【完結】【R18】クリスマスイブの前夜に初めて出来た恋人にフラれました~転生先で、気弱な絶倫もふもふに溺愛されちゃいます

にじくす まさしよ

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女神の決めた最上級のハッピーエンドなんていらない! 私は、私の気持ちのまま行くわ! ②

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 ダンがいなくなってから1か月が過ぎ、3月も終わり、この北の果てにも穏やかな雪景色が楽しめるほどの気候になってきた。

 気温は6度まで上昇しており、たまに粉雪が少し降ってはすぐに雨に変わるようになった頃、私はサンタクロース協会でファンレターを仕分けしていた。

「エミリア―、この書類こっちじゃねーぞ!」
「この間提出された、カプセルの中に男の前の穴に入れる管のお前の草案は医療用として国が活用するらしいぞ?」
「エミリア、いくらなんでもとげ付きの触手に改良された魔獣なんて誰も喜ばないんじゃ……?」
「おしりから、各動物のしっぽが2時間だけ生える薬品は研究成功されたから今年から実装だぞ!」

 周囲の同僚たちや、最近人材も人数もゆとりが出来て仕事が嘘のように良い方向に回り始めた。上司もにこにこで、去年までの彼と別人かのようだ。
 
「エミリア、上司が呼んでるぞ? 早くいかないと……!」
「…………」

 私はぼうっとしていた。なんとなく心に何もかもが響かなくなっていて緩慢になっていたのである。

「エミリア?」
「わぁ!」

 ポンッと肩を叩かれて、突然の衝撃に悲鳴をあげる。室内の皆が注視してくるが、最近ではこういった事が当たり前になってきていた。

 ちょうど一年前ほどのヨウルプッキ先輩のようになった私は皆から心配された。

「……エミリア、今日はもう帰れ。仕事は俺もフォローしておくから」

 なんと、あの上司ですらこんな風に声をかけてきてくれるほど。

「ご迷惑おかけして申し訳ありません。お言葉に甘えて帰らせていただきます……」

 仕事が手につかなくなって、何を考えると言う事もなく帰宅したあとライラの家に転移した。


※※※※


「ライラ、ほらパイがついているわ?」
「ん……」

 休日の度にというほどではないけれど、月に2、3回はライラと会うようになっていた。ライラは、今妊娠初期でつわりが激しくて寝込みやすいので、普段行き届いていない家の掃除などを手伝ったりしている。
 妊婦には、当然ながらもう一人の命が宿っているため、安易に魔法で症状を和らげるわけにもいかず、ヤキモキしながら彼女が衰弱しないように看病をしていた。

 あの日プロポーズをしてきたライノは、私の来訪に合わせるかのようにライラの家にいた。

『エミリア、……もう、会ってくれないかと思ってた……。俺、焦りすぎて、どうしてあんな風に言ってしまったのか……。ごめん』
『ううん。私の方こそ、何も言わずに突然消えちゃってごめんね』

 ライノは、相変わらず人の気持ちの機微を察する事に長けている。私が突然の事で戸惑って居心地が悪い事も、キス未遂をしてしまった事で気持ちに整理なんてつかず、ぎくしゃくしてライノから遠ざかろうとするのもお見通しだった。
 私は、隣国の自分の身分を明かした。隠せるものでもないし、必要もないから王子との婚約も打ち明けた。そして、ダンとの出会いや消えたあの日までの事も。
 ライノが誠実に、真っ直ぐに自分に向かってきているのに、嘘や誤魔化したり、隠したりは違うと思ったから。

『そうか、隣国の公爵令嬢だったんだね。エミリアに釣り合うような身分を手に入れられると知ってから、エミリアに会いたくて、国内の貴族の本とか読み漁ったり色々聞いたんだ。でも、どこにもエミリアがいなくて、ひょっとしたらもう結婚してしまったのかとか諦めモードだったのもあって舞い上がってた。今まで俺を家族として受け入れてくれていた事は、嬉しいけど複雑だった。こうして、偶然だけど再会できた以上あの時の俺の気持ちも、プロポーズも撤回しない。あのさ、俺、待つから……。考えてくれないか?』
『ライノ……』

『エミリアにはちょっと申し訳ないけれど、王子との婚約がダメになって良かった。なあ、俺はさ、エミリアと10才で出会って、別れてから何年も経ってるのにこうして再会できたのって、不思議と繋がれる何かがあると思ってるんだ』
『……』

『断って欲しくないし、俺だってただ待つだけとかしない。でも、この間みたいに、どさくさに紛れてとか、無理強いは決してしないから、俺と時々会って、こうして話をして欲しい。商談じゃないから期限って区切れないけどさ。いつか、エミリアの答えを聞かせてくれないか?』
『……』

 私は、何をどう言っていいのかわからないまま口を閉じていた。するとライノは、私の頭に大きくなった男の人の手を置いて髪をぐちゃぐちゃにしながら撫でておどけだした。

『……今すぐ、ライノのお嫁さんにしてって言ってもいいけどな?』
『ライノったら!』
『ははは』

 私は、その日にライノの求婚を断るつもりだった。消えたダンの事が気になるというのもあるけれど、やっぱりライノは私に一番近い異性であると同時に家族だったから。
 でも、彼の真剣ですがるような瞳で見つめられると、悪い気もしないし、なぜか胸がドキドキしてきてしょうがいない。こんな事が初めてで、どうしていいのか分からないままでいると、ライノが笑いながらそんな風に言うから、なんだかんだでなし崩しに優しい彼の言葉に甘えて頷いてしまった。


※※※※



「お姉ちゃん……、私怖い……。おかしいよね、オスクとの子なのに。嬉しいし、幸せなのに。でも、こんな風になるなら妊娠なんてしなきゃよかったって考えてしまう自分が嫌で……」
「ライラ……」

 起きているあいだじゅう、つわりで気持ちの悪い体調が続いて、初めての妊娠の期待と不安の中、どんどん心細くなっているライラに付き添う日が多くなっていった。
 なんとか食事は摂ってくれているけれども、すぐに涙を流したり、そう思えば笑い出したり。ご主人のオスクも心配で仕事に行かなければならないけれど、ライラから離れられない日々が続くようになって、彼が仕事でいない間、彼女が落ち着きを取り戻すまで毎日看病をするのにそう時間はかからなかった。

 勿論、そんな生活は仕事をしながらは不可能だった。これが家族ならば、まだ公的に休業できるが、職場にとってライラは単なる私の知人でしかない。

 仕事とライラ。比べるものでもないけれど、やっぱり目を離すと色んな意味で心配で仕方のない彼女のほうが大切だと思った。仕事はいくらでも取り返しがきくけれども、ライラに何かあったらと思うとぞっとした。
 彼女には、またはじけるような可愛い笑顔を見せて欲しいし、来年には可愛い赤ちゃんを抱っこした元気なママのライラを見たい。

 私は、小さい頃からあれほどやりたいと思っていたサンタクロース協会の仕事を辞めたのであった。
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