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エライーン国④
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指先が、衝動に突き動かされるまま彼女に向かおうとしたその時、エミリアが笑いを引っ込めて真剣な表情でぽつりと呟いた。
「ね、ライノ。私さ、15才になったらサンタクロース協会に入ろうかなって思ってるんだ。そこで一杯働いて、孤児院に寄付をしたい。それに、皆が喜んでくれる仕事につきたいなって思っててさ」
──今、俺は何をしようとしていたんだ?
俺は、その言葉で我に返った、自分の独りよがりの感情であやうくエミリアを傷つけかねない事をしようとした事を恥じて下唇を噛む。
俯いてふーっと長い溜息を吐いた後、エミリアの瞳が映している月を見上げた。本音を言えば、彼女を抱きしめたい。けれども、そんな雰囲気は最初から自分の中にしかなくて。エミリアが、決意した将来の事に思考を集中させる。
「サンタクロース協会? じゃあ北の果てに行くのか? でも、あそこはとても大変だって……」
思ってもいなかったエミリアの就職先を聞いて、目を見開いて彼女の横顔を凝視した。
「うん。あのさ、私、体力も魔力も自信あるし。だから、クリスマスプレゼントを届けて、たくさんの人の幸せを目にして、笑顔を見てみたいんだ」
「その時期だけが忙しいわけじゃないぞ? 遣り甲斐もあるかもしんねーけど、年がら年中こき使われるから離職率が半端ないし。そりゃ給料はいいし、名前だけだけど貴族籍になれるけどさ……」
「ん……。お金はさ、別に薄給でもいいんだ。あと、身分はいらないくらい。でもさ、大人になって、北の果てに移動してしまえば、もう大丈夫なんじゃないかなって思ってさ……」
エミリアの視線は、大きな満月を向いたままだ。何を見ているのだろう。雲一つない、夜空にある数多の星々の煌めきすら霞ませるほどの月光の強さにそのまま吸い込まれてしまいそうだ。
「……エミリアはさ、……本当は貴族の令嬢なんだろ?」
先生たちがエミリアがそう言っていた事を思い出す。最初に会った時も見た事もない綺麗なドレスに身を包み、自分たちとは違う美しい所作や、頭の良さに彼女はもしかしたらとんでもない大貴族の子どもなのかもしれないと思っていた。
でも、それを口にしたら彼女が消えてしまうような気がして一言も口にしなかったのに、とうとう聞いてしまった。そして、それに応えた彼女の瞳が、寂しそうに影を作るのを見て後悔する。
「うん……。でも、今はここの家のただのエミリアだよ。ライノの姉で、妹で。ライラたちのお姉ちゃん」
「……サンタクロース協会で働くよりも、貴族に戻りたいって思わないのか? 本当に?」
一度出てしまった、今まで見ないように聞かないようにしていた事を引っ込めるなど出来はしない。話題を少し逸らそうとしても、なぜ彼女がそれほどまでに、自分たちでは考えられないお金と権力を持つ貴族という社会から逃げたいのか知りたくなった。
「前にさ、家族に自分が生きているって知られたくないって言ってたけど……。そんなにヤバい家族なのか?」
「ヤバい、って、ライノが考えているようなヤバさじゃないけどね。連れ戻されたら私の人生が終わっちゃう。私は、自由でいたいの。閉じ込められて、親の言うがまま、夫のいいなりなままの人生なんてごめんなのよ」
「……自由か」
「うん」
エミリアは、このまま何かの拍子で両親たちに所在地がバレて連れ戻され、ヤンデレ監禁男に捕まるのだけはどうしても我慢ならなかった。ひょっとしたら、もうその男との縁は切れているかもしれない。でも、万が一にも可能性があるのなら、そんなメリバを回避すべくこれまで以上に気を引き締めて逃げようと決意していた。
それに、あの親はいらない。自分のお母さんたちは、今でも ヘリヤ、ミンミ、サイニだけ。時々、チートの遠距離透視で彼女たちが幸せなのを確認していた。もしも、お母さん達がピンチに陥るような事があれば、すぐに駆けつけるつもりだ。
そんな風に、天にある月に自分の決意と想いの強さを誓うかのように両手の指を絡ませて握りしめて祈る。
俺には、彼女の考えている事が何なのかよくわからない。ただ、月明の中の彼女があまりにも綺麗で、時を忘れ心を奪われていた。
「ね、ライノ。私さ、15才になったらサンタクロース協会に入ろうかなって思ってるんだ。そこで一杯働いて、孤児院に寄付をしたい。それに、皆が喜んでくれる仕事につきたいなって思っててさ」
──今、俺は何をしようとしていたんだ?
俺は、その言葉で我に返った、自分の独りよがりの感情であやうくエミリアを傷つけかねない事をしようとした事を恥じて下唇を噛む。
俯いてふーっと長い溜息を吐いた後、エミリアの瞳が映している月を見上げた。本音を言えば、彼女を抱きしめたい。けれども、そんな雰囲気は最初から自分の中にしかなくて。エミリアが、決意した将来の事に思考を集中させる。
「サンタクロース協会? じゃあ北の果てに行くのか? でも、あそこはとても大変だって……」
思ってもいなかったエミリアの就職先を聞いて、目を見開いて彼女の横顔を凝視した。
「うん。あのさ、私、体力も魔力も自信あるし。だから、クリスマスプレゼントを届けて、たくさんの人の幸せを目にして、笑顔を見てみたいんだ」
「その時期だけが忙しいわけじゃないぞ? 遣り甲斐もあるかもしんねーけど、年がら年中こき使われるから離職率が半端ないし。そりゃ給料はいいし、名前だけだけど貴族籍になれるけどさ……」
「ん……。お金はさ、別に薄給でもいいんだ。あと、身分はいらないくらい。でもさ、大人になって、北の果てに移動してしまえば、もう大丈夫なんじゃないかなって思ってさ……」
エミリアの視線は、大きな満月を向いたままだ。何を見ているのだろう。雲一つない、夜空にある数多の星々の煌めきすら霞ませるほどの月光の強さにそのまま吸い込まれてしまいそうだ。
「……エミリアはさ、……本当は貴族の令嬢なんだろ?」
先生たちがエミリアがそう言っていた事を思い出す。最初に会った時も見た事もない綺麗なドレスに身を包み、自分たちとは違う美しい所作や、頭の良さに彼女はもしかしたらとんでもない大貴族の子どもなのかもしれないと思っていた。
でも、それを口にしたら彼女が消えてしまうような気がして一言も口にしなかったのに、とうとう聞いてしまった。そして、それに応えた彼女の瞳が、寂しそうに影を作るのを見て後悔する。
「うん……。でも、今はここの家のただのエミリアだよ。ライノの姉で、妹で。ライラたちのお姉ちゃん」
「……サンタクロース協会で働くよりも、貴族に戻りたいって思わないのか? 本当に?」
一度出てしまった、今まで見ないように聞かないようにしていた事を引っ込めるなど出来はしない。話題を少し逸らそうとしても、なぜ彼女がそれほどまでに、自分たちでは考えられないお金と権力を持つ貴族という社会から逃げたいのか知りたくなった。
「前にさ、家族に自分が生きているって知られたくないって言ってたけど……。そんなにヤバい家族なのか?」
「ヤバい、って、ライノが考えているようなヤバさじゃないけどね。連れ戻されたら私の人生が終わっちゃう。私は、自由でいたいの。閉じ込められて、親の言うがまま、夫のいいなりなままの人生なんてごめんなのよ」
「……自由か」
「うん」
エミリアは、このまま何かの拍子で両親たちに所在地がバレて連れ戻され、ヤンデレ監禁男に捕まるのだけはどうしても我慢ならなかった。ひょっとしたら、もうその男との縁は切れているかもしれない。でも、万が一にも可能性があるのなら、そんなメリバを回避すべくこれまで以上に気を引き締めて逃げようと決意していた。
それに、あの親はいらない。自分のお母さんたちは、今でも ヘリヤ、ミンミ、サイニだけ。時々、チートの遠距離透視で彼女たちが幸せなのを確認していた。もしも、お母さん達がピンチに陥るような事があれば、すぐに駆けつけるつもりだ。
そんな風に、天にある月に自分の決意と想いの強さを誓うかのように両手の指を絡ませて握りしめて祈る。
俺には、彼女の考えている事が何なのかよくわからない。ただ、月明の中の彼女があまりにも綺麗で、時を忘れ心を奪われていた。
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