完結 R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき

にじくす まさしよ

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 ダンパーが喚び出した精霊は、風の大精霊であった。パンがその精霊に抱き着くと、彼は優しく微笑んでパンを撫でる。

「パン、昨日から帰ってこないから、皆心配していた。おそらくは、お前の大好きな人間のところだろうとは思っていたが、せめて帰らないと伝えなくてはね」

 慈愛に満ちた瞳の精霊は、パンが頭をせわしなく下げるのも愛おし気に撫で続けた。パンが落ち着くと、精霊はパネルに向かって声をかける。

「初めまして、だね。パネルと言ったかな。私の名はダイレクトだ。うちの子がいつも世話になっているようだ。産まれてすぐに、あなたと契約してしまったから、ほとんど力になれないのに、あなたはこの子をとても大切にしてくれていると聞いている。大体の人間は、力を持たない精霊とは契約しないか、中にはいじめたりする者もいるというのに。おかげで、人間の世界で、のびのびと少しずつ成長していっているようだ。感謝する」
「いえ! とんでもないことでございます。わたくしのほうこそ、パンに大きな魔力を与えることができない非力な人間なのです。でも、パンは、そんなわたくしと一緒にいてくれて。パンにはずいぶん助けられておりますし、感謝するのはわたくしのほうです。パンは、赤ちゃんのような精霊だったのですね。知らぬこととはいえ、パンとダイレクト様を引き離すような召喚をしてしまい、申し訳ございませんでした」

 パネルは、気持ちを込めて謝罪すると、ダイレクトの側からパンが彼女の側に移動した。そして、頭を下げる彼女の顔をのぞきこみ、小さく首を横に振る。

「パン、赤ちゃんのようなあなたに、たくさんおつかいを任せてしまってごめんなさい。無理をしたのではないかしら?」
「ははは、人間の赤子ほどか弱くはないから安心していい。パンから聞いているが、あなたがパンにお願いする程度の仕事では物足りないくらいだ。もっとパンの力を発揮させてやってくれるほうが、成長に繋がるからな。それにしても、パンがあなたを気に入るはずだ。あなたの側はとても心地が良い。魔力が少なく頼りない契約者ではありそうだが、あなたと一緒なら、パンの力は飛躍的に伸びそうだ。あなたさえよければ、パンとの契約をずっと続けてほしい」
「そうおっしゃっていただけると。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 ダンパーは、そんな彼らの様子を見守っていた。そろそろいいかと口を開き、これまでの状況をダイレクトに説明した。ダイレクトは、ダンパーとパネル、ふたりのこれまでの説明や、パンの訴えを静かに聞いた後、大きく頷いた。

「ふむ。まず、ダンパーが過去からの旅人かということなのだが。精霊界と人間界では時の流れが違う。あいにく、ダンパーが100年以上もの長い時間の旅をしたのは、私ではわからない。だが、この男が嘘偽りを毛嫌いしていて、あなたには嘘はついていないと言うことだけは保証しよう」
「そうですか。パンも、ダンパーさまに対して、すぐに警戒心を解きましたし、こうして大精霊のおひとりであるダイレクトさまの言を信じようと思います」
「パネルさん、信じてくれてありがとう」
「いえ、ダンパーさまは、わたくしを最初から信じてくださっていますよね? とてもうれしく思いますが、なぜですか?」
「パンという小さい精霊が、そんなになついているんだ。精霊がなつく人間に、基本的に悪いやつはいないからね」
「そうなのですか?」
「そうだぞ。我々、特に風の眷属は、束縛を嫌うため気に入らなければ召喚されても契約すらしない。だから、風の精霊と契約している人間は信用していい。火の精霊は、攻撃的な人間と一緒に過ごすことを好むから、攻撃魔法を得意とする人間は、信用できない者もいるから警戒したほうがいいな」
「攻撃魔法が得意な人間、ですか……」

 パネルは、カンソもそういえば攻撃魔法が得意だったと思い出す。彼が精霊と契約したのは知っているが、属性が違うし、彼から聞いたことがないため、どの精霊と契約したのか知らなかった。ひょっとしたら、カンソは火の精霊と契約しているのかもしれない。

「ところで、ダイレクト。私と彼女の住む場所なのだが。私の資産を彼女に渡そうとしても、私が持っている通貨は、この時代の通貨と違うようだ。先ほど、街で買い物をしようとしたら、通貨偽造を疑われてね。現代の通貨に換金するにも日数がかかる。かといって、彼女もこの家を買うために大金を使っているから、無駄にお金は使えない。どこか、彼女が安心して住める場所を知らないか?」

 パネルが、そんな風に考えていると、ダンパーがそう言いだした。この家の正当な持ち主はダンパーであり、鍵ははるか昔、彼がスリに盗まれたものを、どういうわけか不動産屋が取り扱っていただけだから、パネルの契約は無効だろう。

 わずか二日の間に住む場所をなくしたパネルは、途方もなく心細くなり、すがるようにダンパーを見つめた。
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