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女神の決めた最上級のハッピーエンドなんて知らない! 私は、私の気持ちのまま行くわ! ①
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翌朝、夢もみなほど深い眠りから目が覚めた時、なぜか胸がざわついた。外は快晴で、降り積もった雪を太陽が照らしてキラキラ輝いている。
昨日のライノの突然の告白とプロポーズに心底びっくりした。思いもよらないその言葉と、今まで気づかなかった彼のかっこいい顔や姿と素敵な声を、まるで初めて会った人かのようにドギマギして認識してしまった。
ライノは、10才の頃から私を愛していたって言っていた。だから、あの時のような視線や、蕩けてしまうような甘い声も当時にも私に投げかけていたのかもしれない。
でも、私は恋人や彼氏は欲しくなくて、孤児院で暮らして大家族の皆と楽しい毎日を送っていられれば十分幸せだった。
勿論ライノの事は同い年の兄か弟としてしか見た事がなかった。
「ひょっとして、孤児院を出たら一緒に暮らそうって誘われたのってそういう事……?」
そう、自問自答するかのように言葉に出してしまえば、それが大正解だった事に、当時の彼とのやりとりや、表情になぜあんなにも気づかなかったのかと思うほど気付く。
「鈍感にもほどがあるでしょ……」
私はいたたまれなくなった。昨日のライノの、肩に大きくて温かい手を置かれて、うっとりと近づいて来た瞬間が、頭と瞼、そして心に浮かんでしまう。瞬時に顔がカッカッと熱い熱を持ってしょうがなくなってしまった。
実家にいる頃には、熱い視線をたくさん浴びせられたし、ぞわわわっってするようなくさい鳥肌もののセリフも沢山聞かされた。でも、それらは心になんら変化をもたらすことなく、どうでもいい、ただ単に気持ちの悪い事だった。
ライノは、最初から自分の心に近しい、懐に入っている存在だ。彼に対しては、普段異性に対して張り巡らせるガードが0の状態である。
すんなりと、いきなり素敵な男の人として心に入り込んでしまったライノを、今からガードの外に追い出すには、あまりにも突然すぎたし、やっぱり自分にとって大切な人である事には変わりがないのだ。
「びっくりしたまま、いきなり帰って来ちゃってライラもライノも心配しているかな……」
こうしてひと眠りすれば、途端に別れも告げずに消えてしまった事に対して申し訳なく思った。かと言って、どんな風にお詫びとかをすればいいのかわからないほど気持ちが渦巻いている。ライラにだけは、なんとか謝罪と、ライノとの事は一切書かずに手紙をしたためようと思った。
※※※※
なんとか、ドギマギしてしまう胸の鼓動が鎮まってきた頃、いつものようにダンのほうに向かい箱を覗いた。すると、そこにダンはいなかった。
敷き詰められたオガクズが、箱の角っこだけ、彼の体型に会うようにぽこっと穴が空いている。
「ダン、おっはよー」
ひょっとして、別のオガクズゾーンに潜り込んでいるのだろうかと思ってみるけれど、どうみても床一面盛り上がっている所がないので居なさそうだった。
「え? ダン? うそ……! どこ?」
チートも、探索魔法を使う事も忘れ、いなくなったダンを探して家中を歩き回った。手のひらサイズの彼が、どこか家具の隙間とかに挟まって身動きできなくなるような事故でもあったのかと思うと、心が凍り付いて手足が冷えていく。
どこを探してもいないため、寝室に項垂れて戻ると、さっき気付かなかったダンからのメッセージが残されていた事に気付いた。
「手紙……?」
宛名を見ると私で、裏にはダンと書かれてあった。ふと、手紙の近くに備えていた、ダンが人化した時ように準備をしていた服が無くなっている事に気付く。
「ダン……? 人化したの?」
いつの間に人化したのだろう。眠っている間である事は間違いないけれど、折角人化出来たのに、忽然と姿を消した彼が心配になったし、なんでいないのか訝しんだ。
手紙をそっと開けると、そこにはたった一言だけ綴られていたのである。
『エミリア、どうか、誰よりも幸せになってください』
手紙の角を見ても、裏を見ても他には何も書かれていなかった。
「ダン……」
その手紙と彼が過ごしていた巣箱が彼の存在を示している。
突然私の前に現れて、そして、番だと熱烈にアピールしつつ、可愛い彼とのこのひと月ほどが、まるで夢幻だったかのように、今は、この家に私一人きりになったのであった。
昨日のライノの突然の告白とプロポーズに心底びっくりした。思いもよらないその言葉と、今まで気づかなかった彼のかっこいい顔や姿と素敵な声を、まるで初めて会った人かのようにドギマギして認識してしまった。
ライノは、10才の頃から私を愛していたって言っていた。だから、あの時のような視線や、蕩けてしまうような甘い声も当時にも私に投げかけていたのかもしれない。
でも、私は恋人や彼氏は欲しくなくて、孤児院で暮らして大家族の皆と楽しい毎日を送っていられれば十分幸せだった。
勿論ライノの事は同い年の兄か弟としてしか見た事がなかった。
「ひょっとして、孤児院を出たら一緒に暮らそうって誘われたのってそういう事……?」
そう、自問自答するかのように言葉に出してしまえば、それが大正解だった事に、当時の彼とのやりとりや、表情になぜあんなにも気づかなかったのかと思うほど気付く。
「鈍感にもほどがあるでしょ……」
私はいたたまれなくなった。昨日のライノの、肩に大きくて温かい手を置かれて、うっとりと近づいて来た瞬間が、頭と瞼、そして心に浮かんでしまう。瞬時に顔がカッカッと熱い熱を持ってしょうがなくなってしまった。
実家にいる頃には、熱い視線をたくさん浴びせられたし、ぞわわわっってするようなくさい鳥肌もののセリフも沢山聞かされた。でも、それらは心になんら変化をもたらすことなく、どうでもいい、ただ単に気持ちの悪い事だった。
ライノは、最初から自分の心に近しい、懐に入っている存在だ。彼に対しては、普段異性に対して張り巡らせるガードが0の状態である。
すんなりと、いきなり素敵な男の人として心に入り込んでしまったライノを、今からガードの外に追い出すには、あまりにも突然すぎたし、やっぱり自分にとって大切な人である事には変わりがないのだ。
「びっくりしたまま、いきなり帰って来ちゃってライラもライノも心配しているかな……」
こうしてひと眠りすれば、途端に別れも告げずに消えてしまった事に対して申し訳なく思った。かと言って、どんな風にお詫びとかをすればいいのかわからないほど気持ちが渦巻いている。ライラにだけは、なんとか謝罪と、ライノとの事は一切書かずに手紙をしたためようと思った。
※※※※
なんとか、ドギマギしてしまう胸の鼓動が鎮まってきた頃、いつものようにダンのほうに向かい箱を覗いた。すると、そこにダンはいなかった。
敷き詰められたオガクズが、箱の角っこだけ、彼の体型に会うようにぽこっと穴が空いている。
「ダン、おっはよー」
ひょっとして、別のオガクズゾーンに潜り込んでいるのだろうかと思ってみるけれど、どうみても床一面盛り上がっている所がないので居なさそうだった。
「え? ダン? うそ……! どこ?」
チートも、探索魔法を使う事も忘れ、いなくなったダンを探して家中を歩き回った。手のひらサイズの彼が、どこか家具の隙間とかに挟まって身動きできなくなるような事故でもあったのかと思うと、心が凍り付いて手足が冷えていく。
どこを探してもいないため、寝室に項垂れて戻ると、さっき気付かなかったダンからのメッセージが残されていた事に気付いた。
「手紙……?」
宛名を見ると私で、裏にはダンと書かれてあった。ふと、手紙の近くに備えていた、ダンが人化した時ように準備をしていた服が無くなっている事に気付く。
「ダン……? 人化したの?」
いつの間に人化したのだろう。眠っている間である事は間違いないけれど、折角人化出来たのに、忽然と姿を消した彼が心配になったし、なんでいないのか訝しんだ。
手紙をそっと開けると、そこにはたった一言だけ綴られていたのである。
『エミリア、どうか、誰よりも幸せになってください』
手紙の角を見ても、裏を見ても他には何も書かれていなかった。
「ダン……」
その手紙と彼が過ごしていた巣箱が彼の存在を示している。
突然私の前に現れて、そして、番だと熱烈にアピールしつつ、可愛い彼とのこのひと月ほどが、まるで夢幻だったかのように、今は、この家に私一人きりになったのであった。
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