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4 異世界とか意味わかんない……
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案内されたのは、物凄いお金持ちの家にあるような立派なお部屋だった。ふかふかのソファに先輩と並んで腰かける。先輩も怖いのか、私が怖がっているから安心させようとしているのか、ぴったりくっついてくれる。お互いに手を握り合い、さっきのイケメンが正面に座って話しをするのを聞いていた。
「先ずは名を名乗らせて欲しい。私の名前はジスクール。この国の王子だ」
「ビィノです」
「カレンです」
ぺこっと頭を下げる先輩のマネをした。こういう時に、どうやるのがいいのかなんてわかんない。とにかくよく見て、先輩のマネをしようと思った。
ジスクールが王子だと名のった時、なんとなく「らしい」なって思った。なんていうか、とってもえらい人のオーラというか、立っているだけで、目の前で座っているだけで逆らっちゃいけない人みたいな雰囲気だから。
「先ずは、突然このような目に合わせてしまって申し訳なく思う。それと、本来ならば、ビィノだけをこちらに呼び寄せるはずが、カレンといったか。君も巻き込んでしまったようだ。その、ずっと待ちわびていたビィノに会えて浮かれてしまい、予定外に来てしまったとはいえ君に対して失礼な態度をとってしまった。心細いであろう小さな子供になんという事をしたのかと今は反省している。すまなかった」
こういう人は、めったに謝ったりしないんだろうなーって思っていた。銀行のお偉いおじさんとか、ATMの不具合を報告しても、操作ミスをこっちがしたかみたいに馬鹿にして見て来た上に、ATM内のお金が満タンな不具合だってわかった後、明らかにあっちが対応悪くても絶対謝らないから、あんなのよりもえらい王子なんだから謝んないんだろうなって。
なのに、いきなり頭を下げられてびっくりする。しかも、それまで先輩しか目に入らなさそうだったのに、私にもきちんと頭を下げてくれたから目をぱちぱちさせた。先輩と王子を何度も見比べるかのようにキョロキョロ視線を移動させる。とにかく、反省しているっぽいのはわかったけれど、なんだかやっぱり釈然としない。
それに、一気に色々言われてしまって頭がついて行かない。先輩は、先輩だって心細そうなのに、そんな私を元気づけようと私をしっかり見て笑ってくれた。
「王子様、殿下、とお呼びすればよろしいのでしょうか? いきなりそのように仰られても私たちにすぐに理解できるはずがありません。あなた方に逆らう事のできなさそうな状況で、私が彼女に対する態度を咎めるなんて下手をすればどうなるかわかりませんでしたから、言われるがままにこちらに来ました。私をなんだかとても大切っぽく扱ってくださったようですけれど。でも、勝手にここに連れて来た事と、泣いている彼女にした仕打ちは許せません……」
「怒りはもっともだ。あと、ビィノ、君はこの国では王族と並ぶほどの地位が約束されているから遠慮なくなんでも言ってくれ。その、殿下などと呼ばずジスクールと呼んで欲しい。それと、カレンには誠心誠意謝罪をして、対応もしっかりさせてもらう」
「……呼びませんから。あとですね、そんな地位はこれっぽっちもいらないので、すぐに私とカレンちゃんを元に戻してください。伯父たちは私を心配しているでしょうし、カレンちゃんだってご両親やお兄様が心配しているはずです」
先輩が、王子の態度を見つつ自分が有利な立場だと悟ったようだ。さらに、王族と同じくらいの地位という言葉を聞いて遠慮はいらないとばかりに背筋を伸ばしてはっきり言ってくれた。
先輩と一緒にいた人はご両親じゃなかったのかと少し驚いたけれども、これで帰れるという期待で胸がはずむ。
「……それはできない」
けれど、数瞬の沈黙の後、王子がこちらをまっすぐに見つめながら言った言葉を聞き、私の期待は脆くも砕け散らされた。
「そんな! ここに連れて来たんだから帰せるでしょう? 人の事を勝手にここに連れて来たくせに一方通行とかふざけてるんですか! すぐに帰してください!」
先輩がこんな風に怒るような人に見えなかったから、びっくりしてしまう。目を見開き、王子を睨みつけながら大声でそんな風に言った先輩は、言い過ぎたかと思ったのかきゅっと口をつぐんだ。でも、やっぱり本当に先輩はえらい地位を約束されているのか、王子に対して怒鳴ったのに誰一人として咎めたり捕まえようとしたりしなかった。
たぶん、これが私が言ったのなら牢屋にいれられたのかもしれない。私はあまりの言葉に悲鳴をあげそうになったけれど、一生懸命声を出さないように堪えた。
そんな風に思わせるほどの緊迫した空気が部屋に満ちる。王子の後ろに立っているSPみたいな大きな外国人たちも、無表情なような冷たくてとっても怖い雰囲気でこっちを見てきて体が縮こまった。
「せ、せんぱい……」
先輩の言葉を頼もしく嬉しいと感じつつ、これ以上はさすがにヤバそうだと思った。怒りでどうにかなりそうな先輩の手をきゅっと握る。すると、はっと我に返った先輩が私を見て、長いため息を吐く。それは、呼吸とともに怒りを鎮めようとしているかのように見えた。
それ以降、押し黙る私たちに向かって、王子が再び謝罪をした後、一方的に彼らの事情とやらを話し出した。
「先ずは名を名乗らせて欲しい。私の名前はジスクール。この国の王子だ」
「ビィノです」
「カレンです」
ぺこっと頭を下げる先輩のマネをした。こういう時に、どうやるのがいいのかなんてわかんない。とにかくよく見て、先輩のマネをしようと思った。
ジスクールが王子だと名のった時、なんとなく「らしい」なって思った。なんていうか、とってもえらい人のオーラというか、立っているだけで、目の前で座っているだけで逆らっちゃいけない人みたいな雰囲気だから。
「先ずは、突然このような目に合わせてしまって申し訳なく思う。それと、本来ならば、ビィノだけをこちらに呼び寄せるはずが、カレンといったか。君も巻き込んでしまったようだ。その、ずっと待ちわびていたビィノに会えて浮かれてしまい、予定外に来てしまったとはいえ君に対して失礼な態度をとってしまった。心細いであろう小さな子供になんという事をしたのかと今は反省している。すまなかった」
こういう人は、めったに謝ったりしないんだろうなーって思っていた。銀行のお偉いおじさんとか、ATMの不具合を報告しても、操作ミスをこっちがしたかみたいに馬鹿にして見て来た上に、ATM内のお金が満タンな不具合だってわかった後、明らかにあっちが対応悪くても絶対謝らないから、あんなのよりもえらい王子なんだから謝んないんだろうなって。
なのに、いきなり頭を下げられてびっくりする。しかも、それまで先輩しか目に入らなさそうだったのに、私にもきちんと頭を下げてくれたから目をぱちぱちさせた。先輩と王子を何度も見比べるかのようにキョロキョロ視線を移動させる。とにかく、反省しているっぽいのはわかったけれど、なんだかやっぱり釈然としない。
それに、一気に色々言われてしまって頭がついて行かない。先輩は、先輩だって心細そうなのに、そんな私を元気づけようと私をしっかり見て笑ってくれた。
「王子様、殿下、とお呼びすればよろしいのでしょうか? いきなりそのように仰られても私たちにすぐに理解できるはずがありません。あなた方に逆らう事のできなさそうな状況で、私が彼女に対する態度を咎めるなんて下手をすればどうなるかわかりませんでしたから、言われるがままにこちらに来ました。私をなんだかとても大切っぽく扱ってくださったようですけれど。でも、勝手にここに連れて来た事と、泣いている彼女にした仕打ちは許せません……」
「怒りはもっともだ。あと、ビィノ、君はこの国では王族と並ぶほどの地位が約束されているから遠慮なくなんでも言ってくれ。その、殿下などと呼ばずジスクールと呼んで欲しい。それと、カレンには誠心誠意謝罪をして、対応もしっかりさせてもらう」
「……呼びませんから。あとですね、そんな地位はこれっぽっちもいらないので、すぐに私とカレンちゃんを元に戻してください。伯父たちは私を心配しているでしょうし、カレンちゃんだってご両親やお兄様が心配しているはずです」
先輩が、王子の態度を見つつ自分が有利な立場だと悟ったようだ。さらに、王族と同じくらいの地位という言葉を聞いて遠慮はいらないとばかりに背筋を伸ばしてはっきり言ってくれた。
先輩と一緒にいた人はご両親じゃなかったのかと少し驚いたけれども、これで帰れるという期待で胸がはずむ。
「……それはできない」
けれど、数瞬の沈黙の後、王子がこちらをまっすぐに見つめながら言った言葉を聞き、私の期待は脆くも砕け散らされた。
「そんな! ここに連れて来たんだから帰せるでしょう? 人の事を勝手にここに連れて来たくせに一方通行とかふざけてるんですか! すぐに帰してください!」
先輩がこんな風に怒るような人に見えなかったから、びっくりしてしまう。目を見開き、王子を睨みつけながら大声でそんな風に言った先輩は、言い過ぎたかと思ったのかきゅっと口をつぐんだ。でも、やっぱり本当に先輩はえらい地位を約束されているのか、王子に対して怒鳴ったのに誰一人として咎めたり捕まえようとしたりしなかった。
たぶん、これが私が言ったのなら牢屋にいれられたのかもしれない。私はあまりの言葉に悲鳴をあげそうになったけれど、一生懸命声を出さないように堪えた。
そんな風に思わせるほどの緊迫した空気が部屋に満ちる。王子の後ろに立っているSPみたいな大きな外国人たちも、無表情なような冷たくてとっても怖い雰囲気でこっちを見てきて体が縮こまった。
「せ、せんぱい……」
先輩の言葉を頼もしく嬉しいと感じつつ、これ以上はさすがにヤバそうだと思った。怒りでどうにかなりそうな先輩の手をきゅっと握る。すると、はっと我に返った先輩が私を見て、長いため息を吐く。それは、呼吸とともに怒りを鎮めようとしているかのように見えた。
それ以降、押し黙る私たちに向かって、王子が再び謝罪をした後、一方的に彼らの事情とやらを話し出した。
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