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8 いいんじゃないか?
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あの日のことを聞けないまま、仕事のお付き合いでそういうこともあるだろうと自分を納得させて過ごした。
だけど、その日を境に、リーマは私と夜をともにすることがなくなる。
いや、夜に全く帰ってこないわけではない。そして、態度もなにもかも、優しい彼のままなのだ。ただ、一緒にベッドに入っても、チュッと軽くキスをしてハグもしてくれるのにそれだけ。
最初のころは、昇進したばかりで忙しくて疲れているのかしらと思っていたのだけれども、それが1ヶ月、3ヶ月、半年と長くなるにつれて、さみしく悲しく、そしてイライラまでこみあげてきた。
騎士の妻になったからには、彼の仕事のじゃまをしないように、家では彼が穏やかに過ごせるように配慮をした。でも、女として見てくれなくなったのかと思うと、心も体もどこにも行き場がない。
かといって、別の夫を迎える気にはならなかった。だって、リーマを愛しているし、いつかまた、前のように抱きしめて愛してくれると信じていたから。
彼が休日の時に、恥ずかしながら自分から誘ってみた。でも、やんわり断られる。そう、優しくやんわり。
嫌がられてないとは思う。でも、それであるのならば、どうして抱いてくれないのかと、ますます胸がざりざりと削られるような気持ちになるのだ。
いつまで経っても子供ができないし、最近彼が忙しくて家を開けることも多くなったので、お母さまや友人知人たちから次の夫を勧められるようになる。
「ひとりだけの夫と仲が良すぎると、赤ちゃんってきてくれないのよねえ」
「そうそう。欲しいって本気で思っているときほど来てくれなくて、諦めっていうか、そのうちなんとかなるわって気持ちになると、ぽんっと出来たりするのよね」
私がなかなか妊娠しなくて落ち込んでいると、友人たちはそんなふうに慰めてくれた。他の友人もそんな言葉を聞いてウンウン頷いているから、そんなもんか、とも思う。
でも、私の場合はそうじゃない。
そもそも、赤ちゃんができっこない状況なのだから。
といって、誰にもそんな事情を話せない。世間体や羞恥もあるけれど、そんなことを相談すれば、私がリーマに飽きられたってことを自分でも認めてしまうことになると思ったから。
夫をその気にさせて熱い夜を迎えるための下着や香水、そして食事なんかも気をつけてみた。でも、より一層、リーマは私から離れていく。
相変わらず優しいし、キスもハグもしてくれるのに。
精力剤や媚薬効果があるという怪しげなものを買おうとまで思い詰めていると、お母さまからいい加減次の夫をと強く言われてしまった。お兄さまもまだ結婚していないのに、二人目は早いんじゃないかなって言ったんだけど、ほぼ命令のような、断れない口調と眼差しだった。
「二人目の夫? いいんじゃないか?」
リーマに相談すると、普通に、ほんとなんでもない、単なる挨拶のようにそう言われた。こうなる前は、二人目なんていらないっていうくらい、ヤキモチを焼いてくれていたのに。
この話がきっかけで、ふたりの仲も元にもどるかなっていう期待は、木っ端微塵に砕けただけだった。
いい加減疲れた。どうにでもなれという、自暴自棄なような、リーマへの当てつけのような気持ちで、お母さまにOKの返事をしたのである。
なんだかんだで、私がふたりめの夫を迎えようとした途端、リーマは私に執着するかなって思ってた。なのに、彼はますます私から離れていく。
それまでは、なんだかんだで週に5日は帰ってきてくれていたのに。
妻を守らなければならないという、夫の義務もあって無理して帰っていたのかなと思うと、涙が出てくる。
二三日に一度、お母さまたちの紹介で男性と会った。でも、どの人ともピンとこなくて、お断りする。
何人かは、私と結婚できなければ次があるかどうかわからないから、断られても連絡をしてくる。でも、それがますます嫌でうんざりした。
そんな日々の中、私の投げたブーケを受け取った少年騎士が婿入りした家のパーティに招待された。
たまには、男性とのあれこれ抜きにして、気分転換をしたい。リーマの部下がいるのがちょっとひっかかったけど、少し挨拶をすればいいだろう。
その日は、リーマは仕事で一緒にいけないとのことで、非番のお兄さまが付き添ってくれることになった。
独身の男性にとっては、パーティは出会いの場でもあるから、今日のお兄さまは張り切っておしゃれをしている。妹からみても、そこそこ素敵だ。
「お前に言い寄ってくる男は、俺が全部やっつけてやるから」
「うん、ありがとう。でも、お兄さまこそ、婿入り先を探さなくていいの?」
「それはそれ。いくら男があぶれるったって、俺は清楚で可憐で、おとなしくて控えめでいつつ、芯の強い女性を求めるんだ。優しくて愛嬌もあって、賢くて」
「そんな女性、いないと思うけど。もうちょっと妥協というか、譲れない部分を3つまでにするとか」
「いいや、絶対にいる。全てを兼ね備えた、俺だけの美女が。まだ出会っていないだけだ!」
「美女までついちゃった……」
兄の理想は滅茶苦茶だと思う。女性上位なんだから、まず控えめな人なんていない。あと、色々盛りすぎていて、そんな女性がいたら見てみたいくらい。どれかひとつふたつならともかく、全部となると絵本のお姫様くらいじゃないだろうか。
今日もお兄さまのお相手は見つからないだろうな。
だけど、その日を境に、リーマは私と夜をともにすることがなくなる。
いや、夜に全く帰ってこないわけではない。そして、態度もなにもかも、優しい彼のままなのだ。ただ、一緒にベッドに入っても、チュッと軽くキスをしてハグもしてくれるのにそれだけ。
最初のころは、昇進したばかりで忙しくて疲れているのかしらと思っていたのだけれども、それが1ヶ月、3ヶ月、半年と長くなるにつれて、さみしく悲しく、そしてイライラまでこみあげてきた。
騎士の妻になったからには、彼の仕事のじゃまをしないように、家では彼が穏やかに過ごせるように配慮をした。でも、女として見てくれなくなったのかと思うと、心も体もどこにも行き場がない。
かといって、別の夫を迎える気にはならなかった。だって、リーマを愛しているし、いつかまた、前のように抱きしめて愛してくれると信じていたから。
彼が休日の時に、恥ずかしながら自分から誘ってみた。でも、やんわり断られる。そう、優しくやんわり。
嫌がられてないとは思う。でも、それであるのならば、どうして抱いてくれないのかと、ますます胸がざりざりと削られるような気持ちになるのだ。
いつまで経っても子供ができないし、最近彼が忙しくて家を開けることも多くなったので、お母さまや友人知人たちから次の夫を勧められるようになる。
「ひとりだけの夫と仲が良すぎると、赤ちゃんってきてくれないのよねえ」
「そうそう。欲しいって本気で思っているときほど来てくれなくて、諦めっていうか、そのうちなんとかなるわって気持ちになると、ぽんっと出来たりするのよね」
私がなかなか妊娠しなくて落ち込んでいると、友人たちはそんなふうに慰めてくれた。他の友人もそんな言葉を聞いてウンウン頷いているから、そんなもんか、とも思う。
でも、私の場合はそうじゃない。
そもそも、赤ちゃんができっこない状況なのだから。
といって、誰にもそんな事情を話せない。世間体や羞恥もあるけれど、そんなことを相談すれば、私がリーマに飽きられたってことを自分でも認めてしまうことになると思ったから。
夫をその気にさせて熱い夜を迎えるための下着や香水、そして食事なんかも気をつけてみた。でも、より一層、リーマは私から離れていく。
相変わらず優しいし、キスもハグもしてくれるのに。
精力剤や媚薬効果があるという怪しげなものを買おうとまで思い詰めていると、お母さまからいい加減次の夫をと強く言われてしまった。お兄さまもまだ結婚していないのに、二人目は早いんじゃないかなって言ったんだけど、ほぼ命令のような、断れない口調と眼差しだった。
「二人目の夫? いいんじゃないか?」
リーマに相談すると、普通に、ほんとなんでもない、単なる挨拶のようにそう言われた。こうなる前は、二人目なんていらないっていうくらい、ヤキモチを焼いてくれていたのに。
この話がきっかけで、ふたりの仲も元にもどるかなっていう期待は、木っ端微塵に砕けただけだった。
いい加減疲れた。どうにでもなれという、自暴自棄なような、リーマへの当てつけのような気持ちで、お母さまにOKの返事をしたのである。
なんだかんだで、私がふたりめの夫を迎えようとした途端、リーマは私に執着するかなって思ってた。なのに、彼はますます私から離れていく。
それまでは、なんだかんだで週に5日は帰ってきてくれていたのに。
妻を守らなければならないという、夫の義務もあって無理して帰っていたのかなと思うと、涙が出てくる。
二三日に一度、お母さまたちの紹介で男性と会った。でも、どの人ともピンとこなくて、お断りする。
何人かは、私と結婚できなければ次があるかどうかわからないから、断られても連絡をしてくる。でも、それがますます嫌でうんざりした。
そんな日々の中、私の投げたブーケを受け取った少年騎士が婿入りした家のパーティに招待された。
たまには、男性とのあれこれ抜きにして、気分転換をしたい。リーマの部下がいるのがちょっとひっかかったけど、少し挨拶をすればいいだろう。
その日は、リーマは仕事で一緒にいけないとのことで、非番のお兄さまが付き添ってくれることになった。
独身の男性にとっては、パーティは出会いの場でもあるから、今日のお兄さまは張り切っておしゃれをしている。妹からみても、そこそこ素敵だ。
「お前に言い寄ってくる男は、俺が全部やっつけてやるから」
「うん、ありがとう。でも、お兄さまこそ、婿入り先を探さなくていいの?」
「それはそれ。いくら男があぶれるったって、俺は清楚で可憐で、おとなしくて控えめでいつつ、芯の強い女性を求めるんだ。優しくて愛嬌もあって、賢くて」
「そんな女性、いないと思うけど。もうちょっと妥協というか、譲れない部分を3つまでにするとか」
「いいや、絶対にいる。全てを兼ね備えた、俺だけの美女が。まだ出会っていないだけだ!」
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兄の理想は滅茶苦茶だと思う。女性上位なんだから、まず控えめな人なんていない。あと、色々盛りすぎていて、そんな女性がいたら見てみたいくらい。どれかひとつふたつならともかく、全部となると絵本のお姫様くらいじゃないだろうか。
今日もお兄さまのお相手は見つからないだろうな。
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