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16 外されていた結婚指輪とはじめての喧嘩
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国を震撼させていた、女性誘拐グループの摘発はその日のうちに片が付いたようだった。
騎士の皆さんが無事でほっとしたのも束の間、しばらくは忙しいだろうし会うこともないだろうと思っていた彼を夕食に招待すると両親たちが言い出した。
「ご迷惑じゃ?」
「何を言っているの! あなたの命の恩人なのよ。精一杯おもてなしをしないとね! さ、あなたがお手紙を書きなさい」
「えー…………」
彼にお礼をするのは当たり前のことだが、なんせ求婚されている身なのだ。そんなことをしたら、暫定夫候補になるのではと、複雑な気分になったものの、心を込めて夕食の招待と共に、感謝の気持ちを書いた手紙を認めた。
リーマが久しぶりに帰ってきたから、その旨を伝えた。すると、「いいんじゃないか?」という、予想通りの答え。しかも、両親たちが手放しでカナキリさんのことを褒めるもんだから、部署はちがうけど同じ騎士の彼が不愉快な思いをしていないか気になった。
「カナキリ卿は、俺と違って将来が約束された男だからな」
「リーマ? そんな言い方って……。彼だって、今日に至るまで努力されていたと思うわ」
「努力? 俺だって誰よりも努力している。でもな、平民と貴族じゃ立場が違うんだよ。部隊長になれたのだって、エルの実家が太いからだ。でも、これから先は、どれほど努力しようとも、俺はここまでだ」
「リーマ……」
「産まれてから苦労しらずのエルにはわからねぇだろうな」
私だって、色々あった。物心つくまで両親と離れて、カキョウおばさまたち以外の人間と関わらずに生きてきたし、王都に来てからは必死にマナーや学問などを勉強した。
でも、彼に比べたら、確かに苦労なんて小さいことかもしれない。
初めての喧嘩に、何も言いだせず、バツが悪くなった彼が職場に戻ると家を出ていくのを黙って見送った。
「……リーマ」
どうして、あんなことを言ったの?
彼と同じ平民なら、彼の気持ちがわかったのだろうか。たとえ引き留められたとしても、何をどう伝えたらいいのかわからない。
どうして指輪をはずしているの?
ただ単に、仕事の邪魔だったから、一時的に外して、つけるのを忘れただけかもしれない。でも、それを問いただせば、なんとなくもう終わってしまうような、そんな恐ろしい未来が待ち受けていそうな気がして聞けなかった。
それから、リーマはまた家に帰ってこなくなった。悲しいし、悔しいし、寂しすぎて辛い。でも、この間の喧嘩のこともあるから、仲直りしなきゃとは思うけど、どことなくほっとしたような、変な気持ちになった。
結局、カナキリさんを招待した夕食は、リーマ抜きで行われた。
「いや、ははは。カナキリ、よく来てくれたな。さあさあ、妹の隣に座って。先日は、妹を助けてくれてありがとう! しかも、犯罪グループの摘発。副団長の昇進がはやまりそうだな!」
「いえ、私が不甲斐ないばかりに、恐ろしい思いをさせてしまい、申し訳なく思います」
なぜか、うっきうきのお兄さま。ついこの間まで、カナキリさんのことを目の敵にしていたのに、どういった心境の変化なのだろう。
そういえば、お兄さまが理想の女性を見つけたって浮かれていたけど、恋のせい?
お母さまやお父さまたちも、彼のことを下にも置かないもてなしで大歓迎して、いつになく豪勢な夕食になった。
じっくり時間をかけて煮込んだタンシチューに、ふわっふわのパン。大きくカットされたリンゴを美しく並べたタルトタタンは、頬が落ちそうなほど美味しい。
「そういえば、ライト。俺の彼女の弟さんのドーナツ屋に、カナキリと行くんだってな」
「俺の彼女の弟? ドーナツ屋?」
カナキリさんが、あの時私を送ってくれた女性騎士のことだと教えてくれた。そういえば、そんな話をしていたような気がする。
「あ、あの時の綺麗な騎士様。お兄さまったら、あの方とお付き合いをしているの?」
「そうなんだよ。お前を送り届けてくれた礼をしたら、意気投合してな。まだ未婚なんだ。ふははは。近いうちに、お前の義理の姉になってくれるぞ!」
「まあ、それは素晴らしいことだわ!」
お兄さまのめでたい話に、私も両親たちも、そしてピピまで大喜びだ。ピピは、はしゃぎすぎて、パチパチ電気の火花をちらしながらテーブルを踊っている。
「私の部下から、次のデートをしていただけると聞いていて、とても嬉しく思います」
あ、そうだった。そっちの件もあったんだった。約束したつもりはなかったけれど、お礼もかねて、デートのやり直しをすることになったのである。
騎士の皆さんが無事でほっとしたのも束の間、しばらくは忙しいだろうし会うこともないだろうと思っていた彼を夕食に招待すると両親たちが言い出した。
「ご迷惑じゃ?」
「何を言っているの! あなたの命の恩人なのよ。精一杯おもてなしをしないとね! さ、あなたがお手紙を書きなさい」
「えー…………」
彼にお礼をするのは当たり前のことだが、なんせ求婚されている身なのだ。そんなことをしたら、暫定夫候補になるのではと、複雑な気分になったものの、心を込めて夕食の招待と共に、感謝の気持ちを書いた手紙を認めた。
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「努力? 俺だって誰よりも努力している。でもな、平民と貴族じゃ立場が違うんだよ。部隊長になれたのだって、エルの実家が太いからだ。でも、これから先は、どれほど努力しようとも、俺はここまでだ」
「リーマ……」
「産まれてから苦労しらずのエルにはわからねぇだろうな」
私だって、色々あった。物心つくまで両親と離れて、カキョウおばさまたち以外の人間と関わらずに生きてきたし、王都に来てからは必死にマナーや学問などを勉強した。
でも、彼に比べたら、確かに苦労なんて小さいことかもしれない。
初めての喧嘩に、何も言いだせず、バツが悪くなった彼が職場に戻ると家を出ていくのを黙って見送った。
「……リーマ」
どうして、あんなことを言ったの?
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どうして指輪をはずしているの?
ただ単に、仕事の邪魔だったから、一時的に外して、つけるのを忘れただけかもしれない。でも、それを問いただせば、なんとなくもう終わってしまうような、そんな恐ろしい未来が待ち受けていそうな気がして聞けなかった。
それから、リーマはまた家に帰ってこなくなった。悲しいし、悔しいし、寂しすぎて辛い。でも、この間の喧嘩のこともあるから、仲直りしなきゃとは思うけど、どことなくほっとしたような、変な気持ちになった。
結局、カナキリさんを招待した夕食は、リーマ抜きで行われた。
「いや、ははは。カナキリ、よく来てくれたな。さあさあ、妹の隣に座って。先日は、妹を助けてくれてありがとう! しかも、犯罪グループの摘発。副団長の昇進がはやまりそうだな!」
「いえ、私が不甲斐ないばかりに、恐ろしい思いをさせてしまい、申し訳なく思います」
なぜか、うっきうきのお兄さま。ついこの間まで、カナキリさんのことを目の敵にしていたのに、どういった心境の変化なのだろう。
そういえば、お兄さまが理想の女性を見つけたって浮かれていたけど、恋のせい?
お母さまやお父さまたちも、彼のことを下にも置かないもてなしで大歓迎して、いつになく豪勢な夕食になった。
じっくり時間をかけて煮込んだタンシチューに、ふわっふわのパン。大きくカットされたリンゴを美しく並べたタルトタタンは、頬が落ちそうなほど美味しい。
「そういえば、ライト。俺の彼女の弟さんのドーナツ屋に、カナキリと行くんだってな」
「俺の彼女の弟? ドーナツ屋?」
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