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13 一年前の真実①
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翌朝、媚薬のせいとはいえ、やりすぎたと謝られた。カーテは、その姿をベッドから起き上がることも出来ずに、彼は悪くないと微笑む。
「これから、無茶をしなかったらいいから」
「うん、ごめんね」
タッセルは、媚薬の効果が切れて、はっと我に返ったときに見た、ぐったりした彼女の姿を見てこの世の終わりだと思うほど後悔したらしい。
侍女にことの経緯を聞いた母にも謝られた。まさか、ほんの少し夜のエッセンス程度のイランイランの成分が、タッセルにあれほどの効果をもたらすとは思っていなかったようだ。彼の種族が特別あれに過剰反応するわけでもない。
そもそも、そんな気遣いはいらないから二度としないでと、カーテに言われて、母だけでなく、意気揚々と準備した侍女たちも頭を下げた。
式までもう少しであることから、その日からふたりは新婚夫婦のために準備された部屋で過ごすことになった。
結婚式も無事に終わり、ホッと一息をついたころ、カーテの妊娠が発覚した。
異種族では妊娠しづらい。だからこそ、早く子作りをさせようと母たちが焦っていたこともあったのだが、この一報は思っていた以上に喜ばれた。
タッセルに至っては、カーテにスプーンすら持たせないほどの過保護っぷり。王子の婚約者と彼女をゆっくり会わせることが出来たのは、安定期に入ってからであった。
「ご懐妊、おめでとうございます。体調は大丈夫でしょうか? 無理せず、何かありましたらすぐに仰ってくださいね」
「ありがとうございます。こちらのほうこそ、おまたせしてしまい、申し訳ございませんでした。母子ともに順調だと、太鼓判を押されておりますし、つわりもほとんどありませんのでご安心くださいませ」
王子が射止めた美姫は、彼がのろけていた通りの美女だった。少々厳しい面もあるが、他人には優しい。頭もよく性格も極上で、どうしてこの女性が婚約破棄されたのか本気でわからないほどである。
「その説は、カーテさんにもご協力していただいたとか。改めてお礼を言わせてください」
「そんな。何もしていない方の冤罪を証明するために助力をするなど、当たり前のことをしたまでですわ。それに、我が国にとって、ランナー様というすばらしい方を迎えられたんですもの」
「まぁ。ふふふ、わたくしのほうこそ、フックに支えていただいておりますのに」
王子と彼女の結婚式は、各国の要人を招かなければならないため、まだまだ先だ。だが、一日たりとも彼女と離れたくないと、王子が我が儘を言ったため、事実上王子妃としてこの国に来た経緯がある。
「故国はまだ騒々しくて。大々的にこの国に嫁ぐわけにはいかないから、単身でこちらに来たでしょう? 本当は心細かったの。カーテさんがお友達になってくれて嬉しいわ」
「私以外にも、ランナー様と仲良くなりたいと言っている友人たちがいますの。裏表がほとんどない、温和な子たちなので、安心してくださいませね」
そんな穏やかなお茶会を、はらはらしてこっそり見ている人物たちがいた。言うまでもなく、タッセルとフック王子である。ふたり以上に、安堵で胸をなでおろしていた。
「良かった。思った通り、ふたりは気が合うようだ」
「僕のカティは、世界一優しくて誰とでも仲良くなれる特技がありますからね」
「私のランナーのほうが優しいぞ」
「僕のカティです」
心配は杞憂だっと知り、どっちの相手がより魅力的か言い争っていると、こっそり見ていたのがバレた。
「ターモが大声で騒ぐから、バレてしまったではないか」
「殿下のほうが大声でしたからね」
そんな喧嘩のようなものを繰り広げているのを、それぞれのパートナーが止めに入る。
「ターモくん、落ち着いて。もう、隠れてないで、一緒にお茶をしましょう」
「フックったら、心配しすぎです。でもありがとうございます」
呆れたように言いつつも、彼らの腕を取る。互いにとって世界一の女性にみっともない姿をこれ以上見せるわけにはいかない。背筋を伸ばして格好つけようとした。
そんな彼らの姿を見て、カーテとランナーは目を見合わせてクスクス笑いあった。
テーブルセットが、急遽二倍になる。
もともと、これでもかと、ランナーが好きそうなものを沢山準備していた。彼女の生まれ育った国のスイーツも並べられており、今日はダイエット中止だと、タッセルが目を輝かせて食べた。
「ターモくん、クリームがついてるわ」
「ん」
久しぶりの甘いものを堪能していたタッセルの頬を、カーテがハンカチで拭く。すると、それを羨ましそうに見ていたフック王子が、わざと頬をクリームで汚した。
「まあ、フック。お行儀が悪いですわ」
「すまない」
礼儀作法にうるさいランナーも、プライベート空間での、彼らの甘いやりとりを内心羨ましいと思っていた。なれない手つきで、フックの頬を拭き取ろうとしたが、緊張で震えてクリームが余計に広がってしまう。
「あ、ああ。どうしてこうなるのかしら? フック、申し訳ございません」
「はは、かまわないさ。謝らなくていいよ」
カーテとタッセルは、独身のまま一生過ごしそうだった彼に、素晴らしい女性が現れたことに喜んだ。
そうしてお茶会が終わりに近づいた時、ランナーが話すなんでもなさそうな雑談の中に、ひっかかる内容が出たのであった。
「これから、無茶をしなかったらいいから」
「うん、ごめんね」
タッセルは、媚薬の効果が切れて、はっと我に返ったときに見た、ぐったりした彼女の姿を見てこの世の終わりだと思うほど後悔したらしい。
侍女にことの経緯を聞いた母にも謝られた。まさか、ほんの少し夜のエッセンス程度のイランイランの成分が、タッセルにあれほどの効果をもたらすとは思っていなかったようだ。彼の種族が特別あれに過剰反応するわけでもない。
そもそも、そんな気遣いはいらないから二度としないでと、カーテに言われて、母だけでなく、意気揚々と準備した侍女たちも頭を下げた。
式までもう少しであることから、その日からふたりは新婚夫婦のために準備された部屋で過ごすことになった。
結婚式も無事に終わり、ホッと一息をついたころ、カーテの妊娠が発覚した。
異種族では妊娠しづらい。だからこそ、早く子作りをさせようと母たちが焦っていたこともあったのだが、この一報は思っていた以上に喜ばれた。
タッセルに至っては、カーテにスプーンすら持たせないほどの過保護っぷり。王子の婚約者と彼女をゆっくり会わせることが出来たのは、安定期に入ってからであった。
「ご懐妊、おめでとうございます。体調は大丈夫でしょうか? 無理せず、何かありましたらすぐに仰ってくださいね」
「ありがとうございます。こちらのほうこそ、おまたせしてしまい、申し訳ございませんでした。母子ともに順調だと、太鼓判を押されておりますし、つわりもほとんどありませんのでご安心くださいませ」
王子が射止めた美姫は、彼がのろけていた通りの美女だった。少々厳しい面もあるが、他人には優しい。頭もよく性格も極上で、どうしてこの女性が婚約破棄されたのか本気でわからないほどである。
「その説は、カーテさんにもご協力していただいたとか。改めてお礼を言わせてください」
「そんな。何もしていない方の冤罪を証明するために助力をするなど、当たり前のことをしたまでですわ。それに、我が国にとって、ランナー様というすばらしい方を迎えられたんですもの」
「まぁ。ふふふ、わたくしのほうこそ、フックに支えていただいておりますのに」
王子と彼女の結婚式は、各国の要人を招かなければならないため、まだまだ先だ。だが、一日たりとも彼女と離れたくないと、王子が我が儘を言ったため、事実上王子妃としてこの国に来た経緯がある。
「故国はまだ騒々しくて。大々的にこの国に嫁ぐわけにはいかないから、単身でこちらに来たでしょう? 本当は心細かったの。カーテさんがお友達になってくれて嬉しいわ」
「私以外にも、ランナー様と仲良くなりたいと言っている友人たちがいますの。裏表がほとんどない、温和な子たちなので、安心してくださいませね」
そんな穏やかなお茶会を、はらはらしてこっそり見ている人物たちがいた。言うまでもなく、タッセルとフック王子である。ふたり以上に、安堵で胸をなでおろしていた。
「良かった。思った通り、ふたりは気が合うようだ」
「僕のカティは、世界一優しくて誰とでも仲良くなれる特技がありますからね」
「私のランナーのほうが優しいぞ」
「僕のカティです」
心配は杞憂だっと知り、どっちの相手がより魅力的か言い争っていると、こっそり見ていたのがバレた。
「ターモが大声で騒ぐから、バレてしまったではないか」
「殿下のほうが大声でしたからね」
そんな喧嘩のようなものを繰り広げているのを、それぞれのパートナーが止めに入る。
「ターモくん、落ち着いて。もう、隠れてないで、一緒にお茶をしましょう」
「フックったら、心配しすぎです。でもありがとうございます」
呆れたように言いつつも、彼らの腕を取る。互いにとって世界一の女性にみっともない姿をこれ以上見せるわけにはいかない。背筋を伸ばして格好つけようとした。
そんな彼らの姿を見て、カーテとランナーは目を見合わせてクスクス笑いあった。
テーブルセットが、急遽二倍になる。
もともと、これでもかと、ランナーが好きそうなものを沢山準備していた。彼女の生まれ育った国のスイーツも並べられており、今日はダイエット中止だと、タッセルが目を輝かせて食べた。
「ターモくん、クリームがついてるわ」
「ん」
久しぶりの甘いものを堪能していたタッセルの頬を、カーテがハンカチで拭く。すると、それを羨ましそうに見ていたフック王子が、わざと頬をクリームで汚した。
「まあ、フック。お行儀が悪いですわ」
「すまない」
礼儀作法にうるさいランナーも、プライベート空間での、彼らの甘いやりとりを内心羨ましいと思っていた。なれない手つきで、フックの頬を拭き取ろうとしたが、緊張で震えてクリームが余計に広がってしまう。
「あ、ああ。どうしてこうなるのかしら? フック、申し訳ございません」
「はは、かまわないさ。謝らなくていいよ」
カーテとタッセルは、独身のまま一生過ごしそうだった彼に、素晴らしい女性が現れたことに喜んだ。
そうしてお茶会が終わりに近づいた時、ランナーが話すなんでもなさそうな雑談の中に、ひっかかる内容が出たのであった。
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