ったと勘違いされて朝から組み敷かれたのである。昨夜よりも手慣れた様子で愛され、昼過ぎまでベッドから出ることができなくなった。
一方のダンパーは、一睡もしていなかったうえに、朝の運動をしたにも関わらず精力的に動き、彼女のために不格好なサンドイッチを作った。
暇を持て余したチビッコ精霊たちが訪れ、パネルの手作り料理でないことにブーブー文句を言われたが、空気を呼んだ彼らの親に連れ戻されたのである。
その騒動を、幸せなまどろみの中で聞いていたパネルは、もうとっくに朝を過ぎていることに気づき、あわててベッドから起き上がった。
「はっ、今何時? わたくしったら。すぐに起きないと……!」
「パネル、目が覚めましたか? 無理をさせすぎましたからそのまま休んでいてください。まずは水を飲んで落ち着いて」
「ダンパーさま、あの、わたくし、いつまでも眠ってしまっていて。しかも、食事も作らず申し訳ございません」
「何を謝ることがあるのです?」
「だって、妻は誰よりも早く起きて食事をしないと……」
「はは、普段のときにお願いします。そうですねぇ、悪いと思うのなら、今日は、ここで私と一緒に過ごしてください。今日一日、あなたはベッドから出てはいけません。さあ、私に寄りかかって、これを飲んでください」
自分だけ裸でとても恥ずかしく、行儀が悪いが、ダンパーが、服を着ると家事をするために働くだろうと、着替えるのを許してくれなかった。シーツ一枚を巻き付けるように体を隠して、ダンパーに抱かれてサンドイッチを頬張る。彼の大きな手には小さなそれは、パネルが持つととても大きい。
「ダンパーさま。ん……。わたくし、こんなにも甘えてしまって……よろしいのでしょうか?」
「ええ、あなたはもっと甘えてくださいね。あなたが作るものよりも格段に落ちると思いますが、サンドイッチを持ってきました」
「ありがとうございます。とても、美味しいです」
それ以降、パネルは本当に一日中ベッドの上で過ごす。夜になり、やっとベッドから出させてもらったものの、彼に連れていかれたのは浴室だった。
果てのない彼の体力と、彼の欲と熱は、パネルを何度貪っても衰えることはなかった。だが、流石にぐったりした彼女にそれ以上は無理をさせるわけにもいかず、その日の夜は、ふたりで仲良く、精霊たちと一緒に楽しい夢を見た。
ふたりが夢だと思っていたのは、実は精霊界と人間界の狭間にある空間だ。
「パネルー、おめでとう!」
「パン、皆も。ここでは言葉が通じるのね。今まで本当にありがとう。これからも仲良くしてね」
「こちらこそ。パネルは世界一の花嫁じゃね?」
「ふふふ、私たちのパネルだもん。世界一の幸せ者になるのよ」
「ま、ダンパーは泣かせないと思いますが、パネルを幸せにしてくださいね」
「勿論。泣かせるとすれば、嬉しい時だけになりますね」
4大精霊の祝福を受けた人間は、幸せな人生を送ることができるという伝説がある。人間界にはない、美しい虹色の光を放つ布で作られたウェディングドレスを着た美しい花嫁と、彼女に魅了されたタキシードの似合わない大男は、彼らに祝福され小さな結婚式を挙げたのであった。
精霊たちと契約しているふたりが、あの小さな家にいつまでも暮らすのも限界がある。結局、この島でふたりと精霊たちは一生を過ごすことになった。
ダンパーは、パネルの家族を島に招待し、順序が前後したことで少々睨まれたものの彼女との結婚を許してもらえた。そして、アルミフィン伯爵家への処遇が生ぬるいと思うのならもう少し手を加えると伝えると、パネル同様、彼女の両親も兄夫妻も首を横に振った。
「娘が幸せであること。それだけが、我々の望みです。以前のように贅沢三昧できなくとも、あの男は以前よりも懸命に働き、一緒になった女性と子どもは幸せに過ごしていると聞いています。かの家が娘にした仕打ちを考えると、今でも胸がねじれそうになりますが。パネルがそれでいいのなら、我々も、それでいいと思っています」
「お父さま……ありがとうございます」
「パネル、とても心配したのよ? でも、良い人と巡り合えてよかったわ。幸せになるのよ?」
「はい、お母さま。いろいろありましたが、わたくし、あの家を出て、ダンパーさまと出会える家を購入してよかったです。一緒に幸せになりたいです」
「ダンパーどの。妹は、悲しい時には笑って、隠れて涙を流すような子です。どうか、パネルをよろしくお願いします」
「まあ、お兄さまったら。ふふふ、ありがとうございます」
「義父上、義母上、義兄上、義姉上。精霊に誓って、必ず幸せにしてみせます」
パネルの家族は、一度目の結婚が、不幸で始まり不幸に終わりパネルをとても不憫に思っていた。
彼女の家族は、風の精霊しか見えない。風の精霊王であるダイレクトとパンの姿とともにダンパーがそう宣言したことで、ようやく安心したようだ。数日、南国の小さな島で過ごしたあと、彼らは家に戻った。
パネルの実家は、ダンパーの支援もあり、傾きかかっていた事業が順調に回復した。それどころか、過去の勢い以上に盛り返し、数年後には王国で一二を争う富豪になる。
そして、小さな精霊たちは、今日も楽し気に宙を舞っている。その中心には、ふたりの愛の結晶が、無垢な笑顔でその様子を見てきゃっきゃと笑って手を伸ばしていたのであった。
R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき ──完
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