完結 R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき

にじくす まさしよ

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カンソ①

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「なんだって? パネルが実家に帰っていない、だと? 一体どこにいるんだ」

 カンソは、数日前に離婚を突き付けた元妻が、伯爵家にいないことを知ると驚愕した。いくら平民同然の出身とはいえ、男爵令嬢が、実家に帰らないわけがないと、高をくくっていたのである。

 あの日、カンソはパネルに離婚を宣言してすぐに、愛するフィルタと、彼女が産んだ愛らしい我が子を迎えに行った。そして、不安そうなフィルタと、無垢な笑顔で自分に笑いかけるトラップを、意気揚々と伯爵家に連れてきたのだ。

 両親に、本当の妻と初孫を見せることができ、かれらも諸手を挙げて歓迎すると思っていた。

「父上、母上、いつまでも成長せずおふたりの不興を買っていたパネルとは離婚しました。すでに、この家にはおりません。私に離婚歴がつき申し訳なく思いますが、伯爵家の跡継ぎを設けなければなりません。そこで、兼ねてより私と交際していたフィルタと結婚しようと思います。順序が後先になってしまいましたが、私と彼女の子もこうしてすくすく育っておりますから、今後の伯爵家も安泰でしょう」

 カンソが、トラップを胸に抱くフィルタの肩を抱きながら、堂々とそう宣言した。もちろん、両親は涙を流して喜んでくれると信じながら。

 ところが、両親の表情や言葉は、彼の期待する予想とは真逆だった。

「カンソ、何を言っている。なぜ、その女がお前の子を産んでいるんだ。パネルさんに申し訳ないと思わないのか?」
「そうですよ、カンソ。アルミフィン伯爵家に迎え入れるにはいろいろ足らない男爵家の令嬢と、強引に結婚したと思えば……。なんて情けない。嫁いできたパネルさんにも、思うところがありましたが、彼女の家も100年以上続く家柄だから受け入れて教育してきたというのに」

 カンソは、父は家内のことには関心がない。母は、最初から気に入らなかったパネルに、使用人と一緒になって厳しい態度をとっていたのを知っている。そのほうが好都合なために、知っていてスルーしていたわけだが。

 だから、パネルと離婚したことを喜ぶと思っていたのに、叱責されるなんてと胸の中で反抗心めいた不満が急速に膨らむ。

「おふたりとも、落ち着いてください。母上だって、パネルを追い出したかったのでしょう? それに、フィルタは私の子を産んでいるんです。反対する理由などないではありませんか」
「落ち着くのはお前だ。反対する理由しかないだろう? お前がほれ込んだパネルさんを妻にしたいと言っていたのに家に寄りつかないと思ったら。まさか、その女性を外で囲っていたなど……。100歩譲って、その女性が貴族であれば、それも仕方のないことだとは思うが、いくらなんでも、平民であるその女性をお前の妻として、そして、その子を嫡子としてなど受け入れることはできない」
「ひと昔前ならともかく、今のご時世で愛人を囲っているなど、なんて恥知らずなことを。パネルさんの様子から、あなたがその女性とずっと一緒にいたと知っていたなんて思えないわ。あなたに家を追い出されて、今は心細いでしょうに……」

 嫁いびりをしていた母の口から、何回転もしたかのように手のひらを返してパネルを心配する言葉が出た。嫁であるパネルを憎んでいると思っていたカンソは、どの口がそんなことを言うのだと苦笑する。ふたりには苦言を呈されたとはいえ、かわいいトラップがいるかぎり、いずれカンソの言い分を受け入れるだろうと思った。

「とにかく。この子はれっきとした私の子です。つまり、おふたりの孫なんですよ? かわいいでしょう?」
「……確かにかわいいが。だが、これとそれとは別の話だ」
「開いた口がふさがらないとはこのことを言うのね……。とにかく、私たちの反対を押し切って強行したパネルさんとの結婚なのだから、離婚は認めませんからね? ところで、パネルさんは今どこにいるというの? この数日、屋敷で見ていないけれど。」
「そうはいっても、離婚は受理されましたから。彼女は文句ひとつ言わずにその日のうちに出ていきました。彼女には、実家以外に身を寄せる場所はなかったはずです。今頃実家にでも出戻っているんじゃないですかね?」
「この、恥知らずの愚か者が。せめて、パネルさんをご実家に送るなどの手配が必要だろう! アルミフィンの嫁でありお前の妻だったとはいえ、男爵家の大切なご令嬢なのだぞ!」
「カンソ、今すぐ彼女の実家に行って謝罪して、パネルさんを連れていらっしゃい。離婚してしまったとしても、彼女への責任があります。その責務を果たすことが先でしょう」

 自分が追い出したくせに、まったくの他人事のようなカンソの言動に、伯爵夫妻の堪忍袋の緒が切れたようだ。怒号を浴びせられたカンソは、あわててフィルタと、トラップとともに部屋から逃げるように出て行った。

「フィルタ、トラップと一緒にこの家の次期女主人の部屋にいてくれ。いきなりのことで、両親はああ言っていたが、かわいいお前とトラップと一緒に過ごせば、すぐに結婚の許可など下りるさ」
「……。カンソさま、本当に?」
「ああ、もちろんさ。それに、私たちの結婚について、パネルにも協力してもらおう。彼女が私たちを祝福すれば、両親だって君たちを認めざるを得ないさ」

 フィルタが、心細げにカンソを見上げる。そんな彼女への果てない愛しさがこみあげてきて抱きしめた。

 カンソは、強引に愛する妻と子を、パネルが暮らしていた部屋に住まわせることにした。使用人たちは複雑そうな顔をしていたが、カンソに逆らうことはなかった。内心はどうかはわからないが。

 気が進まないが、パネルをこの家に呼び戻すために、ウィンドアイロン男爵家に使いを送った。

 そして、彼女が男爵家に帰らず、彼女の安否がわからない状況だと知った両親の厳しい視線にさらされたのである。
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