【完結】【R18】クリスマスイブの前夜に初めて出来た恋人にフラれました~転生先で、気弱な絶倫もふもふに溺愛されちゃいます

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
13 / 66

アフターフォローは一度だけよ?①

しおりを挟む
 転移を唱えると、徐々に視界がぼやけていく。ヘリヤ、ミンミ、サイニがびっくりしつつ、慌てて私の名前を呼んでくれた。

「エミリアお嬢様!」
「そんなっ! お嬢様あああ!」
「エミリア様! 行かないでください!」

 そんな風に言われると、瞬時に、心から私を慈しんでくれた彼女たちと離れたくなくなる。

「ごめんね……。私も離れたくない。ヘリヤ、ミンミ、サイニ……大好きだよぉ……ぐす、グス!」

 そんな私の言葉は、すっかり景色の変わった場所で発せられ、彼女たちに届く事はなかった。
 母の前でこんな風に消えたのだ。
 ひょっとしたら彼女たちが咎められるかもしれないけれど、母からは娘を産んだ記憶をついでに消してきた。私と言う存在が最初からなければ咎めるもなにもないだろう。
 様々な矛盾点があっても、それが判明する頃には母という名の他人は王都から出てこないだろうし、田舎のあの場所にある、私が過ごした家や、使用人たちの事すら関係がないとばかりに興味を持たないのが分かっていた。

 父がどういう反応をするのかはわからない。けれど、正妻に子供が複数いるらしいし、音信不通だったのだから何もないと思った。

 ふと、テレポートしてきたエライーンの風景を見上げる。空は晴れ渡り、気候も良い。ここは肥沃な大地の国で、国王がいて貴族制なのは変わらないけれども、国民がおおらかだという。人種に偏見もないため、なんと獣人も共存しているらしい。
 中には悪い事をする人もいるけれども、基本的に平和で孤児院もきちんと整備されて身元不明の子供でも住みやすいというのを調べてわかっていた。

 新しい、ここが私の生きる場所だと、大きく息を吸いこみながら、女神との会話をした5才の事を思い出していた。




※※※※



 5才になった頃には簡単な魔法が自然と使えるようになっていた。ヘリヤ、ミンミ、サイニや、家庭教師の先生がびっくりしつつも喜んでくれて、調子に乗って使いまくっていたらありえないほど上達したのだ。
 勿論、その事は母にとっては嬉しくない出来事だと分かってからは、こっそり練習を続けていたのである。

「……おかしいなあ。確かに可愛い。この顔ってば、まだ5才なのに、めちゃくちゃ美人さんになるんじゃない? ってくらい可愛い。お母さんはとっても綺麗だし、ヘリヤはもっと綺麗になるって絶賛するくらい。でも、皆に慕われてチヤホヤされる人生じゃなかったの? 皆じゃないじゃない。ちょっと、女神さん、どうなってんのよー」

 その日も、相変わらず母につれなくされて、真夜中自室でなかなか寝付けずにぼやいた。

「呼んだー?」

 すると、とても明るい声で、かつて転生したときに会った女神が現れた。

「……、呼んだつもりはないですけど……」

「女神さん、どうなってんのよーって言ったじゃない。呼んだわよね?」

 なんてこった。最後のぼやきで女神を呼んだという事になったらしい。

「で、聞きたい事ある? なくてもいいわよ」

「聞かなかったら、また来てくれます? ノーカンになりますか?」

「一度だけって言ったでしょう? もう二度目はないわよ」

 不測の事態に、聞きたい事なんて整理整頓していないのだからわからない。でも、ちょっと気になる事を聞いて行こうと思った。

「質問は一つだけですか?」

「いいえ。いくつでもどうぞ? 前世の事でも、今の事でもなんでも。答えられる範囲なら答えてあげる」

「じゃあ、あのね、前世の家族はどうなってますか? 悲しんでますよね……」

「亡くなったから暫くは悲しかったみたいだけど今は落ち着いてきたようよ。お兄さんが結婚して子供も生まれて幸せにケーキ屋さんを盛り立てているわ」

  良かった。悲しませちゃったけれど、なんとか皆で前に進んでいるみたいでホッとする。


「ただ、ほら、貴女あの時、通勤手段と通勤路を、勤め先に伝えているのとは違う方法で帰ったでしょ?」

「はい。会社には電車と徒歩で提出していましたけど……?」

「あの日、自転車での帰路だったでしょ? それで、仕事が、終電にも間に合わないほどのレベルってどうなっているんだって、昼間のクレーマーを面白半分にあげたSNSと合わさって大変だったみたいね。そういう騒動もあったから、世間が家族を放っておかなくて。1か月ほど騒がしかったのよ。あ、ちなみに、貴女にクレームした女性は、いくつもの店で同じことを繰り返していた事が分かって被害にあったお店のいくつかから被害届が出されたわね。SNSで顔も出たから、当然住めなくなって、呆れた家族からも追い出されていたわよ」

「そうですか……」

 そう言えば、通勤中の事故だ。最後に、大迷惑をかけてしまって申し訳なくなった。

 繁忙期のケーキ屋というより、どの職種も同じようなものじゃないかな? 

 過度の残業を禁止された時に、ライフワークバランス報酬という項目が出来た。残業代はつかないけれども、数万それでついた。けれども、その額は、実際の残業時間を計算した額より少ない。働き方改革とかがきちんと整備されればいいなと思った。

 クレーマーのあの人は常習犯だったかと、正直なところ自分もそう思っていたので大きく頷いて納得した。今後は、ケーキ屋だけでなく、ドタキャンなどで損害を被っている色んな業種でそういう事が少しでもなくなればいいと思う。

「あ、あっちの世界もこっちと同じで数年経っているからね? 落ち着いて、もう大丈夫だから安心してね?」

「はい、ありがとうございます」

 しんみりした空気が流れた。すると、女神が口を開く。

「聞きたいのはそれだけ?」

  私は天井を見ながら、ふと浮かんだ人の事を聞いた。

「えっと。アキ君はどうなりました?」

「あー。貴女の元カレね。あまり気持ちのいい話じゃないけれどいいかしら?」

 聞きたくないような、聞きたいようなと迷っているうちに女神がどんどん話をし始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...