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しとやか未満の姫と騎士の卵①
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隣国との小競り合いが、年々ひどくなっていった。
12歳になったサヴァイヴは、すでに大人と同じくらいに身長が伸び、鍛え上げつつある肉体は、頼りないパーツがあるものの、がっしりしてきた。
同世代の幼馴染みたちよりも頭1~2つ大きい。顔つきはまだ幼さが残るものの、父親に似て、素敵な、というよりも男らしくなっていた。
少年らしさが消えていくにつれ迫力ある彼は、女の子たちに怯えられるようになっていき、声変わりが始まるとさらに遠巻きにされていく。
昔は、とても持て囃されたというのに、今では、他の少年たちに女の子たちが群がっている。
大きく育った彼は、5歳の時に与えられたダガーはほとんど使用せず、専ら、大人が使う長剣を愛用していた。
「やぁっ!」
昼ごはん前に鍛錬をしていた彼は、一心不乱に汗を流して剣を奮う。対するは、父の片腕である、この辺境で作られた精鋭部隊の副騎士長。28歳にしてその地位に上り詰めた彼は、パワータイプのサヴァイヴとは違い、受け流し流線形を描きながら敵の隙をつく。剣先が自由自在に変化し、直型の彼にとってとてもやりにくい相手だ。
ストレートのやや硬い赤髪を襟足で一つにくくり、明るいブラウンの瞳は優し気に見えるため非常にモテる。
「ぼっちゃん、そろそろ休憩しましょう」
カキンッと、思い切り打ち込んだ剣が跳ねあがる。やや押され気味に見えた彼らの模擬戦は、どうやら副騎士長が手加減していたようだ。たった一振りで、サヴァイヴの急所どころか前面ががらあきになり、一瞬にして、首と心臓、両手首の軽装型の鎧に傷がつけられた。これが戦場なら命はない。あっても腕の神経が切られて動かせず出血多量で昏倒している。
「くっそー! まだまだぁっ!」
サヴァイヴは、跳ねあげられた剣をしっかり両手で持ち、おもいきり彼に叩きこむ。最近、彼の父とともに、国の防衛にあたるこの砦はしょっちゅう戦に行っているため、自分も早く参加して父の力になりたいと、気ばかり焦っている。だが、がむしゃらに狭い視野と狭量な精神が、かえって上達を遅くしている事に気づいていない。
「やれやれ」
自己の仕事の上に、後継者たる図体ばかり大きくなった彼に付き合わされている彼は、一つ苦笑を零した後、今度はキィンッと高い金属音が鳴り、数瞬の後に、土に剣がささる鈍い音が鳴った。これで、サヴァイヴの態度が悪ければ見放されていただろうが、一途に頑張る彼の姿は、おおむね騎士団の皆から慕われ快く受け入れられていた。
「…………、まいりました……」
ぎゅっと下唇を噛みしめて項垂れる。肩が震えて、拳には筋が入り、血管が浮き出ていた。
「ぼっちゃん、休むべき時は休む。そうでなくては一瞬先は死ですからね。頭も血がのぼりすぎです。型もなにもかもが、まるで幼児のようになっていますから、今日はここまでです。いいですね?」
「……、はい……。クロヴィス先生……」
「では、午後からは基礎鍛錬を……。いや、今日はゆっくりしてください」
「は? 俺はもっと強くなりたい! だから午後からも稽古お願いしますっ!」
「いいえ。休息は必要です。それに、今日は何の日かお忘れですか? 大切な方と会う日でしょう?」
「今日……? ……、あっ!」
「熱心な事は良い事ですが、一点集中過ぎる事はよくありません。しっかり周囲の事も気にかけなくては人はついてこないものですから。現段階で十分以上に、ぼっちゃんは強い。もっと強くなりたいと願う気持ちは、我々が一番よく知っています。悔しいでしょうが、必ずもっと強くなります。ですから、今日は予定通りの行動をしなさい」
「……、はい」
ありがとうございました。と元気に頭を下げた後、へとへとの体を動かしてなるべく早く自室に戻る。たしかに、もう剣を握る事も、震えるこの指では難しかっただろう。
途中の井戸で、冷たい水を桶でざーっと頭からかぶる。上半身裸の上、ズボンも薄布だ。びしょぬれの髪をタオルで拭きながら、庭を横切っていった。
「……!」
「きゃぁ、ヴァイスったら……!」
声がしたほうを向くと、華奢な幼馴染がドレスから見えるデコルテから首、顔に耳まで真っ赤に染まっている。顔を白い手で隠し、後ろに向いた。
「ヴィー、ご、ごめんっ! すぐに着替えて来るから待ってて!」
「~~~~っ! わ、わかったから、わかったから早く行って! いくら暑い時期だからって、井戸の水は冷たいから風邪をひいちゃうわ?」
「うん!」
サヴァイヴは、途端に恥ずかしさがせりあがる。そして、イヴォンヌに会えたことと、彼女の優しい気遣いに対して嬉しくなり、どこに走る余力が残っていたのか、慌てて全速力でその場を去った。
12歳になったサヴァイヴは、すでに大人と同じくらいに身長が伸び、鍛え上げつつある肉体は、頼りないパーツがあるものの、がっしりしてきた。
同世代の幼馴染みたちよりも頭1~2つ大きい。顔つきはまだ幼さが残るものの、父親に似て、素敵な、というよりも男らしくなっていた。
少年らしさが消えていくにつれ迫力ある彼は、女の子たちに怯えられるようになっていき、声変わりが始まるとさらに遠巻きにされていく。
昔は、とても持て囃されたというのに、今では、他の少年たちに女の子たちが群がっている。
大きく育った彼は、5歳の時に与えられたダガーはほとんど使用せず、専ら、大人が使う長剣を愛用していた。
「やぁっ!」
昼ごはん前に鍛錬をしていた彼は、一心不乱に汗を流して剣を奮う。対するは、父の片腕である、この辺境で作られた精鋭部隊の副騎士長。28歳にしてその地位に上り詰めた彼は、パワータイプのサヴァイヴとは違い、受け流し流線形を描きながら敵の隙をつく。剣先が自由自在に変化し、直型の彼にとってとてもやりにくい相手だ。
ストレートのやや硬い赤髪を襟足で一つにくくり、明るいブラウンの瞳は優し気に見えるため非常にモテる。
「ぼっちゃん、そろそろ休憩しましょう」
カキンッと、思い切り打ち込んだ剣が跳ねあがる。やや押され気味に見えた彼らの模擬戦は、どうやら副騎士長が手加減していたようだ。たった一振りで、サヴァイヴの急所どころか前面ががらあきになり、一瞬にして、首と心臓、両手首の軽装型の鎧に傷がつけられた。これが戦場なら命はない。あっても腕の神経が切られて動かせず出血多量で昏倒している。
「くっそー! まだまだぁっ!」
サヴァイヴは、跳ねあげられた剣をしっかり両手で持ち、おもいきり彼に叩きこむ。最近、彼の父とともに、国の防衛にあたるこの砦はしょっちゅう戦に行っているため、自分も早く参加して父の力になりたいと、気ばかり焦っている。だが、がむしゃらに狭い視野と狭量な精神が、かえって上達を遅くしている事に気づいていない。
「やれやれ」
自己の仕事の上に、後継者たる図体ばかり大きくなった彼に付き合わされている彼は、一つ苦笑を零した後、今度はキィンッと高い金属音が鳴り、数瞬の後に、土に剣がささる鈍い音が鳴った。これで、サヴァイヴの態度が悪ければ見放されていただろうが、一途に頑張る彼の姿は、おおむね騎士団の皆から慕われ快く受け入れられていた。
「…………、まいりました……」
ぎゅっと下唇を噛みしめて項垂れる。肩が震えて、拳には筋が入り、血管が浮き出ていた。
「ぼっちゃん、休むべき時は休む。そうでなくては一瞬先は死ですからね。頭も血がのぼりすぎです。型もなにもかもが、まるで幼児のようになっていますから、今日はここまでです。いいですね?」
「……、はい……。クロヴィス先生……」
「では、午後からは基礎鍛錬を……。いや、今日はゆっくりしてください」
「は? 俺はもっと強くなりたい! だから午後からも稽古お願いしますっ!」
「いいえ。休息は必要です。それに、今日は何の日かお忘れですか? 大切な方と会う日でしょう?」
「今日……? ……、あっ!」
「熱心な事は良い事ですが、一点集中過ぎる事はよくありません。しっかり周囲の事も気にかけなくては人はついてこないものですから。現段階で十分以上に、ぼっちゃんは強い。もっと強くなりたいと願う気持ちは、我々が一番よく知っています。悔しいでしょうが、必ずもっと強くなります。ですから、今日は予定通りの行動をしなさい」
「……、はい」
ありがとうございました。と元気に頭を下げた後、へとへとの体を動かしてなるべく早く自室に戻る。たしかに、もう剣を握る事も、震えるこの指では難しかっただろう。
途中の井戸で、冷たい水を桶でざーっと頭からかぶる。上半身裸の上、ズボンも薄布だ。びしょぬれの髪をタオルで拭きながら、庭を横切っていった。
「……!」
「きゃぁ、ヴァイスったら……!」
声がしたほうを向くと、華奢な幼馴染がドレスから見えるデコルテから首、顔に耳まで真っ赤に染まっている。顔を白い手で隠し、後ろに向いた。
「ヴィー、ご、ごめんっ! すぐに着替えて来るから待ってて!」
「~~~~っ! わ、わかったから、わかったから早く行って! いくら暑い時期だからって、井戸の水は冷たいから風邪をひいちゃうわ?」
「うん!」
サヴァイヴは、途端に恥ずかしさがせりあがる。そして、イヴォンヌに会えたことと、彼女の優しい気遣いに対して嬉しくなり、どこに走る余力が残っていたのか、慌てて全速力でその場を去った。
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