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好きだからこそ、触れられない①
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時系列が行ったり来たりします。申し訳ありません。
サヴァイヴとイヴォンヌが久しぶりに会っていた同時刻、フラットは目の前の青年に労いの言葉をかけた。
「そうか……。ご苦労だった」
「はっ!」
フラットの言葉に短く敬礼をして去って行ったのは、先ほどサヴァイヴに王宮内の出来事などを報告していた青年だ。
青年は、王子からの接触に最初は戸惑ってはいたものの、ひょっとして末端のとるに足らない自分が噂の出どころなどを探っていた事を不敬だ、間諜かと咎められるのかと恐れていた。だが、王子は、ただ彼と仲の良い青年に、サヴァイヴと別れたあの場所あの時間彼を連れて行くよう、さらに、王子からの依頼だとは秘密にするよう伝えられただけである。
『いきなりの呼び出しでびっくりしたかと思うが……。悪いようにはしないから、私を信じて彼をそこに連れて行ってくれないか?』
『あの……? 理由をお伺いしても?』
『理由は、言えない。だが、危険はないとだけ約束する』
『かしこまりました』
サヴァイヴとの会話の内容は、聞かれもしないので王子に対して一切喋ってはいない。サヴァイヴに対しても、あの場所に連れて行く事が王子の依頼だという事も秘密にしていた。
青年が敬礼のあと退室すると、フラットはそっと胸からペンダントを取り出した。それはロケットペンダントになっており、そこには彼の婚約者がまだ10歳の頃に無邪気に笑っている顔が描かれていた。
「イヴ……」
「殿下、本当によろしいのですか?」
「……」
ただ、ロケットの中を凝視するフラットを、アルフレッドとディシヴィアが気づかわしそうに側に立ち声を掛けるが返事がなかなかない。
「もう、決めた事だ。今頃、二人はもう会っているはずだ。思惑どおりなら、彼が行動を起こしているだろう。手はず通り頼む」
「「承知致しました」」
アルフレッドが、ディシヴィアとフラットに言いがかりをつけられて出て行ったイヴォンヌの後を追い、彼女がいる廊下で、フラットが言った通りに彼女とサヴァイブがいるのを確認した。
※※※※
残された部屋で、フラットは少々朗らかに微笑みながら声をかけた。
「ディシヴィア、嫌な役目をさせてすまないね」
「いえ、僕はこれまで通り、父を取り立てて頂いた恩を返すだけです。それに、僕以上に可愛い女子生徒に変装できる者はいないかと」
「ははは、そうだね」
ディシヴィアは、にっこり微笑むとかつらをとった。愛らしさの残る華奢にも見える少年は、女子生徒の制服を別室で着替えてフラットの護衛に早変わりする。
「殿下、僕もまだぎりぎり間に合うと思いますよ? イヴォンヌ様は殿下を心から慕っているように見えますが……」
「いいんだ……。僕ではイヴを幸せに出来ないから……。手放したくなくてずるずるこの日まで来た。周囲を無駄に振り回すだけのバカげた計画だとわかっているが……」
「殿下……」
「僕は、妻は持たねばならない立場だと理解している。幸い、カッサンドラが完全な政略結婚の協力者となってくれると約束し、契約も終えた。彼女なら完全に僕に対して感情を抱かず、お互いの利益のために尊重して生涯を共に過ごせるだろう」
「それもどうかと思いますが、それが政略結婚ですからね……。そうだ、いっそのこと、僕が一生変装しておきましょうか?」
「いや、それはそれでバレたときに、男同士のあらぬ不名誉な噂が流れるだろう? 今はまだ誤魔化せるが、そろそろ厳しそうだぞ?」
「それもそうですね。それに、僕の恋愛対象は女性ですから」
「君の婚約者のベルナーシャにも協力してくれてありがとうと伝えてくれ」
「はっ」
※※※※
2年になる頃には胸が大きく膨らみ女性としての色香をまとわせるようになったイヴォンヌ。フラットは彼女を見て、触れて、抱きしめてキスを交わす事毎に胸の中で、喜びと充実感、そして一日も早く彼女を自分だけのものに出来る卒業の日を待っていた。
最初のうちは違和感だった。それが、日を追うごとに、何かがぞわりぞわりと胸の中を這いずり回り、イヴォンヌの体に触れる事が出来なくなっていったのである。
自身の変化に戸惑いながらも彼女との甘いひと時を楽しみ、だが、終わるとほっと息をつく。そんな事を繰り返していると、抱きしめようとすると手が震えて体が動かなくなる事に気付いた。
まだ寒い、春の女神が地上をその吐息で温め始めた頃、テラスで彼女と久しぶりにキスを交わそうとすると、突然、閨の白い淫魔の姿がケタケタとあざ笑うかのように脳裏に現れ、そして、豊満な体を自身に乗り上げさせてきた。
息が止まり、目の前にいて、そして自分の腕の中にいるのが愛しい人だとわかっているのに、彼女があの夜の悪魔と重なる。思わず突き飛ばしたくなったがそれは辛うじて耐えた。
それとなく二人の親密な行動が行き過ぎないか様子を伺っていたアルフレッドは、顔を青白くさせ明らかにおかしいフラットに気付いた。
「殿下、失礼いたします! 急な知らせがあり……」
「あ、ああ。イヴ、すまない、ちょっと行ってくるよ」
二人の時間を邪魔をしつつ、執務などの用事もないのにフラットをその場から立ち去らせる。後に残されたイヴォンヌの心配そうにしている表情に気付かないほど切羽詰まった様子だった。
アルフレッドは、なんでもないと言い続けるフラットを横にすると、どうしたものかと思案した。そして、フラットの護衛にしっかりドアを守るように言い、足早に王太子の元に向かったのである。
サヴァイヴとイヴォンヌが久しぶりに会っていた同時刻、フラットは目の前の青年に労いの言葉をかけた。
「そうか……。ご苦労だった」
「はっ!」
フラットの言葉に短く敬礼をして去って行ったのは、先ほどサヴァイヴに王宮内の出来事などを報告していた青年だ。
青年は、王子からの接触に最初は戸惑ってはいたものの、ひょっとして末端のとるに足らない自分が噂の出どころなどを探っていた事を不敬だ、間諜かと咎められるのかと恐れていた。だが、王子は、ただ彼と仲の良い青年に、サヴァイヴと別れたあの場所あの時間彼を連れて行くよう、さらに、王子からの依頼だとは秘密にするよう伝えられただけである。
『いきなりの呼び出しでびっくりしたかと思うが……。悪いようにはしないから、私を信じて彼をそこに連れて行ってくれないか?』
『あの……? 理由をお伺いしても?』
『理由は、言えない。だが、危険はないとだけ約束する』
『かしこまりました』
サヴァイヴとの会話の内容は、聞かれもしないので王子に対して一切喋ってはいない。サヴァイヴに対しても、あの場所に連れて行く事が王子の依頼だという事も秘密にしていた。
青年が敬礼のあと退室すると、フラットはそっと胸からペンダントを取り出した。それはロケットペンダントになっており、そこには彼の婚約者がまだ10歳の頃に無邪気に笑っている顔が描かれていた。
「イヴ……」
「殿下、本当によろしいのですか?」
「……」
ただ、ロケットの中を凝視するフラットを、アルフレッドとディシヴィアが気づかわしそうに側に立ち声を掛けるが返事がなかなかない。
「もう、決めた事だ。今頃、二人はもう会っているはずだ。思惑どおりなら、彼が行動を起こしているだろう。手はず通り頼む」
「「承知致しました」」
アルフレッドが、ディシヴィアとフラットに言いがかりをつけられて出て行ったイヴォンヌの後を追い、彼女がいる廊下で、フラットが言った通りに彼女とサヴァイブがいるのを確認した。
※※※※
残された部屋で、フラットは少々朗らかに微笑みながら声をかけた。
「ディシヴィア、嫌な役目をさせてすまないね」
「いえ、僕はこれまで通り、父を取り立てて頂いた恩を返すだけです。それに、僕以上に可愛い女子生徒に変装できる者はいないかと」
「ははは、そうだね」
ディシヴィアは、にっこり微笑むとかつらをとった。愛らしさの残る華奢にも見える少年は、女子生徒の制服を別室で着替えてフラットの護衛に早変わりする。
「殿下、僕もまだぎりぎり間に合うと思いますよ? イヴォンヌ様は殿下を心から慕っているように見えますが……」
「いいんだ……。僕ではイヴを幸せに出来ないから……。手放したくなくてずるずるこの日まで来た。周囲を無駄に振り回すだけのバカげた計画だとわかっているが……」
「殿下……」
「僕は、妻は持たねばならない立場だと理解している。幸い、カッサンドラが完全な政略結婚の協力者となってくれると約束し、契約も終えた。彼女なら完全に僕に対して感情を抱かず、お互いの利益のために尊重して生涯を共に過ごせるだろう」
「それもどうかと思いますが、それが政略結婚ですからね……。そうだ、いっそのこと、僕が一生変装しておきましょうか?」
「いや、それはそれでバレたときに、男同士のあらぬ不名誉な噂が流れるだろう? 今はまだ誤魔化せるが、そろそろ厳しそうだぞ?」
「それもそうですね。それに、僕の恋愛対象は女性ですから」
「君の婚約者のベルナーシャにも協力してくれてありがとうと伝えてくれ」
「はっ」
※※※※
2年になる頃には胸が大きく膨らみ女性としての色香をまとわせるようになったイヴォンヌ。フラットは彼女を見て、触れて、抱きしめてキスを交わす事毎に胸の中で、喜びと充実感、そして一日も早く彼女を自分だけのものに出来る卒業の日を待っていた。
最初のうちは違和感だった。それが、日を追うごとに、何かがぞわりぞわりと胸の中を這いずり回り、イヴォンヌの体に触れる事が出来なくなっていったのである。
自身の変化に戸惑いながらも彼女との甘いひと時を楽しみ、だが、終わるとほっと息をつく。そんな事を繰り返していると、抱きしめようとすると手が震えて体が動かなくなる事に気付いた。
まだ寒い、春の女神が地上をその吐息で温め始めた頃、テラスで彼女と久しぶりにキスを交わそうとすると、突然、閨の白い淫魔の姿がケタケタとあざ笑うかのように脳裏に現れ、そして、豊満な体を自身に乗り上げさせてきた。
息が止まり、目の前にいて、そして自分の腕の中にいるのが愛しい人だとわかっているのに、彼女があの夜の悪魔と重なる。思わず突き飛ばしたくなったがそれは辛うじて耐えた。
それとなく二人の親密な行動が行き過ぎないか様子を伺っていたアルフレッドは、顔を青白くさせ明らかにおかしいフラットに気付いた。
「殿下、失礼いたします! 急な知らせがあり……」
「あ、ああ。イヴ、すまない、ちょっと行ってくるよ」
二人の時間を邪魔をしつつ、執務などの用事もないのにフラットをその場から立ち去らせる。後に残されたイヴォンヌの心配そうにしている表情に気付かないほど切羽詰まった様子だった。
アルフレッドは、なんでもないと言い続けるフラットを横にすると、どうしたものかと思案した。そして、フラットの護衛にしっかりドアを守るように言い、足早に王太子の元に向かったのである。
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