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23 KO寸前⁈ 年下男子の攻撃
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今日は、久しぶりに先輩に呼ばれて城に来ている。なんでも、聖女様を紹介してくれるそうだ。
ゼファーがいないため、彼の部下がサイドカーであっという間に連れて来てくれた。城に着くや否や、昨日会ったばかりのゼクスが迎えに来た。新たな神託が下されたらしく、それを伝えてくれるみたい。
「カレン……! 今日も素敵だね」
弾けるように、彼が私の事を抱きしめて唇を頬に当てる。今はまだ未婚だから黒いベールを被っているけれど、ベール越しにチュっとされたのだ。
ある意味ベールがぎりぎりガードしているのかもしれない。どうやってるのか、ベール越しなのに、ちゅっていいうリップ音が小さく鳴る。嬉しそうに、年相応に浮かれているゼクスが珍しいのか、家臣の人たちにじろじろ見られた。
「カレンからも、して欲しいな……ダメ?」
年下なのに、私よりも30センチくらいは高い彼は体つきもがっしりしているから、顔に幼さを感じなければどう見ても成人している青年だ。
普段は、冷静で何事にも控えめで一歩引き表情を崩さないようにしている彼が、こんな風におねだりをするなんて私に対してもあまりない。
いつだって、シビルの事を気にかけているし、何よりも私のちょっとした表情や仕草を、どんな些細な事でも見逃さないように注視していてそつなく行動するのに。
王子である彼の、そんな婚約者に対する当たり前の可愛らしい願いを断ったら、これまでお嫁さんの来てがなかった彼の春があっというまに極寒の日本海の荒波に揉まれてしまうかのように傷つくかもしれない。
そんな風に心配してハラハラしている視線を投げかけられているみたいでチクチクとプレッシャーを感じる。
常に他人第一を心掛けている彼は、混血児という事実を差し引いても、ある意味臆病だと言われる事もある。だけど、そんなキツイ言葉をなげて来る人たちだって、ゼクスが来た時は皺を寄せていた眉間が柔らかくなりほっとしているし、温和な彼を好きなんだろうなっていうのが分かる。
頬を人差し指でポンポン軽く叩き、からかうかのようににこにこしながらキスを催促するゼクスに、私が恥ずかしがってなかなかキスを返さないので、なんだか余計に固唾を飲んで見守られているみたい。
聞こえない、聞こえないよ? でもね、「王子、頑張れ! あと一押しです!」「乙女も恥ずかしがらずにぶちゅっとしてあげて!」とかそういう気持ちというか、応援みたいな雰囲気がビシバシ刺さって来るのだ。
ベール越しだし、婚約者だし、王子様に恥をかかしたらダメだし! 唇じゃなくてほっぺだし!
そんな風に自分の気持ちを奮い立たせて、ゼクスが中腰で差し出して来る頬にキスを贈り返す。
すると、とたんに緊迫した空気から、ほわ~んとした薄い桃色みたいな空気に変わる。
小さな拍手まで聞こえてきた。
もう恥ずかしすぎるし、居たたまれないからここから走り去りたくなる。
「まさか、カレンからキスをくれるなんて……僕……」
ゼクスはゼクスで、私がほっぺにチューをした事でびっくりしつつ、そこに手を当てて幸せそうに顔を赤らめている。
私なんかよりもよっぽど可憐で庇護欲を誘う乙女のようだ。
私は、そんな彼の手をぐいぐいひいて、先輩の待つ部屋に向かう。
微笑ましい物を見るかのようにニコニコしてくれている家臣の人々の間をすり抜ける度に居たたまれなくなって、穴があったら入りたいとはこの事だと思った。
ゼクスはまだ未成年だし、私は子供みたいだから、これは子供同士の可愛らしい戯れ的なアレだと思われているんだわ! 「カレンちゃん、僕、おっきくなったらカレンちゃんをお嫁さんにするね」「うん、ゼクスくん。およめさんにしてね? だーいすき!」みたいなアレ。うん、きっとそうに違いない。
違うのは分かっていても、そうとでも思わなかったら、こんな空気の中なんて進めない。
ゼクスの魂が、桃源郷からこっちに完全に戻って来ていないうちに先輩の部屋にたどり着く。
「ゼクス、ゼークースッ! 着いたわよ!」
「……! はっ! 僕は今何を……カレンが僕にキスしてくれて……絶対にしてくれないって思っていたのに。だけど……頬に柔らかい唇が……」
「ぎゃー! い、言わないでぇ……! して欲しいなら、人前じゃなかったらいつでもする! するから、今はいつものゼクスに戻ってぇ!」
ふふふと微笑んで口元がにやけるゼクスは幸せな夢見る少年のようだ。いや、本当に少年なんだけど。
なんだか年下の初心な男の子のように可愛く思えてしまうけど、やっぱり恥ずかしすぎる。
もう二度と、人前でキスなんてしないんだから。
私の大声を聞いて、先輩の部屋のドアが開かれた。中にいる先輩に満面の笑顔で招かれる。
ゼクスは、先輩ともうひとり、麗しくてカッコいい女性を見ると、背筋を伸ばしていつも通りの彼の姿に戻った。
ゼクスに手を取られて部屋に入ると、先輩がふたりがけのソファに私たちを誘う。挨拶の後、私とゼクスは並んでソファに腰かけた。正面に先輩、上座に聖女という位置でテーブルを囲む。
テーブルの上には、人数分の紅茶と、パルメリータという源氏パイみたいなハート型のパイや、アルファホーレスというコーンスターチで作ったクッキーの間にキャラメルをはさんだものが並べられている。
やや苦めの紅茶を飲みながら、甘い甘いお菓子を頬張る。パリパリするパイ生地も、アルファホーレスの独特の噛み応えや触感も好きだ。お城の王族御用達のコックさんが作る絶品を数個頂いて、場が穏やかな雰囲気になった頃、聖女が話を始めた。
「カレン様……。この度は、私の神託が不十分だったために大変申し訳なく……あの日から、異界から来た乙女がふたりいたと聞き、どういう事か神に毎日のように祈り続けていました。すると、3日前に、再び神託が私に下されたのです……」
「え? どういう事なんですか?」
聖女は、故郷で漫画やアニメがあり女の子しかいない劇団で何度も公演されている、フランス革命をテーマに描かれた、女王マリーアントワネットを守る、豪奢な金髪の男装の麗人のような姿だ。彼女を守る影のような存在の黒髪の青年みたいに、聖女の背後にはやはりというか、粗削りながらも逞しくて男らしい青年が控えている。
心の中で、私は興奮していた。大好きな彼らがここにいたなんて、時と場合がこんなんじゃなかったら「オシ・ユカールさま! アンド・リューレさま!」なんて、きゃあきゃあ言ってはしゃいだだろう。
白い光沢のある長いストレートの髪を、高い位置でポニーテールにしている。
前髪はセンターでわかれていて、深紅の薔薇の花のような赤い瞳。その瞳は、これぞ聖女っていう感じでとっても優しそう。
彼女がふっと微笑んだら、きっと周囲の女の子たちは全員ドキドキして、感激のあまり倒れてしまう子もいるんじゃないかな。
私がぽーっと見とれていると、いきなりガシッと手を握られた。
我に返って、握って来たゼクスを見ると、眉をハノ字にして不安そうに私の顔を覗き込んでいる。
「ゼクス……?」
「カレン、聖女様はそれはそれはお優しく、国内のみならず国外にも人気の方だ。だけど、パーシィ様は女性で。だから、カレンがいくらパーシィ様を、す、す……好きになっても……」
夫になんて出来ないんだからね……
声がほとんど聞こえないくらいの小さな呟きを聞いて、私はパチパチと目をしばたたかせた。
どうやら、ゼクスは私が彼女を好きになったと勘違いしているらしい。これは、このままゼクスの勘違いのまま放っておくと、年齢詐称の時のように大騒動とまではいかなくても拗れるかもしれない。
「やだもう、聖女様なんだから当然女性でしょう? ふふふ、私には、ゼクスもシビルもいるし。あとひとりは決めなきゃいけないけど、他の人なんてもう受け入れられる隙間なんてないよ?」
「ほんと……?」
上目づかいで、おずおず聞いてくる大きなゼクスが、中学生どころか小学校低学年みたい。
なんだか可愛く感じてしまって、ゼクスのほうに体を向けてにっこり笑った。すると、ゼクスも安心したのかほっとしたような表情で微笑み返してくれて、暫くの間見つめ合った。
「コホン……仲が良いのはわかったから。イチャイチャするのはここではやめてね?」
先輩の言葉で、私たちは我に返り、ぱっと握り合った手を離す。ゼクスはとても残念そうに、離れた私の手をジーっと見てた。
「義姉上、さっきアドバイス通りにしたらカレンがキスをしてくれたんです!」
なんですとー?
ゼクスは、私のさっきのキスといい、今の言葉といい、完全に浮かれ切っているのか、聞き捨てならない事を言った。
「ふふふ。良かったわね? ほらね、言った通りでしょう? 年下には年下なりの魅力や攻略法があるんだから。いつもカレンちゃんの気持ちを慮って、大人の男性のように行動するのも素敵なんだけど、時には年下の特権なんだから、ぐいぐいいかなきゃね」
「聞いた時には信じられませんでしたが……義姉上、ありがとうございました」
いやいや、ちょっと待って。頭が混乱している。先輩が何かを助言したから、さっきのチュー騒動になったって事……?
私は先輩をじとーって少し恨みがましさを込めて見ると、先輩がこちらに気付き、テヘペロってしてきたのである。
そりゃ、婚約者になったし夫になる以上、恋人のように仲良くなれたらいいなとは思ったけれど、人前でのちゅーには物申したい。そんな私の気持ちが届いたのか、今度は小さくゴメンネと、全く反省してなさそうな表情で、両手を合わせながら何度も頭を下げられた。
滅茶苦茶モヤモヤする。だけど時と場を思い出した私は、後でみっちり先輩と話をさせてもらおうと思った。
「ははは、心配していたが、カレン嬢とゼクス王子は聞いていた以上に仲が良いみたいだな」
その時、パーシィが笑いながら太ももを叩いて、さも面白い物を見たと言わんばかりに笑ったのである。
さっきまでの、聖女様らしい言葉遣いはどこへやら。なんだか、豪胆な硬派な男性のように話しを始めたのであった。
ゼファーがいないため、彼の部下がサイドカーであっという間に連れて来てくれた。城に着くや否や、昨日会ったばかりのゼクスが迎えに来た。新たな神託が下されたらしく、それを伝えてくれるみたい。
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弾けるように、彼が私の事を抱きしめて唇を頬に当てる。今はまだ未婚だから黒いベールを被っているけれど、ベール越しにチュっとされたのだ。
ある意味ベールがぎりぎりガードしているのかもしれない。どうやってるのか、ベール越しなのに、ちゅっていいうリップ音が小さく鳴る。嬉しそうに、年相応に浮かれているゼクスが珍しいのか、家臣の人たちにじろじろ見られた。
「カレンからも、して欲しいな……ダメ?」
年下なのに、私よりも30センチくらいは高い彼は体つきもがっしりしているから、顔に幼さを感じなければどう見ても成人している青年だ。
普段は、冷静で何事にも控えめで一歩引き表情を崩さないようにしている彼が、こんな風におねだりをするなんて私に対してもあまりない。
いつだって、シビルの事を気にかけているし、何よりも私のちょっとした表情や仕草を、どんな些細な事でも見逃さないように注視していてそつなく行動するのに。
王子である彼の、そんな婚約者に対する当たり前の可愛らしい願いを断ったら、これまでお嫁さんの来てがなかった彼の春があっというまに極寒の日本海の荒波に揉まれてしまうかのように傷つくかもしれない。
そんな風に心配してハラハラしている視線を投げかけられているみたいでチクチクとプレッシャーを感じる。
常に他人第一を心掛けている彼は、混血児という事実を差し引いても、ある意味臆病だと言われる事もある。だけど、そんなキツイ言葉をなげて来る人たちだって、ゼクスが来た時は皺を寄せていた眉間が柔らかくなりほっとしているし、温和な彼を好きなんだろうなっていうのが分かる。
頬を人差し指でポンポン軽く叩き、からかうかのようににこにこしながらキスを催促するゼクスに、私が恥ずかしがってなかなかキスを返さないので、なんだか余計に固唾を飲んで見守られているみたい。
聞こえない、聞こえないよ? でもね、「王子、頑張れ! あと一押しです!」「乙女も恥ずかしがらずにぶちゅっとしてあげて!」とかそういう気持ちというか、応援みたいな雰囲気がビシバシ刺さって来るのだ。
ベール越しだし、婚約者だし、王子様に恥をかかしたらダメだし! 唇じゃなくてほっぺだし!
そんな風に自分の気持ちを奮い立たせて、ゼクスが中腰で差し出して来る頬にキスを贈り返す。
すると、とたんに緊迫した空気から、ほわ~んとした薄い桃色みたいな空気に変わる。
小さな拍手まで聞こえてきた。
もう恥ずかしすぎるし、居たたまれないからここから走り去りたくなる。
「まさか、カレンからキスをくれるなんて……僕……」
ゼクスはゼクスで、私がほっぺにチューをした事でびっくりしつつ、そこに手を当てて幸せそうに顔を赤らめている。
私なんかよりもよっぽど可憐で庇護欲を誘う乙女のようだ。
私は、そんな彼の手をぐいぐいひいて、先輩の待つ部屋に向かう。
微笑ましい物を見るかのようにニコニコしてくれている家臣の人々の間をすり抜ける度に居たたまれなくなって、穴があったら入りたいとはこの事だと思った。
ゼクスはまだ未成年だし、私は子供みたいだから、これは子供同士の可愛らしい戯れ的なアレだと思われているんだわ! 「カレンちゃん、僕、おっきくなったらカレンちゃんをお嫁さんにするね」「うん、ゼクスくん。およめさんにしてね? だーいすき!」みたいなアレ。うん、きっとそうに違いない。
違うのは分かっていても、そうとでも思わなかったら、こんな空気の中なんて進めない。
ゼクスの魂が、桃源郷からこっちに完全に戻って来ていないうちに先輩の部屋にたどり着く。
「ゼクス、ゼークースッ! 着いたわよ!」
「……! はっ! 僕は今何を……カレンが僕にキスしてくれて……絶対にしてくれないって思っていたのに。だけど……頬に柔らかい唇が……」
「ぎゃー! い、言わないでぇ……! して欲しいなら、人前じゃなかったらいつでもする! するから、今はいつものゼクスに戻ってぇ!」
ふふふと微笑んで口元がにやけるゼクスは幸せな夢見る少年のようだ。いや、本当に少年なんだけど。
なんだか年下の初心な男の子のように可愛く思えてしまうけど、やっぱり恥ずかしすぎる。
もう二度と、人前でキスなんてしないんだから。
私の大声を聞いて、先輩の部屋のドアが開かれた。中にいる先輩に満面の笑顔で招かれる。
ゼクスは、先輩ともうひとり、麗しくてカッコいい女性を見ると、背筋を伸ばしていつも通りの彼の姿に戻った。
ゼクスに手を取られて部屋に入ると、先輩がふたりがけのソファに私たちを誘う。挨拶の後、私とゼクスは並んでソファに腰かけた。正面に先輩、上座に聖女という位置でテーブルを囲む。
テーブルの上には、人数分の紅茶と、パルメリータという源氏パイみたいなハート型のパイや、アルファホーレスというコーンスターチで作ったクッキーの間にキャラメルをはさんだものが並べられている。
やや苦めの紅茶を飲みながら、甘い甘いお菓子を頬張る。パリパリするパイ生地も、アルファホーレスの独特の噛み応えや触感も好きだ。お城の王族御用達のコックさんが作る絶品を数個頂いて、場が穏やかな雰囲気になった頃、聖女が話を始めた。
「カレン様……。この度は、私の神託が不十分だったために大変申し訳なく……あの日から、異界から来た乙女がふたりいたと聞き、どういう事か神に毎日のように祈り続けていました。すると、3日前に、再び神託が私に下されたのです……」
「え? どういう事なんですか?」
聖女は、故郷で漫画やアニメがあり女の子しかいない劇団で何度も公演されている、フランス革命をテーマに描かれた、女王マリーアントワネットを守る、豪奢な金髪の男装の麗人のような姿だ。彼女を守る影のような存在の黒髪の青年みたいに、聖女の背後にはやはりというか、粗削りながらも逞しくて男らしい青年が控えている。
心の中で、私は興奮していた。大好きな彼らがここにいたなんて、時と場合がこんなんじゃなかったら「オシ・ユカールさま! アンド・リューレさま!」なんて、きゃあきゃあ言ってはしゃいだだろう。
白い光沢のある長いストレートの髪を、高い位置でポニーテールにしている。
前髪はセンターでわかれていて、深紅の薔薇の花のような赤い瞳。その瞳は、これぞ聖女っていう感じでとっても優しそう。
彼女がふっと微笑んだら、きっと周囲の女の子たちは全員ドキドキして、感激のあまり倒れてしまう子もいるんじゃないかな。
私がぽーっと見とれていると、いきなりガシッと手を握られた。
我に返って、握って来たゼクスを見ると、眉をハノ字にして不安そうに私の顔を覗き込んでいる。
「ゼクス……?」
「カレン、聖女様はそれはそれはお優しく、国内のみならず国外にも人気の方だ。だけど、パーシィ様は女性で。だから、カレンがいくらパーシィ様を、す、す……好きになっても……」
夫になんて出来ないんだからね……
声がほとんど聞こえないくらいの小さな呟きを聞いて、私はパチパチと目をしばたたかせた。
どうやら、ゼクスは私が彼女を好きになったと勘違いしているらしい。これは、このままゼクスの勘違いのまま放っておくと、年齢詐称の時のように大騒動とまではいかなくても拗れるかもしれない。
「やだもう、聖女様なんだから当然女性でしょう? ふふふ、私には、ゼクスもシビルもいるし。あとひとりは決めなきゃいけないけど、他の人なんてもう受け入れられる隙間なんてないよ?」
「ほんと……?」
上目づかいで、おずおず聞いてくる大きなゼクスが、中学生どころか小学校低学年みたい。
なんだか可愛く感じてしまって、ゼクスのほうに体を向けてにっこり笑った。すると、ゼクスも安心したのかほっとしたような表情で微笑み返してくれて、暫くの間見つめ合った。
「コホン……仲が良いのはわかったから。イチャイチャするのはここではやめてね?」
先輩の言葉で、私たちは我に返り、ぱっと握り合った手を離す。ゼクスはとても残念そうに、離れた私の手をジーっと見てた。
「義姉上、さっきアドバイス通りにしたらカレンがキスをしてくれたんです!」
なんですとー?
ゼクスは、私のさっきのキスといい、今の言葉といい、完全に浮かれ切っているのか、聞き捨てならない事を言った。
「ふふふ。良かったわね? ほらね、言った通りでしょう? 年下には年下なりの魅力や攻略法があるんだから。いつもカレンちゃんの気持ちを慮って、大人の男性のように行動するのも素敵なんだけど、時には年下の特権なんだから、ぐいぐいいかなきゃね」
「聞いた時には信じられませんでしたが……義姉上、ありがとうございました」
いやいや、ちょっと待って。頭が混乱している。先輩が何かを助言したから、さっきのチュー騒動になったって事……?
私は先輩をじとーって少し恨みがましさを込めて見ると、先輩がこちらに気付き、テヘペロってしてきたのである。
そりゃ、婚約者になったし夫になる以上、恋人のように仲良くなれたらいいなとは思ったけれど、人前でのちゅーには物申したい。そんな私の気持ちが届いたのか、今度は小さくゴメンネと、全く反省してなさそうな表情で、両手を合わせながら何度も頭を下げられた。
滅茶苦茶モヤモヤする。だけど時と場を思い出した私は、後でみっちり先輩と話をさせてもらおうと思った。
「ははは、心配していたが、カレン嬢とゼクス王子は聞いていた以上に仲が良いみたいだな」
その時、パーシィが笑いながら太ももを叩いて、さも面白い物を見たと言わんばかりに笑ったのである。
さっきまでの、聖女様らしい言葉遣いはどこへやら。なんだか、豪胆な硬派な男性のように話しを始めたのであった。
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