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13 笑い上戸な人は
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男とふたりきりにはさせないと、お兄さまが同席する。でも、カナキリさんが一言話そうとするたびに邪魔をしてくるので追い出した。
「よろしいのですか?」
「いいんです。カナキリ卿が、普通にご挨拶をしようとするだけで、曲解して変な風に割り込んできますし。それに、カナキリ卿の、誠実で真面目なひととなりはきいておりますから」
「ははは。フロアは、夫人はフロア第一で彼のことには何でも言うことを聞く、大人しくて優しくていい子だと言っていたんだが」
「こちらに戻ってきてから、お兄さまには本当に大事にされましたから。だからといって、無作法は許されません。兄に代わって謝罪します」
私がそう頭を下げると、カナキリさんは面白そうな表情で微笑んだ。
「身内の失態をカバーする気持ちは立派だと思う。ただ、謝罪だけじゃあ、ダメだな」
「何をお望みでしょうか? 過度の要求でなければ、できる限りご期待に沿うように配慮させていただきます」
彼の何かをたくらんでいるような表情に警戒する。25歳でもうじきに副団長昇進が約束された人だから、誠実で真面目だけなわけがない。
背筋を伸ばして彼の言葉を待った。
「私の求婚を受けるか断るかは別として、私とデートしてください。護衛は私が務めますから、ふたりきりで。リーマともふたりでデートしていたと聞きますから、他の護衛を必ずつけていたわけではありませんよね? 安全に帰れるよう、全身全霊をかけてあなたをお守りします。ですから、今すぐ断らずに時間をいただけませんか?」
カナキリさんがそう言うと、ドアがバターンと開いてお兄さまが入ってきた。
「ダメだ! ダメだ、ダメだ。却下だ! ピピさま、あいつを今すぐ最大級の電流で攻撃してください」
血相を変えて私を守るように、彼の視線から隠そうとしている。けど、机とソファが邪魔をしてできなかったみたいだけど。
一緒の入ってきたピピさまは、お兄さまのそのようすが、ツボに入ったみたい。ケラケラわらって、カナキリさんじゃなくてお兄さまにピリっと軽い静電気を与えちゃった。
「ぐあっ! ピピさま、なんで俺なんですか? 俺じゃないです! あっちです、あっち! 今度こそ、1000万ボルトですよ!」
ピピはますます面白がって、カナキリさんに近づく。お兄さまが、しめしめといった表情をした瞬間、さっとお兄さまのところに戻って静電気攻撃をしかけた。
「うう、ピピさま。ひどいです……」
「お客様に、ピピさまをけしかけて攻撃させようとするお兄さまに、罰をお与えになっているんですよ、くすくす。1000万ボルトなんて、カキョウおばさまくらいしか耐えられないじゃないですか」
「はははっ、フロア、笑わせるなよ」
彼は笑い上戸なのかしら?
お兄さまとピピのやり取りを見て、おなかをかかえて、息が苦しくなるほど大笑いしている。
結局 最初の無礼だけなら、デートは断ることができたのに、殺人未遂にもなりかねない度重なる兄の行動のせいで、私は彼とデートをすることになったのである。
そのことをリーマに報告しようとしたけれど、仕事が忙しくて帰宅できない。私は、彼を夫に迎える気はないけれど、デートする旨をしたためた手紙をリーマの執務室に届けるよう手配した。
リーマからの返事はなかった……あったとしても、きっと「いいんじゃないか」と返事されただろうけど。
今日はカナキリさんとデート。
特別何らかのイベントがあるわけではないが、人々が賑わっていて、露店が立ち並んでいる。楽しそうに笑って駆けていく子どもたち、元気の良い女将さんの声、おじさんの笑い声などを聞くと、リーマは相変わらず便りもなく帰ってこないし、彼との距離を感じて寂しかった心がはずんだ。
私の手には、小さなスナックがある。眺めの串に、小さなドーナツが刺さっており、チョコと砕いたアーモンドがかけられている。
ひとくち食べると、ほろっとした柔らかくて甘いドーナツと、硬いアーモンドの食感、そしてビターチョコのほろ苦さが口の中でとろけあう。
「美味しい」
「良かった。そこの露店が、新鮮な材料と油を使って美味しいドーナツを提供していると部下から聞いたんです」
「部下のかたから?」
どうやら、カナキリさんは私とのデートのために、色々下準備をしていてくれたようだ。順路もなにもかも洗練されていて、確かにストレスがないし、移動するにも楽しい様子を見ていたから疲れない。
「ふふふ、ありがとうございます」
「こういったことは慣れてなくて。部下に聞かなければ、どうなっていたか。本当は、私がスマートにエスコートできればいいんですが。ただ、これほど人が多いとは思いませんでした。たまには下町に足を運ばなければなりませんね。机上の空論では人々を助けられませんから」
確かに、普段からこの道には人通りが多い。トラブルが起こったら、パニックになって避難が難しいだろう。騎士たちが、民を守るために、誘導するよりよい方法は、現場を知らなければわからず、余計混乱を招く。
デート中にも、仕事と関連付けるなんて。女性の中には、失礼だと怒る人もいるだろう。でも、私は、こういう生真面目な彼の一面も素敵だと思う。
細部まで自分で知って、感じて、多方面に最大限配慮して指揮をする必要があるのだろう。
尊敬できる上司というのは、カナキリさんのような人なのかも。
「人が多いから、もう少しこちらによってくださいって、危ない!」
「え? あ、きゃあ」
私が、ぼーっと考え事をしていると、カナキリさんがそう言ってグイっと体を引かれた。さっきまで私がいた場所に、酔っぱらった男性が勢いよくダッシュしてきたので、間一髪ぶつからずに済んだ。
鼻に抜けるさわやかな柑橘系の香りに、むせかえるような彼の汗の臭いが混じっている。朝に雨が降ったせいで、空気がじめっとしていて、むわっとした熱気なのか、彼の体温なのかわからないけれど、私は熱さにクラクラした。
「よろしいのですか?」
「いいんです。カナキリ卿が、普通にご挨拶をしようとするだけで、曲解して変な風に割り込んできますし。それに、カナキリ卿の、誠実で真面目なひととなりはきいておりますから」
「ははは。フロアは、夫人はフロア第一で彼のことには何でも言うことを聞く、大人しくて優しくていい子だと言っていたんだが」
「こちらに戻ってきてから、お兄さまには本当に大事にされましたから。だからといって、無作法は許されません。兄に代わって謝罪します」
私がそう頭を下げると、カナキリさんは面白そうな表情で微笑んだ。
「身内の失態をカバーする気持ちは立派だと思う。ただ、謝罪だけじゃあ、ダメだな」
「何をお望みでしょうか? 過度の要求でなければ、できる限りご期待に沿うように配慮させていただきます」
彼の何かをたくらんでいるような表情に警戒する。25歳でもうじきに副団長昇進が約束された人だから、誠実で真面目だけなわけがない。
背筋を伸ばして彼の言葉を待った。
「私の求婚を受けるか断るかは別として、私とデートしてください。護衛は私が務めますから、ふたりきりで。リーマともふたりでデートしていたと聞きますから、他の護衛を必ずつけていたわけではありませんよね? 安全に帰れるよう、全身全霊をかけてあなたをお守りします。ですから、今すぐ断らずに時間をいただけませんか?」
カナキリさんがそう言うと、ドアがバターンと開いてお兄さまが入ってきた。
「ダメだ! ダメだ、ダメだ。却下だ! ピピさま、あいつを今すぐ最大級の電流で攻撃してください」
血相を変えて私を守るように、彼の視線から隠そうとしている。けど、机とソファが邪魔をしてできなかったみたいだけど。
一緒の入ってきたピピさまは、お兄さまのそのようすが、ツボに入ったみたい。ケラケラわらって、カナキリさんじゃなくてお兄さまにピリっと軽い静電気を与えちゃった。
「ぐあっ! ピピさま、なんで俺なんですか? 俺じゃないです! あっちです、あっち! 今度こそ、1000万ボルトですよ!」
ピピはますます面白がって、カナキリさんに近づく。お兄さまが、しめしめといった表情をした瞬間、さっとお兄さまのところに戻って静電気攻撃をしかけた。
「うう、ピピさま。ひどいです……」
「お客様に、ピピさまをけしかけて攻撃させようとするお兄さまに、罰をお与えになっているんですよ、くすくす。1000万ボルトなんて、カキョウおばさまくらいしか耐えられないじゃないですか」
「はははっ、フロア、笑わせるなよ」
彼は笑い上戸なのかしら?
お兄さまとピピのやり取りを見て、おなかをかかえて、息が苦しくなるほど大笑いしている。
結局 最初の無礼だけなら、デートは断ることができたのに、殺人未遂にもなりかねない度重なる兄の行動のせいで、私は彼とデートをすることになったのである。
そのことをリーマに報告しようとしたけれど、仕事が忙しくて帰宅できない。私は、彼を夫に迎える気はないけれど、デートする旨をしたためた手紙をリーマの執務室に届けるよう手配した。
リーマからの返事はなかった……あったとしても、きっと「いいんじゃないか」と返事されただろうけど。
今日はカナキリさんとデート。
特別何らかのイベントがあるわけではないが、人々が賑わっていて、露店が立ち並んでいる。楽しそうに笑って駆けていく子どもたち、元気の良い女将さんの声、おじさんの笑い声などを聞くと、リーマは相変わらず便りもなく帰ってこないし、彼との距離を感じて寂しかった心がはずんだ。
私の手には、小さなスナックがある。眺めの串に、小さなドーナツが刺さっており、チョコと砕いたアーモンドがかけられている。
ひとくち食べると、ほろっとした柔らかくて甘いドーナツと、硬いアーモンドの食感、そしてビターチョコのほろ苦さが口の中でとろけあう。
「美味しい」
「良かった。そこの露店が、新鮮な材料と油を使って美味しいドーナツを提供していると部下から聞いたんです」
「部下のかたから?」
どうやら、カナキリさんは私とのデートのために、色々下準備をしていてくれたようだ。順路もなにもかも洗練されていて、確かにストレスがないし、移動するにも楽しい様子を見ていたから疲れない。
「ふふふ、ありがとうございます」
「こういったことは慣れてなくて。部下に聞かなければ、どうなっていたか。本当は、私がスマートにエスコートできればいいんですが。ただ、これほど人が多いとは思いませんでした。たまには下町に足を運ばなければなりませんね。机上の空論では人々を助けられませんから」
確かに、普段からこの道には人通りが多い。トラブルが起こったら、パニックになって避難が難しいだろう。騎士たちが、民を守るために、誘導するよりよい方法は、現場を知らなければわからず、余計混乱を招く。
デート中にも、仕事と関連付けるなんて。女性の中には、失礼だと怒る人もいるだろう。でも、私は、こういう生真面目な彼の一面も素敵だと思う。
細部まで自分で知って、感じて、多方面に最大限配慮して指揮をする必要があるのだろう。
尊敬できる上司というのは、カナキリさんのような人なのかも。
「人が多いから、もう少しこちらによってくださいって、危ない!」
「え? あ、きゃあ」
私が、ぼーっと考え事をしていると、カナキリさんがそう言ってグイっと体を引かれた。さっきまで私がいた場所に、酔っぱらった男性が勢いよくダッシュしてきたので、間一髪ぶつからずに済んだ。
鼻に抜けるさわやかな柑橘系の香りに、むせかえるような彼の汗の臭いが混じっている。朝に雨が降ったせいで、空気がじめっとしていて、むわっとした熱気なのか、彼の体温なのかわからないけれど、私は熱さにクラクラした。
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