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フレイム視点②
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石を失ってしまった日から、食欲が落ちた。なんとか口に運べるものを咀嚼しては胃に落とす日々。さらにリフレーシュ嬢の姿が見えなくなった。俺は心の安らぎを完全に失い、食事を受け付けなくなり家で療養する事になった。
『フレイム……石に拘るのは大昔の習性なのだから、あの石は諦めて変わりの石ではいけないの?』
情けなくも、石を落してだけで寝込んだ俺は皆を心配させてしまう。このまま儚くなってしまうのか。強面の大男には全く持って似合わない。
『父上、母上申し訳ありません。どうしても食べられなくて皆にも心配をかけてしまって、俺は自分が情けない……。ああ、最後に彼女に会いたい……もう一度、あの子に触れたい……リフレーシュ、俺の……天使……』
せめて、リフレーシュ嬢に会ってから天に行きたいと思った。どうやらうわごとのように彼女の名前を繰り返していたようだ。
目が覚めると、手にはお気に入りの石が握らされていた。俺とずっと一緒にいた相棒。単なる歪な石なのに、俺を叱咤激励してくるかのように手に馴染んでいる。
俺は、石を大切に胸元のポケットに入れて、久しぶりにコック長が腕を振るって作った料理を食べた。貝をふんだんに入れたスープに、オーツ麦を食べやすく消化のよういように潰したドロッとしたおかゆを。
活力を取り戻した俺は、一日も早く彼女に会いたくなった。貧弱にやせこけた体をどうにかしたいから、もっと力の付くものが食べたいと言ったら、流石にそれはダメだと断られた。
石ひとつ失くしただけで、二度と彼女に会えなくなるところだった。なら、どうせなら彼女に告白して後悔しないように行動する事を決めた矢先、両親からとんでもない事を聞かされる。
『フレイム、喜べ。お前の婚約者が決まった。お前がうわごとで何度も繰り返し呼んでいたご令嬢だ。リフレーシュ嬢もご両親も、お前との婚約を快く受けてくれたぞ』
『は……?』
『あなたが、自分の相手は自分が見つけてなんとかすると言うからこれまで黙って来たけれど、一向に彼女のひとりも連れてこないじゃない。あなたがうわごとで、何度も口にするほど好きな相手がいたなんて。しかも、そのお相手であるリフレーシュさんが、失くした石を拾って届けてくれたのよ? これって運命よ! もう、あなたもそういう相手がいるのなら早く言いなさい!』
『え……?』
どうやら、両親が早とちりではないが、俺の気持ちを汲んで彼女に婚約を持ちかけたらしい。侯爵からの申し出を男爵家が断われるはずもないし、俺は嬉しい限りだが、リフレーシュ嬢の本当の気持ちをきちんと聞いたのかどうかも怪しい。
そもそも、彼女はレイトー殿下を好きなのだ。俺の気持ちは伝えても砕け散る事がわかっていた。いや、殿下へは憧れに似た好意かもしれないが。どちらにせよ、彼女は断るに断れなかったに違いない。
我が両親ながら、なんという恥知らずな行為をしたのだ。
だから、俺の家で彼女と会う日に、彼女の気持ちをきちんと聞き、自分の想いを伝えるつもりだった。
リフレーシュ嬢に再会できる日、少しは体つきがマシになった。が、やはり見る影もないほど情けない体つきに、げっそりした頬。重病人のような俺を見た彼女が、泣きそうになり、石をもっと早く持って来ていればと謝罪された。
早く、俺から断らないとと思いつつも、少しだけチャンスはないものか。そんな気持ちがあったために、彼女の意思を確認してみたくなった。望みはほとんどないだろうが……。
『謝罪は不要だ。石を届けてくれて感謝する。俺……私も目が覚めてびっくりしたのだが、君は両親が言うように、本当にこの婚約に異議はないのか? その、乗り気だと聞いたのだが』
『は…………』
俺も緊張でどうにかなりそうだ。断られると覚悟をしていたが、小さな可愛い声は、はい、と聞こえた。
俺との婚約を嫌がるどころか嬉しいと言ってくれるなんて、俺は世界一の幸せ者だろう。
咽がへばりつくほどからからになるほどの緊張から解き放たれた気がした。
胸がどきどきして、気持ちがむず痒いような照れくささが湧き出た。ひょっとしたら、レイトー殿下の事は単なる憧れだったのかもしれない。
これから、俺と彼女は気持ちの通じ合った婚約者になれるのだ。
今すぐ獣化して、毛皮のポケットに隠し持っている彼女の愛の込められた石で貝殻を
カンカンカンカンカンカンカンカッカッカッカッカカカカカカカカッ!
と、激しく叩き割りたいほどの歓喜が、身体中を熱く激しく駆け巡る。
だが、いきなり目の前で婚約者の俺がそんなマネをしたら、周囲の使用人たちもびっくりするだろうし、何よりも俺のリフレーシュにドン引きされるかもしれない。それだけはごめんだ。
こんなことになる前に、学園で格好よく彼女に告白して、もしもOKしてもらえたら、デートを重ねてロマンチックな時と場所でプロポーズするはずだったのに。なんだかんだで、書記のメモリ嬢に色々聞いて立案していた、俺のリフレーシュ捕獲作戦がまるっと台無しになったわけだが、そんなことはもうどうでもよくなった。
俺は必死に自分の心の動揺と高揚を鎮めるため顔を引き締める。俯いて耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている俺のリフレーシュのなんと可愛らしい事か。
『いきなりでびっくりしただろうが、こうなっては後戻りはできない。本来ならするべき事ややりたかった事もあった。それは私も諦める。非常に残念だが君もそのつもりで』
『はい……』
婚約してからでもデートは沢山できる。これからは思う存分彼女を俺が守って撫でる事が出来ると浮かれていた。
しかしながら、女の子とお付き合いなどした事もない俺は、相思相愛の彼女が可愛すぎてどう接していいのかわからない。メモリ嬢にも、セクハラ禁止だと言われている事もあるから、もっと側に寄っていちゃいちゃしたいとか真剣に考え込むが、適切な距離を推し量っているうちに、三か月経過したのであった。
『フレイム……石に拘るのは大昔の習性なのだから、あの石は諦めて変わりの石ではいけないの?』
情けなくも、石を落してだけで寝込んだ俺は皆を心配させてしまう。このまま儚くなってしまうのか。強面の大男には全く持って似合わない。
『父上、母上申し訳ありません。どうしても食べられなくて皆にも心配をかけてしまって、俺は自分が情けない……。ああ、最後に彼女に会いたい……もう一度、あの子に触れたい……リフレーシュ、俺の……天使……』
せめて、リフレーシュ嬢に会ってから天に行きたいと思った。どうやらうわごとのように彼女の名前を繰り返していたようだ。
目が覚めると、手にはお気に入りの石が握らされていた。俺とずっと一緒にいた相棒。単なる歪な石なのに、俺を叱咤激励してくるかのように手に馴染んでいる。
俺は、石を大切に胸元のポケットに入れて、久しぶりにコック長が腕を振るって作った料理を食べた。貝をふんだんに入れたスープに、オーツ麦を食べやすく消化のよういように潰したドロッとしたおかゆを。
活力を取り戻した俺は、一日も早く彼女に会いたくなった。貧弱にやせこけた体をどうにかしたいから、もっと力の付くものが食べたいと言ったら、流石にそれはダメだと断られた。
石ひとつ失くしただけで、二度と彼女に会えなくなるところだった。なら、どうせなら彼女に告白して後悔しないように行動する事を決めた矢先、両親からとんでもない事を聞かされる。
『フレイム、喜べ。お前の婚約者が決まった。お前がうわごとで何度も繰り返し呼んでいたご令嬢だ。リフレーシュ嬢もご両親も、お前との婚約を快く受けてくれたぞ』
『は……?』
『あなたが、自分の相手は自分が見つけてなんとかすると言うからこれまで黙って来たけれど、一向に彼女のひとりも連れてこないじゃない。あなたがうわごとで、何度も口にするほど好きな相手がいたなんて。しかも、そのお相手であるリフレーシュさんが、失くした石を拾って届けてくれたのよ? これって運命よ! もう、あなたもそういう相手がいるのなら早く言いなさい!』
『え……?』
どうやら、両親が早とちりではないが、俺の気持ちを汲んで彼女に婚約を持ちかけたらしい。侯爵からの申し出を男爵家が断われるはずもないし、俺は嬉しい限りだが、リフレーシュ嬢の本当の気持ちをきちんと聞いたのかどうかも怪しい。
そもそも、彼女はレイトー殿下を好きなのだ。俺の気持ちは伝えても砕け散る事がわかっていた。いや、殿下へは憧れに似た好意かもしれないが。どちらにせよ、彼女は断るに断れなかったに違いない。
我が両親ながら、なんという恥知らずな行為をしたのだ。
だから、俺の家で彼女と会う日に、彼女の気持ちをきちんと聞き、自分の想いを伝えるつもりだった。
リフレーシュ嬢に再会できる日、少しは体つきがマシになった。が、やはり見る影もないほど情けない体つきに、げっそりした頬。重病人のような俺を見た彼女が、泣きそうになり、石をもっと早く持って来ていればと謝罪された。
早く、俺から断らないとと思いつつも、少しだけチャンスはないものか。そんな気持ちがあったために、彼女の意思を確認してみたくなった。望みはほとんどないだろうが……。
『謝罪は不要だ。石を届けてくれて感謝する。俺……私も目が覚めてびっくりしたのだが、君は両親が言うように、本当にこの婚約に異議はないのか? その、乗り気だと聞いたのだが』
『は…………』
俺も緊張でどうにかなりそうだ。断られると覚悟をしていたが、小さな可愛い声は、はい、と聞こえた。
俺との婚約を嫌がるどころか嬉しいと言ってくれるなんて、俺は世界一の幸せ者だろう。
咽がへばりつくほどからからになるほどの緊張から解き放たれた気がした。
胸がどきどきして、気持ちがむず痒いような照れくささが湧き出た。ひょっとしたら、レイトー殿下の事は単なる憧れだったのかもしれない。
これから、俺と彼女は気持ちの通じ合った婚約者になれるのだ。
今すぐ獣化して、毛皮のポケットに隠し持っている彼女の愛の込められた石で貝殻を
カンカンカンカンカンカンカンカッカッカッカッカカカカカカカカッ!
と、激しく叩き割りたいほどの歓喜が、身体中を熱く激しく駆け巡る。
だが、いきなり目の前で婚約者の俺がそんなマネをしたら、周囲の使用人たちもびっくりするだろうし、何よりも俺のリフレーシュにドン引きされるかもしれない。それだけはごめんだ。
こんなことになる前に、学園で格好よく彼女に告白して、もしもOKしてもらえたら、デートを重ねてロマンチックな時と場所でプロポーズするはずだったのに。なんだかんだで、書記のメモリ嬢に色々聞いて立案していた、俺のリフレーシュ捕獲作戦がまるっと台無しになったわけだが、そんなことはもうどうでもよくなった。
俺は必死に自分の心の動揺と高揚を鎮めるため顔を引き締める。俯いて耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている俺のリフレーシュのなんと可愛らしい事か。
『いきなりでびっくりしただろうが、こうなっては後戻りはできない。本来ならするべき事ややりたかった事もあった。それは私も諦める。非常に残念だが君もそのつもりで』
『はい……』
婚約してからでもデートは沢山できる。これからは思う存分彼女を俺が守って撫でる事が出来ると浮かれていた。
しかしながら、女の子とお付き合いなどした事もない俺は、相思相愛の彼女が可愛すぎてどう接していいのかわからない。メモリ嬢にも、セクハラ禁止だと言われている事もあるから、もっと側に寄っていちゃいちゃしたいとか真剣に考え込むが、適切な距離を推し量っているうちに、三か月経過したのであった。
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