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 あのあと、コーパから数名の騎士を紹介された。どの騎士たちも、フレイム国の色を持つ人々だ。しかも、情熱的でカインにまさるとも劣らない強引さがあった。

 とはいえ、騎士の誓いをいきなりしてきたのはカインだけだ。しかも、彼はずっとフェルミの隣で座っている。

 自分が気に入らなかったり、不安に思うような人物は任務から外すとコーパから伝えられていたが、正直どうでも良くなってきた。

「では、全員採用ということで?」
「はい。というよりも、そもそもこれはお仕事なのですよね? 交代する要員も必要でしょうし。全て、騎士団長様のいいようになさっていただければと思います」
「では、ローテーションもこちらで組ませていただいても?」
「はい。ご面倒をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 フェルミは、彼らのもうひとつの目的を知らない。ただ、新しい夫云々はともかくとして、万が一、どこかの国に自分が誘拐されたりしたときに、コーパたちが責任を追求されることが嫌だった。
 できる限り、騎士団や公爵の言う通りにすることが、そういったリスクを下げるだろう。

 そう言ったことで、隣のカインが、彼女が自分だけを選んでくれなかったことに、大変なショックを受けていることには気づかなかった。

「では、予定通り、騎士たちの交代は朝晩の2度。二人一組になります。もちろん、フェルミさんのプライベートは必ず守りますのでご安心ください」

 頭を下げてコーパが出ていこうとした時、フェルミが口を開いた。

「あの、いつまでこの状況が続くのでしょうか?」

 その答えは、コーパこそ知りたかった。ただ、彼女が生きている限り、護衛は必要だろう。
 取り敢えず、代替スキルの出現や、フェルミが独身に戻り頼もしい恋人でも出来れば、緩和されるだろう。
 もしくは、フレイム国からフェルミがいなくなれば、という意味で終了になる。

「今の時点ではなんとも言えません。フェルミさんが、負担に思うことが少しでもあれば、できる限り要望に応えるということしか約束できません」

 フェルミは、頭を下げる彼の姿に胸がざわついた。彼としては、そう言わざるを得ないのだろう。だが、彼が言っているのは、結局のところ、通らない要望もあるし、一生このままだということだ。

(どこの国にいっても、こういうことになりそう……)

 フェルミは天井を見上げてため息を吐いた。

 別の国に行ったとして、今よりも状況が良くなる保障はない。かえって悪化する可能性だってある。

(取り敢えず、予定通り公爵様の屋敷で保護されているほうがよさそうね……)

 最終的にフェルミが彼の話を承諾すると、コーパは仕事とは別の、心を込めて彼女の意思に感謝の意を述べた。

「状況は変化するものですから、その都度、私でもいいですし、カインや騎士たちでもいい。小さなことでも気軽に相談して欲しい」
「お心遣い、ありがとうございます」

 その日の騎士たちは、カインではなかった。カインが、その件に強くクレームを言った。

「普通、顔見知りの俺から初日に配属されるべきだろう?」
「ばかも休み休み言え。もともとの予定通りだと言ったはずだ。お前が、別のやつを脅して無理やり交代してまでここにいるのが、イレギュラーなんだ。あいつらだって、お前以上に真面目で実力がある」
「無理やり仕事を奪ったとか人聞き悪いって。丁寧にお願いしただけだ」
「お前が弱みを握っている相手を脅したように見えたぞ。さっさと来い」

 コーパが騎士とともに、ぶつくさ文句を言い続けるカインに何かを言いつつ、引きずるように去っていった。

「フェルミさん、参りましょうか」
「あ、はい。よろしくお願いいたします」

(騎士様というのは、女性の憧れの存在だと本に書かれてあったけれど……)

 カインもそうだが、眼の前のふたりもとても格好が良い。行動もとてもスマートで、そつがない。均整のとれた体格は、日々鍛えられた結果なのだろう。

 フェルミに差し出された手は、躓いても一ミリもブレなかった。安定した彼らのエスコートは、ひとりで歩くよりも負担が少ない。

 馬車に乗ると、彼らは見上げるほど大きな馬に颯爽とまたがった。そんな彼らの姿に、ドキリと胸が弾む。

(ファーリが、騎士様騎士様って、目をハートにしてはしゃぐわけね。とても素敵で、恋人にしたい人ランキング上位って本当だわ)

 感嘆してまじまじと見ていると、ふたりと目が合った。

(見つめすぎたかしら……)

 恥ずかしくなり顔を真赤にして顔を背けた。耳と首筋まで赤い彼女の初心な姿に、彼らが職務を超えた好意を抱いたのは無理もないだろう。

「グリーン国の女性は、皆こんなにも奥ゆかしいのかな? ちょっとエスコートしただけで、ありがとうございます、なんて言われたのは初めてなんだが」
「かの国の女性とは話をしたことがある。この国の、気が強い女……レディたちよりも大人しかったと思う。だが、フェルミさんほどじゃないな」

 ふたりは、警戒を怠らず、フェルミに聞こえないようにひそひそ話をした。結果、フェルミが聞いていた以上にかわいいという結論に達した。

「あーどうしよ。きれいでスタイルが良くて、ものすごく優しくいとか。この世界に、とっくに絶滅したと思われていた乙女が残っていたなんて。モロ好みのタイプなんだが。このままカインに持っていかれるのは癪だな」
「俺だって好みだ。あんなふうに、はにかんでお礼を言うなんて、誰だって惚れてしまう。指を咥えてカインの好き勝手にさせるなんて、断固として阻止せねばな。まずは友達からとして仲良くなりたい」
「今まで、苦労されてきたんだ。これからは幸せにしてあげたいな」
「だな。たとえ、友人止まりでも、力になってあげたい」

 彼らは、フェルミのことをもっと知りたくなった。そして、自分のことも知ってもらいたいと欲が出てくる。

「正々堂々、抜け駆けナシだぞ」
「ああ、勿論」

 ふたりは、屈託ない笑顔で言い合った。

(何を話していらっしゃるのかしら? とても仲良しなのね)

 気持ちの良い笑顔で笑い合う彼らの姿を見て、まさか、自分が彼らに、恋人、延いては妻にしたいと思われているなど思いもしなかった。
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