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3 家が決めた婚約者も、お見合い相手も、恋人や片想いしている男性もおりません
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わあ、まるで騎士様の主君の誓いかプロポーズみたーい。かっこいー。
そんな風に、彼の、様になっている素敵な様子を見ていた。本当に、ゲームでの課金ガチャから排出されるスチルのようで、至近距離でイケメン騎士様のこの姿を見れて、私は胸がどきどきする。
「キヨク・アース伯爵令嬢、あなたには決まった相手がいないと聞きましたが、本当でしょうか? 近々、ご両親が決めた男性と見合いするなどの予定や、その、愛する男がいるなど、そういう事情はおありですか?」
はて、どうしてこんなことを聞いてくるのだろう?
そうは思ったものの、王子の最側近である彼の質問なのだ。きっと、深い意図があるに違いない。続く彼の言葉を、早急に両親に伝えなければならない事案が発生したのかと、胸がさっきとは違った意味でどきどきする。
「え? ええ。はい。家が決めた婚約者も、お見合い相手も、恋人や片想いしている男性もおりません」
自分で言ってて、なんともまあ情けない状況だ。
18の女性なら、普通はその3つのうちひとつくらいはあってしかるべきなのに。
私に一番近い男性はイヨウくんくらい。イヨウくんはイケメンで優秀で超優良物件で、好きか嫌いかと言えば好きだけど、それは好意の範疇を超えていない。
なので、嘘を吐く必要はないなと、王子の最側近である彼に真実をありのままに伝えた。
もしかしたら、魔法学の成績を認められて、第三王子の手掛ける事業のオファーに来たとか。
きっとそうだ。そうに違いない。結婚したらそういう仕事には就けないもの。
卒業したら、結婚なんてせずに、幼いころからの知人男性(40オーバーのダンディたち)から、うちに来てくれと請われていたし。
両親は、このまま家で花嫁修業しつつ、お見合いをさせる予定かもしれないけど、王族の関連会社に入職という名誉あるオファーに反対しないどころか、両手をあげて万歳三唱をするだろう。
私は、ごくりとつばを飲み、続く、ほぼ断れないだろう仕事の内容や条件など、何を言われても動揺しないように心構えをした。
「そうですか……良かった」
「はい。ですので、どうぞ、遠慮なく仰ってください」
結婚して家に入る女性を、無理に仕事に就かせるわけにはいかない。だから、彼の言葉は納得できた。さあ、早く会社名や、諸条件、特に給料や福利厚生、特に休日などを教えてくださいと、どきどきわくわくして返事した。
私の期待のこもった表情や瞳をじっと見つめた彼は、ふっと微笑んだ。それがまた、まさに彼スマイルの一枚のようで、ずきゅーんと無課金ラフなおじさまに胸を撃ち抜かれたかのように鼓動が跳ねる。
「そうか。んんっ。キヨク・アース伯爵令嬢」
「はい」
「どうか、私の妻になってくれないか?」
「は、ーんんんんっ?」
今、彼はなんつった?
思わず、条件反射ではいと言いかけた。さっきの彼の言葉は、想像していたものではない。
あっぶなー、あっぶなー。
思わずOKしそうになってしまった。胸がどきどきどきどきと、初めて感じるはげしすぎるビートと冷や汗がものすごい。
「突然のことで驚かせてしまい申し訳ない……在学中に、何度もあなたと接触しようと試みたのですが、なぜか聖女様がらみのトラブルが多くて。それに、あなたは、殿下や聖女様、俺、いや、私達から距離を置いていたし……」
チャンスが今までなかったんだと、照れくさそうに眼を細めるイケメンの、なんと素敵なことだろう。これが、彼のファンのご令嬢なら、ここがゲームの世界じゃなかったら、私だって目を♡にして二つ返事でOKしたかもしれない。
だが、私は知っている。ゲームでの彼の設定を。
冗談じゃないわ。ボウウ様と結婚なんかしたら……
ゲームでボウウさまルートをした時、ゲームではとても溺愛されて幸せで、ほんわかしたりどぎまぎしたりした。そう、あくまでゲームなら、ほんわかどきまぎですむ。しつこいようだけど、ゲームでは。
だが、これは私にとっては現実だ。あんな未来、私ではきっと早世してしまう。この世界に転生して両親を絶対に悲しませないと誓ったのに。
「キヨク嬢?」
私の、中途半端な悲鳴のような一文字を聞いてから、フリーズしている様子を見上げて、彼が怪訝そうに見つめてくる。そんな顔もイケメンすぎる。
「あああ、あの、わ、私……」
ノー一択だ。決して承諾してはならない。そう答えようとした。だけど困った。
どうしよう。さっき、ついさっき、彼の質問に私はなんて答えた?
「家が決めた婚約者も、お見合い相手も、恋人や片想いしている男性もおりません」だった。今更、別の男がいるとか言えない。詰んだ。
今思えば、彼は、片膝を地について、まさにプロポーズをしようとしているのがはっきりわかる体勢なのだ。あんなセリフ、誰が聞いても、あなたのプロポーズを受け入れますと言ったも同然のことだ。家が中立派閥だからと、簡単にお断りできる相手ではない。
あああ、どうして、私は彼のあの姿を見てわかっていたのに、仕事のオファーだなんて馬鹿なことを考えたのだろう。
いや、だって。接触なんかしないように過ごしていたし。見染められる切っ掛けなんて、それこそ、筋肉をちょっと動かすためのカルシウムイオンの電位ほどもないのだから。
5分前の自分の口を塞ぎたい! もしくは、最初に思っていた通り、トイレに行くふりをしてとんずらしたい! いや、いっそヒロインたちの真実の愛ハッピーエンドを、長く楽しんで拍手なんかするんじゃなかった!
確かめもしていないから困らせるかもしれないのに、イヨウくんっていう婚約者候補がいて彼と結婚する予定だと言いなおしたい。
でも、神は私の転生という奇跡をもたらしたけれど、たった10分のタイムリープをお許しにならなかった。
そんな風に、彼の、様になっている素敵な様子を見ていた。本当に、ゲームでの課金ガチャから排出されるスチルのようで、至近距離でイケメン騎士様のこの姿を見れて、私は胸がどきどきする。
「キヨク・アース伯爵令嬢、あなたには決まった相手がいないと聞きましたが、本当でしょうか? 近々、ご両親が決めた男性と見合いするなどの予定や、その、愛する男がいるなど、そういう事情はおありですか?」
はて、どうしてこんなことを聞いてくるのだろう?
そうは思ったものの、王子の最側近である彼の質問なのだ。きっと、深い意図があるに違いない。続く彼の言葉を、早急に両親に伝えなければならない事案が発生したのかと、胸がさっきとは違った意味でどきどきする。
「え? ええ。はい。家が決めた婚約者も、お見合い相手も、恋人や片想いしている男性もおりません」
自分で言ってて、なんともまあ情けない状況だ。
18の女性なら、普通はその3つのうちひとつくらいはあってしかるべきなのに。
私に一番近い男性はイヨウくんくらい。イヨウくんはイケメンで優秀で超優良物件で、好きか嫌いかと言えば好きだけど、それは好意の範疇を超えていない。
なので、嘘を吐く必要はないなと、王子の最側近である彼に真実をありのままに伝えた。
もしかしたら、魔法学の成績を認められて、第三王子の手掛ける事業のオファーに来たとか。
きっとそうだ。そうに違いない。結婚したらそういう仕事には就けないもの。
卒業したら、結婚なんてせずに、幼いころからの知人男性(40オーバーのダンディたち)から、うちに来てくれと請われていたし。
両親は、このまま家で花嫁修業しつつ、お見合いをさせる予定かもしれないけど、王族の関連会社に入職という名誉あるオファーに反対しないどころか、両手をあげて万歳三唱をするだろう。
私は、ごくりとつばを飲み、続く、ほぼ断れないだろう仕事の内容や条件など、何を言われても動揺しないように心構えをした。
「そうですか……良かった」
「はい。ですので、どうぞ、遠慮なく仰ってください」
結婚して家に入る女性を、無理に仕事に就かせるわけにはいかない。だから、彼の言葉は納得できた。さあ、早く会社名や、諸条件、特に給料や福利厚生、特に休日などを教えてくださいと、どきどきわくわくして返事した。
私の期待のこもった表情や瞳をじっと見つめた彼は、ふっと微笑んだ。それがまた、まさに彼スマイルの一枚のようで、ずきゅーんと無課金ラフなおじさまに胸を撃ち抜かれたかのように鼓動が跳ねる。
「そうか。んんっ。キヨク・アース伯爵令嬢」
「はい」
「どうか、私の妻になってくれないか?」
「は、ーんんんんっ?」
今、彼はなんつった?
思わず、条件反射ではいと言いかけた。さっきの彼の言葉は、想像していたものではない。
あっぶなー、あっぶなー。
思わずOKしそうになってしまった。胸がどきどきどきどきと、初めて感じるはげしすぎるビートと冷や汗がものすごい。
「突然のことで驚かせてしまい申し訳ない……在学中に、何度もあなたと接触しようと試みたのですが、なぜか聖女様がらみのトラブルが多くて。それに、あなたは、殿下や聖女様、俺、いや、私達から距離を置いていたし……」
チャンスが今までなかったんだと、照れくさそうに眼を細めるイケメンの、なんと素敵なことだろう。これが、彼のファンのご令嬢なら、ここがゲームの世界じゃなかったら、私だって目を♡にして二つ返事でOKしたかもしれない。
だが、私は知っている。ゲームでの彼の設定を。
冗談じゃないわ。ボウウ様と結婚なんかしたら……
ゲームでボウウさまルートをした時、ゲームではとても溺愛されて幸せで、ほんわかしたりどぎまぎしたりした。そう、あくまでゲームなら、ほんわかどきまぎですむ。しつこいようだけど、ゲームでは。
だが、これは私にとっては現実だ。あんな未来、私ではきっと早世してしまう。この世界に転生して両親を絶対に悲しませないと誓ったのに。
「キヨク嬢?」
私の、中途半端な悲鳴のような一文字を聞いてから、フリーズしている様子を見上げて、彼が怪訝そうに見つめてくる。そんな顔もイケメンすぎる。
「あああ、あの、わ、私……」
ノー一択だ。決して承諾してはならない。そう答えようとした。だけど困った。
どうしよう。さっき、ついさっき、彼の質問に私はなんて答えた?
「家が決めた婚約者も、お見合い相手も、恋人や片想いしている男性もおりません」だった。今更、別の男がいるとか言えない。詰んだ。
今思えば、彼は、片膝を地について、まさにプロポーズをしようとしているのがはっきりわかる体勢なのだ。あんなセリフ、誰が聞いても、あなたのプロポーズを受け入れますと言ったも同然のことだ。家が中立派閥だからと、簡単にお断りできる相手ではない。
あああ、どうして、私は彼のあの姿を見てわかっていたのに、仕事のオファーだなんて馬鹿なことを考えたのだろう。
いや、だって。接触なんかしないように過ごしていたし。見染められる切っ掛けなんて、それこそ、筋肉をちょっと動かすためのカルシウムイオンの電位ほどもないのだから。
5分前の自分の口を塞ぎたい! もしくは、最初に思っていた通り、トイレに行くふりをしてとんずらしたい! いや、いっそヒロインたちの真実の愛ハッピーエンドを、長く楽しんで拍手なんかするんじゃなかった!
確かめもしていないから困らせるかもしれないのに、イヨウくんっていう婚約者候補がいて彼と結婚する予定だと言いなおしたい。
でも、神は私の転生という奇跡をもたらしたけれど、たった10分のタイムリープをお許しにならなかった。
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