完結 【R18】結婚指輪を外した夫と、結婚指輪を望む彼

にじくす まさしよ

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7 まだまだ新妻と翌朝帰りの夫

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 振り返ると、そこにはとても懐かしい男女がいた。

「カキョウおばさま、ムキおじさま!」

 久しぶりの再開が嬉しくて、リーマの腕に添えていた手を離して近づく。

「まあ、きれいになって。愛されているのね、良かったわ。私達がお世話をしていたころは、こーんなにも小さかったのに、他人の子の成長ははやいわぁ」
「本当に。あの子が成長して、今や妻として立派に過ごしているなんてね」

 カキョウおばさまは、この国の王族に名前を連ねている。ムキおじさまは炎の国の王族。

 ふたりの兄弟は、もう王座を降りてらっしゃって随分経つけど健在だ。昔は色々確執があったみたいだけど、今は時々こうしてこの国にきて弟君と会っているらしい。

 そんな彼女たちが、どうして私の小さな頃の面倒を見てくれていたのかというと、カキョウおばさまと私の特異体質のせいだ。

 私は、能力をコントロールするまで、存在そのものが小さな雷のようなものだった。ところかまわず火災が起きるために、生まれてから暫くの間、私は布すらないゴムのような箱に入れられていた。
 四六時中遮断する方法がないと、母たちが困っていたときに、カキョウおばさまが偶然この国に来ていた。

 カキョウおばさまは、この雷の国では唯一と言ってもいいくらいの絶縁体質。彼女がいたから、私の体から放たれる電流をシャットアウトしてもらえた。おばさまがいなければ、私は、絶縁物質でできた部屋やアクセサリーで体中を飾り付けて、コントロールできるまでずっとひとりでいたかもしれない。

 それでも100%の安全性が保たれないから、ほとんど誰もいない、多少火事になっても大丈夫な大自然の中で育てようと、提案してくれた。お母さまやお父さまたち、そしてお兄さまは、私と離れることを最初拒否したけど、他者を傷つけること、そして、誰かを傷つけたことを将来知った私がどれほど傷つくかを考えて、断腸の想いでいなかに送りだしてくれたのである。

「リーマ。改めて、私の第二のお母さまと、えーと、5番目?のお父さま?」

 私は、ゆっくり横に並んでくれたリーマに彼らを紹介した。

「まあまあ、素敵な方じゃない。将来有望な騎士様なんですってね」
「ええ。世界一素敵な人なんです。優しくて、欠点なんてないんですよ!」
「エル、褒めすぎ。エルからおふたりのことは常々お聞きしております。お二方がおられなかったら、私は今の幸せがなかったでしょう。心から、小さな頃のエルを守っていただき、ありがとうございます」
「本当のことなのにー。ふふ、おばさま、おじさま、我が家に来てください。おふたりなら、いつでもダクト家は門を開きますから」

 私とリーマの姿に、ほっこりした表情になったふたり。実は、最近カキョウおばさまの弟君の体調が良くない噂が流れていた。だから、しばらくどころか当分はここにいるのだろう。
 心中は穏やかじゃないだろうに、わざわざこうして笑顔でお祝いしてくれるふたりは、本当に優しい人たちなんだと思う。

「ええ。あなたのご家族にもお会いしたいわ。やんちゃ坊主のフロア君も、今回昇進したんでしょう? 改めてお祝いするわね」

 そう言うと、おばさまはおじさまと仲良さそうに寄り添って行ってしまった。昔だと、おふたりは社交界のつまはじきものだったみたい。でも、おふたりの行動おかげで、私のように昔なら阻害されていただろう人たちが救われた。それに、王族に連なる人たちなのだ。それを知らない人はいない。だから、私たちと別れてから、大勢の人々に囲まれてしまっていた。

「エルは、ご両親がたもだけど、本当にすごい人たちと知り合いなんだな……」
「偶然よ。あの時は、たまたまおばさまがたがいてくれたし、お父さまの事業と関係があったから。おふたりとも、気さくで、本当に優しいのよ」
「だろうな。俺の奥さんの周りは、皆優しい。エルが優しいからだな」
「まあ! 一番優しい人が何を言うのよ。ふふふ」

 その日、騎士団だけでのお祝いがあるということで、私は先に帰った。長くても真夜中すぎには戻ってくれると言っていたのに、リーマが帰ってきたのは翌朝になってからだった。

「リーマ、おかえりなさい……」

 きっと、お酒も入るし、帰らないかもしれないとは思っていた。でも、心配で不安で寂しくて。一睡もできなかったから、体も心も疲れてしまっていた。
 だから、いつもよりもテンションガ低かった。でも、リーマのほうがもっとおかしいというか、私がコンディション最低だったからそう見えただけかもだけど、一晩中お酒を飲んだからというわけじゃなさそうというか。

「あ、ああ、うん」
「心配したのよ?」
「付き合いだよ。シャワー浴びてくるから」

 言葉少なくて、どれほど疲れても私を見つめる時の優しい瞳がなくて、それどころか私の方をあまり見ない。そして、ただいまのキスひとつなく、さっさとシャワーを浴びにいったことに、嫌な胸騒ぎが起こった。
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