完結 R18 決算大セールで購入した古民家は、イケメンのオプションつき

にじくす まさしよ

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 店主が、超高額が書かれてあった箇所を、赤ペンで数字を修正した。

「え? あの、この数字は……大丈夫なのでしょうか?」

 新たに書かれた値段は、最初の値段から下3桁の0を消したものだった。さきほど、社員に給料を支払わねばならないと言っていたではないか。値引きはうれしいが、いくらなんでもこれは値段を下げすぎではないだろうかとパネルはいぶかしむ。

「ああ、お嬢さんのお気持ちはわかります。ですが、この物件でしたら、私の一存でこのくらいまで値引きできるのですよ。理由はいくつかあります。物件が、都心から離れている事。築年数が100年以上経過している事。都心への移動方法は、近くの村に都心へのワープポイントがございますから、それほど不便ではありません。築年数も、この家の初代の持ち主が名の知れた魔法使いだったようで、半永久的に建物を保存する魔法がかけられており、頑丈で快適な建築仕様が保たれております。実は、とある理由があり、この店で紹介するようになってから、何度か売れても返品されてしまっていて」
「とある理由、ですか?」

 改定後の価格を見れば、パネルが購入できる金額ぎりぎりだ。離婚された身としては、貴族が多い都心よりも、少し離れた場所のほうがありがたい。保存魔法は半永久的とはいえ、この魔法は、破壊されたりなど、イレギュラーな事がないかぎり継続される高価な魔法だ。家が倒壊することはまず考えられなかった。

 長い時間紹介された悪条件の賃貸物件よりも、こじんまりとしているが、きれいで手入れが行き届いている一軒家のほうが魅力的だ。どのみち、もうこれを逃したら、これ以上の物件はパネルには購入できないだろうと思った。

「実は、言いにくい話なのですが、購入者がことごとく幽霊が出ると言っていたそうなんです」
「まあ……。幽霊、ですか?」
「その家の初代の持ち主が、ある日突然、姿を消したのです。その者の幽霊ではないかと、その家を買った屈強な男たちが青ざめて震えておりましてねぇ……。そこで、代々の店主は、もちろん私もその物件に寝泊まりして確かめたりもしました。ですが、我々が調査しても何も出ないのですよ。購入者がリターンする理由は様々に考えられるのですが、今では、幽霊が出るという噂が独り歩きをして、もう何年も売れていないというわけです」
「あの……幽霊が出るのは、ちょっと……」

 パネルは、幽霊を見たことがない。だが、なんとなく恐ろしく感じて、購入意欲が激減した。だが、店主によると、本当に何も出ない、物音ひとつすら起こらないらしい。

「幽霊の噂のお話は、隠してお嬢さんに売却することも出来ました。ですが、それは噂にすぎないと自信を持って言えるから、後から知って購入したことを後悔されるよりも、今、私の口から誠意を持ってお伝えしたのです」
「そうですか……」

 彼が泊っても、幽霊などがいなかったという言葉で、若干の恐ろしさはあるものの、大丈夫だろうという安心感も得られた。
 店主はというと、幽霊など信じていないし、まったく怖くない。今までの契約した人たちが、何かを見間違えたか寝ぼけただけだろうと思っていた。少々不安げだが、パネルが自分の言葉で契約しそうな雰囲気なったのを感じて、笑みを浮かべながら、もう一押しとばかりに、物件の購入に際する契約書を彼女に差し出した。

「この家は、すぐに住めるように、高級な家具がディスプレイされております。今決めていただければ、その家具をすべてお付けいたしましょう。こちらにも保存魔法がかけられており、今日から住むのに、何ら支障はありません。万が一、何かトラブルがあった場合、すぐにお知らせください。購入した金額の8割を即日お返ししますし、あなたに合う物件を、責任もって提供できるよう尽力します」
「そこまで言っていただけるなら。急に来た上に、ご親切にいろいろご配慮いただきありがとうございます」
 
 普段の彼女なら、出会ってすぐの人物を信頼したりしないし、このような安直な契約などしない。ホテルにでも泊まりながら、数日かけて店舗を複数周り、物件もまだまだ吟味したはずだ。いきなり夫に裏切られていたことを知り、離婚されて追い出されたまま、実家にも戻れず、もうすぐ夜になるという時間。彼女は、明らかに冷静な判断ができる状態ではなかった。
 結局、偶然立ち寄った不動産屋の、たった3つの紹介された物件に、パネルはそう言いながら、契約書にサインして提示された金額を支払ってしまったのである。

 店主は、数十年売れなかったいわくつき物件に、サインさえもらえれば上々。早速彼女をつれて現地に向かった。

 近くのワープポイントのある村は、すでに夕飯時でおいしそうな香りが漂っている。小さな村の人々は、すでに外にはいない。店にいるときは気づかなかったが、すっかり暗くなっていた。
 パネルは、店主という頼もしい人物とともに、少し離れた林の中の一軒家に向かう。平坦な道をゆっくり歩くこと15分。たどり着いたそこには、86坪程度の、平屋の一軒家がぽつんと建っていた。

 外観はやや古めかしいが、壁や屋根の破損やひびもない。店主がドアを開けると、魔法でパッと灯りがつき、数十年経過しているとは思えないほどの内装だった。

「まあ、ここが?」
「どうです、お気に召されましたか? 幽霊など出そうにない、とてもきれいな家でしょう? 造りは古いですが、清潔に保たれていますし、ベッドのシーツも洗って干さなくても使用可能ですから、そのままおやすみいただけます」
「ええ、思った以上に、落ち着いた雰囲気の家で、とても気に入りました。あの、本当にあの価格でよろしかったのでしょうか?」
「ええ。ここで、お嬢さんに安心安全に暮らしていただけるなら、あれでも十分すぎるほどです。それでは私はこれで。何かありましたら、すぐにご連絡ください」
「ここまでお付き合いいただき、本当に、ありがとうございました」

 店主が家から出ていきひとりきりになると、疲労感がどっと押し寄せた。キッチンに備え付けられていた椅子に腰を下ろして、ふぅっと長い溜息を吐いたのであった。


 
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