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どうしたものかしら?
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(トッティ様は、お元気で暮らしているかしら……。入れ替わった先は、平和そのもので、働かないといけないが、縁があれば良い人と幸せに暮らしているだろうと、アカネ様は仰っていたけれども心配だわ……)
物心ついた時から、おとなしい妹のように守ってきた。その大切な彼女が、婚家で酷い目にあった時は、この世の全てを破壊したいほどの怒りを覚えた。
あの日、ズタボロの姿で廊下に付しているトッティ様の姿は一生忘れられない。人として、女性としての尊厳もなにもかもが踏みにじられたのだ。
幸い、中身が変わっていて良かったと言うべきか。トッティ様のままであれば、恐らく精神が持たなかっただろうから。この世から、トッティ様がいなくなったことは辛い。けれど、他ならぬトッティ様の心を守るために、奇跡が起こったのだと自分に言い聞かせるようにした。
それに、アカネ様もとんでもなくお人好しで良い人だ。トッティ様よりも計算高くちゃっかりしているが、ブラインたちをあっさり許すような人だから放ってはおけなくて、なんだかんだで世話を焼いているうちに、アカネ様自身と仲良くなった。
(トッティ様だけでなく、アカネ様も傷つけたこの家は、どうあっても許しておけないわ)
ブラインにしても、クズの弟だし、やつの言うがままだったのだから、私にしてみれば同罪である。だけど、トッティ様の中のアカネ様は、ブラインに同情したようだ。
たしかに、彼は気の毒だとは思う。だけど、それはそれ、これはこれ。兄を止めなかったブラインを、はいそうですかと許すわけにはいかない。
私は、帰国途中で、ブラインを事故に見せかけて放りだしてやろうと考えていた。なんなら、夜中の海に突き落としてやろうかなとも。
ブラインをいつやっつけるか考えているうちに夜が明けて、いよいよ決行の時になった。忘れ物がないか最終チェックしていると、古びた分厚い手紙を発見してしまう。
(なんで、こんな分かりづらいところに隠されていたのかしら? ちょっと待って、これは……)
好奇心にかられて中身を検めてみると、見つけないほうが良かったと後悔した。手紙の内容は、看過できない。かといって、今これをアカネ様に渡せば、逃げるタイミングを損なうだろう。
どうするべきか悩んでいると、アカネ様から呼ばれる。私は、その手紙をとっさにポケットに入れて向かった。
今回の逃亡に、ラッチが街に出かけるというカモフラージュをすることになった。もともと、離れは誰も見向きもしないので、彼女と合流するのは簡単だ。私とアカネ様は、ラッチの付き添いのふりをして馬車に乗り込んだ。
「こんな、太陽が昇ってから堂々と出ていけるなんてねー。最初は、こっそり抜け出すつもりだったんですよ。そうなれば、追手とかに怯えるところでした。ラッチさん、協力を申し出ていただいて、本当にありがとうございます」
アカネ様が、ラッチに頭を下げている。そんなことする必要なんてこれっぽっちもないのに。
「いえ、あの……。改めて、その説はごめんなさい。私、勘違いでなんと恐ろしいことを……だから、このくらいはさせてください」
白々しいラッチの口元がにやついているのがわかる。イライラしてしょうがない。
「いえいえ、私としてはラッチさんが、侯爵をがっちり掴んで離さず、ずーっと幸せに暮らしてくれればそれでいいですから」
「トッティ様……酷いことをした私になんという慈悲深いお言葉を……ありがとうございます」
アカネ様の皮肉と言うか嫌みなのか。これに、ラッチは言葉通りに受け取ったのか、感動した様子でアカネ様の手を取った。
やめろ、アカネ様の、トッティ様の手がラッチ菌に侵されてしまう。さっさと離せと睨んだ。あとで、アカネ様の手を消毒しなければ。
私は、アカネ様の隣に座って二人の会話を聞きイライラしながらも、ポケットに入れた手紙が気になった。
ほどなくして、ラッチの馬車が止まる。うまくラッチたちの集団から離れて、出航予定の港に向かった。ブラインは、少し離れた場所から、私たちのあとをついて来ているだろう。
船に乗り込み、ラッチが準備した1等の船室に腰を下ろす。ここまで、無事に来られたのは、ラッチのおかげなのは確かなのだが、それがかえって忌々しい。
「ふー。どうなるかと思ったけど、順調ですね。ラッチさんに貸しを作っちゃったけど」
「相手は、アカネ様が出ていくのが最大級のお返しになるので、イーブンどころか、アカネ様があちらに貸しを作ったかと」
「じゃあ、貸し借り0ってことで。ふふふ」
私が、ツンとそう言うと、アカネ様が目を丸くして笑って応えた。私は、お茶を用意してから、この数時間悩みに悩んでいた手紙のことを打ち明けた。
「手紙? 私が見てもいいのかしら?」
「御覧になってください。ブライン様も」
「俺も、ですか?」
「はい、あなたに関係がある内容ですから」
私は、先に見てしまった謝罪をしつつ、ふたりが手紙を読むのを待った。すぐに読み終えたアカネ様は溜息を吐き、ブラインは驚愕のあまり言葉をうしなってしまったのである。
物心ついた時から、おとなしい妹のように守ってきた。その大切な彼女が、婚家で酷い目にあった時は、この世の全てを破壊したいほどの怒りを覚えた。
あの日、ズタボロの姿で廊下に付しているトッティ様の姿は一生忘れられない。人として、女性としての尊厳もなにもかもが踏みにじられたのだ。
幸い、中身が変わっていて良かったと言うべきか。トッティ様のままであれば、恐らく精神が持たなかっただろうから。この世から、トッティ様がいなくなったことは辛い。けれど、他ならぬトッティ様の心を守るために、奇跡が起こったのだと自分に言い聞かせるようにした。
それに、アカネ様もとんでもなくお人好しで良い人だ。トッティ様よりも計算高くちゃっかりしているが、ブラインたちをあっさり許すような人だから放ってはおけなくて、なんだかんだで世話を焼いているうちに、アカネ様自身と仲良くなった。
(トッティ様だけでなく、アカネ様も傷つけたこの家は、どうあっても許しておけないわ)
ブラインにしても、クズの弟だし、やつの言うがままだったのだから、私にしてみれば同罪である。だけど、トッティ様の中のアカネ様は、ブラインに同情したようだ。
たしかに、彼は気の毒だとは思う。だけど、それはそれ、これはこれ。兄を止めなかったブラインを、はいそうですかと許すわけにはいかない。
私は、帰国途中で、ブラインを事故に見せかけて放りだしてやろうと考えていた。なんなら、夜中の海に突き落としてやろうかなとも。
ブラインをいつやっつけるか考えているうちに夜が明けて、いよいよ決行の時になった。忘れ物がないか最終チェックしていると、古びた分厚い手紙を発見してしまう。
(なんで、こんな分かりづらいところに隠されていたのかしら? ちょっと待って、これは……)
好奇心にかられて中身を検めてみると、見つけないほうが良かったと後悔した。手紙の内容は、看過できない。かといって、今これをアカネ様に渡せば、逃げるタイミングを損なうだろう。
どうするべきか悩んでいると、アカネ様から呼ばれる。私は、その手紙をとっさにポケットに入れて向かった。
今回の逃亡に、ラッチが街に出かけるというカモフラージュをすることになった。もともと、離れは誰も見向きもしないので、彼女と合流するのは簡単だ。私とアカネ様は、ラッチの付き添いのふりをして馬車に乗り込んだ。
「こんな、太陽が昇ってから堂々と出ていけるなんてねー。最初は、こっそり抜け出すつもりだったんですよ。そうなれば、追手とかに怯えるところでした。ラッチさん、協力を申し出ていただいて、本当にありがとうございます」
アカネ様が、ラッチに頭を下げている。そんなことする必要なんてこれっぽっちもないのに。
「いえ、あの……。改めて、その説はごめんなさい。私、勘違いでなんと恐ろしいことを……だから、このくらいはさせてください」
白々しいラッチの口元がにやついているのがわかる。イライラしてしょうがない。
「いえいえ、私としてはラッチさんが、侯爵をがっちり掴んで離さず、ずーっと幸せに暮らしてくれればそれでいいですから」
「トッティ様……酷いことをした私になんという慈悲深いお言葉を……ありがとうございます」
アカネ様の皮肉と言うか嫌みなのか。これに、ラッチは言葉通りに受け取ったのか、感動した様子でアカネ様の手を取った。
やめろ、アカネ様の、トッティ様の手がラッチ菌に侵されてしまう。さっさと離せと睨んだ。あとで、アカネ様の手を消毒しなければ。
私は、アカネ様の隣に座って二人の会話を聞きイライラしながらも、ポケットに入れた手紙が気になった。
ほどなくして、ラッチの馬車が止まる。うまくラッチたちの集団から離れて、出航予定の港に向かった。ブラインは、少し離れた場所から、私たちのあとをついて来ているだろう。
船に乗り込み、ラッチが準備した1等の船室に腰を下ろす。ここまで、無事に来られたのは、ラッチのおかげなのは確かなのだが、それがかえって忌々しい。
「ふー。どうなるかと思ったけど、順調ですね。ラッチさんに貸しを作っちゃったけど」
「相手は、アカネ様が出ていくのが最大級のお返しになるので、イーブンどころか、アカネ様があちらに貸しを作ったかと」
「じゃあ、貸し借り0ってことで。ふふふ」
私が、ツンとそう言うと、アカネ様が目を丸くして笑って応えた。私は、お茶を用意してから、この数時間悩みに悩んでいた手紙のことを打ち明けた。
「手紙? 私が見てもいいのかしら?」
「御覧になってください。ブライン様も」
「俺も、ですか?」
「はい、あなたに関係がある内容ですから」
私は、先に見てしまった謝罪をしつつ、ふたりが手紙を読むのを待った。すぐに読み終えたアカネ様は溜息を吐き、ブラインは驚愕のあまり言葉をうしなってしまったのである。
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