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「アキ君、アキ君はさ、結局、私の仕事とか、SNSとかさ、関係ないんじゃない。その子がいいんでしょ。可愛いし、嘘つかないし、幼馴染じゃなくて、女性として好きなんでしょ? 最初から、私なんかじゃなくて、彼女を好きだったのよね?」
顔を上げられなかった。机を向いたまま。ずびっと、鼻から出そうになる液体をすする。ぎゅっと目を閉じると、またぽたっと涙が落ちた。
私が泣き出した事に気付いたのか、アキの良く動く唇が止まったようだ。彼の今の恋人の様子はわからないけれど、きっと、勝者の表情で見下しているだろう、そんな気がした。
「初恋だって告白してきたのはアキ君じゃなかったの? 私、嬉しかった。だから、一生懸命私なりにアキ君とお付き合いしたの。不満や疑問があるなら私に言って欲しかった。なのに、憶測だけで私をそんな風に卑怯者にして。だいたい、別れ話にその子を連れてきてさ……グスッ」
泣くもんかと思っていたけれど、もう限界だった。涙声で、みっともなくて情けないかもしれないけれど、鼻水をすすりながら思いを伝えて行く。
「最初っから、もう、わ、私を嫌いになった。ありえるちゃんが好きで恋人になったって、グスッ……そう、言えば良かったんだよ。うう……、わ、わた、私は、ちゃんとアキ君を好きになってた。今日だって、久しぶりのデートだって思って走って来たの。おしゃれして、アキ君に会いたくてワクワクしてきたのに。こんなの、酷い……グスッ、グスッ」
「えみり……、お、俺。ごめん」
私の、涙ながらの訴えに対して、あれほど自信ありげに勢い込んでいた彼がひるんだようだ。
「別れたいなら……、別れよう。あのね、短い間だったけど、楽しかったし幸せだった。今でもアキ君が好き。でも、どうしようもないんだね……。ただ、SNSのその書き込みだけは、私のせいだって思われているなんて我慢できない。私は、そんな恥知らずじゃないから。私じゃないって事だけは信じて欲しい」
本当は別れたくなかった。でも、彼の心が彼女にあるのなら、引き留める言葉を言ってなんになるのだろう。
「えみり……ごめん。俺……俺……!」
「二人とも、長い間の片想いが通じて良かったね。……お幸せに……グスッ」
しんみりとした雰囲気になった。ここで潮時だろうと思い立ち上がる。さようなら、そう言おうとした時、ありえるが大きな声で叫んだ。
「待ちなさいよ! 書き込みしたのあんたでしょ? ありえるは、ちゃんとわかってるんだよ? ありえるの事でヤキモチ焼いただけなんだよね? 一言謝ってくれたらそれでいいから!」
「だから、書き込みなんてした事ないの。どうしても、私だって言い張るならその証拠を公的に出して。こういう事で名誉棄損だったっけ? そういうのもあるんでしょう? 私じゃないって判明した場合には、ちゃんと責任取ってもらうから。でもさ、たった3ヶ月の付き合いだったけれど、私がそんな人間かどうか、アキ君、本当にわかんない?」
私は、言葉の矛先をアキに向けた。
「冷静になってみると、えみりが書いた証拠はないし。じゃあ、誰が書いたんだ?」
素直に別れを承諾した私が堂々とそう伝えた事で、さっきまでの犯人はお前だと言わんばかりの気持ちが変わったのだろう。
「それはわからない。もういいかな? 家に帰って一人になりたいの……」
「えみり……」
二人でそんな風に会話を完了させ、この場を去ろうとしても、また甲高い声が振り出しに戻して引き留める。
「アキくぅん。あの人がありえるを陥れるためにそう言ってるだけだよぉ。グスン、騙されないでぇ」
「ありえる……。でも、えみりの言う事も一理あるっつーか。落ち着け、な?」
「だってぇ、だってぇ……!」
目の前で、さっき別れを告げたばかりの女がいるにも拘らず見つめ合うなんて、どういう神経をしているのだろうか。だんだん、この男のどこが良かったのかとムカムカしてくる。
「……とにかく、違うから。私はアキ君と別れるし、これ以上はここにいて二人を見るのも辛いのよ……。帰るね」
これ以上ここにいたら、馬鹿にするにも程があると、怒鳴りつけてしまうかもしれない。カバンを肩にかけて足を踏み出した。
「逃げるの? ねえ、それって書き込み認めてるって事だよね? ほらね、アキ君、やっぱりえみりちゃんってこういう子なんだよ」
「……あなた、一体何がしたいの? めでたくあなたはアキ君と恋人になれた。私はフラれた。これ以上、私に何がしたいのよ……」
ぽろぽろと涙が頬を伝う。これ以上みじめになりたくなくて、こんな思いにさせた二人が憎くなる。
「だって、アキ君はありえる一筋じゃないといけないのに。ありえるだけのモノなのに、ぽっと出のあんたが誑かして! 3か月もありえるから引き離して! 絶対に許さないんだからねっ!」
「……なにそれ。ありえるさん、ううん、確か、本当の名前は尾櫃 千代子さん、だったわよね。貴女、この間のイケメンの彼氏のほかに何人も恋人がいるのよね? ダブルデートの時に、あなたの彼氏が色々話してくれたの。あなたが名前の通りのビッチだって笑いながら。今まで、友達とかの恋人もすぐに部屋に連れ込んで寝取っていったって。その時、私はその話を信じていなかったけれど……。でも、本当なのかな? なら、もうアキ君ともそういう関係になってる? 一応、さっきまで私とアキ君は恋人だったのだから、それって浮気よね?」
アキが、驚いて私とありえるの顔を交互に見た。最後に、ばつの悪そうな顔をして私を見た後視線を合わせることなく俯いた。
どうやら図星のようで、すでに二人は深い仲なのだろうと確信した。
バチン
そんな風に冷めた目でアキを見降ろしていると、頬を叩かれてしまった。じんじん痛んで、そこを手で抑える。
「この、性悪ブスッ! あんたも、今までのブサイクたちも皆、モテないからって、ありえるの事バカにして! だいたい、男を繋ぎ止められないお前らが悪いんでしょ! あと、その名前で私を呼ぶなああああああ!」
顔を上げられなかった。机を向いたまま。ずびっと、鼻から出そうになる液体をすする。ぎゅっと目を閉じると、またぽたっと涙が落ちた。
私が泣き出した事に気付いたのか、アキの良く動く唇が止まったようだ。彼の今の恋人の様子はわからないけれど、きっと、勝者の表情で見下しているだろう、そんな気がした。
「初恋だって告白してきたのはアキ君じゃなかったの? 私、嬉しかった。だから、一生懸命私なりにアキ君とお付き合いしたの。不満や疑問があるなら私に言って欲しかった。なのに、憶測だけで私をそんな風に卑怯者にして。だいたい、別れ話にその子を連れてきてさ……グスッ」
泣くもんかと思っていたけれど、もう限界だった。涙声で、みっともなくて情けないかもしれないけれど、鼻水をすすりながら思いを伝えて行く。
「最初っから、もう、わ、私を嫌いになった。ありえるちゃんが好きで恋人になったって、グスッ……そう、言えば良かったんだよ。うう……、わ、わた、私は、ちゃんとアキ君を好きになってた。今日だって、久しぶりのデートだって思って走って来たの。おしゃれして、アキ君に会いたくてワクワクしてきたのに。こんなの、酷い……グスッ、グスッ」
「えみり……、お、俺。ごめん」
私の、涙ながらの訴えに対して、あれほど自信ありげに勢い込んでいた彼がひるんだようだ。
「別れたいなら……、別れよう。あのね、短い間だったけど、楽しかったし幸せだった。今でもアキ君が好き。でも、どうしようもないんだね……。ただ、SNSのその書き込みだけは、私のせいだって思われているなんて我慢できない。私は、そんな恥知らずじゃないから。私じゃないって事だけは信じて欲しい」
本当は別れたくなかった。でも、彼の心が彼女にあるのなら、引き留める言葉を言ってなんになるのだろう。
「えみり……ごめん。俺……俺……!」
「二人とも、長い間の片想いが通じて良かったね。……お幸せに……グスッ」
しんみりとした雰囲気になった。ここで潮時だろうと思い立ち上がる。さようなら、そう言おうとした時、ありえるが大きな声で叫んだ。
「待ちなさいよ! 書き込みしたのあんたでしょ? ありえるは、ちゃんとわかってるんだよ? ありえるの事でヤキモチ焼いただけなんだよね? 一言謝ってくれたらそれでいいから!」
「だから、書き込みなんてした事ないの。どうしても、私だって言い張るならその証拠を公的に出して。こういう事で名誉棄損だったっけ? そういうのもあるんでしょう? 私じゃないって判明した場合には、ちゃんと責任取ってもらうから。でもさ、たった3ヶ月の付き合いだったけれど、私がそんな人間かどうか、アキ君、本当にわかんない?」
私は、言葉の矛先をアキに向けた。
「冷静になってみると、えみりが書いた証拠はないし。じゃあ、誰が書いたんだ?」
素直に別れを承諾した私が堂々とそう伝えた事で、さっきまでの犯人はお前だと言わんばかりの気持ちが変わったのだろう。
「それはわからない。もういいかな? 家に帰って一人になりたいの……」
「えみり……」
二人でそんな風に会話を完了させ、この場を去ろうとしても、また甲高い声が振り出しに戻して引き留める。
「アキくぅん。あの人がありえるを陥れるためにそう言ってるだけだよぉ。グスン、騙されないでぇ」
「ありえる……。でも、えみりの言う事も一理あるっつーか。落ち着け、な?」
「だってぇ、だってぇ……!」
目の前で、さっき別れを告げたばかりの女がいるにも拘らず見つめ合うなんて、どういう神経をしているのだろうか。だんだん、この男のどこが良かったのかとムカムカしてくる。
「……とにかく、違うから。私はアキ君と別れるし、これ以上はここにいて二人を見るのも辛いのよ……。帰るね」
これ以上ここにいたら、馬鹿にするにも程があると、怒鳴りつけてしまうかもしれない。カバンを肩にかけて足を踏み出した。
「逃げるの? ねえ、それって書き込み認めてるって事だよね? ほらね、アキ君、やっぱりえみりちゃんってこういう子なんだよ」
「……あなた、一体何がしたいの? めでたくあなたはアキ君と恋人になれた。私はフラれた。これ以上、私に何がしたいのよ……」
ぽろぽろと涙が頬を伝う。これ以上みじめになりたくなくて、こんな思いにさせた二人が憎くなる。
「だって、アキ君はありえる一筋じゃないといけないのに。ありえるだけのモノなのに、ぽっと出のあんたが誑かして! 3か月もありえるから引き離して! 絶対に許さないんだからねっ!」
「……なにそれ。ありえるさん、ううん、確か、本当の名前は尾櫃 千代子さん、だったわよね。貴女、この間のイケメンの彼氏のほかに何人も恋人がいるのよね? ダブルデートの時に、あなたの彼氏が色々話してくれたの。あなたが名前の通りのビッチだって笑いながら。今まで、友達とかの恋人もすぐに部屋に連れ込んで寝取っていったって。その時、私はその話を信じていなかったけれど……。でも、本当なのかな? なら、もうアキ君ともそういう関係になってる? 一応、さっきまで私とアキ君は恋人だったのだから、それって浮気よね?」
アキが、驚いて私とありえるの顔を交互に見た。最後に、ばつの悪そうな顔をして私を見た後視線を合わせることなく俯いた。
どうやら図星のようで、すでに二人は深い仲なのだろうと確信した。
バチン
そんな風に冷めた目でアキを見降ろしていると、頬を叩かれてしまった。じんじん痛んで、そこを手で抑える。
「この、性悪ブスッ! あんたも、今までのブサイクたちも皆、モテないからって、ありえるの事バカにして! だいたい、男を繋ぎ止められないお前らが悪いんでしょ! あと、その名前で私を呼ぶなああああああ!」
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