【完結】【R18】クリスマスイブの前夜に初めて出来た恋人にフラれました~転生先で、気弱な絶倫もふもふに溺愛されちゃいます

にじくす まさしよ

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北の果て①

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 ヨウルプッキというのはもうすぐ30になる大柄な男だ。孤児で、身分は一応サンタクロースだから名誉貴族の称号はあるものの、本当に名ばかり。
 常に人手不足だから給料はいいけれど、忙しくてプライベートの充実はないと思った方がいいくらいのハードワーク。
 そのために、ずっと彼女一人できなかった彼が、去年のクリスマスイブから様子がおかしい。

「ねぇ、ヨウルプッキ先輩、どうしちゃったの?」
「さあなあ。気になるならエミリアが聞いておいでよ」
「やだよ。友達でもないし」
「俺だって嫌だ」
「社畜状態から、ついに精神がおかしくなりかけているのかも……」
「やだ、やめてよ! 明日は我が身じゃない!」


 同じようにファンレターを必死に仕分けをし、必要であれば返事をしたり、グッズ要望などがあれば研究機関への報告書を作成した。
 評価が悪いものがあれば容赦なく上司から叱責を受ける。

「そういえば、去年、滅茶苦茶叱られていたよな」
「……あーあれね。あそこまで怒鳴りつけなくてもいいよねー」

 皆で一斉に、仕事の手を止めてしまったヨウルプッキ先輩を睨んでいる上司を見た。

「だからって、あんな風になるかな?」
「ちょっと前にさ、ヨウルプッキ先輩ってクレーム対応に行かされていたよね」
「あー。そうそう。どこかの貴族にガチャを回していなかった事で呼び出されてた。あの時は、ヨウルプッキ先輩、貴族に処分されるかと思ったよね」
「アールトネン伯爵だな。昨年年末に大騒動があって、今もなんか裁判とかで忙しい大貴族だ。助けに行こうって言ってたけど、翌日戻ってきてほっとしたなあ」
「コダチュダリアンを机に飾ってたなー」
「だなー。時々滅茶苦茶気持ち悪いくらいにニヤニヤしたと思ったら落ち込んで……」

 はぁ……

 まただ、今日はもう何回目なのか。彼が大きくため息をついて、ファンレターに目を通しては天井を見上げて目を潤ませる。

「う……。グスッ……」

 とうとう泣き出した。彼は聞いていなかったようだけれど、ぼんやりしているのを上司が呼びつけて叱った時だったので、上司があれこれ言い訳じみた事を言い出す。


「気持ち悪っ!」
「ちょっと、エミリアちゃん言い過ぎだって……。気味が悪いけれどもさ」
「なんか、乙女みたいなんだもん。筋肉むきむきの何事にも動じない感じだったのにー」
「確かに……」


 そんな風に仕事をこなしつつ、今年のクリスマスに向けて多忙の毎日を送っていると、いきなりおじいさんが元気よく扉を壊しながら入って来た。

「おーい、ここにヨウルプッキっているだろう? ちょいと借りてくぜ?」

「な、なんだ?」

「お、何泣いてんだ? ほら行くぞ!」

「え? オット殿、一体……? わぁ! ちょ、ちょっと何をするんですかあああああ」

 こちらが余りの出来事に呆然として反論する間も無く、ぼんやりしていたヨウルプッキ先輩の首根っこを掴むと、今度は大きな窓を割って飛び出していった。

「…………修理や業務妨害に関してはヨウルプッキの給料から差し引く……」

 ぷるぷる怒りで顔を真っ赤にする上司がゆでたタコ状態でぷっと吹き出した。周りも同じだったようで睨みつけて来る上司から顔を背ける。

 皆で壊れたドアと窓を魔法で修復して、ついでに飛ばされたファンレターや報告書などを片付けたのだった。

 翌日からしばらくの間、ヨウルプッキ先輩が音信不通になった。とうとう壊れてしまったのかと心配になり、皆で彼の家に行こうとしたけれど、誰も住所を知らなかった。

 数日後、ヨウルプッキ先輩が退社した事を聞いた。

「くそっ! どうするんだ、この仕事の山! 誰がサンタするんだ……! せめてクリスマスが終わってからやめろよっ!」

 上司が一番驚いて憤慨した。彼の心配をするどころか、仕事に空いた穴をどう埋めるのかだけを心配してぼやく。気持ちはわからなくもないけれど、余りにも勝手な言い分にムカムカした。

 こんな職場環境にした責任は上司にもある。彼がパワハラをするから折角入った人が辞めたりもしたのだ。仕事は確かに多いし残業まみれだ。恋人たちの日にはトナカイと一緒に営業(?)活動のガチャ運び。

 それでも、平民や身の立て方が他にない社員たちの拠り所なのだ。理由は様々で、私のように遣り甲斐や仲間たちのために嫌な事を我慢して続ける子もいれば、生活のために仕方なくといった人も多い。

 これで、人間関係が悪ければ、辞めて行くのも頷ける。ストライキだって、お金の問題じゃない。こういう上司や、改善されない仕事のバランス、そして悪循環で起こるマンパワー不足のために起こるのだろう。

「そんな言い方はないんじゃないですか? ヨウルプッキ先輩はここ一年ほど様子がおかしかったですし、先ずは彼の心配をするのが先なんじゃないですか?」

「…………」

 流石に言い過ぎたのが分かったのか、上司は口を閉ざした。そして、何事もなかったかのように仕事を始める。私たちも拍子抜けをして黙々と続けたのであった。




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