完結  R18 転生したら、訳ありイケメン騎士様がプロポーズしてきたので、回避したいと思います

にじくす まさしよ

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4 女にフラれたから愛に殉じて死んじゃうなんて、喜ぶのはゲームユーザーくらい

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 私は、こちらを見上げる彼の視線から目をそらせなかった。

 ああ、照れ笑いをしている彼の気持ちはよくわかる。私が即答しないのを不思議がりつつも、返事は一択だと信じて疑ってもいない。さっきからの私の言動から、今から断るだなんてほぼありえないシチュだからだ。

「あ、の……ボウウ様……わ、私……」

 どうしよう。ここから先の言葉が思いつかない。何をどう言いつくろっても、私よりもはるかに素晴らしい人の申し出を断ることにしかならないからだ。

 ボウウ・ウォータプルフというキャラは、断っても怒り狂ったり、逆恨みしたりするような変な性格をしていない。ただ、ヒロインにフラれたルートでは、悲しみに打ちひしがれ自暴自棄になり、戦いに明け暮れて、とある部族との戦闘で命を落とすBADENDが待っている。

 それは、あまりにも気の毒だ。女にフラれたから愛に殉じて死んじゃうなんて、喜ぶのはゲームユーザーくらいだろう。

 解答例1
 私、勘違いしていたんです。さっきの話は、仕事のオファーかと思っていたんです。ボウウ様の申し出は、とても光栄なことなのですが、私にはあなたの妻になるなど、ふさわしくございません。ですので、お断りさせていただきますっ!

 解答例2
 実は、さっきは言い損ねておりましたが、実は夫候補というか、そういう人がいたんでした! 幼い頃の話だったので、彼のことをすっかり忘れてました!

 解答例3
 私、不妊なんです。ですから誰かの妻になるなんて無理なんです!

 1は、体のいい断り文句だ。これなら角がたたないかも。でも、一度期待をもたせておいてこれはないだろう。

 2は、流石に無理がある。そういった存在どころか片想いしている相手もいないと言ったばかりだし。

 3は、いつか私が本当に結婚したときに、子供が生まれたら嘘だということがわかる。魔法の診断では、私は不妊じゃないし。そもそも、一人娘が不妊だなんて噂でも流れでもすれば、それは流石にアース伯爵家にとって外聞が悪すぎるだけでなく、途方もない不利益をもたらすことになりかねない。

 私はヒロインではない。果たして、彼の求婚を断る人物が変わったからって、彼が命知らずな前線のトップバッターとして突入するというような危険なことから遠のくだろうか。
 戦争が起これば、騎士である彼はそこに赴かねばならない。でも、たとえ戦争に駆り出されたとて、今の彼なら、中央で指揮をする立場だから、あえて前線に行くとか特攻隊みたいなことをするわけがない。

 うーんうーん頭のしわを総動員して色々考えている途中、突然別の案が浮上した。

 解答例4
 私はアース伯爵の後継者だから、婿にこれる方じゃないと無理なのです。

 うん、これならどうだろう。私の気持ちではなく、あくまでも家の都合なのだ。これなら、彼が、ここまで気持ちが追い込まれることはない。と思う。うん。

 よし、そうと決まれば、言ってみよう。そうしよう。

「あの、ボウウ様、そのお申し出はとても光栄で、私個人としてはとても嬉しいです」
「キヨク嬢! いや、キヨク。では……!」

 ボウウ様の瞳が、キラキラ輝いた。彼は、私のその言葉を聞くと同時に立ち上がって、今にも私を抱きしめそうな体勢に変わる。やばいやばい。名前が、まるで妻確定のように、すっかり呼び捨てになっているではないか。

 ここで抱きしめられたら、自他ともに求婚を受けたことになっちゃう。それはダメ!

「ですが、わ、私は、アース伯爵家を継がねばなりません。ですので、婿に来ていただける方としか、結婚できないんですぅ」

 うう、罪悪感というか、変な気持ちと緊張が合わさって、舌がもつれる。でも、なんとか言い切った。どや、これで彼は仕方がないと諦めてくれるだろう。

 しかし、私の浅慮は瞬く間に砕けた。

「なんだ、そんなことか。安心してくれ、俺は家を継ぐ必要はないんだ。家の男爵位や資産を、家を出るからもらったばかりで、まだ住む場所などは決まっていない。婿が必要なら、よろこんでキヨクの婿としてアース伯爵家に入ろう。勿論、俺のもらった爵位や資産はアース伯爵家のものとしていい」

 おおう。100点満点の解答だと思ったのだが、前提条件そのものが彼にとって1Ωほどの抵抗にすらならなかった。

 彼自身は、実家から分け与えられた男爵として新たに家を興すことができるし、今後の活躍によっては地位がうなぎ上りになる。そんな成功が約束されたような状況なのに、まだ家を興していないフリーな状況だから、婿に入るだなんて。ありがためいわくな配慮とは、まさにこのこと。
 
「ボウウ様、そんな。そのような、大変なことをここで簡単に決めてはいけませんわ」

 そうだ。こういうことはきちんと両家で話し合いをしてからじゃないと。

「キヨクは、いきなりのことなのに、俺のことだけじゃなく、家のことまで考えてくれるのか。以前にも思ったんだが、本当に多方面に心遣いができる女性なんだな」

 私は、自分で自分の首をしめまくった。自分ではもうどうしようもないので、両親にこの結婚が嫌なことを訴えて、なんとか白紙にしてもらおうと思った。

 ただ、目の前の、満面の笑顔の彼の心とは真逆の、不誠実で不謹慎なことを考える。

 あら? ちょっと待って。以前にも思ったんだがってどういうこと?

 私には、彼と関った記憶なんてない。なのに、彼は以前から私自身を知っているみたい。ふと、どうして彼が私を知り、そして求婚してきたのか気になった。

「そういえば、どうして私なんですか? 他にも可愛くて家柄も良いご令嬢はたくさんいますでしょう?」

「ああ、そういえば言ってなかったな。緊張していて、肝心のことがまだだった。すまない」

 ここから、どうやって断ろうと私が考えているだなんて1ルーメンも考えてなさそうな彼が、照れて真面目そうに言うそんな表情もかっこいいなぁなんて思いながら、彼の話に耳を傾けたのだった。


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