完結 R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき

にじくす まさしよ

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 昨日の店主といい、先ほどの男といい、立て続けに危険な目にあったパネルは、流石に目の前にいる男にも警戒していた。まだ胸がドキドキするし、逃げようとしても逃げられなかったさっきの男を一瞬で吹き飛ばした新たな男には到底かなわないと、どうしていいのかわからなくなって泣きたくなる。

「パン? どうしたの?」

 そんな不安でいっぱいのパネルの前に、パンが表れて身振り手振りで彼は大丈夫だと伝えてくる。精霊であるパンが、こんな風に人間に対して好意的な様子を見せるのは、実家の家族以外で初めてのことだ。夫だったカンソたちや、伯爵家の使用人に対しては、敵意むき出しだったのに。

「風の精霊か。小さいし会話ができないほど力は弱そうですが、あなたと信頼関係を築いているようですね」
「え? パンが見えるのですか? では、あなたもパンと同族の風の精霊を?」
「そんなところです」
「まぁ、パンが見える人がいるなんて。実家の者や学園の先生、知人以外で初めてのことです」

 風の精霊は、とても気難しい。自由気ままで、契約者である人間の依頼でも気が向かなければ協力しない存在もある。パンのように、パネルのお願いを全力で叶えようとしてくれるのはとても稀なのだ。

「風の精霊が、こんな風に人間に対して親身になっている姿は初めて見ますね」
「ええ、わたくしのお友達なのです。とてもすごい子なんですよ」

 パネルが、パンを手放しにほめたたえると、彼は得意げに胸を張った。そんな様子を見て、男は微笑ましく感じて笑う。

「はは、そのようですね。まだ子供で力も少なそうですが、そのうちどの精霊よりも強力で頼もしい存在になるでしょう」
「わたくしもそう思います。ふふふ、パンは本当に頼もしくて優しくて。心強い味方なんです」

 緊迫した空気が、パンのおかげで柔らかくなった。すると、すぐ近くで寝ているさきほどの男が、唸り声を上げ始めたのである。

「おっと、もう起き上がりそうですね。あなたを安全な場所に連れていきたいのですが、私のことを信じてついてきてくれますか? 私の契約精霊たちと、そのパンという精霊にも誓います」

 精霊と契約しているものは、その精霊との誓いを破れば契約が破棄され、以降精霊魔法を使えなくなる。それほど重要な誓いを簡単にする男に、パネルは、今度こそ安心できる人間に会えたと確信した。

「精霊への誓いを、精霊使いが破るはずがありません。あなたのことを信じます」
「ありがとう。では、転移しますので、少々失礼します」

 男は、倒れている男にもう一度風をぶつけて昏倒させた後、パネルを軽々横抱きにしたあと転移の呪文を唱えた。

「ここは……」
「私の隠れ家です。ずいぶん長い間放置していたのですが……。誰かが侵入した形跡があるようです」
「え?」
「まいったな。ここに来れば安全だと思ったのですが。こちらのほうが危険かもしれません。侵入者は、今は家に潜んでいなさそうですが、危険を排除する魔法を使いますので少々離れていてください」

 男は、そっとパネルを地に立たせると、家のほうに向いた。そして、真剣な表情でにらみつけて何かを唱える。

「あの、何を?」
「侵入者の痕跡を追跡する呪文です。どれほどここから離れていても、もう間もなく私の家に今朝までいただろう人物がわかります。正体がわかりしだい、私の家に不法侵入した犯罪者を……おや?」

 男が呪文を唱え終えると、家が紫を帯びた光に包まれた。そして、光の一部が細い糸のように伸び、それはパネルに引っ付いたのである。

「あの、あなたは一体?」
「あなたが侵入者? 一体何者ですか?」

 ふたりは同時に言葉を発する。何がなんだかわからないとふたりで見つめ合った。続く言葉を出そうと、口を開けば同時になっては口をつぐむ。そんなやり取りを数回繰り返した後、パネルのほうから話をすることになった。

「この家は、昨日、あなたと出会った場所にあった不動産屋で購入した物件なのですが……。昨日から、わたくしがここに住んでおります」
「は? あの、この家は、私の物です。どの不動産屋にも売却した覚えはありませんが」
「え? だって、確かに、売買契約書にサインもしましたし、お金も払いました。権利書もいただいて、今はそれは家の中のわたくしのカバンに入れてあります」
「そんなばかな……。とりあえず、その契約書などを拝見させていただいても?」
「ええ、もちろんです」

 パネルが、家の鍵を開けようとしても、彼の開錠の魔法のほうが早かった。彼が開いたドアから足を踏み入れた瞬間、さぁっと家の中の空気が変わったのを感じる。

「ふむ……。どうやら、私が不在の間、この家には10人以上の人間が入り込んだようですね。手に持っているのは、その不動産屋にもらったこの家の鍵でしょうか?」
「あ、はい。昨日もこの鍵で扉を開けました」

 パネルは、右手の指でつかんでいる、金色の鍵を彼に見せた。その鍵をまじまじ見つめた彼は、はぁーっと長い溜息を吐いたのである。

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