8 / 23
2 遠巻きに見ていたい目の保養対象
しおりを挟む
学園では、成績優秀者として学業を修めることができた。ゲームヒロインや、きらびやかな人たちのおかげで、私程度の学生は目立つことなく過ごせてよかった。目立っていいことなんてないから。
ちょっとした移動教室なんかに一緒にいく友達も出来たし、まずまずの青春時代というやつを送れたと思う。
ただ、問題があるとすれば、私には決まった結婚相手がいないことだ。ここは、卒業までに8割がたは婚約者が決まるような世界で、私にはそういうお相手との縁ができなかったのである。
まあ、両親も無理に見合いをさせたりしなかったし、おそらくは家族ぐるみのつきあいのあるイヨウくんと結婚するのかなーと漠然と思っていたけど。
彼なら良く知っているし、私のことも嫌いじゃないと思う。しかもイケメンで、この間遺跡発掘調査でなんかの賞をとっていた。
私にとって、彼との結婚を強く拒否する理由はない。見ず知らずの男性と、結婚後に愛人がいたとか、仮面夫婦なんていやだもの。彼が他の女性がいいとなれば大人しく身を引こうと思うけど。
今日は学園の卒業式のあとの祝賀会。学園のカーストトップ連中が、ひとりの美少女を囲んでいる。ゲームも終盤かあと、王道ストーリーを順調にすすめたタンシちゃんとヌケドメさまの仲睦まじい様子を、皆微笑んで祝福している。幸い、王族のどろどろとした継承権争いもない。王子と聖女が結ばれたら、この国は安泰だろう。
サブヒーローたちも、ふたりを心から祝福していて、ヒカケさまはご自分の婚約者と寄り添って微笑み合っている。あ、ヌケドメさまには婚約者がいたけれど、彼女は本命の執事とひっついたので、どろどろした婚約破棄騒動やら、タンシちゃんへのいじめはなかったらしい。
私も群衆に紛れて、ゲームの世界の美男美女たちの大団円を近場で見せてもらって感無量になり、パチパチ手を叩いていた。
「キヨク嬢、ちょっといいか?」
卒業だけでなく、様々な感動で胸がいっぱいな今、それに水をかけるように、何度も呼ばれた。私に声をかけてくる男性なんて、魔法学関連のことしかない。
晴れやかな舞台で、そんな灰色のことなんてしたくなく、気づかないふりをして、隣にいる友人たちと涙で潤んだ目でふたりを祝福しつづけた。
しかし、それを見過ごせなかった友人から肘で脇腹をつんつんつつかれた。すぐに離れるどころか、このままだとずっと名前を呼ばれそうだ。いい加減スルーするのも失礼かと思い、友人に促されるままそちらのほうを向いた。
目の前には、今まで接触どころかクラスメイトにすらなったことのない、ボウウ・ウォータプルフさまがいた。きらびやかな一行のひとりが、王子たちから離れてどうしてここにいるのか。
というか、さっきまで彼らの側にいましたよね?
私は、感動のあまり自分の目か頭がおかしくなったのかと、ヒロインたちのほうを振り返る。するとそこには、すでに彼らの姿がなかった。
ということは、今見た人は、正真正銘ボウウさまなのだろうか。未だに信じられず、まじまじと彼を見上げる。
すると彼は、耳を赤くして大きなごつごつした手で顔の下半分を隠すように覆った。シャンデリアの光が、彼の艶やかな黒髪を輝かせ、黄金の琥珀色の瞳は緊張しているのかなんなのかややうるんでいる。
攻略対象だけあって、少々武骨ながらもセクシーさをかもしだしているイケメンのそんな姿は、思わず見惚れてしまうほど恰好良い。
今日の彼は、王子と聖女の護衛騎士として与えられた真新しい正式な騎士服に身を包んでいた。彼の髪と同じ軽くてなめらかで、生地の表面には上質なツヤのある生地に、ほどよく施された金糸の模様。ゲームシナリオ通りなら、彼はすでに何度もヒロインと王子を助けてきているはずで、その証拠に胸元には勲章がいくつか飾られている。
いくら第三王子の側近で由緒あるウォータプルフ伯爵家とはいえ、4男で新米騎士の彼には考えられないほどの勲章の数と、肩章の色と形、そしてそこにある3つ星は、ちょっとした部隊長レベルであることを示している。
つまり、彼は学生を卒業してすぐに、出世街道を他の新米騎士たちの遥か先を進んでおり、行く末は騎士団長とかそれに準ずる地位をやくされていて安定以外のなにものでもない。
そして、その姿は、彼の立ち振る舞いや雰囲気、そして経歴に沿ったもので、とても似合っていた。どこからどうみても素敵な騎士さまの姿に、まだ相手の決まっていない令嬢たちが頬を染めて色のこもった視線を投げかけている。
ここではなんだからと、ふたりきりになれる裏庭に連れていかれた。どっちかというと、遠巻きに見ていたい目の保養対象だ。もう疲れちゃったし、令嬢たちからにらまれるのはごめんだ。
トイレに行くふりでもしてそのまま家に帰りたいなーなんて思っていると、人気のない場所までたどり着いてしまった。
「ご友人との別れの時間に水を差してすまない」
「いえ……」
一体、私に何の用なのだろう。
ヒロインは最初から最後まで王子一択でブレることなかったし、ヒカケさまも彼もタンシちゃんには、守護するべき女性だという感情以上のものを持っていたようには思えなかった。
遠巻きに見て、噂を聞いていただけだけど、メインヒーローが最初から決まっているのなら、このゲームではサブキャラは当て馬の存在にもなっていないはずだし。
うんうん悩んでいると、彼がいきなり片膝をついた。そして、私をじっと見つめながら手を差し伸べて、愕然とするようなことを言い出したのである。
ちょっとした移動教室なんかに一緒にいく友達も出来たし、まずまずの青春時代というやつを送れたと思う。
ただ、問題があるとすれば、私には決まった結婚相手がいないことだ。ここは、卒業までに8割がたは婚約者が決まるような世界で、私にはそういうお相手との縁ができなかったのである。
まあ、両親も無理に見合いをさせたりしなかったし、おそらくは家族ぐるみのつきあいのあるイヨウくんと結婚するのかなーと漠然と思っていたけど。
彼なら良く知っているし、私のことも嫌いじゃないと思う。しかもイケメンで、この間遺跡発掘調査でなんかの賞をとっていた。
私にとって、彼との結婚を強く拒否する理由はない。見ず知らずの男性と、結婚後に愛人がいたとか、仮面夫婦なんていやだもの。彼が他の女性がいいとなれば大人しく身を引こうと思うけど。
今日は学園の卒業式のあとの祝賀会。学園のカーストトップ連中が、ひとりの美少女を囲んでいる。ゲームも終盤かあと、王道ストーリーを順調にすすめたタンシちゃんとヌケドメさまの仲睦まじい様子を、皆微笑んで祝福している。幸い、王族のどろどろとした継承権争いもない。王子と聖女が結ばれたら、この国は安泰だろう。
サブヒーローたちも、ふたりを心から祝福していて、ヒカケさまはご自分の婚約者と寄り添って微笑み合っている。あ、ヌケドメさまには婚約者がいたけれど、彼女は本命の執事とひっついたので、どろどろした婚約破棄騒動やら、タンシちゃんへのいじめはなかったらしい。
私も群衆に紛れて、ゲームの世界の美男美女たちの大団円を近場で見せてもらって感無量になり、パチパチ手を叩いていた。
「キヨク嬢、ちょっといいか?」
卒業だけでなく、様々な感動で胸がいっぱいな今、それに水をかけるように、何度も呼ばれた。私に声をかけてくる男性なんて、魔法学関連のことしかない。
晴れやかな舞台で、そんな灰色のことなんてしたくなく、気づかないふりをして、隣にいる友人たちと涙で潤んだ目でふたりを祝福しつづけた。
しかし、それを見過ごせなかった友人から肘で脇腹をつんつんつつかれた。すぐに離れるどころか、このままだとずっと名前を呼ばれそうだ。いい加減スルーするのも失礼かと思い、友人に促されるままそちらのほうを向いた。
目の前には、今まで接触どころかクラスメイトにすらなったことのない、ボウウ・ウォータプルフさまがいた。きらびやかな一行のひとりが、王子たちから離れてどうしてここにいるのか。
というか、さっきまで彼らの側にいましたよね?
私は、感動のあまり自分の目か頭がおかしくなったのかと、ヒロインたちのほうを振り返る。するとそこには、すでに彼らの姿がなかった。
ということは、今見た人は、正真正銘ボウウさまなのだろうか。未だに信じられず、まじまじと彼を見上げる。
すると彼は、耳を赤くして大きなごつごつした手で顔の下半分を隠すように覆った。シャンデリアの光が、彼の艶やかな黒髪を輝かせ、黄金の琥珀色の瞳は緊張しているのかなんなのかややうるんでいる。
攻略対象だけあって、少々武骨ながらもセクシーさをかもしだしているイケメンのそんな姿は、思わず見惚れてしまうほど恰好良い。
今日の彼は、王子と聖女の護衛騎士として与えられた真新しい正式な騎士服に身を包んでいた。彼の髪と同じ軽くてなめらかで、生地の表面には上質なツヤのある生地に、ほどよく施された金糸の模様。ゲームシナリオ通りなら、彼はすでに何度もヒロインと王子を助けてきているはずで、その証拠に胸元には勲章がいくつか飾られている。
いくら第三王子の側近で由緒あるウォータプルフ伯爵家とはいえ、4男で新米騎士の彼には考えられないほどの勲章の数と、肩章の色と形、そしてそこにある3つ星は、ちょっとした部隊長レベルであることを示している。
つまり、彼は学生を卒業してすぐに、出世街道を他の新米騎士たちの遥か先を進んでおり、行く末は騎士団長とかそれに準ずる地位をやくされていて安定以外のなにものでもない。
そして、その姿は、彼の立ち振る舞いや雰囲気、そして経歴に沿ったもので、とても似合っていた。どこからどうみても素敵な騎士さまの姿に、まだ相手の決まっていない令嬢たちが頬を染めて色のこもった視線を投げかけている。
ここではなんだからと、ふたりきりになれる裏庭に連れていかれた。どっちかというと、遠巻きに見ていたい目の保養対象だ。もう疲れちゃったし、令嬢たちからにらまれるのはごめんだ。
トイレに行くふりでもしてそのまま家に帰りたいなーなんて思っていると、人気のない場所までたどり着いてしまった。
「ご友人との別れの時間に水を差してすまない」
「いえ……」
一体、私に何の用なのだろう。
ヒロインは最初から最後まで王子一択でブレることなかったし、ヒカケさまも彼もタンシちゃんには、守護するべき女性だという感情以上のものを持っていたようには思えなかった。
遠巻きに見て、噂を聞いていただけだけど、メインヒーローが最初から決まっているのなら、このゲームではサブキャラは当て馬の存在にもなっていないはずだし。
うんうん悩んでいると、彼がいきなり片膝をついた。そして、私をじっと見つめながら手を差し伸べて、愕然とするようなことを言い出したのである。
109
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる