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高らかに、宣言いたしましょう!
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「ディリィ、いいのか?」
「いいも、悪いも……結婚はしなきゃいけないのよ。わたくしは跡取りだから婿を取らないと。それに、誰と結婚しても、同じようなものでしょう?」
「あ、いや……そうじゃない男だっているかもしれないだろ?」
「どこに? そんな人、いないでしょ? あれほどわたくしだけって言ってた彼ですら今のようになったのですもの。いいのよ、もう。わたくしにとっては、たったひとりのパートナーとして側にいてくれる人じゃなければ、遊び相手の数なんて関係ない」
「ディリィ。無理やり納得するための理由を考えて言い聞かせるのはやめろ。ディリィに誰よりも幸せになってもらいたいんだ」
「……無理よ。わたくしの望む幸せなんて、絶対にないんだもの」
わたくしが、今でもたった一人だけと誓い守ってくれる男性を求めているのは、ハーティおにいさまにはお見通しだった。でも、フィーノがこうなった以上、お説教はもうたくさんだった。このままやり過ごして、ずっと彼が他の子とえっちしようがなんだろうが、わたくしはわたくしの人生を歩むだけなのだから。
おにいさまが言いたい事なんて散々考えた。でもどうしようもないんだから、もうそれでいいじゃないって、口をとんがらせる。
「ディリィ……。あのさ、フィーノがディリィの事を心から愛しているのは本当だと思う。あいつのその気持ちだけは信じてやって欲しい。けどな……」
「……妻になるのはわたくしだけ。だから安心しろって言うんでしょ? 両親たちからも、フィーノはわたくしだけなのだから、ヤキモチすらそんなに焼くなって散々聞かされているわ。フィーノは、わたくしが泣いてやめてっていったらその時はやめてくれると思う。でも、ずっとああだと思うわ。すでに皆さんと切っても切れない情や家同士の繋がりも出来てるから、今更元に戻す気なんて起きないと思う」
「ディリィ……そんな状態で、未来のディリィは幸せだと言えるのか? 俺は、心からふたりで幸せになって貰いたいんだ。でなきゃ、俺が諦めた意味がない……」
おにいさまの最後の方の言葉は、わたくしには聞こえなかった。
ただ、今の不貞腐れた自分の幸せじゃなく。大人になった遠い未来の自分が幸せなのかどうか、それを考えた時、今まで水面下に沈みこんでいた何かがせりあがって来た。
「このままだと幸せ……ではない、と、思う……そうよ、そうだわ……おばちゃんになった時に幸せなんてこれっぽっちもないんだわ」
おにいさまが、突然立ち上がり握りこぶしを作ったわたくしを目を点にして見上げた。
「おにいさま、わたくし、なんだかすっきり致しました! ちょっと行ってきます!」
いてもたってもいられず、その場におにいさまを置き去りにして、わたくしはフィーノが女の子といちゃいちゃしている部屋に向かったのである。
※※※※
あれからフィーノを冷静にしっかり見るようになった。盲目的に彼の行動を信じるだけではなく、自分で確認したのだ。そう、何度も何度も。
信じたくなかったけれど、彼のいう用事とやらのほとんどが、彼女たちやそのほかの女の子たちとデートだった。しかも、恋人みたいにぴったり寄り添って……。
嵐のような感情が、だんだん真っ白に燃え尽きていった。両手両足の数じゃあ足らないほどの女の子と彼との大人なデート場面を目撃する度に、わたくしの心は徐々におかしくなったのかもしれない。
今もわたくしが立っている廊下まで聞こえる、フィーノと女の子の仲良しの音がしても、以前のような切り裂かれる痛みを心が感じないようになったのだから。
相変わらず、彼はわたくしだけを好きだと囁くし、他の女の子となんてとんでもないって言う。どの口がって、カッとなり、彼に怒りを抱いたのはもうずいぶん前だ。以前はそれほどまでに彼を好きだったんだなぁ。
彼の事を、嫌い、ではない。幼馴染であり、磨きがかかったアイドルのように成長する彼は恰好いいし自慢の婚約者だと胸を張って言える。どことなく、テレビ画面の向こう側を見ているかのように思えて、ああイケメンだなって思うだけ。本当にそんな感じ。
だけど、こんなんじゃあ、絶対に幸せなんて未来にはない。
俯き加減だった顔をしっかり上げて、足を動かす。
海中とちがって、人間の体のなんと遅い事だろう。
おにいさまと話して、ようやく決意した気持ちを、フィーノに早く伝えたくて気ばかりが逸る。
扉の前で、深呼吸を一つ。そして、わたくしは、中にいる彼らに逃げられないように、バンっと思い切り扉を全開にした。
「ちょっと失礼いたしますわ! おふたりとも、ごめんあそばせ!」
「え? は? ディリィ……! なんでここに。こ、これは違うんだ! この子が気分が悪いからって言って……だから」
良かった。まだ服は着ていた。多少乱れていたけど。危うく見たくもないシーンを目撃するところだった。
「突然ごめんなさい。あのね、フィーノ。わたくし、あなたと彼女たちの事、一年以上前から知ってたから」
「え? 知ってたの?」
びっくりしつつも、わたくしがそれほど怒ってない事を悟ると、あからさまにほっとした彼。いつまでも隠し通せていると思っていたのかと呆れる。
このままわたくしが黙認するのを確信したかのように満面の笑顔で、さっきまで侯爵令嬢を抱いていた腕で、わたくしを抱きしめようと側に来た。
「ええ。でね、ずーっと色々考えたの。このまま、皆と仲良くなって、フィーノと結婚して子供を産んでって……。そんな未来を歩んでいかなきゃならないって思ってた。でも、このままフィーノと結婚したらね、嘘つかれて裏切られてっていう今の状況がずっと続くと思ったの。だからね……、わたくし決めたの」
フィーノは、わたくしが今の彼の状況を全て受け止めたうえで、彼に心から抱き着いていくって確信していたようだ。だけど、わたくしの言葉を聞き、ほんの10数センチ先まで近づけた指が止まる。
「ディリィ? 一体何を言っているの?」
「わたくし、フィーノとの婚約を解消して、わたくしひとりと誓ってくださる方と結婚いたしますわ!」
そう言うと、フィーノと、彼と一緒にいた令嬢が目を丸くしてフリーズしたのだった。
「いいも、悪いも……結婚はしなきゃいけないのよ。わたくしは跡取りだから婿を取らないと。それに、誰と結婚しても、同じようなものでしょう?」
「あ、いや……そうじゃない男だっているかもしれないだろ?」
「どこに? そんな人、いないでしょ? あれほどわたくしだけって言ってた彼ですら今のようになったのですもの。いいのよ、もう。わたくしにとっては、たったひとりのパートナーとして側にいてくれる人じゃなければ、遊び相手の数なんて関係ない」
「ディリィ。無理やり納得するための理由を考えて言い聞かせるのはやめろ。ディリィに誰よりも幸せになってもらいたいんだ」
「……無理よ。わたくしの望む幸せなんて、絶対にないんだもの」
わたくしが、今でもたった一人だけと誓い守ってくれる男性を求めているのは、ハーティおにいさまにはお見通しだった。でも、フィーノがこうなった以上、お説教はもうたくさんだった。このままやり過ごして、ずっと彼が他の子とえっちしようがなんだろうが、わたくしはわたくしの人生を歩むだけなのだから。
おにいさまが言いたい事なんて散々考えた。でもどうしようもないんだから、もうそれでいいじゃないって、口をとんがらせる。
「ディリィ……。あのさ、フィーノがディリィの事を心から愛しているのは本当だと思う。あいつのその気持ちだけは信じてやって欲しい。けどな……」
「……妻になるのはわたくしだけ。だから安心しろって言うんでしょ? 両親たちからも、フィーノはわたくしだけなのだから、ヤキモチすらそんなに焼くなって散々聞かされているわ。フィーノは、わたくしが泣いてやめてっていったらその時はやめてくれると思う。でも、ずっとああだと思うわ。すでに皆さんと切っても切れない情や家同士の繋がりも出来てるから、今更元に戻す気なんて起きないと思う」
「ディリィ……そんな状態で、未来のディリィは幸せだと言えるのか? 俺は、心からふたりで幸せになって貰いたいんだ。でなきゃ、俺が諦めた意味がない……」
おにいさまの最後の方の言葉は、わたくしには聞こえなかった。
ただ、今の不貞腐れた自分の幸せじゃなく。大人になった遠い未来の自分が幸せなのかどうか、それを考えた時、今まで水面下に沈みこんでいた何かがせりあがって来た。
「このままだと幸せ……ではない、と、思う……そうよ、そうだわ……おばちゃんになった時に幸せなんてこれっぽっちもないんだわ」
おにいさまが、突然立ち上がり握りこぶしを作ったわたくしを目を点にして見上げた。
「おにいさま、わたくし、なんだかすっきり致しました! ちょっと行ってきます!」
いてもたってもいられず、その場におにいさまを置き去りにして、わたくしはフィーノが女の子といちゃいちゃしている部屋に向かったのである。
※※※※
あれからフィーノを冷静にしっかり見るようになった。盲目的に彼の行動を信じるだけではなく、自分で確認したのだ。そう、何度も何度も。
信じたくなかったけれど、彼のいう用事とやらのほとんどが、彼女たちやそのほかの女の子たちとデートだった。しかも、恋人みたいにぴったり寄り添って……。
嵐のような感情が、だんだん真っ白に燃え尽きていった。両手両足の数じゃあ足らないほどの女の子と彼との大人なデート場面を目撃する度に、わたくしの心は徐々におかしくなったのかもしれない。
今もわたくしが立っている廊下まで聞こえる、フィーノと女の子の仲良しの音がしても、以前のような切り裂かれる痛みを心が感じないようになったのだから。
相変わらず、彼はわたくしだけを好きだと囁くし、他の女の子となんてとんでもないって言う。どの口がって、カッとなり、彼に怒りを抱いたのはもうずいぶん前だ。以前はそれほどまでに彼を好きだったんだなぁ。
彼の事を、嫌い、ではない。幼馴染であり、磨きがかかったアイドルのように成長する彼は恰好いいし自慢の婚約者だと胸を張って言える。どことなく、テレビ画面の向こう側を見ているかのように思えて、ああイケメンだなって思うだけ。本当にそんな感じ。
だけど、こんなんじゃあ、絶対に幸せなんて未来にはない。
俯き加減だった顔をしっかり上げて、足を動かす。
海中とちがって、人間の体のなんと遅い事だろう。
おにいさまと話して、ようやく決意した気持ちを、フィーノに早く伝えたくて気ばかりが逸る。
扉の前で、深呼吸を一つ。そして、わたくしは、中にいる彼らに逃げられないように、バンっと思い切り扉を全開にした。
「ちょっと失礼いたしますわ! おふたりとも、ごめんあそばせ!」
「え? は? ディリィ……! なんでここに。こ、これは違うんだ! この子が気分が悪いからって言って……だから」
良かった。まだ服は着ていた。多少乱れていたけど。危うく見たくもないシーンを目撃するところだった。
「突然ごめんなさい。あのね、フィーノ。わたくし、あなたと彼女たちの事、一年以上前から知ってたから」
「え? 知ってたの?」
びっくりしつつも、わたくしがそれほど怒ってない事を悟ると、あからさまにほっとした彼。いつまでも隠し通せていると思っていたのかと呆れる。
このままわたくしが黙認するのを確信したかのように満面の笑顔で、さっきまで侯爵令嬢を抱いていた腕で、わたくしを抱きしめようと側に来た。
「ええ。でね、ずーっと色々考えたの。このまま、皆と仲良くなって、フィーノと結婚して子供を産んでって……。そんな未来を歩んでいかなきゃならないって思ってた。でも、このままフィーノと結婚したらね、嘘つかれて裏切られてっていう今の状況がずっと続くと思ったの。だからね……、わたくし決めたの」
フィーノは、わたくしが今の彼の状況を全て受け止めたうえで、彼に心から抱き着いていくって確信していたようだ。だけど、わたくしの言葉を聞き、ほんの10数センチ先まで近づけた指が止まる。
「ディリィ? 一体何を言っているの?」
「わたくし、フィーノとの婚約を解消して、わたくしひとりと誓ってくださる方と結婚いたしますわ!」
そう言うと、フィーノと、彼と一緒にいた令嬢が目を丸くしてフリーズしたのだった。
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