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19 指輪を外した夫は
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カキョウおばさまたちのおかげで、私は電流のコントロールができるようになった。心は相変わらずざわめいて、嵐のように狂っているけれど、不思議と落ち着いた。
大きな手から伝わる彼の想いが、私の胸を包んでくれたからかもしれない。
ドーナツ屋は、基礎の部分まで壊れてしまっていて、マスターは両膝をついて嘆いている。思い入れのある、彼の宝ものを、故意じゃないとはいえ壊してしまった。私の個人的な事情のせいで、彼には、本当に申し訳ないことをしたと思う。
まだふらふらしているけれど、マスターに頭を下げた。
「申し訳ございません。マスターの気持ちのこもったお城を完全に元には戻せないとは思います。ですが、誠心誠意を込めて、復旧させてください」
「うう……あ、ご夫人。い、いえ、もともとボロボロでしたからね! 近々新築そっくりさんみたいに、大規模なリフォーム、いや、解体して新しい店舗を作る予定だったんですよ! いや、ほんと。気にしないでください!」
リフォームの予定なんてなかったのがバレバレな彼の嘘。レシピの研究などの資料もあったに違いない。深く傷ついているというのに、自分のことよりも、私への気遣いが嬉しくて、彼の強さに胸が熱くなる。涙があふれそうになった。
リーマとトーチさんは、もう家か職場に戻ったのか、どこにも姿が見えなかった。
近々、彼らとは話をしなければならない。リーマがトーチさんを選ぶのなら、心が散り散りになりそうなほど辛いけれど、離婚も視野に入れて覚悟をしておかねば。
そう思うものの、少し考えようとしただけでも、手の爪の先まで凍えてしまう。
でも、その凍えた場所は、電流でやけどを負った大きな手が温めてくれた。
落ち着いてすぐに、リーマと話し合いをするのは得策じゃない。
カキョウおばさまたちが、何かあったらすぐに対処できるように側にいてもらえる日と、何があってもダメージがあまりない広場で、リーマとトーチさんと話をすることになった。
お兄さまも同席すると息巻いていたけれど、余計に混乱を招きそうだ。ここから離れてもらうために、彼女さんに頼んで彼女の弟さんの新しい店舗の計画を一緒にしてもらうことにした。
「エル、すまなかった……」
意気揚々と、話し合いの場に現れたトーチさんと違って、リーマは憔悴しきっていた。
「俺は、貴族に生まれたかった。でも、現実はそうじゃない。エルが悪いわけじゃないのに、仕事にしても色んなことにしても、大きな壁を感じる度に、エルに八つ当たりをしていた。生まれも底辺で、力も金もない俺の問題なのに、ことあるごとにエルの家や騎士団の貴族たちの大きな差を感じて、自分で勝手に卑屈になっていたんだ……」
そういえば、喧嘩の日も、昇進はここまでだって荒々しく家を出ていった。
トーチさんとは、もう長い間そういう仲だったと言われた。肌を合わせなくなった日の始まりからだ。
「だから、私に触れなくなったの? 嫌になったから? だったら、その時にトーチさんがいいって告白してくれたら良かったのに。拒否したかもしれないけど、逃げずに私と向き合ってほしかった。今日まで、1%の期待をして待っていたのよ」
「……すまない」
「今回の騒動は、色んな人が目撃したわ。ことが明るみになった以上、私は妻としての権限を持って、あなたと離婚します」
「わかった」
リーマは肩を落として、今日は身についている結婚指輪を自分で抜き取って差し出してきた。
それを見て、トーチさんが喜んで彼に抱きついている。
その様子を見て、リーマはトーチさんほど彼女を愛しているわけではなさそうだとなんとなく思った。まだ、新婚の頃の私のほうが、愛されていたんじゃないかなって。
そうでも思わなければ、今を受け入れられそうになかった。
でも、もう過去のこと。言い聞かせて、本当に過去のことに変わるのはいつだろう。こないかも知れない。
カキョウおばさまが心配するような心の乱れも電流の異常放出もなく、ふたりとの話合いは終わった。
後日、貴族女性から離縁され、私の夫という立場から平民になったこともあり、リーマは降格処分となった。
トーチさんは、リーマが部隊長の地位のまま、新たなふたりの出発ができると喜んでいたみたいだけれど、目論見が外れたことでリーマをぽいっといとも簡単に捨てたらしい。
「地位も名誉もお金もない男が捨てられるなんて、よくあることだわ」
私の初めての結婚式で投げたブーケを受け取った青年は、任務から無事に帰還した。お祝いを兼ねたパーティで、私の離婚騒ぎをわくわくして聞きたがったマダムは、リーマの転落を優雅に笑ってお茶を飲んだ。
「でも、マダムは死地に赴いたような彼を、ずっとお待ちになられていましたよね? それこそ、平民の騎士の夫が、危険な任務にいくとすぐに離婚してしまうのが、よくあることですのに」
私の小さな反撃に、マダムは目を丸くして、ほほほと高らかに笑う。
「それは勿論そうよ。だって、私はこの人を愛しているんですもの。地位よりも、名誉よりも、そしてお金よりも、彼のほうが、私にとっては価値のある、かけがえのないものなのよ。ま、簡単に寝取った男を、あら、失礼。手に入れた男をポイ捨てするような女は、ろくな男が寄っていかないわね」
マダムは、リーマとトーチさんの不祥事をあまり快く思わなかったみたい。これで、ふたりがよりそって仲良くすごすならともかく、私を傷つけてすぐに別れたふたりには同情の余地がないといい切った。
「後ろ盾をなくした彼の名が、うちの人の次に調査チームに連なっているそうよ」
「そうですか」
危険な調査は、誰かが行かなければならない。リーマは、これまで私の夫だから除外されていただけなのだ。
平民だから、こういう任務が不平等に課せられる。
こんな理不尽なことから逃れたかったリーマの気持ちが、ほんの少しだけ理解出来たような気がする。ううん、私には無縁な世界だから、気がしただけ、かも。
トーチさんは、リーマと別れたあと、随分年上の金持ちの男性と結婚したそうだ。彼女は、マダムたちの間では有名な、その男性の特殊な性癖を知らなかったみたい。毎夜、彼女が悲鳴をあげていると、かの家の使用人から筒抜けになっていた。
「ふん、平民が小賢しく私たちを利用しようとするからよ」
「あらあら、マダムったら。いまのは悪女っぽくて素敵です」
「私は悪女っぽいんじゃなくて、悪女なの。だって、そのくらいのほうが好きだって、この人が言うんですもの。なら、この国一番の悪女になってみせるわ」
彼女ののろけ言葉に、夫をあいする健気でかわいい悪女が、マダムたちの間で流行したのだった。
大きな手から伝わる彼の想いが、私の胸を包んでくれたからかもしれない。
ドーナツ屋は、基礎の部分まで壊れてしまっていて、マスターは両膝をついて嘆いている。思い入れのある、彼の宝ものを、故意じゃないとはいえ壊してしまった。私の個人的な事情のせいで、彼には、本当に申し訳ないことをしたと思う。
まだふらふらしているけれど、マスターに頭を下げた。
「申し訳ございません。マスターの気持ちのこもったお城を完全に元には戻せないとは思います。ですが、誠心誠意を込めて、復旧させてください」
「うう……あ、ご夫人。い、いえ、もともとボロボロでしたからね! 近々新築そっくりさんみたいに、大規模なリフォーム、いや、解体して新しい店舗を作る予定だったんですよ! いや、ほんと。気にしないでください!」
リフォームの予定なんてなかったのがバレバレな彼の嘘。レシピの研究などの資料もあったに違いない。深く傷ついているというのに、自分のことよりも、私への気遣いが嬉しくて、彼の強さに胸が熱くなる。涙があふれそうになった。
リーマとトーチさんは、もう家か職場に戻ったのか、どこにも姿が見えなかった。
近々、彼らとは話をしなければならない。リーマがトーチさんを選ぶのなら、心が散り散りになりそうなほど辛いけれど、離婚も視野に入れて覚悟をしておかねば。
そう思うものの、少し考えようとしただけでも、手の爪の先まで凍えてしまう。
でも、その凍えた場所は、電流でやけどを負った大きな手が温めてくれた。
落ち着いてすぐに、リーマと話し合いをするのは得策じゃない。
カキョウおばさまたちが、何かあったらすぐに対処できるように側にいてもらえる日と、何があってもダメージがあまりない広場で、リーマとトーチさんと話をすることになった。
お兄さまも同席すると息巻いていたけれど、余計に混乱を招きそうだ。ここから離れてもらうために、彼女さんに頼んで彼女の弟さんの新しい店舗の計画を一緒にしてもらうことにした。
「エル、すまなかった……」
意気揚々と、話し合いの場に現れたトーチさんと違って、リーマは憔悴しきっていた。
「俺は、貴族に生まれたかった。でも、現実はそうじゃない。エルが悪いわけじゃないのに、仕事にしても色んなことにしても、大きな壁を感じる度に、エルに八つ当たりをしていた。生まれも底辺で、力も金もない俺の問題なのに、ことあるごとにエルの家や騎士団の貴族たちの大きな差を感じて、自分で勝手に卑屈になっていたんだ……」
そういえば、喧嘩の日も、昇進はここまでだって荒々しく家を出ていった。
トーチさんとは、もう長い間そういう仲だったと言われた。肌を合わせなくなった日の始まりからだ。
「だから、私に触れなくなったの? 嫌になったから? だったら、その時にトーチさんがいいって告白してくれたら良かったのに。拒否したかもしれないけど、逃げずに私と向き合ってほしかった。今日まで、1%の期待をして待っていたのよ」
「……すまない」
「今回の騒動は、色んな人が目撃したわ。ことが明るみになった以上、私は妻としての権限を持って、あなたと離婚します」
「わかった」
リーマは肩を落として、今日は身についている結婚指輪を自分で抜き取って差し出してきた。
それを見て、トーチさんが喜んで彼に抱きついている。
その様子を見て、リーマはトーチさんほど彼女を愛しているわけではなさそうだとなんとなく思った。まだ、新婚の頃の私のほうが、愛されていたんじゃないかなって。
そうでも思わなければ、今を受け入れられそうになかった。
でも、もう過去のこと。言い聞かせて、本当に過去のことに変わるのはいつだろう。こないかも知れない。
カキョウおばさまが心配するような心の乱れも電流の異常放出もなく、ふたりとの話合いは終わった。
後日、貴族女性から離縁され、私の夫という立場から平民になったこともあり、リーマは降格処分となった。
トーチさんは、リーマが部隊長の地位のまま、新たなふたりの出発ができると喜んでいたみたいだけれど、目論見が外れたことでリーマをぽいっといとも簡単に捨てたらしい。
「地位も名誉もお金もない男が捨てられるなんて、よくあることだわ」
私の初めての結婚式で投げたブーケを受け取った青年は、任務から無事に帰還した。お祝いを兼ねたパーティで、私の離婚騒ぎをわくわくして聞きたがったマダムは、リーマの転落を優雅に笑ってお茶を飲んだ。
「でも、マダムは死地に赴いたような彼を、ずっとお待ちになられていましたよね? それこそ、平民の騎士の夫が、危険な任務にいくとすぐに離婚してしまうのが、よくあることですのに」
私の小さな反撃に、マダムは目を丸くして、ほほほと高らかに笑う。
「それは勿論そうよ。だって、私はこの人を愛しているんですもの。地位よりも、名誉よりも、そしてお金よりも、彼のほうが、私にとっては価値のある、かけがえのないものなのよ。ま、簡単に寝取った男を、あら、失礼。手に入れた男をポイ捨てするような女は、ろくな男が寄っていかないわね」
マダムは、リーマとトーチさんの不祥事をあまり快く思わなかったみたい。これで、ふたりがよりそって仲良くすごすならともかく、私を傷つけてすぐに別れたふたりには同情の余地がないといい切った。
「後ろ盾をなくした彼の名が、うちの人の次に調査チームに連なっているそうよ」
「そうですか」
危険な調査は、誰かが行かなければならない。リーマは、これまで私の夫だから除外されていただけなのだ。
平民だから、こういう任務が不平等に課せられる。
こんな理不尽なことから逃れたかったリーマの気持ちが、ほんの少しだけ理解出来たような気がする。ううん、私には無縁な世界だから、気がしただけ、かも。
トーチさんは、リーマと別れたあと、随分年上の金持ちの男性と結婚したそうだ。彼女は、マダムたちの間では有名な、その男性の特殊な性癖を知らなかったみたい。毎夜、彼女が悲鳴をあげていると、かの家の使用人から筒抜けになっていた。
「ふん、平民が小賢しく私たちを利用しようとするからよ」
「あらあら、マダムったら。いまのは悪女っぽくて素敵です」
「私は悪女っぽいんじゃなくて、悪女なの。だって、そのくらいのほうが好きだって、この人が言うんですもの。なら、この国一番の悪女になってみせるわ」
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