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しおりを挟む(あの腹立つイケメンは、ラッチさんという女性を愛しているということね。だったら、子供とかは、授かりものだからどうとでも誤魔化せるし、とりあえず名ばかりの政略の妻として扱えばよかったのに。他国の貴賓なのだから、お客様扱いでよかった。なのに、ヤることヤっといて、あれはないわー。彼女を裏切った浮気ものも同然じゃない。ったく、男ときたら、相手は誰でもイイってホントだわ。それに、酔っ払った直後じゃなかったら、私でも発狂してたわ)
ラッチ=シリンダーとは、チョウツガイ侯爵家に居候しているイケメンの従姉妹だ。天真爛漫で愛らしく、守ってあげたい女の子だそうだ。21歳で行き遅れなのに、22歳でまだ独身ってことは、ドゥーアと結婚秒読み段階だったのに王命で中止になったことで、彼女の嫁ぎ先がもうないというよりも、ふたりがそういう仲だから他家にいかせられないのだろう。
過ぎたことは仕方がないと、諦めるにも悔しい。食い物と金と男関係の恨みは墓までどころかあの世まで続くのだから。
(でも、これからどうしよう。記憶が戻ったところで、内気な深層のご令嬢だから、頭はいいかもだけど、出来ることが少ないわよね。この人が味方になってくれると嬉しいんだけど……)
私は、クローザをまじまじ見つめた。今の体のはともかく、日本のわたしよりも年下の女性のことを考えもしなかったことに気づく。
「あ、あなたにしても、私がこの人の代わりになったなんて嫌よね。なのに、私ったら自分のことばかりで。ごめんなさい……」
「いえ……アカネ様のお立場なら当然のことです。でも、お気遣いありがとうございます。きっと、奥様、いえ、トッティ様は今頃幸せに暮らしていると信じております。恐らく、この部屋で過ごすのも無理だったでしょうから。それに、アカネ様は落ち着いていてお優しいので、少しほっとしています。これが、癇癪持ちとか変人なら、明日にでも出ていったと思います」
「そう言ってもらえると助かります。この世界、あのイケメンの家でぼっちとか無理だもの。えーと、慰めにならないかもですけど、私と入れ替わったのなら、色々大変だろうけど夫を決められるとかそういうのはないし、働いて自活しないといけませんが、もっと自由に過ごされていると思いますよ」
「そうですか……そうですよね」
取り敢えず、お互いに時間が必要だろうということで、今日のところは解散しようという話になった。彼女の部屋は、この離れの一角にあるとのこと。
「私にしてみたら、それほど悪くない部屋なんだけど、貴族とか大金持ちにしては質素なのでしょう?」
「はい、ありえません。掃除もあまりされていなかったので私がしました」
「わぁ、手伝いもせずごめんなさい。あの、クローザさんの部屋は? 人が住める状態なんですか?」
頭を下げてそう言うと、彼女はびっくりしたように目を丸くした。
「あの、手伝うとかお気になさらず」
「いえいえ、クローザさんこそお気遣いなく。どうせ、あの様子だと私達ふたりなんでしょう? ふたりで協力して暮らしましょう。そうねぇ、あいつはかわらなさそうだし、時期を見てあなたやトッティさんの国に帰るっていうのはどうでしょうか」
私がそう言うと、クローザの瞳が潤んだ。彼女だって、私に付き合って慣れない国に来たばかりなのだ。しかも、完全アウェー。フェアプレイなんて絶対にしない泥試合が続くような環境なのだから、辛くないはずはない。
「起きたら、この世界の家事のやり方を教えてね。これから、面倒かけますがよろしくお願いします」
「アカネ様、こちらこそ」
私達は手を取り合う。これからの苦境を乗り越える同志だ。
(もしかしたら、本気で悪女設定のなんかのキャラかもしれないし。トッティさんのためにも、クローザさんのためにも、生き残らないと!)
まだ遠慮しているクローザさんにしつこく問い詰めると、用意された部屋は、埃や蜘蛛の巣があり過ごせないことを聞き出せた。
この部屋のベッドはクイーンサイズよりも大きいから、無理やり彼女をベッドに入れてふたりならんで横たわる。
しばらくすると、部屋の外で、がさりと葉っぱがゆるる音がした。だが、私もクローザも疲れていたので気づくことなく眠りについたのであった。
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