完結 R18 BADーふたりを隔てるウォレス線

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
14 / 19

どうしたものかしら?

しおりを挟む
(トッティ様は、お元気で暮らしているかしら……。入れ替わった先は、平和そのもので、働かないといけないが、縁があれば良い人と幸せに暮らしているだろうと、アカネ様は仰っていたけれども心配だわ……)

 物心ついた時から、おとなしい妹のように守ってきた。その大切な彼女が、婚家で酷い目にあった時は、この世の全てを破壊したいほどの怒りを覚えた。

 あの日、ズタボロの姿で廊下に付しているトッティ様の姿は一生忘れられない。人として、女性としての尊厳もなにもかもが踏みにじられたのだ。
 幸い、中身が変わっていて良かったと言うべきか。トッティ様のままであれば、恐らく精神が持たなかっただろうから。この世から、トッティ様がいなくなったことは辛い。けれど、他ならぬトッティ様の心を守るために、奇跡が起こったのだと自分に言い聞かせるようにした。
 それに、アカネ様もとんでもなくお人好しで良い人だ。トッティ様よりも計算高くちゃっかりしているが、ブラインたちをあっさり許すような人だから放ってはおけなくて、なんだかんだで世話を焼いているうちに、アカネ様自身と仲良くなった。

(トッティ様だけでなく、アカネ様も傷つけたこの家は、どうあっても許しておけないわ)

 ブラインにしても、クズの弟だし、やつの言うがままだったのだから、私にしてみれば同罪である。だけど、トッティ様の中のアカネ様は、ブラインに同情したようだ。

 たしかに、彼は気の毒だとは思う。だけど、それはそれ、これはこれ。兄を止めなかったブラインを、はいそうですかと許すわけにはいかない。

 私は、帰国途中で、ブラインを事故に見せかけて放りだしてやろうと考えていた。なんなら、夜中の海に突き落としてやろうかなとも。

 ブラインをいつやっつけるか考えているうちに夜が明けて、いよいよ決行の時になった。忘れ物がないか最終チェックしていると、古びた分厚い手紙を発見してしまう。

(なんで、こんな分かりづらいところに隠されていたのかしら? ちょっと待って、これは……)

 好奇心にかられて中身を検めてみると、見つけないほうが良かったと後悔した。手紙の内容は、看過できない。かといって、今これをアカネ様に渡せば、逃げるタイミングを損なうだろう。

 どうするべきか悩んでいると、アカネ様から呼ばれる。私は、その手紙をとっさにポケットに入れて向かった。
   
 今回の逃亡に、ラッチが街に出かけるというカモフラージュをすることになった。もともと、離れは誰も見向きもしないので、彼女と合流するのは簡単だ。私とアカネ様は、ラッチの付き添いのふりをして馬車に乗り込んだ。

「こんな、太陽が昇ってから堂々と出ていけるなんてねー。最初は、こっそり抜け出すつもりだったんですよ。そうなれば、追手とかに怯えるところでした。ラッチさん、協力を申し出ていただいて、本当にありがとうございます」

 アカネ様が、ラッチに頭を下げている。そんなことする必要なんてこれっぽっちもないのに。

「いえ、あの……。改めて、その説はごめんなさい。私、勘違いでなんと恐ろしいことを……だから、このくらいはさせてください」

 白々しいラッチの口元がにやついているのがわかる。イライラしてしょうがない。

「いえいえ、私としてはラッチさんが、侯爵をがっちり掴んで離さず、ずーっと幸せに暮らしてくれればそれでいいですから」
「トッティ様……酷いことをした私になんという慈悲深いお言葉を……ありがとうございます」

 アカネ様の皮肉と言うか嫌みなのか。これに、ラッチは言葉通りに受け取ったのか、感動した様子でアカネ様の手を取った。

 やめろ、アカネ様の、トッティ様の手がラッチ菌に侵されてしまう。さっさと離せと睨んだ。あとで、アカネ様の手を消毒しなければ。

 私は、アカネ様の隣に座って二人の会話を聞きイライラしながらも、ポケットに入れた手紙が気になった。

 ほどなくして、ラッチの馬車が止まる。うまくラッチたちの集団から離れて、出航予定の港に向かった。ブラインは、少し離れた場所から、私たちのあとをついて来ているだろう。

 船に乗り込み、ラッチが準備した1等の船室に腰を下ろす。ここまで、無事に来られたのは、ラッチのおかげなのは確かなのだが、それがかえって忌々しい。

「ふー。どうなるかと思ったけど、順調ですね。ラッチさんに貸しを作っちゃったけど」
「相手は、アカネ様が出ていくのが最大級のお返しになるので、イーブンどころか、アカネ様があちらに貸しを作ったかと」
「じゃあ、貸し借り0ってことで。ふふふ」

 私が、ツンとそう言うと、アカネ様が目を丸くして笑って応えた。私は、お茶を用意してから、この数時間悩みに悩んでいた手紙のことを打ち明けた。

「手紙? 私が見てもいいのかしら?」
「御覧になってください。ブライン様も」
「俺も、ですか?」
「はい、あなたに関係がある内容ですから」

 私は、先に見てしまった謝罪をしつつ、ふたりが手紙を読むのを待った。すぐに読み終えたアカネ様は溜息を吐き、ブラインは驚愕のあまり言葉をうしなってしまったのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...