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やんちゃ姫とわんこ①
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領地が隣同士だったサヴァイヴとイヴォンヌは物心ついた時から頻繁に行き来をしていた。
広くどこまでも続く草原。その中にある、小さいが頑丈に作られたサヴァイヴの家は、屋敷というよりも強固な砦だった。砦の中では毎日のようにものものしく兵士たちが訓練をし、そして鎧を着ていない使用人すら武器を愛用し戦いに長けている。
5歳の誕生日にサヴァイヴは、父からおもちゃの代わりに実用的なダガーが贈られた。刃をつぶした宝石の埋め込まれたおもちゃではない。すでに、小さい頃から子供とはいえ訓練を受けていたサヴァイヴには、専用の武器がなく、周囲の誰もが所持していたため強請っていたのである。
まだまだ小さいサヴァイヴが持つと、ダガーは立派な剣にも見えた。両手で恭しく受け取り、さやから刃を出し、頭上にかざした。
広間には彼の誕生日を祝う人でごった返しており、中には、幼い少年が本物の刃を扱う様を見て、はらはらとする場面も見受けられる。
サヴァイヴは、きりっと顔を引き締めると、右手でダガーをしっかり握りしめた後、さっと右からやや左下に向かって振り下ろす。その後、水平に左に刃先を移動させると、チャッと軽快に音を鳴らして鞘に納めた。
その姿は、まだまだ子供の頼りないパワーでは安定していないとはいえ様になっており、特に、武器を持たない貴婦人たちからほっと安堵されたあと、素晴らしいその動きに対して賞賛が贈られた。
「ちちうえ、ありがとうございます。たいせつにして、このダガーにはじないように、たんれんいたします!」
やや舌足らずの幼く高い声が広間に響くと、わぁっと歓声が上がった。
タタタッと軽やかな小走りの音がサヴァイヴに近づいた。時々止まる、そのリズムが不規則なメロディーを彼は捕らえると、にっこり笑い、自らもそちらに向かう。
おおきな大人たちの腰よりも低い彼もまた、人間という障害物をよけるために、左右、時に下がりながら走って行く。先ほど聞こえたメロディーよりも警戒にリズムよく動く彼の姿は、まるで子犬のように愛らしい。
「ヴァイス!」
朝一番に囀るナイチンゲールのような高い声で彼を呼ぶのは、隣の領地に住む銀髪の少女だ。
「ヴィー!」
明らかに後から駆け出したサヴァイヴのほうが距離を移動していた。先ほどまで近くにいた尊敬する父の姿が、大人という壁で全く見えない。だが、そんな事はどうでも良かった。
ダガーを手にしたまま駆け出していたと気づいたのは、小さなレディに手を差し伸べようとした時だった。
「あ、ご、ごめん。ヴィー!」
「ふふふ、とてもりっぱなおたんじょうびプレゼントね。かっこいい!」
「へへへ。おもちゃじゃないからあぶないよ。ヴィーはみるだけね?」
「むぅ。ちょっとでいいからさわりたいなぁ」
「だーめっ!」
ふっくらした白いやわらかな頬をぷくっと膨らませて拗ねる彼女の目には喜びが見て取れた。本気で触りたいと駄々をこねているわけではないが、鼻高々に、父から贈られた、これから剣を握る許可を得た証を自慢したくて仕方のないサヴァイヴとのやり取りを楽しんでいる。
周囲の大人たちも、幼い二人の少々元気のよすぎる様子を微笑ましく見て、誰もが仲の良さを歓迎しているようだった。
「ふふふ、あのね、わたしからもプレゼントがあるの!」
「え! なになに?」
「どうしよっかなー。ふふふ」
「ヴィー、いじわるしないでみせてよ~!」
「しょうがないなあ。きょうのしゅやくだもんね! はい、どうぞ!」
イヴォンヌから渡されたのは、縦長の箱だった。箱を飾るサヴァイヴの瞳の色のリボンは、銀色で縁取られていてとてもきれいだ。
「あけていい?」
「うん!」
箱の中にあったのは、ダークブルーとライトグリーンの色彩が左右に分かれているかのような髪を束ねる紐だった。
「ぼく、かみがみじかいんだけど……」
「ふふふ、おっきくなって、かみがのびたらつかってね。こっちがヴァイスで、こっちがわたし。ずっとなかよしのしるし。ね?」
「うん! わかった!」
お互いが、お互いの色の両端を小さな指で持つ。その姿は、紐が彼らを結び、ずっと一緒にいる証にも見えたのだった。
広くどこまでも続く草原。その中にある、小さいが頑丈に作られたサヴァイヴの家は、屋敷というよりも強固な砦だった。砦の中では毎日のようにものものしく兵士たちが訓練をし、そして鎧を着ていない使用人すら武器を愛用し戦いに長けている。
5歳の誕生日にサヴァイヴは、父からおもちゃの代わりに実用的なダガーが贈られた。刃をつぶした宝石の埋め込まれたおもちゃではない。すでに、小さい頃から子供とはいえ訓練を受けていたサヴァイヴには、専用の武器がなく、周囲の誰もが所持していたため強請っていたのである。
まだまだ小さいサヴァイヴが持つと、ダガーは立派な剣にも見えた。両手で恭しく受け取り、さやから刃を出し、頭上にかざした。
広間には彼の誕生日を祝う人でごった返しており、中には、幼い少年が本物の刃を扱う様を見て、はらはらとする場面も見受けられる。
サヴァイヴは、きりっと顔を引き締めると、右手でダガーをしっかり握りしめた後、さっと右からやや左下に向かって振り下ろす。その後、水平に左に刃先を移動させると、チャッと軽快に音を鳴らして鞘に納めた。
その姿は、まだまだ子供の頼りないパワーでは安定していないとはいえ様になっており、特に、武器を持たない貴婦人たちからほっと安堵されたあと、素晴らしいその動きに対して賞賛が贈られた。
「ちちうえ、ありがとうございます。たいせつにして、このダガーにはじないように、たんれんいたします!」
やや舌足らずの幼く高い声が広間に響くと、わぁっと歓声が上がった。
タタタッと軽やかな小走りの音がサヴァイヴに近づいた。時々止まる、そのリズムが不規則なメロディーを彼は捕らえると、にっこり笑い、自らもそちらに向かう。
おおきな大人たちの腰よりも低い彼もまた、人間という障害物をよけるために、左右、時に下がりながら走って行く。先ほど聞こえたメロディーよりも警戒にリズムよく動く彼の姿は、まるで子犬のように愛らしい。
「ヴァイス!」
朝一番に囀るナイチンゲールのような高い声で彼を呼ぶのは、隣の領地に住む銀髪の少女だ。
「ヴィー!」
明らかに後から駆け出したサヴァイヴのほうが距離を移動していた。先ほどまで近くにいた尊敬する父の姿が、大人という壁で全く見えない。だが、そんな事はどうでも良かった。
ダガーを手にしたまま駆け出していたと気づいたのは、小さなレディに手を差し伸べようとした時だった。
「あ、ご、ごめん。ヴィー!」
「ふふふ、とてもりっぱなおたんじょうびプレゼントね。かっこいい!」
「へへへ。おもちゃじゃないからあぶないよ。ヴィーはみるだけね?」
「むぅ。ちょっとでいいからさわりたいなぁ」
「だーめっ!」
ふっくらした白いやわらかな頬をぷくっと膨らませて拗ねる彼女の目には喜びが見て取れた。本気で触りたいと駄々をこねているわけではないが、鼻高々に、父から贈られた、これから剣を握る許可を得た証を自慢したくて仕方のないサヴァイヴとのやり取りを楽しんでいる。
周囲の大人たちも、幼い二人の少々元気のよすぎる様子を微笑ましく見て、誰もが仲の良さを歓迎しているようだった。
「ふふふ、あのね、わたしからもプレゼントがあるの!」
「え! なになに?」
「どうしよっかなー。ふふふ」
「ヴィー、いじわるしないでみせてよ~!」
「しょうがないなあ。きょうのしゅやくだもんね! はい、どうぞ!」
イヴォンヌから渡されたのは、縦長の箱だった。箱を飾るサヴァイヴの瞳の色のリボンは、銀色で縁取られていてとてもきれいだ。
「あけていい?」
「うん!」
箱の中にあったのは、ダークブルーとライトグリーンの色彩が左右に分かれているかのような髪を束ねる紐だった。
「ぼく、かみがみじかいんだけど……」
「ふふふ、おっきくなって、かみがのびたらつかってね。こっちがヴァイスで、こっちがわたし。ずっとなかよしのしるし。ね?」
「うん! わかった!」
お互いが、お互いの色の両端を小さな指で持つ。その姿は、紐が彼らを結び、ずっと一緒にいる証にも見えたのだった。
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