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6歳になった。父はどうやら貴族のようだ。とても忙しいので王都のお城で、国のために忙しく働いているらしい。母は、とっても悲しいけれど父の愛人さんというか、愛妾という立場らしい。
この世界の貴族では普通らしいけれど、王都の本邸に正妻さんがいて、母は、私が妊娠したと同時に、父の持つ領地の田舎のここに追いやられたっぽい。
とはいえ、父はとんでもない大貴族らしくて、小さな田舎の屋敷ったってお城だ。使用人だけで50人以上いる。
愛妾なのに、正妻さんより先に私を妊娠した事で、父と離されてしまって私を恨んでいるというのを、使用人たちの会話を少しずつ総合してみたらわかった。
だけど、私がいるから追い出されずにすんでいるのも事実らしくて、月に1度、私の成長を手紙で知らせるために、今みたいに部屋に来て私の様子を眺めているんだって。
「そう、魔力があるの……」
「はい、奥様。エミリアお嬢様は素晴らしいですよ!」
「お勉強も、家庭教師がすでに10歳のものすら容易に理解できるほど賢いと褒めておられて」
「礼儀作法もとても幼児とは思えないほどでしたけれど、最近はどこに出してもおかしくないほど優雅で愛らしく!」
「……。あまり目立たないように育ててちょうだい。正妻のお子様たちよりも優秀だなんてわかったら、それこそ追い出されるわ。年相応か、少し足らないくらいでいいの。女の子なんだし、そうね、可愛らしさがあればいいわ」
「……」
ヘリヤ、ミンミ、サイニは、私が母に素っ気なくされて嫌われているというか無関心で父とのつながりだけという利用価値しか見出していない事を悲しんでいるのを知っている。
こうして、私を大袈裟に褒めて、なんとか母に少しでも認めてもらって、笑いかけられたりといった愛情を少しでも示してもらいたいと張り切ってくれたけれど逆効果だった。
私が笑顔で口を開けば、眉間にしわがよるし、なんか、前世のGさんみたいなものを見るような視線になる。
小さな頃は「お母さん」って話しかけたし、駆け寄ったけれども。
母が気まぐれに現れても、場所を一歩も動く事すらしなくなったのもしょうがないと思う。そんな風に見るくらいなら、いっそ来なくていいやと思うほど、会うたびに心が傷ついて泣きそうになった。
※※※※
10歳になった。その日、母がやけに明るく部屋を訪れた。
どうやら、王都にいる正妻が亡くなったらしい。父を愛しているというよりも、権力というのか、そういうのに固執している気がする。やっと田舎から都会に戻り、正妻という立場に迎え入れられて満足そうだ。
「やったわ! ほほほほ、この子を産んで育ててもこんな田舎に追いやられたけれど、初めて役に立ったわね! ふふふ、捨てなくて良かったわ」
いや、彼女の本心は何となくわかっていたけれども。わかっていても、せめて聞こえない所で言って欲しいと思った。
私は何のために生まれたのだろうか。母の権力を守るため?
俯いた瞳からぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。
「そういえば、この子の教育はどうなってるの? 魔力は少しくらいある? 勉強は? 礼儀作法はせめて年相応よね?」
そういった私の進捗状況は、ヘリヤ、ミンミ、サイニが散々言っていたはずだ。彼女たちの言葉を何も聞いていなかったのがそのセリフでわかった。
無関心にもほどがある。
ヘリヤ、ミンミ、サイニは、目を見開き言葉を無くした。彼女たちが、母に少しでも逆らうなどありえないのだ。なぜなら、この母の実家もまた貴族だ。万が一、父に捨てられていたとしても、子爵令嬢としての地位が残るらしい。
大好きな3人は平民だ。愛妾の、いらない子の世話係には地位のある人物は不要なんだって。まともな貴族令嬢としての教育をはなから施すつもりがひとかけらも無かったから平民である彼女たちが選ばれたのだ。
3人が、あまりの母の言動に対して、悲しみや怒りといった感情を抑えながら、現在の教育の進捗状況を母に伝えると、母は、年相応以上に出来のよい私に満足して、初めてにっこりと大輪の花が開くような見事な笑顔を見せてくれた。
父が見初めたという、母の美しさは健在だ。王都に戻った後、この色気のある綺麗な顔と体があれば、あっという間に父の心を取り戻せる自信があるのだろう。
「そう。でもまあ、所詮は、こんな田舎の教育ですからね。ふふ、王都に戻れば、一流の家庭教師を雇いましょう。わたくしをこんな風に陥れたあの元正妻の子たちなんかよりも、素晴らしい子にするのよ!」
母の高笑いだけが部屋に響く。
私は俯いたままだ。彼女の視界の中央には私がいるのに、いるはずなのに、この姿が見えていないのだろうか。
目の前の、私を産んだという女性は、一体なにものなんだろう?
私は、母に3人が叱られるから、普段、チート魔法はおろか、10歳の子でも使える魔法すら使った事がない。
もういいかな?
今はたったの10歳。
この世界でもまだまだ子供だ。でも、このままここにいたら、私は私でなくなる。こんなの、前世の両親たちに胸を張って幸せだなんてとても言えない。
「ヘリヤ、ミンミ、サイニ……。私の大事な、大好きなお母さん達……。今まで愛してくれて、大切にしてくれてありがとう。この家からすぐに出て。そして、家族と幸せに暮らしてね」
彼女たちのポケットに、私自身の小遣いで貯めたお金をテレポートさせる。これだけあれば、平民は一生過ごせるほどの金額だ。
私がいなくなっても、彼女たちが酷い目に合わないように体に守護を張った。自分のポケットにも勿論入れる。
「おかあさま、はじめまして。そして、さようなら……」
きゅっと拳を握り、やっと、私を見た母に礼をした。
そうして、チート魔法の言語である、懐かしい、この世界では誰も知らない日本語を唱えた。
〈転移。場所は隣国、西のエライーンへ!〉
この世界の貴族では普通らしいけれど、王都の本邸に正妻さんがいて、母は、私が妊娠したと同時に、父の持つ領地の田舎のここに追いやられたっぽい。
とはいえ、父はとんでもない大貴族らしくて、小さな田舎の屋敷ったってお城だ。使用人だけで50人以上いる。
愛妾なのに、正妻さんより先に私を妊娠した事で、父と離されてしまって私を恨んでいるというのを、使用人たちの会話を少しずつ総合してみたらわかった。
だけど、私がいるから追い出されずにすんでいるのも事実らしくて、月に1度、私の成長を手紙で知らせるために、今みたいに部屋に来て私の様子を眺めているんだって。
「そう、魔力があるの……」
「はい、奥様。エミリアお嬢様は素晴らしいですよ!」
「お勉強も、家庭教師がすでに10歳のものすら容易に理解できるほど賢いと褒めておられて」
「礼儀作法もとても幼児とは思えないほどでしたけれど、最近はどこに出してもおかしくないほど優雅で愛らしく!」
「……。あまり目立たないように育ててちょうだい。正妻のお子様たちよりも優秀だなんてわかったら、それこそ追い出されるわ。年相応か、少し足らないくらいでいいの。女の子なんだし、そうね、可愛らしさがあればいいわ」
「……」
ヘリヤ、ミンミ、サイニは、私が母に素っ気なくされて嫌われているというか無関心で父とのつながりだけという利用価値しか見出していない事を悲しんでいるのを知っている。
こうして、私を大袈裟に褒めて、なんとか母に少しでも認めてもらって、笑いかけられたりといった愛情を少しでも示してもらいたいと張り切ってくれたけれど逆効果だった。
私が笑顔で口を開けば、眉間にしわがよるし、なんか、前世のGさんみたいなものを見るような視線になる。
小さな頃は「お母さん」って話しかけたし、駆け寄ったけれども。
母が気まぐれに現れても、場所を一歩も動く事すらしなくなったのもしょうがないと思う。そんな風に見るくらいなら、いっそ来なくていいやと思うほど、会うたびに心が傷ついて泣きそうになった。
※※※※
10歳になった。その日、母がやけに明るく部屋を訪れた。
どうやら、王都にいる正妻が亡くなったらしい。父を愛しているというよりも、権力というのか、そういうのに固執している気がする。やっと田舎から都会に戻り、正妻という立場に迎え入れられて満足そうだ。
「やったわ! ほほほほ、この子を産んで育ててもこんな田舎に追いやられたけれど、初めて役に立ったわね! ふふふ、捨てなくて良かったわ」
いや、彼女の本心は何となくわかっていたけれども。わかっていても、せめて聞こえない所で言って欲しいと思った。
私は何のために生まれたのだろうか。母の権力を守るため?
俯いた瞳からぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。
「そういえば、この子の教育はどうなってるの? 魔力は少しくらいある? 勉強は? 礼儀作法はせめて年相応よね?」
そういった私の進捗状況は、ヘリヤ、ミンミ、サイニが散々言っていたはずだ。彼女たちの言葉を何も聞いていなかったのがそのセリフでわかった。
無関心にもほどがある。
ヘリヤ、ミンミ、サイニは、目を見開き言葉を無くした。彼女たちが、母に少しでも逆らうなどありえないのだ。なぜなら、この母の実家もまた貴族だ。万が一、父に捨てられていたとしても、子爵令嬢としての地位が残るらしい。
大好きな3人は平民だ。愛妾の、いらない子の世話係には地位のある人物は不要なんだって。まともな貴族令嬢としての教育をはなから施すつもりがひとかけらも無かったから平民である彼女たちが選ばれたのだ。
3人が、あまりの母の言動に対して、悲しみや怒りといった感情を抑えながら、現在の教育の進捗状況を母に伝えると、母は、年相応以上に出来のよい私に満足して、初めてにっこりと大輪の花が開くような見事な笑顔を見せてくれた。
父が見初めたという、母の美しさは健在だ。王都に戻った後、この色気のある綺麗な顔と体があれば、あっという間に父の心を取り戻せる自信があるのだろう。
「そう。でもまあ、所詮は、こんな田舎の教育ですからね。ふふ、王都に戻れば、一流の家庭教師を雇いましょう。わたくしをこんな風に陥れたあの元正妻の子たちなんかよりも、素晴らしい子にするのよ!」
母の高笑いだけが部屋に響く。
私は俯いたままだ。彼女の視界の中央には私がいるのに、いるはずなのに、この姿が見えていないのだろうか。
目の前の、私を産んだという女性は、一体なにものなんだろう?
私は、母に3人が叱られるから、普段、チート魔法はおろか、10歳の子でも使える魔法すら使った事がない。
もういいかな?
今はたったの10歳。
この世界でもまだまだ子供だ。でも、このままここにいたら、私は私でなくなる。こんなの、前世の両親たちに胸を張って幸せだなんてとても言えない。
「ヘリヤ、ミンミ、サイニ……。私の大事な、大好きなお母さん達……。今まで愛してくれて、大切にしてくれてありがとう。この家からすぐに出て。そして、家族と幸せに暮らしてね」
彼女たちのポケットに、私自身の小遣いで貯めたお金をテレポートさせる。これだけあれば、平民は一生過ごせるほどの金額だ。
私がいなくなっても、彼女たちが酷い目に合わないように体に守護を張った。自分のポケットにも勿論入れる。
「おかあさま、はじめまして。そして、さようなら……」
きゅっと拳を握り、やっと、私を見た母に礼をした。
そうして、チート魔法の言語である、懐かしい、この世界では誰も知らない日本語を唱えた。
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