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サンタクロースは、恋人のためにある!①
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「え? ちょっと、頭あげてくださいよ。もう、先輩にそんな風にされたら断りづらいじゃないですか」
「本当に断るつもりだったのか?」
「むぅ……、だってぇ。仕事が終わったら早く帰りたいもん。とりあえず話だけは聞きますよ。彼女って誰ですか? ひょっとして、ここ一年ほど先輩がおかしかったのって、仕事のせいじゃなくてその人のせい?」
超豪華なテーブルの向こう側の先輩が、彼女かと聞いた途端、思い出したのか頬を染めて恥ずかしそうにくねくねしだした。筋肉だるまのおじさんなのに。かなりドン引きだ。
「僕の愛する人はね、エミリアも知ってるだろ? 世間を騒がせたアールトネン伯爵なんだ」
それは知っている。この国にいる者なら誰でもとは言いすぎだが、ある程度の人は知っているだろう。
入り婿の父親が、現アールトネン伯爵が未成年だと魔力がほとんど顕現せず、書類上も令嬢のままなのをいいことに、愛人と子供を伯爵家につれてきて、伯爵代理なのにも拘らず悪行三昧したのだ。
昨年のクリスマスイブの日、シンディ・アールトネンは正式に国から認められて伯爵位を継ぎ、屋敷の守護者との儀式を終えた。
父は愛人とその子に毒殺された。愛人には情人がいて、子供はその男の子だったらしい。やりたい放題の残虐な行為を繰り返して、彼らは処刑のほうがまだましだと言われるほどの極刑に処されたのだ。
「知ってますよ。アールトネン伯爵が、極悪犯の所業のせいで傷ついた人々を、私財を惜しみなく使って今も救済しつづけているのも。素晴らしいかたですよね。綺麗で人柄もいいというし、伯爵家の婿として、この国の王子様とか近隣のすごい方々に求婚されているとか」
そこまで言うと、先輩は泣きだしそうになった。今は王子だとわかったのだからさっさと求婚したらいいのに。ひょっとして、先輩の片想いなのかと気の毒になった。
「先輩だって、これまでは孤児の平民出身で名ばかり男爵位しかなかったですけれども、今は王子なのだから堂々と求婚したらいいじゃないですか」
「時間がないんだ。僕が正式にエイヤフィラ王国の王子だと周知徹底されるには、最低でも数か月かかる。お披露目とか、手続きとかいっぱいあって。両親には、すぐにでもアールトネン伯爵との縁組を申し込むように頼んだんだ。だけど、王子だから政略的な意味合いを持ってしまうから国を介さねばならなくて。来年までそんな悠長な事をしていたらシンディがほかの男と結婚してしまう」
ぎりっと奥歯が軋む音が先輩から聞こえた。よほど切羽詰まった状況らしい。彼女は年内に夫を決めるつもりなのかもしれない。
「シンディ様は先輩をご存じなのですか?」
先輩の片思いな気がする。そもそも、相手は先輩をサンタとしてしか知らないんじゃないか?
もしもそうなら望みなんかこれっぽっちもなくて、政略的にこの国の王子が婿入りしそうだ。
「知っている。昨年も、その、身分があまりにも違うから、彼女に会いたくても会えなくて辛かった。そうしたら秋に再会できたんだ」
「あー。ひょっとして……。先輩がコダチュダリアンの花を机に飾った時期に行ったんでしたっけ。クレームの謝罪で」
先輩はこくんと頷いた。さっきまで辛そうに切なそうにしていたのが、あっというまに頭の周囲に天使がラッパを吹いて飛んでいるみたいに幸せそうにうっとりしだした。きっと愛する人で頭がいっぱいなのだろう。筋肉ダルマのおじさんなのに。
「その時、シンディも僕の想いに応えてくれたんだ」
頬に手を当てて、本気で乙女のような先輩の答えに心底びっくりした。
「え? じゃあ両想いなんじゃないですか。形式はあとからついてくるし、さっさと結婚しちゃったらどうです? 暫くはうるさいかもしれませんけれども、身分は問題ないってクリアできたんでしょう?」
「うん。身分が欲しくて荒波を超えてエイヤフィラにまで行ったから。で、今なんだけど。中途半端にしか王子と知られていないから、妨害とかが入るかもしれない。頼む、チート持ちのエミリアに協力して欲しいんだ」
「……とってもややこしそうなんですけど。でも、いいですよ、協力します。他ならぬ先輩のためですし、身分違いの恋、切ない想い。離れ離れになってもなお惹かれ合う二人。なんて素敵っ!」
「本当か? ありがとう、エミリア!」
「まかせてくださいっ! ふふふ、愛のキューピットだ! 相思相愛、素敵なカップル誕生ですね!」
私たちは立ちあがり、笑顔で握手をした。シンディ様の趣味は、まあ、好みは人それぞれだし好き合う二人が妨害を乗り越えて結ばれるハッピーエンドに向けて計画を練っていったのである。
※シンディたちのお話は、興味がございましたら前作でお楽しみください。49、50にエミリアが登場しています。
「本当に断るつもりだったのか?」
「むぅ……、だってぇ。仕事が終わったら早く帰りたいもん。とりあえず話だけは聞きますよ。彼女って誰ですか? ひょっとして、ここ一年ほど先輩がおかしかったのって、仕事のせいじゃなくてその人のせい?」
超豪華なテーブルの向こう側の先輩が、彼女かと聞いた途端、思い出したのか頬を染めて恥ずかしそうにくねくねしだした。筋肉だるまのおじさんなのに。かなりドン引きだ。
「僕の愛する人はね、エミリアも知ってるだろ? 世間を騒がせたアールトネン伯爵なんだ」
それは知っている。この国にいる者なら誰でもとは言いすぎだが、ある程度の人は知っているだろう。
入り婿の父親が、現アールトネン伯爵が未成年だと魔力がほとんど顕現せず、書類上も令嬢のままなのをいいことに、愛人と子供を伯爵家につれてきて、伯爵代理なのにも拘らず悪行三昧したのだ。
昨年のクリスマスイブの日、シンディ・アールトネンは正式に国から認められて伯爵位を継ぎ、屋敷の守護者との儀式を終えた。
父は愛人とその子に毒殺された。愛人には情人がいて、子供はその男の子だったらしい。やりたい放題の残虐な行為を繰り返して、彼らは処刑のほうがまだましだと言われるほどの極刑に処されたのだ。
「知ってますよ。アールトネン伯爵が、極悪犯の所業のせいで傷ついた人々を、私財を惜しみなく使って今も救済しつづけているのも。素晴らしいかたですよね。綺麗で人柄もいいというし、伯爵家の婿として、この国の王子様とか近隣のすごい方々に求婚されているとか」
そこまで言うと、先輩は泣きだしそうになった。今は王子だとわかったのだからさっさと求婚したらいいのに。ひょっとして、先輩の片想いなのかと気の毒になった。
「先輩だって、これまでは孤児の平民出身で名ばかり男爵位しかなかったですけれども、今は王子なのだから堂々と求婚したらいいじゃないですか」
「時間がないんだ。僕が正式にエイヤフィラ王国の王子だと周知徹底されるには、最低でも数か月かかる。お披露目とか、手続きとかいっぱいあって。両親には、すぐにでもアールトネン伯爵との縁組を申し込むように頼んだんだ。だけど、王子だから政略的な意味合いを持ってしまうから国を介さねばならなくて。来年までそんな悠長な事をしていたらシンディがほかの男と結婚してしまう」
ぎりっと奥歯が軋む音が先輩から聞こえた。よほど切羽詰まった状況らしい。彼女は年内に夫を決めるつもりなのかもしれない。
「シンディ様は先輩をご存じなのですか?」
先輩の片思いな気がする。そもそも、相手は先輩をサンタとしてしか知らないんじゃないか?
もしもそうなら望みなんかこれっぽっちもなくて、政略的にこの国の王子が婿入りしそうだ。
「知っている。昨年も、その、身分があまりにも違うから、彼女に会いたくても会えなくて辛かった。そうしたら秋に再会できたんだ」
「あー。ひょっとして……。先輩がコダチュダリアンの花を机に飾った時期に行ったんでしたっけ。クレームの謝罪で」
先輩はこくんと頷いた。さっきまで辛そうに切なそうにしていたのが、あっというまに頭の周囲に天使がラッパを吹いて飛んでいるみたいに幸せそうにうっとりしだした。きっと愛する人で頭がいっぱいなのだろう。筋肉ダルマのおじさんなのに。
「その時、シンディも僕の想いに応えてくれたんだ」
頬に手を当てて、本気で乙女のような先輩の答えに心底びっくりした。
「え? じゃあ両想いなんじゃないですか。形式はあとからついてくるし、さっさと結婚しちゃったらどうです? 暫くはうるさいかもしれませんけれども、身分は問題ないってクリアできたんでしょう?」
「うん。身分が欲しくて荒波を超えてエイヤフィラにまで行ったから。で、今なんだけど。中途半端にしか王子と知られていないから、妨害とかが入るかもしれない。頼む、チート持ちのエミリアに協力して欲しいんだ」
「……とってもややこしそうなんですけど。でも、いいですよ、協力します。他ならぬ先輩のためですし、身分違いの恋、切ない想い。離れ離れになってもなお惹かれ合う二人。なんて素敵っ!」
「本当か? ありがとう、エミリア!」
「まかせてくださいっ! ふふふ、愛のキューピットだ! 相思相愛、素敵なカップル誕生ですね!」
私たちは立ちあがり、笑顔で握手をした。シンディ様の趣味は、まあ、好みは人それぞれだし好き合う二人が妨害を乗り越えて結ばれるハッピーエンドに向けて計画を練っていったのである。
※シンディたちのお話は、興味がございましたら前作でお楽しみください。49、50にエミリアが登場しています。
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