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11 聖女様がしおりを預かると仰って、俺の手元になかったんだ
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自慢ではないが、実は、私は前世で彼氏がいたことがある。そう、高校の時に3日だけ。なんか違うと3日目の朝いちばんでフラれた。向こうから告白してきたくせに。
なので、こういうことは初めてだ。目の前には、イケメンが笑顔でシャーベットを早く食べてと言わんばかりに微笑んでいる。マジかっこいい。
どうする? こういう時、どうしたらいいの?
彼は、「あーん、冷たくておいしっ! ボウウ様も食べて♡ はい、あーん♡」という、都市伝説にも似たアレを期待してそうだ。しかし、私はそういうのはノーセンキュー。
ほとほと困り果てて、キョロキョロ視線を移動させても、ここにいるのは私たちふたりだけ。そうこうしているうちに、シャーベットが溶けだして、フルーツフォークから落ちそうになった。
あ、もったいないっ!
お残し厳禁。食べ物を粗末にしちゃいけません。これが骨の髄まで染み込んだ私は、思わずそれをぱくりと口に入れた。
ひんやり、周囲がどろりと溶け出しているものの、シャリッとした食感が残っているスイカは、文句なく美味しかった。糖度は12くらいの、一番おいしい時期のものに違いない。
「美味しい……」
今の状況は不本意だけれども、スイカとメロン農家の人が丹精こめたこれらを、ありがたく頂戴しようと思った。だが、これほどの量をひとりで食べられない。5つ目くらいで、キーンと鼻の頭と米神と胃が痛くなるだろうし。
「あの、ボウウ様。お店のスタッフさんが、カトラリーの準備を間違えたようですわね」
私は、このシチュがわからない天然を装った。こうなったら、きゅるんと小首をかしげて、かわいらしく行ってみてやれと、顎に両手の拳を当てて上目遣いに彼を見る。
すると、ボウウ様がフリーズした。手から、唯一のフルーツフォークがカランと床に落ちる。
「まあ、大変。今すぐ、ふたりぶんのカトラリーを持ってきてもらいますわねっ!」
私は、大慌てでテーブルの上の、前世のファミレスでよく見かけた丸いベルを押した。静かになり出したのは、ポテト♪ポテト♪というような軽快なBGMではなく、小鳥のさえずりのような、癒しの効果がある音だった。
やってきたスタッフに、カトラリーをふたりぶん頼むと、今度は取り皿とフルーツフォークがふたつづつ持ってきてくれた。
ボウウ様は、私にあーんが出来ただけで満足してくれたのか、それ以降は大人しく私が小皿に取り分けたシャーベットボールを食べてくれたのである。
「そうだ、キヨク。しおりを返すよ」
「まあ、このしおりは……」
そういえば、今日の目的は、彼が偶然にも図書館の本から見つけた、私のしおりを返却することだった。返してもらったしおりには、アサガオとガラスの風鈴が描かれている。この世界には、アサガオや風鈴はない。それは、前世の記憶を頼りに、私が描いたものだ。
そのしおりは、私が魔法と力学を融合した専門書を読むときに使用していたものだ。小難しい論文が掲載されていて、専門外のそれを、騎士である彼が読んだのかとびっくりする。
「実は、キヨクが読んでいた本は、あまり読めていなかったんだ。その、本当に聖女様がらみのトラブルが頻発していて、その本を読むのが精いっぱいだったんだ。だから、キヨクが読んでいた本の内容を、女性であるタンシ聖女様に教えて貰っていて。だから、その。全部読んだなんて、嘘をついてすまない」
「そうでしたの……」
申し訳なさそうに、嘘をついたことを謝罪するボウウ様に、「いえいえ。私が読んでいた本を全部読まれていたことが、物凄く嫌でキモチワルイと思っていただけで。その程度なら全然平気ですよ」と、返しそうになったが口を閉ざした。
「あと、しおりなんだが、本当はすぐに返すつもりだったんだ。だけど、そのしおりのイラストを、聖女様がいたく気に入られて、聖女様がしおりを預かると仰って、俺の手元になかったんだ。忙しすぎて、聖女様はしおりのことを失念していたようだが、なんでも、ひとくぎりついてこれから暇になるから、俺が妻にしおりを返したいと申し出たら、しおりを返すからキヨクと話をしたいと仰られて……」
「そう、だったんですね」
なんだ、完全にストーカーとか勘違いしていただけか。だったら問題ないじゃない。
ボウウ様=変態だと決めつけていた自分を反省した。彼は、少々個性的な趣味嗜好がある普通(?)くらいの青年だったのだ。
もともと彼の好みはヒロインだし。たん呼びも、まあ推し活の人たちだと思えば、ギリ許容範囲内だ。完璧な人っていないから、もしいたらそれは人間じゃない何かだろうし。騎士として優秀で、真面目で誠実。しかもイケメン。結婚相手として、これほどの人材はいないだろう。
夜の設定という大問題が残っているけど、一緒にいるだけで憂鬱で重かった心が少し軽くなった。
「キヨク、俺の妻として、今後は殿下や聖女様とも関わりが多少ある。それとは別に、おふたりともとても良い方なんだ。だから、近々おふたりに紹介していいだろうか?」
私は、ボウウ様のことを偏見で見ていたことに気づいたことに頭がいっぱいで、なぜ聖女様が、私の書いたへたくそなアサガオと風鈴のしおりを彼から取り上げたのかをあまり気にしなかった。ゲームのヒロインとメインヒーローとお話もしてみたいし、彼の提案を受けることにしたのである。
なので、こういうことは初めてだ。目の前には、イケメンが笑顔でシャーベットを早く食べてと言わんばかりに微笑んでいる。マジかっこいい。
どうする? こういう時、どうしたらいいの?
彼は、「あーん、冷たくておいしっ! ボウウ様も食べて♡ はい、あーん♡」という、都市伝説にも似たアレを期待してそうだ。しかし、私はそういうのはノーセンキュー。
ほとほと困り果てて、キョロキョロ視線を移動させても、ここにいるのは私たちふたりだけ。そうこうしているうちに、シャーベットが溶けだして、フルーツフォークから落ちそうになった。
あ、もったいないっ!
お残し厳禁。食べ物を粗末にしちゃいけません。これが骨の髄まで染み込んだ私は、思わずそれをぱくりと口に入れた。
ひんやり、周囲がどろりと溶け出しているものの、シャリッとした食感が残っているスイカは、文句なく美味しかった。糖度は12くらいの、一番おいしい時期のものに違いない。
「美味しい……」
今の状況は不本意だけれども、スイカとメロン農家の人が丹精こめたこれらを、ありがたく頂戴しようと思った。だが、これほどの量をひとりで食べられない。5つ目くらいで、キーンと鼻の頭と米神と胃が痛くなるだろうし。
「あの、ボウウ様。お店のスタッフさんが、カトラリーの準備を間違えたようですわね」
私は、このシチュがわからない天然を装った。こうなったら、きゅるんと小首をかしげて、かわいらしく行ってみてやれと、顎に両手の拳を当てて上目遣いに彼を見る。
すると、ボウウ様がフリーズした。手から、唯一のフルーツフォークがカランと床に落ちる。
「まあ、大変。今すぐ、ふたりぶんのカトラリーを持ってきてもらいますわねっ!」
私は、大慌てでテーブルの上の、前世のファミレスでよく見かけた丸いベルを押した。静かになり出したのは、ポテト♪ポテト♪というような軽快なBGMではなく、小鳥のさえずりのような、癒しの効果がある音だった。
やってきたスタッフに、カトラリーをふたりぶん頼むと、今度は取り皿とフルーツフォークがふたつづつ持ってきてくれた。
ボウウ様は、私にあーんが出来ただけで満足してくれたのか、それ以降は大人しく私が小皿に取り分けたシャーベットボールを食べてくれたのである。
「そうだ、キヨク。しおりを返すよ」
「まあ、このしおりは……」
そういえば、今日の目的は、彼が偶然にも図書館の本から見つけた、私のしおりを返却することだった。返してもらったしおりには、アサガオとガラスの風鈴が描かれている。この世界には、アサガオや風鈴はない。それは、前世の記憶を頼りに、私が描いたものだ。
そのしおりは、私が魔法と力学を融合した専門書を読むときに使用していたものだ。小難しい論文が掲載されていて、専門外のそれを、騎士である彼が読んだのかとびっくりする。
「実は、キヨクが読んでいた本は、あまり読めていなかったんだ。その、本当に聖女様がらみのトラブルが頻発していて、その本を読むのが精いっぱいだったんだ。だから、キヨクが読んでいた本の内容を、女性であるタンシ聖女様に教えて貰っていて。だから、その。全部読んだなんて、嘘をついてすまない」
「そうでしたの……」
申し訳なさそうに、嘘をついたことを謝罪するボウウ様に、「いえいえ。私が読んでいた本を全部読まれていたことが、物凄く嫌でキモチワルイと思っていただけで。その程度なら全然平気ですよ」と、返しそうになったが口を閉ざした。
「あと、しおりなんだが、本当はすぐに返すつもりだったんだ。だけど、そのしおりのイラストを、聖女様がいたく気に入られて、聖女様がしおりを預かると仰って、俺の手元になかったんだ。忙しすぎて、聖女様はしおりのことを失念していたようだが、なんでも、ひとくぎりついてこれから暇になるから、俺が妻にしおりを返したいと申し出たら、しおりを返すからキヨクと話をしたいと仰られて……」
「そう、だったんですね」
なんだ、完全にストーカーとか勘違いしていただけか。だったら問題ないじゃない。
ボウウ様=変態だと決めつけていた自分を反省した。彼は、少々個性的な趣味嗜好がある普通(?)くらいの青年だったのだ。
もともと彼の好みはヒロインだし。たん呼びも、まあ推し活の人たちだと思えば、ギリ許容範囲内だ。完璧な人っていないから、もしいたらそれは人間じゃない何かだろうし。騎士として優秀で、真面目で誠実。しかもイケメン。結婚相手として、これほどの人材はいないだろう。
夜の設定という大問題が残っているけど、一緒にいるだけで憂鬱で重かった心が少し軽くなった。
「キヨク、俺の妻として、今後は殿下や聖女様とも関わりが多少ある。それとは別に、おふたりともとても良い方なんだ。だから、近々おふたりに紹介していいだろうか?」
私は、ボウウ様のことを偏見で見ていたことに気づいたことに頭がいっぱいで、なぜ聖女様が、私の書いたへたくそなアサガオと風鈴のしおりを彼から取り上げたのかをあまり気にしなかった。ゲームのヒロインとメインヒーローとお話もしてみたいし、彼の提案を受けることにしたのである。
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