完結 R18 BADーふたりを隔てるウォレス線

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
2 / 19

1 ??  R18

しおりを挟む
「うっ……はぁ、はぁ……」

 ありえない男性の声がして、ふと気がつくと、薄っすらな暗闇の中で仰向けで横になっていた。ただごろ寝していたわけではない。
 足は大きく広げられ、膝を折りたたまれている。その上から、体重をかけるように、そこそこ大柄な男性にのしかかられていた。

(……苦しい、痛い……え、何? なんなの?)

 状況がわからず、ただされるがままというか、ぴくりとも動かずに上にいる男性にプレスされている。足の付根がぴったりとくっついており、これがなんなのか知らないほどの年齢ではないので、今まさに彼とそういうことをしているのだとはわかった。

 ただ、わかるのはそれだけだ。

 一体、ここはどこなのだろう。そして、彼は誰なのか。

 ぐるぐる頭の中を、いろんな疑問が浮かんで消える。だが、いつまで経っても答えがでそうになかった。

「これで義務は果たした。はあ、跡継ぎを産むまでの辛抱だとはいえ私は……。さっさと離れろ、汚らわしい悪女め」

 すんごく嫌そうにしているイケメンが、離れろと言ってくる。どうやら彼は私のことがとても嫌いらしい。私といるよりも、ナメクジやゴキブリといるほうがマシだと言わんばかりに顔を歪めている。

 言われなくても、私も離れたい。そして、逃げて警察に駆け込みたい。

 が、いかせんそのイケメンに、上から羽交い締めされているようなものだ。彼がどいてくれなければ、離れることができない。
 そもそも、イケメンの若干ふにゃっとしたモノが中に入ったままなのだ。これで、どうやって離れろというのか。

 色々聞きたいことや言いたいことはある。そもそも、私が宅飲みのあと爆睡しているのを不法侵入してきて無理やりコトに及んだ、痴漢暴行犯に変なことを言われる筋合いはない。

 今、私は、白い服を着ている。苦しいほどぴったりした上半身に、下半身はふんわりしてた。レースがたくさん重ねられていて、ちょっとしたドレスのように思える。
 胸の部分は、無理やり下に引っ張ったのか、糸もボタンもヒモもレースも弾け飛んでボロボロだった。スカートもよれよれしわしわ。

 まだ寝る前に飲んだ酒気が残っているのか、恐怖や悲しみよりも怒りが湧いてきた。そもそも、現実的にこんなのありえない。リアリティがなさすぎる状況だからか、夢とも現実ともわからぬまま声をかけた。

「は? あんた誰?」

 向こうから睨んできたのだ。こっちも睨み返す。すると、ずるっと中から半分やわらかくなったモノが出ていき体が離れた。

(うう、気持ち悪い!)

 経験がはじめてというわけではない。酔っ払ったあげく、遊びを覚えはじめたサークルの先輩との朝チュンだって、合コンでいいなとも思っていなかった人と裸で目が覚めて「わぁびっくり」だって、同僚とワンナイト事故もしたことだってあった。
 だけど、知らないイケメン、しかも嫌そうな感じのイケメンとなどは。ないない、いくらイケメンでもあり得ない。酔っ払った挙げ句、悪夢を見ているのだろうか。

「わけのわからないことを……いいか? 王命だから、仕方なくオシェアニィ国で悪女と名高いお前を娶ったんだ。両国の契約のせいで、我がチョウツガイ家とお前のダンパー家の血を受け継ぐ子を数人設けねばならないなんて、屈辱以外の何物でもない。今日の義務は終わった。さっさと出ていけ!」 

 なんで、犯罪者のほうが偉そうにそんなわけのわからないことを言って追い出すのか。しかも、ここは私の家なのに。お前こそ出ていけと言いたかったけれど、うまく指先すら動かせず、ひきずられるように廊下に追い出された。

「おい、お前。ソレを連れて行けっ!」
「侯爵様? それに、奥様……これは、なんという……一体何があったのですか?」

 廊下には、私たち以外に数人いた。その中のひとりに、イケメンはんざいしゃが偉そうに命令している。言われた相手は、恐れおののきながらも戸惑っているようだった。
 
「俺の許可なく質問などするな。いいから、さっさとその悪女ごみ用意していた部屋ごみばこに捨ててこい。いいか? 来月の義務の日まで俺の視界にも耳にもそのゴミを入れるなよ?」

 力が入らない私は、廊下に座り込んでいた。頭をあげる元気すらなく、頭上でそのように吐き捨てる男の言う事を聞いていた。

 勢いよくドアが閉まる。苛立ちをぶつけるように、思い切りドアを閉めたのか、バタンという音が、嫌に大きかった。

「奥様、失礼いたします」

 廊下に座ったままの私の体に、ふわりとした大きな布がかけられた。

「その、立てますか? 大丈夫ですか?」

 かけられた布の下にいる私は、胸がぼろんと出ていて、白いレースのドレスが破られている。しかも、引きずられてここに放り出された。

 どこからどうみても、大丈夫ではない。

「ひっ」

 差し出された手は、とてつもない大柄で恐ろしい姿の男のものだった。私は、その手を取ることなどできず、布の下で自分自身を抱きしめるように丸く縮こまったまま。

「お嬢様! いえ、奥様っ! 大丈夫と仰ってここに向かわれたとはいえ、やっぱり心配で来てみたら。これは、一体……」
「くろーざ……ああ、来てくれたのね……」

 全く聞き覚えのない、でも、なんだか聞き覚えのあるようなホッとする女性の声が聞こえた。私は、無意識になにかを呟いたようだ。
 そして、近づいてくるその声に助けを求めるように手を伸ばし、そのままブラックアウトしたのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

処理中です...