2 / 23
そのくらいのこと、いちいち気にしていたらやっていけないわよ
しおりを挟む
「どうして、こんなこともわからないの? 最近の若い子は、知ってて同然のことまで知らずに大人になったものね。ああ、あなたが悪いんじゃないのよ? これから頑張ってもらえればいいから」
「申し訳ございません」
入社して3日目の私が、右も左もわからない会社の中でも、難しい特殊な作業についてわかっていたら天才だと思います。それから、暗に両親を悪く言わないでください。
「前にも言ったわよね? 指導した通りにすれば、こんなミスは起こらないはずなのに。いい加減、メモくらい取りなさいよ」
「申し訳ございません」
入社して半年、マニュアル通りに作成したものを却下したあなたが、その時々で変えていったマイルール通りにしたものが、全てミスを誘発しているのです。メモは、同じ作業に関するあなたが教えてくれた方法がたくさんあって、どれを見ればいいのかわからない状態になっています。
「もういいわ、あなたに任せた私が悪いのよ。はぁー、ったく、なんだって尻ぬぐいばっかりしなきゃならないのかしら」
「申し訳ございません」
入社1年目の私にその仕事は早いと、80%出来上がっていたものをあなたが取り上げてから最終段階で失敗したものですよね?
毎日のように、主原因が上司のことで嫌味を言われ続けた。女性だったから、暴力やセクハラはなかったけれど、彼女の言葉を聞くことが、会社に行くことが嫌でたまらない。
一緒に頑張ろうねと、笑い励ましあった同僚たちはさっさとやめてしまっている。残っている先輩たちは、社長の身内である彼女から、新人の私を庇うはずがない。それどころか、自分に矛先を向けられるのが嫌だから、あえて私を盾にしているのがわかった。
「ちょっと、清玖。あなた後頭部にハゲが出来てるわよ」
2年目になり、最低評価のボーナスと言う名の寸志を貰った頃、母が突然叫んだ。母から話を持ち掛けられ、心配かけたらだめだと、それまで自分の中に閉じ込めていた気持ちを吐き出す。
「お母さんもお父さんもフルタイムで働いているから、手がかからないからといって清玖のことを気にかけなさすぎたわ。ごめんね。で、具体的には、どんなことが嫌だったの?」
私が告白したことは、昭和の職場を生き抜きたくましくなった母には、ほんの些細なことだった。
「そのくらいのこと、いちいち気にしていたらやっていけないわよ? お母さんが新人の頃は、しょっぱなの質問に答えられなかったら、なにしにきた帰れってどなられたものよ? お父さんの職場だって、あほぼけかすまぬけーって怒号が飛び交うようなところだったし。今は、その当時に比べたら、大分改善されて働きやすくなったと思うんだけど。友達とわいわいはしゃいで飲み会とか旅行とか、ストレス発散を、あー……あなたはしないわね」
ストレス発散の方法なんて、あまりない。私含めて、手にスキルを持たずに就職した友達みんな、生きていくだけでかつかつの給料しかもらっていないから、気軽に歯医者にだって行けない。ましてや、旅行や飲みにいくなんてもってのほか。
せいぜい、オープンワールドRPGで一緒にゲームキャラで遊んで会話するくらいだし、せっかくの楽しい時間に愚痴なんていいたくない。皆頑張っているんだからと、学生時代からの友人にも、本当につらいことを打ち明けることはなかった。
その些細な小さなことが、塵のように徐々に心につもり、吐き出しても胸の中の泉は淀んでしまうのだ。
母は、もっとひどい状況でも耐え抜けたのだろう。私には、母にとって1/10以下のことが、どうしても無理である。こんな私の悩みなんて甘えからくる、バカバカしいものだと理解してくれそうにないと思い口をつぐむ。
「申し訳ございません」
入社して3日目の私が、右も左もわからない会社の中でも、難しい特殊な作業についてわかっていたら天才だと思います。それから、暗に両親を悪く言わないでください。
「前にも言ったわよね? 指導した通りにすれば、こんなミスは起こらないはずなのに。いい加減、メモくらい取りなさいよ」
「申し訳ございません」
入社して半年、マニュアル通りに作成したものを却下したあなたが、その時々で変えていったマイルール通りにしたものが、全てミスを誘発しているのです。メモは、同じ作業に関するあなたが教えてくれた方法がたくさんあって、どれを見ればいいのかわからない状態になっています。
「もういいわ、あなたに任せた私が悪いのよ。はぁー、ったく、なんだって尻ぬぐいばっかりしなきゃならないのかしら」
「申し訳ございません」
入社1年目の私にその仕事は早いと、80%出来上がっていたものをあなたが取り上げてから最終段階で失敗したものですよね?
毎日のように、主原因が上司のことで嫌味を言われ続けた。女性だったから、暴力やセクハラはなかったけれど、彼女の言葉を聞くことが、会社に行くことが嫌でたまらない。
一緒に頑張ろうねと、笑い励ましあった同僚たちはさっさとやめてしまっている。残っている先輩たちは、社長の身内である彼女から、新人の私を庇うはずがない。それどころか、自分に矛先を向けられるのが嫌だから、あえて私を盾にしているのがわかった。
「ちょっと、清玖。あなた後頭部にハゲが出来てるわよ」
2年目になり、最低評価のボーナスと言う名の寸志を貰った頃、母が突然叫んだ。母から話を持ち掛けられ、心配かけたらだめだと、それまで自分の中に閉じ込めていた気持ちを吐き出す。
「お母さんもお父さんもフルタイムで働いているから、手がかからないからといって清玖のことを気にかけなさすぎたわ。ごめんね。で、具体的には、どんなことが嫌だったの?」
私が告白したことは、昭和の職場を生き抜きたくましくなった母には、ほんの些細なことだった。
「そのくらいのこと、いちいち気にしていたらやっていけないわよ? お母さんが新人の頃は、しょっぱなの質問に答えられなかったら、なにしにきた帰れってどなられたものよ? お父さんの職場だって、あほぼけかすまぬけーって怒号が飛び交うようなところだったし。今は、その当時に比べたら、大分改善されて働きやすくなったと思うんだけど。友達とわいわいはしゃいで飲み会とか旅行とか、ストレス発散を、あー……あなたはしないわね」
ストレス発散の方法なんて、あまりない。私含めて、手にスキルを持たずに就職した友達みんな、生きていくだけでかつかつの給料しかもらっていないから、気軽に歯医者にだって行けない。ましてや、旅行や飲みにいくなんてもってのほか。
せいぜい、オープンワールドRPGで一緒にゲームキャラで遊んで会話するくらいだし、せっかくの楽しい時間に愚痴なんていいたくない。皆頑張っているんだからと、学生時代からの友人にも、本当につらいことを打ち明けることはなかった。
その些細な小さなことが、塵のように徐々に心につもり、吐き出しても胸の中の泉は淀んでしまうのだ。
母は、もっとひどい状況でも耐え抜けたのだろう。私には、母にとって1/10以下のことが、どうしても無理である。こんな私の悩みなんて甘えからくる、バカバカしいものだと理解してくれそうにないと思い口をつぐむ。
120
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる