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キタ──!

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 さて、そんなこんなで二人の関係を生ぬるく見守り、婚約解消の日を今か今かと待っていた。ところが、王子は何をトチ狂ったのか、パーティの真っ最中に婚約破棄を声高らかに叫んだ。

「イザベル! もう我慢がならん。妹をさげずみ、他者を他人とも思わぬ所業の数々。果ては王家の予算を食いつぶしていたらしいな! そなたのような女は、妃にふさわしくないっ! 王子アルフレドの名において、婚約破棄を宣言するっ!」

 これには、わたくしのみならず、ひそかにわたくしから妹に婚約者を変更すべく動いていた王家と実家も目がとびでるほどびっくりしたようだ。

「は? で、殿下? 一体、いきなり何を……!」

──来週にでも、私からヒーロニアンヌに婚約者が変わるというのに、このボンクラ短小仮包茎早漏(※令嬢たちから聞いた王子の赤裸々な真実の裏話より)野郎めっ!

 唖然としているうちに、王子から罪人である魔力封じの首飾りを嵌められた。わたくしは一応上級魔法を使えるという希少な令嬢であり、このような対応は許されないはずだ。

  なのに、誰も反論しないという事は、わたくしを飼い殺しにする事が決められたのであろう。

──油断した……。やり方はフライング気味で強引でも、もうこうなる事は決まっていたのね。さて、どうやって逃げようか……。首にかけられた魔法の無力化アイテムは壊すのはまあ簡単だけど。

 慌てて、ジャンヌ様がこちらに足を一歩踏み出したが、視線でそれを制して首を振った。彼女は、敵とみなした相手に貴族らしい意地悪をするが、基本的に心根のまっすぐな令嬢だ。不当なこの茶番劇に気付き、わたくしを救出しようとしてくれたのだろう。



 流石に、王子をキッと睨みつけると、気の弱い王子がひるんだ。

「な、なんだ、その目は。ナイトハルト、さっさとその目障りな女を例の場所に連れていけっ!」
「……はっ!」

 ナイトハルト様がわたくしのほうに歩いて来た。予め、わたくしを、おそらくは貴賓の罪人が幽閉される塔に入れる事が決定されているのだろう。申し訳なさそうな瞳でこちらにやってくるナイトハルト様をぼーっと見てしまった。

「手荒な事はしたくありません。どうか私のあとについて来てください」
「……はい。お手数おかけいたします」

──待遇は大いに不満であるが……。廊下に出たらとっとと逃げようと思っていたけど、ナイトハルト様を状況はともかくとして独占できるチャンスよ! 逃げたらもう二度と会えない人だし、こうなったら最後の一瞬まで彼を堪能しなくっちゃ!

 しかし、わたくしはナイトハルト様(の背中やお尻の筋肉)を至近距離で堪能する事に夢中になり、失念していたのだ。

 魔法が無力化された今、体を保護していた魔法が解除され、凶悪アイテム「ドレス&コルセット~ピンヒールの悪辣な呪い」がじわじわとわたくしの体を蝕んでいるのを……。
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