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「へぇ……。家に帰らずどこに行くと言うの?」

「ちっ、もう来たか!」
「ティーヌ、帰りたくないなら、取り合えず私たちと一緒に行こう!」

「え? は? ええ、助けてください!」

 二人の焦り具合が伝染した。全く記憶がないけれど、怖くなって体が震える。恥ずかしかった先ほどの気持ちがあっという間に消え失せて、手足が冷たくなった。本気でシューチャック君に縋り付いて早く助けてくれとぎゅうぎゅう彼の服を握りしめる。

「ちっ……。おい、シューチャック。お前、いい加減にジュスティーヌから離れろ。殺すぞ」

「い、いやだ! ティーヌがやっと私の妻になるって時に誰が離すか! 脅したって無駄だぞ? ヤるならヤってやる!」

「二人は決闘でもなんでもしていろ。さあ、ジュスティーヌ。シューチャックが果敢にも君を不幸にするアイツを足止めしてくれるようだ。その間に逃げよう」

「え? シューチャック君、よろしいのですか? じゃ、じゃあ、ツキマートイー君、とりあえず、逃げ切る間まででいいのでお願いしてよろしいでしょうか?」

「勿論さ! 逃げ切るまでなんてとんでもない。未来永劫俺の所でいっぱい愛し合おう。幸せにするよ。じゃあ、シューチャック、頑張れよっ!」

 私は、そんな怒涛のやり取りのあと、ツキマートイー君にお姫様だっこされてあっという間に会場を突っ切った。上下に体が揺れて振り落とされそうで怖い。彼の太い首に両手でしっかり掴まり、一刻も早く、怖いという人物から遠ざかるよう必死に祈った。

「させるかぁっ!」

 なんという事でしょう。私を抱えているツキマートイー君より、身軽なシューチャック君と、怖い君(名前がわからないので仮名)が、あと少しでドアを潜り抜ける寸前立ちふさがった。

「いやっ! 怖い……!」

 このまま、私は怖い君に酷い目にあわされてしまうのかとブルブル震えて、取り合えず守ってくれているツキマートイー君からなんとしても引きはがされないように腕に力を込めた。

「ぐ……。ジュスティーヌ、抱き着いてくれるのは嬉しいが……、息が……くるし……。もうちょっと緩めて……」
「あらまぁ、ごめんなさいねぇ」

 あらやだ、もう少しで私の救世主であるツキマートイー君をシめるところだったわ。素で、大往生間際の言葉づかいで、全く悪いと思ってないだろうこいつというイントネーションで彼に謝る。

「ユス……、そいつらについて行けば監禁されたり酷い目にあうぞ? いいのか? そいつらこそ危ない」

「え?」

 怖い君が、肩幅に足を広げて、一つため息を吐くと、とっても優しい声で話しかけて来た。今の私は彼らの事を何一つ知らない。誰が本当の事を言っているのか、嘘なのか。誰を信じれば良いのか分からず、お姫様だっこをされたまま、ツキマートイー君とシューチャック君、そして怖い君を順番に見つめて考え込んだ。

「おい、ユスの様子がおかしい。お前ら何をしたんだ」
「俺たちは何も。あのクソ王子に婚約破棄された後、顔を真っ青にしてしまった彼女を守ろうとしたら、記憶をうしなったみたいだ」
「私も何がなんだか。取り合えず、ここにいてもティーヌにいい事がないから私の家に連れて行って保護しようとしていただけだ。」

 うん? 妻にするやらなんやら言っていたし子作りとかいいつつ股関ぐりぐりされていたような気がするけど……。まあ、二人の説明はおおむね間違っていなさそうだ。

「王子の無礼な婚約破棄は報告を受けている。身の程しらずのあいつは万死に値する。後できっちりカタをつけるが……。ユス、僕の事を本当に覚えていないのか? 少しも? どうせ、この二人がある事ない事言って、僕の事を怖がらせたんだろう? 一緒に育ったんだ。僕を信じて家に帰ろう。両親も君を待っているよ?」

「えっと……」


 どうしようかな。確かに、怖い君の言う通り、この二人も怪しい所がある。
  いや、こうなると怪しさ満点だ。とくにツキマートイー君だと記憶が戻ったらすでに隣国のハーレムに入っていたら二度と出て来れなさそう。シューチャック君は、本気で部屋から出してくれなさそうな気もしなくもない。

 だからといって、怖い君もなあ……。怖くなさそうではあるけれど、シューチャック君に殺すぞって言ったの覚えてるよっ! 怖い人じゃない!

 判断がつかず、困ったなと天井を見上げた。とっても豪華な会場だけあって、とっても高い。天井にはきっと高名だろう画家が手掛けた繊細で美しい絵が描かれてあり、大きなシャンデリアが見える。埃もついていなさそうだ。



 掃除、すっごい大変だろうなあ……。




 そんな風に、すでに気持ちが全く違う方向に行ってしまった。完全に、現実逃避である。やけっぱちになり、もうどうにでもなれと思った。

「ちょっと待った――――!」

 すると、その時、息を荒げながら、さっき婚約破棄を宣言していたドヤ顔のプリンスンタラズ王子がやってきたのであった。
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