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バスタ子爵の家は、伯爵家の本邸の半分くらいだろうか。フェルミが暮らしていた離れよりは大きい。
壁にひび割れがあり、レンガも薄汚れている。玄関を開けると、耳障りな金属音が発生した。フェルミは、思わず耳をふさぎそうになるのをこらえた。ファーリは大げさに両耳を押さえ、迎えに来た執事すら耳に指を入れている。
執事とともに訪れた部屋には、人の良さそうな少々体格の良い中年の男女がいた。
こういう時に、どう対応するものかわからずオロオロしていると、執事が互いの紹介をしてくれた。
「はじめまして、フェルミと申します」
「まあまあ、なんて可愛らしいお嬢さんだこと。さすが、伯爵家のご令嬢だけあって素敵ねぇ」
子爵婦人の目尻とふくよかな頬に、笑いジワができる。子爵も、にこにこしており、フェルミは、ここでは少しは受け入れてもらえているのだろうかと思った。
「ごめんなさいねぇ。せっかく、あなたが来てくれたっていうのに、うちの子ったら仕事仕事で家にいないのよ。今も、遠くで働いていて……」
仮にも、伯爵家から嫁いでくるのだ。夫がいないなど馬鹿にしている。
フェルミは、貴族とはそんなものかと頷き、ファーリは側にある花瓶を投げつけてフェルミと一緒に出ていきたくなった。
「そうなのですね。あの、何も持ってこなくて良いと仰ってくださったようなので、本当にこの身ひとつなのですが、よろしかったのでしょうか?」
「は? 持参金もなしなのか? 約束がちがうぞ!」
フェルミが挨拶をすると、微笑みを浮かべていた子爵の眉がつり上がった。持参金というのは、フェルミも知っている。本の知識だが、女性が結婚する男性の家に支払うお金のことだろう。そのお金で、花嫁を迎える準備をするもののはずだ。
(あの家が、私なんかにそんな物を準備してくれるのかしら?)
きっと、無一文だったのだろう。子爵が怒るのも無理はないと、フェルミは頭を下げた。
「あなた! ほほほ、なんでもないのよ。フェルミさんは、気にしないで。そうだ、伯爵家とは比べ物にならないほど粗末な部屋だけど、精一杯準備させていただきましたの。一旦、そちらでお休みになって、夕食は一緒にいただきましょうね」
「はい、お心遣いありがとうございます」
フェルミは、ここでは一緒に食事をしてくれるのかとびっくりした。持参金も、持ち物もないのに、なんて優しい人なのだろうと、目に涙が浮かんでくる。
子爵婦人が、優しく微笑みながら、フェルミたちを部屋から追い出す。軋む音を立てて扉が閉まった。
彼女の言う通り、部屋に向かおうとしたところ、部屋の中から声が聞こえた。
壁にひび割れがあり、レンガも薄汚れている。玄関を開けると、耳障りな金属音が発生した。フェルミは、思わず耳をふさぎそうになるのをこらえた。ファーリは大げさに両耳を押さえ、迎えに来た執事すら耳に指を入れている。
執事とともに訪れた部屋には、人の良さそうな少々体格の良い中年の男女がいた。
こういう時に、どう対応するものかわからずオロオロしていると、執事が互いの紹介をしてくれた。
「はじめまして、フェルミと申します」
「まあまあ、なんて可愛らしいお嬢さんだこと。さすが、伯爵家のご令嬢だけあって素敵ねぇ」
子爵婦人の目尻とふくよかな頬に、笑いジワができる。子爵も、にこにこしており、フェルミは、ここでは少しは受け入れてもらえているのだろうかと思った。
「ごめんなさいねぇ。せっかく、あなたが来てくれたっていうのに、うちの子ったら仕事仕事で家にいないのよ。今も、遠くで働いていて……」
仮にも、伯爵家から嫁いでくるのだ。夫がいないなど馬鹿にしている。
フェルミは、貴族とはそんなものかと頷き、ファーリは側にある花瓶を投げつけてフェルミと一緒に出ていきたくなった。
「そうなのですね。あの、何も持ってこなくて良いと仰ってくださったようなので、本当にこの身ひとつなのですが、よろしかったのでしょうか?」
「は? 持参金もなしなのか? 約束がちがうぞ!」
フェルミが挨拶をすると、微笑みを浮かべていた子爵の眉がつり上がった。持参金というのは、フェルミも知っている。本の知識だが、女性が結婚する男性の家に支払うお金のことだろう。そのお金で、花嫁を迎える準備をするもののはずだ。
(あの家が、私なんかにそんな物を準備してくれるのかしら?)
きっと、無一文だったのだろう。子爵が怒るのも無理はないと、フェルミは頭を下げた。
「あなた! ほほほ、なんでもないのよ。フェルミさんは、気にしないで。そうだ、伯爵家とは比べ物にならないほど粗末な部屋だけど、精一杯準備させていただきましたの。一旦、そちらでお休みになって、夕食は一緒にいただきましょうね」
「はい、お心遣いありがとうございます」
フェルミは、ここでは一緒に食事をしてくれるのかとびっくりした。持参金も、持ち物もないのに、なんて優しい人なのだろうと、目に涙が浮かんでくる。
子爵婦人が、優しく微笑みながら、フェルミたちを部屋から追い出す。軋む音を立てて扉が閉まった。
彼女の言う通り、部屋に向かおうとしたところ、部屋の中から声が聞こえた。
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