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アフターフォローは一度だけよ?①
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転移を唱えると、徐々に視界がぼやけていく。ヘリヤ、ミンミ、サイニがびっくりしつつ、慌てて私の名前を呼んでくれた。
「エミリアお嬢様!」
「そんなっ! お嬢様あああ!」
「エミリア様! 行かないでください!」
そんな風に言われると、瞬時に、心から私を慈しんでくれた彼女たちと離れたくなくなる。
「ごめんね……。私も離れたくない。ヘリヤ、ミンミ、サイニ……大好きだよぉ……ぐす、グス!」
そんな私の言葉は、すっかり景色の変わった場所で発せられ、彼女たちに届く事はなかった。
母の前でこんな風に消えたのだ。
ひょっとしたら彼女たちが咎められるかもしれないけれど、母からは娘を産んだ記憶をついでに消してきた。私と言う存在が最初からなければ咎めるもなにもないだろう。
様々な矛盾点があっても、それが判明する頃には母という名の他人は王都から出てこないだろうし、田舎のあの場所にある、私が過ごした家や、使用人たちの事すら関係がないとばかりに興味を持たないのが分かっていた。
父がどういう反応をするのかはわからない。けれど、正妻に子供が複数いるらしいし、音信不通だったのだから何もないと思った。
ふと、テレポートしてきたエライーンの風景を見上げる。空は晴れ渡り、気候も良い。ここは肥沃な大地の国で、国王がいて貴族制なのは変わらないけれども、国民がおおらかだという。人種に偏見もないため、なんと獣人も共存しているらしい。
中には悪い事をする人もいるけれども、基本的に平和で孤児院もきちんと整備されて身元不明の子供でも住みやすいというのを調べてわかっていた。
新しい、ここが私の生きる場所だと、大きく息を吸いこみながら、女神との会話をした5才の事を思い出していた。
※※※※
5才になった頃には簡単な魔法が自然と使えるようになっていた。ヘリヤ、ミンミ、サイニや、家庭教師の先生がびっくりしつつも喜んでくれて、調子に乗って使いまくっていたらありえないほど上達したのだ。
勿論、その事は母にとっては嬉しくない出来事だと分かってからは、こっそり練習を続けていたのである。
「……おかしいなあ。確かに可愛い。この顔ってば、まだ5才なのに、めちゃくちゃ美人さんになるんじゃない? ってくらい可愛い。お母さんはとっても綺麗だし、ヘリヤはもっと綺麗になるって絶賛するくらい。でも、皆に慕われてチヤホヤされる人生じゃなかったの? 皆じゃないじゃない。ちょっと、女神さん、どうなってんのよー」
その日も、相変わらず母につれなくされて、真夜中自室でなかなか寝付けずにぼやいた。
「呼んだー?」
すると、とても明るい声で、かつて転生したときに会った女神が現れた。
「……、呼んだつもりはないですけど……」
「女神さん、どうなってんのよーって言ったじゃない。呼んだわよね?」
なんてこった。最後のぼやきで女神を呼んだという事になったらしい。
「で、聞きたい事ある? なくてもいいわよ」
「聞かなかったら、また来てくれます? ノーカンになりますか?」
「一度だけって言ったでしょう? もう二度目はないわよ」
不測の事態に、聞きたい事なんて整理整頓していないのだからわからない。でも、ちょっと気になる事を聞いて行こうと思った。
「質問は一つだけですか?」
「いいえ。いくつでもどうぞ? 前世の事でも、今の事でもなんでも。答えられる範囲なら答えてあげる」
「じゃあ、あのね、前世の家族はどうなってますか? 悲しんでますよね……」
「亡くなったから暫くは悲しかったみたいだけど今は落ち着いてきたようよ。お兄さんが結婚して子供も生まれて幸せにケーキ屋さんを盛り立てているわ」
良かった。悲しませちゃったけれど、なんとか皆で前に進んでいるみたいでホッとする。
「ただ、ほら、貴女あの時、通勤手段と通勤路を、勤め先に伝えているのとは違う方法で帰ったでしょ?」
「はい。会社には電車と徒歩で提出していましたけど……?」
「あの日、自転車での帰路だったでしょ? それで、仕事が、終電にも間に合わないほどのレベルってどうなっているんだって、昼間のクレーマーを面白半分にあげたSNSと合わさって大変だったみたいね。そういう騒動もあったから、世間が家族を放っておかなくて。1か月ほど騒がしかったのよ。あ、ちなみに、貴女にクレームした女性は、いくつもの店で同じことを繰り返していた事が分かって被害にあったお店のいくつかから被害届が出されたわね。SNSで顔も出たから、当然住めなくなって、呆れた家族からも追い出されていたわよ」
「そうですか……」
そう言えば、通勤中の事故だ。最後に、大迷惑をかけてしまって申し訳なくなった。
繁忙期のケーキ屋というより、どの職種も同じようなものじゃないかな?
過度の残業を禁止された時に、ライフワークバランス報酬という項目が出来た。残業代はつかないけれども、数万それでついた。けれども、その額は、実際の残業時間を計算した額より少ない。働き方改革とかがきちんと整備されればいいなと思った。
クレーマーのあの人は常習犯だったかと、正直なところ自分もそう思っていたので大きく頷いて納得した。今後は、ケーキ屋だけでなく、ドタキャンなどで損害を被っている色んな業種でそういう事が少しでもなくなればいいと思う。
「あ、あっちの世界もこっちと同じで数年経っているからね? 落ち着いて、もう大丈夫だから安心してね?」
「はい、ありがとうございます」
しんみりした空気が流れた。すると、女神が口を開く。
「聞きたいのはそれだけ?」
私は天井を見ながら、ふと浮かんだ人の事を聞いた。
「えっと。アキ君はどうなりました?」
「あー。貴女の元カレね。あまり気持ちのいい話じゃないけれどいいかしら?」
聞きたくないような、聞きたいようなと迷っているうちに女神がどんどん話をし始めた。
「エミリアお嬢様!」
「そんなっ! お嬢様あああ!」
「エミリア様! 行かないでください!」
そんな風に言われると、瞬時に、心から私を慈しんでくれた彼女たちと離れたくなくなる。
「ごめんね……。私も離れたくない。ヘリヤ、ミンミ、サイニ……大好きだよぉ……ぐす、グス!」
そんな私の言葉は、すっかり景色の変わった場所で発せられ、彼女たちに届く事はなかった。
母の前でこんな風に消えたのだ。
ひょっとしたら彼女たちが咎められるかもしれないけれど、母からは娘を産んだ記憶をついでに消してきた。私と言う存在が最初からなければ咎めるもなにもないだろう。
様々な矛盾点があっても、それが判明する頃には母という名の他人は王都から出てこないだろうし、田舎のあの場所にある、私が過ごした家や、使用人たちの事すら関係がないとばかりに興味を持たないのが分かっていた。
父がどういう反応をするのかはわからない。けれど、正妻に子供が複数いるらしいし、音信不通だったのだから何もないと思った。
ふと、テレポートしてきたエライーンの風景を見上げる。空は晴れ渡り、気候も良い。ここは肥沃な大地の国で、国王がいて貴族制なのは変わらないけれども、国民がおおらかだという。人種に偏見もないため、なんと獣人も共存しているらしい。
中には悪い事をする人もいるけれども、基本的に平和で孤児院もきちんと整備されて身元不明の子供でも住みやすいというのを調べてわかっていた。
新しい、ここが私の生きる場所だと、大きく息を吸いこみながら、女神との会話をした5才の事を思い出していた。
※※※※
5才になった頃には簡単な魔法が自然と使えるようになっていた。ヘリヤ、ミンミ、サイニや、家庭教師の先生がびっくりしつつも喜んでくれて、調子に乗って使いまくっていたらありえないほど上達したのだ。
勿論、その事は母にとっては嬉しくない出来事だと分かってからは、こっそり練習を続けていたのである。
「……おかしいなあ。確かに可愛い。この顔ってば、まだ5才なのに、めちゃくちゃ美人さんになるんじゃない? ってくらい可愛い。お母さんはとっても綺麗だし、ヘリヤはもっと綺麗になるって絶賛するくらい。でも、皆に慕われてチヤホヤされる人生じゃなかったの? 皆じゃないじゃない。ちょっと、女神さん、どうなってんのよー」
その日も、相変わらず母につれなくされて、真夜中自室でなかなか寝付けずにぼやいた。
「呼んだー?」
すると、とても明るい声で、かつて転生したときに会った女神が現れた。
「……、呼んだつもりはないですけど……」
「女神さん、どうなってんのよーって言ったじゃない。呼んだわよね?」
なんてこった。最後のぼやきで女神を呼んだという事になったらしい。
「で、聞きたい事ある? なくてもいいわよ」
「聞かなかったら、また来てくれます? ノーカンになりますか?」
「一度だけって言ったでしょう? もう二度目はないわよ」
不測の事態に、聞きたい事なんて整理整頓していないのだからわからない。でも、ちょっと気になる事を聞いて行こうと思った。
「質問は一つだけですか?」
「いいえ。いくつでもどうぞ? 前世の事でも、今の事でもなんでも。答えられる範囲なら答えてあげる」
「じゃあ、あのね、前世の家族はどうなってますか? 悲しんでますよね……」
「亡くなったから暫くは悲しかったみたいだけど今は落ち着いてきたようよ。お兄さんが結婚して子供も生まれて幸せにケーキ屋さんを盛り立てているわ」
良かった。悲しませちゃったけれど、なんとか皆で前に進んでいるみたいでホッとする。
「ただ、ほら、貴女あの時、通勤手段と通勤路を、勤め先に伝えているのとは違う方法で帰ったでしょ?」
「はい。会社には電車と徒歩で提出していましたけど……?」
「あの日、自転車での帰路だったでしょ? それで、仕事が、終電にも間に合わないほどのレベルってどうなっているんだって、昼間のクレーマーを面白半分にあげたSNSと合わさって大変だったみたいね。そういう騒動もあったから、世間が家族を放っておかなくて。1か月ほど騒がしかったのよ。あ、ちなみに、貴女にクレームした女性は、いくつもの店で同じことを繰り返していた事が分かって被害にあったお店のいくつかから被害届が出されたわね。SNSで顔も出たから、当然住めなくなって、呆れた家族からも追い出されていたわよ」
「そうですか……」
そう言えば、通勤中の事故だ。最後に、大迷惑をかけてしまって申し訳なくなった。
繁忙期のケーキ屋というより、どの職種も同じようなものじゃないかな?
過度の残業を禁止された時に、ライフワークバランス報酬という項目が出来た。残業代はつかないけれども、数万それでついた。けれども、その額は、実際の残業時間を計算した額より少ない。働き方改革とかがきちんと整備されればいいなと思った。
クレーマーのあの人は常習犯だったかと、正直なところ自分もそう思っていたので大きく頷いて納得した。今後は、ケーキ屋だけでなく、ドタキャンなどで損害を被っている色んな業種でそういう事が少しでもなくなればいいと思う。
「あ、あっちの世界もこっちと同じで数年経っているからね? 落ち着いて、もう大丈夫だから安心してね?」
「はい、ありがとうございます」
しんみりした空気が流れた。すると、女神が口を開く。
「聞きたいのはそれだけ?」
私は天井を見ながら、ふと浮かんだ人の事を聞いた。
「えっと。アキ君はどうなりました?」
「あー。貴女の元カレね。あまり気持ちのいい話じゃないけれどいいかしら?」
聞きたくないような、聞きたいようなと迷っているうちに女神がどんどん話をし始めた。
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