完結 R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき

にじくす まさしよ

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パン②

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 パンは、パネルが作ったクレープを持って再びあの部屋に訪れた。すると、ポンポンポンと、立て続けに彼と同じような小さな精霊たちが現れる。

「みんなー、僕のパネルが作った美味しいクレープがあるよー」

「やったぜ、ラッキー。お前の契約者の料理って美味いんだよなー。おー、いっぱいあるけど足りないんじゃね?」
「側にいるだけでも、とーっても気持ちいいのに、料理に込められた魔力も極上なんだもん」
「料理そのものもお上手ですよね。彼女の作るものはどれも美味しいです」

「へへへー。僕、パネルに召喚されてよかったー」

 風属性のパンの友達である、火、水、地の精霊王の子供たちが、はしゃいで巨大なクレープを抱えてかぶりつく。ダンパーの契約精霊たちの子供は、この家を人間界の遊び場のように使っている。特に、もともとダンパーの私室だったここは特にお気に入りで、ダンパーが眠っているといたずらをしたりやりたい放題していたのである。

「それにしても、お前の契約者すげーよな。普通の人間は、契約しているパンの風の精霊以外の気配なんて感じないのに。ひょっとしたら、俺たちとも契約できるんじゃね?」
「あ、わたしもそう思ったー。彼女が初めてここに来た時、ダンパーじゃないからって、火の精霊であるあなたが近づいたのを止めにいったわたしの、ふたりが合わさって出来た湿り気のある暖かさまで感じていたじゃない?」
「不用意に近づいたあなたたちの混ざった魔力を、幽霊の息かなにかのように勘違いして怖がっていましたけどね」

「僕が人間の言葉をしゃべれたら、君たちのことを紹介できるし、パネルも安心してくれると思うんだけど。あれから、ダンパーや父さまに、パネルにいたずらしたらダメだってかなり怒られたし、僕以外の精霊を彼女に近づけさせないように魔法でシールドを張ってしまったもんね。仲良くしたいだろうけど、パネルに近づけなくなったね」

 4人は、クレープをあっという間に食べきると、いつものように部屋の中で踊ったり追いかけっこをしたり楽しい時間を過ごした。

「それにしてもよー、パネルのあの元夫。むっかつくよなー。それに、空前絶後のアホじゃね?」
「ほんとほんと。あの男と契約している火の精霊もうんざりしているもんねー。パネルさん、かわいそー」
「ダンパーが、ダイレクトさまと一緒に、今日中に何か手を打ってくると思いますが。二度とここには近づかないでしょうけれど、一矢報いたいものです」

「そうなんだよ、あのカンソってやつもなんだけど、パネルが3年暮らしていたところって皆ひどいんだよ。優しいパネルをいじめて。僕に力があったら、あんな家ぶっつぶしてやるのに。でも、パネルはそんなこと望まないんだ。カンソの子供のことがなくても、あんだけいびられても、化粧お化けのおばちゃんに仕返ししようなんて思わない。だから、むかつくけどダンパーが何かしてくれるのならそれでいいかなって……。あー、モヤモヤするー」

 精霊キッズは、円陣を組みそんな風に言い合っていた。すると、いつの間にか夜になりダンパーが帰宅する。

「あ、ダンパーが帰ってきた。あれ? おやじがいる」
「私のお母様もいるー」
「父上まで……。なんで4大精霊王がそろっているのでしょうか?」

「離れた場所にいる僕たちまですごい力で吹き飛ばされそうだ。ダンパーも、いくら底なしの魔力だからって、一度にこれだけ召喚したままを維持なんて。すごい人間がいたもんだね」

 4人は、ダンパーと4大精霊王と一緒にいるのに、平気で微笑みながら立っているパネルの様子にも驚いた。いくら風の精霊王以外の姿が見えないからといって、精霊王が全員そろっているのに、膨大な魔力の圧を感じないわけはないだろう。

「んー? ダンパーが多少シールドを張っているけど。これは、パネルの本来の力が働いているからなんじゃね?」
「わぁ、パネルさんってばすごーい。50年に一度の大精霊使いの素質があるなんて、わたしたちの目に狂いはなかったねー」
「冗談で言っていましたが、これは、ひょっとしたらひょっとするかもですよ」

「パネルが皆と友達になってくれるなら、これからはずっと遊べるね」

 4人は、わくわくしながら、パネルとダンパー、そしてそれぞれの親たちを見物し始めたのである。


「ダンパーさま、お帰りなさい。ダイレクトさまも。ご無事でよかったです」
「パネルさん、ただいま帰りました。変わったことはありませんでしたか?」
「はい、わたくしもパンも無事です。あの、ダンパーさま、その、ほかの皆様は一体……?」
「何事もなく良かったです。ああ、紹介しますね。私の契約精霊たちです」
「え? 契約精霊、たち、ですか?」
「風のダイレクトはもう知っていますよね? それぞれの属性の精霊の王たちです」
「まあ……ダンパーさまはとてもお強い魔力をお持ちだと思っていましたが、まさか4大精霊の王と同時契約なさっているなんて。まるで、はるか昔にすべての魔法を軽々使えた、この国の初代の王のようですね」

 精霊の王たちに始めたあった驚きと、ダンパーへの尊敬の念が込められた瞳でダンパーを見つめるパネル。それぞれの精霊王と挨拶を済ませ、一体どうして勢ぞろいしていたのか、ダンパーが口を開いたのである。

「アルミフィン伯爵家に、少々力業ではありますが、もう二度とあなたに近づかないように措置を取るよう、現王族に圧力をかけてきました。現王の命令がある限り、あの家の者は、いかなる理由があっても、あなたに近づくことはおろか、情報を得ることすらできません。安心してくださいね」
「え? 現王にお会いになられたのですか? 今のダンパーさまが、一体どうやって陛下に謁見を……」

「4大精霊の王たちと一緒に、伝説の神の使徒のように、王の間に出現したのですよ。私の姿は、この国の初代の王にそっくりですし、彼も4大精霊と契約していましたから、初代の王が現世に顕現したと勝手に勘違いしてくれました。今の国で行われている様々な不正なども伝えてきたのです。実は、アルミフィン伯爵家は、脱税をしていました。身分が、伯爵家からかなり降格するでしょう。今後はパネルさんを追い掛け回す時間も権力も資産もありません。贅沢をしすぎなければ、彼らが馬鹿にしていた平民と同じ以上の生活はできますよ。あなたの元夫は、これで大手を振って愛人と結婚できるようになったのですから、結果オーライなのかもしれませんが」

 パネルはそれを聞いても平然としていて、そうですかと興味なさそうに応えた。パネルにとって、カンソはもうはるか遠い過去の人になったということだろう。

 パンたちは、思った以上にキツイお仕置きがカンソにされたことで、大喜びでハイタッチをして喜びのあまり激しく踊る。

「ところで、パネルさん。あなたにはとある隠し事をしていました。それに、ダイレクトたちから聞いたのですが、実は、あなたには……」

 ダンパーは、あの日彼女の身に何が起こったのか、4大精霊王の子供たちのいたずらをカミングアウトした。パンたちは、ひょっとしたらパネルを怖がらせたから嫌われるかもしれないと不安そうにその様子を見ていたのである。





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